第四百二十五話・前途多難、尻に火が付くとは(予想外とは、まさにこんな感じに訪れる)
『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週火曜日と金曜日を目安に頑張っています。
さて。
遊撃任務と言われても、何をどう遊撃したらよいものかと軽く思っていた俺が間違っていましたよ。
札幌市内を箒に乗って巡回中、瀬川先輩から次々と念話が届いてきた。
現在、最も大きな転移現象として発見されていたのはアメリカのサンフランシスコ南方のサン・ブルーノ、ここに出現した獣人たちの町。
ヘキサグラムがすぐに周囲を封鎖し、内部に出現した街ごと獣人たちを保護したところまではよかった。
そのあとは小さな転移現象があちこちで報告されていたのだが、ここにきて大規模な転移現象が発見されたらしい。
『乙葉くん、北海道の噴火湾まで向かえるかしら? そこに鏡刻界から転移してきた島があるのよ』
「島? え、それって向こうにあった島が丸ごと転移してきたっていうのですか?」
『正確には、どこかの土地が転移してきて、海上に浮かんでいるっていうことらしいのよ。その周辺海域が霧に包まれているらしくて、私の深淵の書庫を使って、先進光学衛星から確認しようと試してみたのですけれど、どうしても霧を突破することが出来ないのよ』
「ここからだと……上空に移動してから直線で飛んでいくだけなので……距離にして100キロ程度なら10分でどうにか」
『よろしくお願いしますわ。どうにも嫌な予感がするのよ』
「あいあいさ」
さて、取り出しましたる魔法の箒。
これに跨って上昇を開始、高度140メートルまで上昇すると、そこから一気に急上昇。
高度15000メートルまで到達すると、そこで一気に加速開始。
距離100キロメートルを僅か10分で移動すると、こんどは
一気に急降下。
「うん、魔法じゃなかったら加速で死んでいるわ。それよりも、噴火湾のど真ん中に霧が発生しているっていったいどういう状態なんだろうねぇ……」
そんなことを考えつつ、霧の中まで突入。
ここからはゴーグル頼りで障害物は全て魔法で確認し、それを自動で躱すように指示をだしているんだけれど、まったくもって障害物もなし。
――ボフッ
そして霧の層を突破して地表が見えてきたんだけれど。
「直径で2キロってところか。確かに大規模転移現象っていうにはふさわしい大きさの陸地が……浮いているんだけれど。もしもーし、瀬川先輩、ゴーグルで見た映像をそのまま深淵の書庫に転送しますので」
『了解、よろしくね』
「さて、大きさは妖魔特区よりも一回り小さくて、島というかどこかの森全体が転移してきたかんじ……っておいおい、洒落にならないぞ」
ゆっくりと高度を落として森の上を飛んでいく。
眼下に見えるのは、緑色に発行している大量の『水晶出てきた樹木』。
右も左もなにもかも、水晶で出来た森。
それってつまり、あれだよなぁ。
『どうして……どうしてここに魔大陸の水晶の森があるの?』
「いや、先輩、この森が王都ブラウバニア郊外の森って決まったわけではないですよ。ほら、あの道って森の外に伸びている街道ですよね、そこからぐるっと回って大街道に抜けて……このまままっすぐに北に向かったら王都ブラウバニア……って、うわぁぁぁ、まじかよ」
『はぁ、本当に始末に負えないわ』
俺が街道上空を飛んでいると、眼下に広がる街道沿いに大勢の魔族たちの姿が見えている。
大きな馬車の横で座り込んでいる人、走竜と呼ばれている使役魔獣の上で座っている人などなど、とにもかくにもおおよそ100人前後の魔族の姿があったんだよ。
そして。
――ヴァサッ、ヴァサッ
その馬車群の後方で、地面に着地していた飛竜に乗った魔族が上昇を開始。
俺に向かって一直線に飛んで来たよ。
『そこの飛翔体、お前はあれか、魔人王オーガス・グレイスさまの配下の』
やっべ。
大急ぎで仮面を装着し、オーガス・グレイス側近である『可変なる銀のワイルドカード』に変装。
すぐさま魔皇紋も発動して魔力を高めていく。
「いかにも。私はワイルドカード。きさまたちは何故、ここにいるのだ?」
とにもかくにも状況を知りたい。
街道に広がる馬車群は、おそらくは大規模隊商に間違いはないし。
この飛竜に乗っている魔族だって、どこかの十二魔将の配下なんだろうって想像はつけられる。
『我らは、崩壊した王都ブラウバニアから戻って来たものです。数日前、私たちが王都に到着したとき、すでに王都ブラウバニアは廃墟となっていました』
「……はぁ? ちょっと待った、王都が廃墟になっただと?」
待て待て俺、おちつけ。
つい数時間前に、ブラウバニアには祐太郎が向かったばかりじゃないか。
