第四百二十三話・(並行する世界と行方不明の白桃姫)
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世界各地……主に日本とアメリカで発生した二つの世界の入れ替わり事件。
この報告を受けて日本政府は『並行世界相互間転移現象事件』、略して『並行転移事件』という名前で捜査本部および調査委員会を設立。
同様にアメリカでも国防総省内の政府退魔機関とヘキサグラムも調査チームを編成、異世界へと取り込まれてしまった人々を救出するべく調査が開始された。
また、今回の件で重要参考人である『乙葉浩介』ならびに『築地祐太郎』『瀬川雅』『新山小春』ら国家認定魔術師については、一連の事件の解決のために協力体制を取ることとなった……。
「って、朝のニュースで見たんだが、みんなのところには連絡はあったのか?」
終業式の翌日、魔法研究部のメンバーは俺の家であるティロ・フィナーレに集合。
先日起こった並行転移事件についての対策を練ることにしたんだけれど、朝のニュースでそれどころの話じゃなくなっていた。
朝っぱらから自宅周辺には報道関係者たちが集まり、中継車まで回して俺から話を聞こうと必死のようであったんだよ。
まあ、いつものように姿を消してから箒に乗って飛んで来たので特に問題はなかったんだけれど、妖魔特区正門ゲートと大通り十二丁目聖域付近にも報道機関は張り込んでいたので、今頃はあのあたりにも入り口記者たちは集まっているんだと予測できる。
「うちはまあ、オトヤンちの隣だからいうに及ばずだ。付け加えるなら親父に一言欲しいっていうやつらまで集まって来ていたんだけれど、あれは失言を引き出すためじゃなく単純に興味があって集まって来ていたんだとおもう」
「へぇ。以前ならなんとしても言質をとって失脚を狙ったり、俺たちの活動に同行しておこぼれを狙ったりしているのが雰囲気で分かったんだけれどなぁ」
そう言われてみれば、今日うちの周りにいた報道関係者だって、いつ頃異世界との扉を開くのですかとか、二世界間国交は起こるのかとか、あまり事件とは関係ない方向で盛り上がっていたなぁ。
「ほら、私は神聖魔術師なので、乙葉君たちの所ほど報道関係の人はいなかったよ。私は聖女で回復のプロフェッショナルだから、扉を開く能力はないって思われているみたい。まあ、おかげでここまではあまり詮索されずにこられたのだけれどね」
「同じく……って言いたいところだけれど、私のほうにはヘキサグラムとアメリカ政府から、転送されてきた町の解析をお願いしたいっていう申し出が届いていますね。ちなみにだけれど、日本政府からはそういった問い合わせはないわよ、どうしても特戦自衛隊で解析をやりたいみたいだから」
「まあ、日本政府ならそうするだろうね」
以前のように与党と野党のぶつかり合いはあっても、俺たちを巻き込んでの件についてはそれほどひどくなくなっている。
むしろ緩和されているようにも感じている。
これは、無理やりにでも俺たちを取り込もうとして機嫌を損ねてしまうよりも、どこかで折り合いをつけて協力関係を持った方がいいという共通認識が出来上がっているらしい。
その第一歩が、『国家認定魔術師』の登録。
これに登録すると、何かあった場合には日本政府からの打診や協力要請は来るようになっているものの強制力はない。
ついでに言えば、これを持っている魔術師に政党が『事件解決のための委員会の設立および許可なく』協力を求めることは禁則事項として盛り込まれているらしい。
「あと、どことは言わないけれど、いくつかの政党から打診は来ているわよ。今はまだ無理だけれど、二十五歳になったらぜひとも我が党から立候補を……とか、」
「あ、そっちはセーフなのか……まあ、今回の件ではどっかの新聞社あたりが飛ばし記事でもでっちあげたんだろうっていうのが親父の話だからな……って、りなちゃんと紗那さんは、そこで何をしているんだ?」
