第四百二十七話・(魔族の動き、日本の動き)
「それじゃあ、そろそろ行こうか」
札幌テレビ城下の広場で、俺は集まっている魔族たちに話しかける。
嬉々をはじめとした3人の白桃姫側近たち、彼女たちを水晶森島に移送するのが今の俺の仕事。
すでに忍冬師範からも許可を貰っているし、俺に同行して水晶森島に潜入しようと企んでいる報道関係者も大通り二丁目付近で待機している。
この妖魔特区から外に出るためには十二丁目ゲートを通過する必要があるため、そこから遠い一丁目白桃姫自治区あたりで動いていると、どうしてもこっちの行動が監視されているようになってしまう。
「それで、報道関係者は厳選して連れて行くのか?」
「いや、まさか。だって、俺は十三丁目ゲートは通過しないからさ」
忍冬師範にそう告げてから、俺は新しく精製した銀の鍵を取り出して水晶柱に差し込む。
「うん、やっぱり切れているから……ここから俺の魔力を流し込んで、水晶森島の木々に魔力回路を繋ぎ合わせて……」
水晶柱から俺の魔力を糸のように伸ばし、大地の下を通って噴火湾まで伸ばす。
幸いなことに、あっちの木々の魔力反応はさっき見てきたばかりだから、それをこっちに手繰り寄せるようにしてから、俺の魔力と水晶の森を繋ぎ合わせて。
──ガチャッ
ほら、扉が開いた。
「……なあ浩介、その扉の向こうは何処なんだ?」
「え? 水晶森島だけど?」
「まあ、そうするとは思っていたわ。そもそも水晶柱経由での転移門は作れるのですから、ようは私たちの世界にやってきた水晶の森とも繋がるはずだ……っていうことでしょう?」
さすがは先輩。
よく俺の考えていたことを理解してくれました。
「あの、乙葉くん? 二丁目付近でマスコミ関係者が慌てて準備を始めているけれど? 急いだ方がいいんじゃない?」
「お、それじゃあ行ってきますか。まあ、すぐに戻ってくると思うからさ。では、ワイルドカードの仮面を付けて……と」
──シュンッ
一瞬でワイルドカード装備に換装すると、俺は嬉々さんたちを連れて水晶森島へ移動、そのまま扉も閉じました。
あとは任せましたよ、先輩と忍冬師範。
………
……
…
──ダダダダダダダ
大通り二丁目から、大勢の人々が一丁目の敷地内部へ向けて移動を開始するが。
一丁目と二丁目の間の道路の真ん中で足止めを喰らってしまう。
大通り一丁目は、白桃姫が北海道知事との契約により借り入れている土地であり、万が一にも不法侵入されないようにと内部に入るためには許可が必要となっている。
普段は開放され、誰でも自由に入ることができるのだが、異世界転移事件が発生してからは一丁目に詰めている乙葉浩介ら現代の魔術師から話を聞くために大勢のマスコミや政府関係者が集まってきていたため、一時的に一丁目を囲む『乙葉式結界』によって阻まれている。
「今、乙葉浩介が水晶柱からどこかに向かいましたよね? まさか水晶森島なのですか?」
「あの島は現在、日本政府が立ち入り禁止として指定しています。なぜ、そこに入ることができるのです?」
「せめて取材として協力してください。我々には真実を報道する権利があります!!」
「どうも〜、HTNの水曜どうだろう企画部です。このたび、新しい企画がありまして是非とも白桃姫さんにお話と協力をお願いしたかったのですが……」
などなど。
今現在の日本にとって、アメリカはサンフランシスコに出現した獣人の街よりも目の前の噴火湾に出現した異世界の島の方が興味に尽きない。
その報道陣の様子を見て、忍冬も頭を抱えそうになっているものの、結界外に集まっている人々の中に政府関係者がいない事にだけは安堵している。
「新山くん、新しい転移現象については何か情報はないかな?」
「今のところは沈黙しています。まあ……うん、大丈夫ですね?」
小春は天球儀の中の神威が尽きたのではないか? と言いそうになって、慌てて言葉を変える。
それに気がついたのか、小春の隣で深淵の書庫を確認している瀬川も一瞬だけ慌てたものの、失言がなかったことでホッとしている。
「そうか。瀬川くんのほうでは、何か新しい情報は?」
「ヘキサグラムが獣人街を囲むようにバリケードを設置。そして私が送った転移現象のあった地点全てについても人が近寄らないように囲みを作っているところですね。まあ、アメリカだけじゃなく世界各地の転移事件発生地点については、各国の退魔機関が主導で動いているようですけれど」
日本はというと、確認されている転移事件箇所は噴火湾の水晶森島を含めて四箇所。
ちなみにアメリカには六か所、中国で四か所、オーストラリアとデンマーク、エジプト、ドイツ、ウクライナ、インド、ギニアでそれぞれ一か所が確認されている。
欧州は欧州連合による欧州妖魔対策機関『EMCA(European monster Countermeasures Agency)』が対応に名乗りを上げている。
「こうなると、何から手をつけて良いものか分からなくなるな。日本政府からの連絡もないし、そもそも浩介たちだって何をしたらいいかわからないだろう?」
「う〜ん、まあ、何かするんじゃないですか?」
「乙葉くんのことだから、自分なりに解決する道を探し始めると思いますよ」
災禍の赤月、それの前哨戦とも言える異世界転移事件。
この世界が滅びに向かうのか、そこから助け出す道があるのかは、乙葉浩介たちに掛かっているといっても過言ではないのだが。
当の本人でも、何をどうしたら良いのか手探りでしかない。
そして一時間もすると、浩介は水晶柱からひょっこりと姿を表す。
「うん、まあ、あっちは嬉々さんたちに任せてきたわ。俺は島全体を包み込む不可侵の結界装置を作ることになったから、しばらくは監視関係の目を強くしてくれると助かるかな?」
そう告げてから、その場に錬金術の素材を大量に並べ、巨大な魔法陣を構築し始める。
その姿に興味津々なマスコミは必死にカメラを回すものの、そこに何が書き込まれているのかは誰にもわからなかった。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
・誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