きっと何かあったとしたら、祐太郎が調査をして戻ってきてくれる……って。
『はい。その原因については一切不明。王都には生きているものは一人として存在していませんでした。我々の隊商も様子を調べてみたのですが、どうにも素人目には何も分からず。仕方なく自領に戻るところでした。ですが、水晶の森の横の街道を通っていた時、突然周囲が霧に包まれてしまい、気が付いたらこのような場所に……ここはどこなのでしょうか』
「ここは{地球。どうやら君たちは、何らかの理由によってこの異世界に転移してしまったようだ。水晶の森全体が転移し、今は海の上に漂っている……責任者に伝えろ、今はその場にとどまって様子を確認するようにと。決して今の場所から移動しないようにと」
もうね、俺一人で対処できる許容量は超えましたわ。
『かしこまりました。それでは、我々は森の横でベースキャンプを構えようかと思います』
「うむ。しばしの間はそこで待機しているように。また、何か状況が判ったら、こちらから使いの者を寄越すのでな」
『はっ!! それでは失礼します』
一礼してから、飛竜に乗っていた男が水晶の森の方へと戻っていく。
俺はというと、すぐにいままの状況を先輩に報告したのだけれど。
『はぁ……忍冬さんにこの件は丸投げしたくなってきますわね。寄りにもよって、水晶の森だなんて最悪のケースじゃない』
「まあまあ、祐太郎が戻り次第、状況を……ってちょっと待って先輩、祐太郎に持たせてある銀の鍵って、水晶柱とか水晶の森を媒体にしないと転移の扉は開けないんですけれど」
『そこよ、それ。さっきから築地君にも念話を送っているのだけれど、今だに返事がないのよ。これってつまり、彼はまだ鏡刻界にいるっていうことになって』
「帰ってこれなくなった……まじかぁぁぁぁ」
最悪だ。
異世界の、それも魔族の大陸の王都で……って、その王都が廃墟化しているので、おそらくは祐太郎はそつちの調査をしている最中なんだろう。
どのみち鏡刻界に向かうためには、俺の持つ鍵を使ってランダムに転移門を開き、そこから飛んでいくしかない。
いや、人手が足りないわ優先順位をどこに設定したらいいのかで、頭がパンク状態になってきたよ。
「一旦、そちらに戻ります。仮称・水晶森島とでもつけておきましょうか、そこにいる魔族には今いる場所から動かないようにってワイルドカードに変装して伝えてあります」
『賢明ね。こちらでは一目さんに話をして、何名か白桃姫さんの眷属の方をそこに派遣するように手はずを整えておきます……出来るなら、この水晶の森の転移現象で終わってほしいところではあるのですけれど』
「俺としてもそう思います。これは、本格的に天球儀を使って転移現象を戻せるかどうか調べたくなってきましたよ」
『できるなら、とっとと戻してしまいたいわね。これ以上、私たちの世界に鏡刻界の土地が転移されると厄介なことになるのよ』
厄介なこと、つまり水晶柱に魔力が蓄積し、災禍の赤月が発生すること。
まあ、そんなことにならないように祈るしかないんだよなぁ。
頼むから、これ以上はこっちの世界に飛んでこないでくれよ。
………
……
…
――鏡刻界・魔大陸
消失した王都ブラウバニアでの一連の調査を終えて。
どうしても王都中央にそびえる廃城に入ることは出来ない。
あの虹色の結界を突破できそうなのは、おそらくはオトヤンだけ。
それなら、一旦地球に戻ってオトヤン読んできた方が正解なんじゃないかと思って、水晶の森に飛んで来たところまでは良かったんだけれど。
「おーーーーい、そこにいるのは地球人かーーーー」
水晶の森のあった場所には、巨大な湖が形成されていた。
そして、そこに浮かぶ一隻の大型クルーザーと4隻の小型漁船。
そこから聞こえて来る声に、俺は頭を押さえるしかなかった。
「マジかよ……いくらなんでも酷くないか? 運命の女神は、どこまで俺をあざけわらうっていうんだよ……」
水晶の森が転移現象によって消失。
おそらく転移先は海上、その証拠に目の前に浮かぶ船は淡水用ではない。
ホタテ釣り漁船が混ざっているから。
「ああ、俺は地球人だ、とりあえず大型クルーザーの周りに船を集めてくれるか? 詳しいことを説明するから」
「わかった、すまないがよろしく頼む」
やれやれ。
一難去ってどころかもっと大きな災難に巻き込まれた感じだ。
どうやって地球に帰ったらよいのやら、本当に不安になってくるわ。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
・誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