応接間でそんな話し合いをしている最中、二人はうちのベランダで何かの装置を設置している。
なとんういか、じつにスチームパンクな機械だなぁ。
大きさは90リットルのペール型ごみバケツ程度で、あちこちに計器とかレバーが仕込んである。
「これはですね、お父様が開発した最新型魔導具です。大気成分中の魔力を集めて発電する魔導ジェネレーター、名付けて……なんだっけ?」
「甲式魔導発電機……だったかな?」
おとがいに指を立てつつ、りなちゃんがそう呟く。
「そうそう、ほら、乙葉先輩たちが異世界に入っていた時、天羽総理が持ってきたアタッシュケースがありましたよね? あれの解析をおとうさまが請け負いまして」
「あれかぁ……まったく未知のものだから時間かかるだろうなぁ」
「ええ、大体半日程度で解析は完了し、データコンバート用の魔導具は翌日には完成。すべてのデータを抽出してバックアップを取ったところまでは良かったのですよ。そのあと、まずは一つ試作品として作ってみようということで、一日かけて作ったのがこちらです」
「「「「「え、いまなんて?」」」」
ちょっと待って、あまりにも仕事が早すぎて思考が回らないんだけれど。
つまり、天羽総理からの依頼を受けた数日後には、実用試験もしているっていうことなの?
「これがその中の一つ。こちらのコンセントから電気が供給されます。こっちが交流でこつちが直流」
「うん、同じようなものは俺も作ったから理解できるけど、ここまで大きなものなの?」
そう問いかけると、今度はりなちゃんが胸を張って一言。
「乙葉先輩、これはですね、電気を魔力に変換するコンバーターも備えています。つまり、電気を魔力に変換できるのですよ」
「うん、同じことを二度話したよね。でも、それって凄いのか?」
ふと考える。
そしてすぐに思い付くのが、家電として魔導具が成立するという事実。
電気さえあれば動く魔導具、これってトンデモないものなんじゃないか?
「……マッドサイエンティストの本領発揮か……ってちょい待ち、これを使えば、うちのマンションのエレベーターも動くんじゃね?」
「紗那さん、参考までに魔力を電力に変換する場合、どれぐらいの変換効率があるの?」
「それを調べるために、ここに設置しているのですよ。私のうちでは、変換機を一時間ほど稼働させることで、大気成分内の魔力を0.58kWhの電気に変換することに成功しています。アンペアとかもっと細かい話はお父様がしていましたけれど、私にはそっちの方の知識がなくて」
一時間で0.58kwhかぁ。
一日フル稼働で約13kwh、一般家庭用の電力ってどれぐらいつかうんだろうか。
「その数値が真実とすると、一家に一台あればおおよそ一日分の電力は賄えるということになりますわね。まあ、オール電化とかになりますと、まだまだ必要量は足りなくなるかとおもいますが。それは凄い進歩ですわ」
「問題はですね、一時間動かすと1時間の冷却時間が必要とかで。今はフル稼働させるために、クーラーを設置して常時冷やしています」
「……謎すぎる科学力だなぁ。それでうちのベランダに設置しているのか」
「はい、できるなら、とにかく電気を使いまくってくれると助かります。この魔導具には蓄電能力はありませんので、蓄電器に接続するかもしくはコンセントをあちこちにばら撒いて供給していただけると」
「それならまあ、お隣さんがいるから……」
うちから引っ張っているお隣さん用のコンセントを持ってきて、甲式魔導発電機に接続。
ついでに俺が作ったやつからもコンセントを引き抜いて、うちの家電製品を全て接続、うん、俺の作った奴は仕舞っておこう。
「……それで、妖魔特区内部の魔力濃度では、どれぐらいの電力を生み出せるのです?」
「ありまとーちゃん曰く、一日動かせば0.25ジゴワット?」
「その未知の単位は使わんでよろしい。0.25ギガワットだな?」
「先輩、0.25ギガワットってどれぐらいですか?」
