第四百二十六話・一日千秋、一人虚を伝うれば万人実を伝う(世界が魔大陸を望んでいる?)
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北海道・噴火湾に突如出現した『水晶に覆われた島』。
すぐさま海上自衛隊および特戦自衛隊により周辺海域は完全封鎖され、日本政府の許可なきものの侵入が全て阻止された。
また、対妖魔先進諸国間でも今回の大規模転移現象についての情報の共有を望む声が広まったものの、日本政府は現在、これらについてはまずは日本国での調査が急務であると説明、島の安全が確認できてから改めて協議に応じる旨を説明。
これに対してアメリカは同意をしたものの、中国をはじめとする他国は未だ難色を示している。
異世界の資源や転移門の存在と、日本政府はここにきてようやく先進諸国に追いつくだけの力を得つつあるものの、それをよしとしないアジア列強国および欧州連合などが依然として反発を続けている。
「とまあ、とんでもなく世界が混乱していることは理解できたかしら?」
仮称・水晶森島から札幌に戻って来て、真っ先に状況を説明すべく先輩に助言を求めたのまでは良かったのだが。
俺が戻ってきた時点で、すでに妖魔特区の札幌テレビ城下には、内閣府対妖魔機関責任者や特戦自衛隊幹部といったお偉い方々が集まっていた。
二丁目仮設テントの中に集まって、今後の対策を考えているらしいんだけれど、そこに瀬川先輩への協力要請も含まれていたらしい。
「はあ、それで隣の二丁目は妙に殺気が漂っているのですか」
「ええ。私が協力要請を突っぱねたのが気に入らないらしくてね。国家登録魔術師なら、日本のために手を貸そうという気概はないのかって怒鳴られたから……」
「怒鳴られたから?」
「目の前で証明カードをへし折ってあげましたわ」
「マジかぁ……それで、ここで忍冬師範は何をしているのですか? 新山さんの邪魔をしているのならぶっ飛ばしますけれど」
先輩は休憩タイム、その間は新山さんが深淵の書庫のオペレーターを担当しているらしく、忍冬師範が新山さんに何か指示を出しているところである。
「乙葉くん、忍冬警部補は今現在の転移現象の正確な場所についての確認がしたいそうなのよ。だから、こうやってモニターに表示している最中なの」
「あ、これはサーセン」
「まったくだ。そもそも俺が、浩介の彼女に粉を掛けるはずがないだろうが。仕事だ、し、ご、と!!」
「だから安心してください。それと、これが現時点での転移現象が起こった場所のリストです……」
――ピッ
新山さんが深淵の書庫を大スクリーン状に展開する。
それは巨大な世界地図、そこに大量の点が点滅していた。
「世界各地で起こった転移現象、その数は現在確認できているだけで二十一か所。最大のものは噴火湾沖合に出現した『水晶森島』、次点がサンフランシスコのサン・ブルーノ都市区。あとは大体、大きなものでも直径五十メートルほどの円、小さいものはそれこそ、直径一メートル程度。そして、水晶森島の転移後、すべての転移現象は沈黙しています……」
この報告に、忍冬師範も頷いている。
「予測としては、この水晶森島を召喚するために色々と実験をしていたのだろうと予測できる。あれがなんであるのか、浩介たちはしっているのだろう?」
「え、あ、あ~、何のことか俺にはさっぱりですけれど」
「そこでごまかす必要はないぞ、瀬川君から説明は受けている。異世界の、それも魔大陸というところから転移してきた島、それが危険を孕んでいるために調査に行った人ぐらいは判っている。それで、あそこには何があるんだ?」
さて、ここで選択肢を突きつけられましたが。
どう説明したものか。
「あの場所は水晶の森という、魔大陸にある王都の近くの森です。俺たちが転移門を通っていける場所の一つであること、そしてその近くにある街道には魔王国王都を出入りしている魔族が大勢待機しています。その中には人類にとって危険な竜種、つまりドラゴンも存在しています……」
はい、面倒だから全てぶっちゃけてやった。
そもそも、水晶の森を調査しようにも、解析魔術が使える人って日本政府にいないよね?
おそらくあれを全て知ることが出来るとすれば、瀬川先輩位の深淵の書庫と俺の天啓眼、あとはナチュラルに解析する有馬博士ぐらいじゃね?
「ふぅ。一つだけ聞きたい。それは地球人にとって対応し、且つ制御できる代物なのか?」
「うーん。先輩、どう思いますか?」
ここは専門家である先輩の意見も参考に。
「まず、今、侵入して何かを調査しようとした場合、島に存在する魔族はもとより、魔獣や魔蟲、その他の特殊な環境に私たち地球人が耐えられるはずがないことを念頭に入れておくとして……全滅覚悟なら」
「そ、そこまでの環境なのか? 魔族はともかく、魔獣や魔蟲については実弾装備で対処できないのか?」
「はーい、それについては俺から。無理っす、蟲や雑魚魔獣程度ならなんとでもなりますが、俺でも死を覚悟できる存在がいてもおかしくはありません。それと、あの島の立場って、魔大陸のものだから魔王国管轄でいいんですよね?」
ここ、大切。
そうでなければ、世界のあらゆる国が調査名目で人材を派遣し、資源を食い荒らす可能性が出てくるから。
「いや、日本国の所有になる可能性がある。水晶森島は日本の領海内に存在するから、日本固有の領土だな」
「そっか、それなら、日本から鏡刻界に転移した街や村があった場合、それはあっちの世界の領土になるので何があっても干渉できないということでオッケーですね?」
「まあ、そうなると思うが……って、お前、何か企んでいないか?」
別に。
いや、あの水晶森島が日本固有だって主張するのなら、今後もしも同じようなことがあっても俺が手を貸す必要はないよねって思っただけで。
日本政府から、異世界に転移した人を助け出して欲しいって連絡が来た場合も俺が受ける必要はないっていうこと。
「いや、今の忍冬師範の言葉が全てだったら、もしもこのあと、日本列島が全て異世界に転移した場合でも、その転移先の領土になるんだから何が起きても俺には関係ないよなぁっていうこと」
「その場合は日本政府とあちらの国とのやり取りになるかと思いますけれど……魔大陸に接岸でもしようなら、日本は彼らの世界の魔獣にとって格好の餌場となるだけですわよ。まあ、私にはどうでもいいことですけれどね」
「待ってくれ、今の話は委員会にも提出しておく。自分たちの利益のみを追求した結果、自分たちが右も左も分からない場所で搾取の対象になる可能性があるっていうことだろ?」
その通り。
まあ、あの島全体に結界を張って保護しようとは考えているけれどさ。
そのためにも、まずは白桃姫の配下の人を送り届けてきて、そのあとで対策を練りたいところなんだよ。
「そんなところですね。ということで、ちょっと俺は用事があるのであっちに行ってきます。えぇっと、一眼の喜々さん、準備は出来ていますか?」
すでに俺たちの話している場所の近くに三体の魔族が待機している。
まずは彼女たちを送り届けて、それから色々と対策を考える事にしよう。
天球儀でこの転移現象を戻せるかどうか、それも調べないとならないんだけれど。
俺自体が、ここまで大規模な転移術式を使えないというところが問題でね。
それも、二つの世界を渡るレベルの魔術なんて使えるかどうかもあやしいから。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
・誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