「おおよそ25万キロワット。苫小牧火力発電所の総発電量に匹敵しますわね。それを一日で?」
そう問いかける先輩に、紗那さんは頭を振って一言。
「うん、ここだと一時間で5.15kwhかなぁ。三時間稼働で一日分? お父様の予測よりもかなり低いですね」
「家庭用だからじゃねーか?」
祐太郎の言葉に一同納得。
そうかそうか、それじゃあ超大型魔導発電所でも作れれば、電気問題は解決なのか。
って、あっちの世界じゃそれが普通だっていうことだよなぁ。
だからこれが存在するのかよ。
「はぁ、異世界のオーバーテクノロジーって恐ろしいですわね。それじゃあ、近いうちに日本の発電施設もこれに切り替わりのかしら?」
「それはあり得ませんね。そもそも、天羽総理の持ってきたカードリッジの解析については、まだ精査中っていう報告しか出してありませんし。なによりもこれ、超が付くほどのレアメタルを必要としていますよ。私でも聞いたことがない金属でしたから」
「ふぅん。こんど聞いてみようかな……」
「はい、そういうと思ってこちらが乙葉先輩の分です。この中に全て収まっているので、適当に解析を頼むって言っていました」
そう説明して俺に小さなケースを手渡してくれるのはいいんだけれど、中に入っているのはは明らかにSSDだよね、それも大容量のやつ。
まあ、あとで時間があるときにでもメモリーオーブに取り込むことにしようか。
ということで、空間収納にポイッと。
「それじゃあ話を戻すか。紗那さんとりなちゃんはそっちの作業を続けていても構わないからね」
「すいませんが、そちらの話はお任せします。私は技術系の方が得意ですので」
「りなちゃんは、紗那ちゃんの護衛っ」
「ここで護衛かよ……まあ、必要かもしれないからなぁ」
ということで話し合いは再開。
そして当面の問題としては、まずは転移した場所の特定と鏡刻界に転移してしまった人たちの安全の確保が第一。
次が黒狼焔鬼の所持している天球儀に残っている神威量でどれぐらいの被害がでるのかという計算と、それを阻止すべく黒狼焔鬼を探し出すこと。
黒狼焔鬼の調査については先輩に一任、深淵の書庫を駆使してでも行方を追ってくれるということで決着。
「それじゃあ、俺が白桃姫に話を付けて来るか?」
「そうしてくれると助かるが、一人で大丈夫か?」
「まあ、忍冬師父を巻き込んでも構わんし。それよりもオトヤンは、転移現象でこっちに転移でやって来たかもしれない魔獣や野良魔族の迎撃を頼んでいいか?」
それは構わんし。
俺は頭をつかっている よりも体を動かしているほうが楽だからさ。
「それじゃあ、私は先輩のサポートですね。黒狼焔鬼は先輩が、私はほかにもこっちの世界に転移してきた場所がないかどうか、深淵の書庫で調べることにします」
「それでいいの?」
「あと、ここに残っていれば万が一にも怪我人が現れた時にも対処可能ですから。ほら、妖魔特区大通り二丁目には、特戦自衛隊が作った仮設治療所があるじゃないですか。あそこを使わせてもらえばいいだけですからね」
ふむふむ。
使えるものは親でも使え……っていうことではないが、せっかくの設備だから有効にっていうことだろう。
それなら俺は、安心して……。
「って、俺もここで待機じゃね? ここにいた方が情報は集まってくるよね」
「念話があるから、どこにいても問題はないわよ。新山さんは深淵の書庫のサポートをするからここにいてもらう必要があるけれど、乙葉くんは自由に動いていいわ、つまり遊撃任務っていうことで」
「了解。それならさっそく動くとしますか」
ということで、俺たちはさっそく活動を開始。
鬼が出るか邪が出るか、あまり出て欲しくはないんだけれどね。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
・誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




