第四百二十二話・虎視眈々、待てば海路の日和あり?(すれ違いと、世界の活性化と)
『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週火曜日、金曜日を目安に頑張っています。
地球と鏡刻界、二つの世界の相互転移現象。
それがもたらすものは、地球の大気成分の変質と水晶柱の活性化。
すなわち、『災禍の赤月』の発動。
その影で蠢いていたのは、黒狼焔鬼率いる二代目魔人王陣営……。
乙葉浩介とその仲間たちは、この危機をどう乗り越えるのか?
以下、続きは劇場版で!!
……
…
「なんていう展開なら、俺としてものんびりと傍観できるんだがなぁ」
「オトヤン、一体何の話だ?」
大通り西16丁目の幼稚園前。
そこで起こった藍明鈴との戦闘により、北海道警察甲種特機の一部及び内閣府退魔機関第四課のメンバーが異世界へと強制転移。
すぐさま妖魔特区の水晶柱から鏡刻界へと移動、その際に祐太郎が水晶の森への直通回廊を開いてくれたため、俺たちはそれほど時間を消耗せずに転移した人々と無事に合流することができたのだが。
「……このわずかの時間で、野良妖魔や魔獣と交戦状態だったとは、こっちの世界のことを少し舐めていたかもしれないかってこと」
「そうだなぁ……」
転移した人数は8名、俺たちが発見した時は全員が負傷、2人は重体。
今は俺の持っていた回復薬で傷を癒やし、意識が戻るのを待っている。
俺たちの救援が間に合わなかったら、この場の8人全員が巨大な魔獣によって食い殺されていたかもしれない。
知性を持つ魔族ならば、まぁ生き残る術はあったかもしれない。
だが相手は化け物、それも魔大陸に棲息する、生き物の命や生気を糧とする存在。
現代兵器などこの世界では無意味、第四課の持つ護身用拳銃程度では、傷つけられるかどうかも疑問。
「オトヤン。もしもだ、こっちの世界の魔獣が地球に転移されてきたとしたら、その時はどうなると思う?」
「最悪の結果がニュースで流れるだけ。そして国内はパニックになり、俺たちにどうにかしろという話がくる。まあ、その前にあっちの世界の対妖魔兵装の解析が終われば、それなりに対応は可能じゃないかと思うけれど……その転移現象がどうして起こるのかってことは追及されそうだな」
「そして俺たちの出番かよ……」
そういうこと。
「確か有馬博士が解析を依頼されたいたんだよな? あとで結果も確認してくる? ついでにりなちゃんたちにも注意喚起しておいた方が良さそうだし」
「違いない。まあ、あの博士のことだから、とっくに解析は終わって回収したデータから新たな兵器を開発していたりしそうだからだな」
そんな話をしていると、意識不明の二人が目を覚ます。
すぐに他の仲間たちが駆け寄りバイタルを確認しているけれど、安心したような表情だからもう大丈夫だろう。
「それにしても……あの巨大な狼は何者なんだったのか……」
「特機と第四課を襲っていた化け物か。体高4メートルで光る体毛を持つ化け物なんて知らんわ。そもそも俺の魔術を弾き返したんだぞ、あの体毛は……祐太郎の闘気砲でどうにか退けられたし、見た感じでは手負いだったから助かったようなものだ。あんなのがこの森の中を徘徊していると思ったら、とっとと帰りたくなるわ」
チラリと特機の方を見ると、どうやら立って歩けるまでには回復しているらしい。
一部顔色が悪いメンバーもいるんだけれど、あれは鏡刻界の魔力を含む大気に当てられて魔力酔を起こした感じだな。
「それじゃあ、とっとと帰りますか。他に転移現象が起きた場所がないか先輩にも確認したいからさ」
「しっかし……天球儀に封じられている神威、あれでどれだけの転移現象が起こせるのかも調べたいからなぁ。ほら、藍明鈴は呪符に神威と相互転移術式を組み込んだやつを使っていただろう? あれも実験じゃないかなぁと思うからさ」
「それについては同感だよ。俺が奴らに襲われてから、その数時間後には聖徳太子展が襲撃を受けた。その直後、奴らが逃げ込んだ先に俺たちが到着した時は、すでに相互間転移術式は呪符として存在していたことになるから」
ここからは俺の予想。
黒狼焔鬼は俺たちよりも魔術に長けている。
すでに相互間転移術式は解析が完了していたのだが、それを起動させるために必要な神威には手をつけられていなかった。
そして今回の天球儀のことをジェラールから聞き出し、それを奪い取って神威を抽出、術式を完成させた。
実験として捨て駒同様の藍明鈴に呪符を与え、俺たちを誘き出して実践で試そうとしたのだが、彼女は呪符により逃走……だが実験は成功。
「ってところか」
「そんなところだろうさ。さて、地球に戻る扉を開くから、特機と第四課のみなさんは少し下がってくれないか?」
祐太郎が蒼呟きつつ、銀の鍵で水晶の森の樹木に扉を作り出す。
そしてすぐに開くと、その場の全員を扉の向こうへと叩き出した。
だってさ、扉の向こうでは完全武装状態の特戦自衛隊が待機していて、今にも飛び込んできそうな雰囲気だったんだよ。
だから俺たちも飛び出して速攻で扉を閉じた、これですべて完了ザッツオーライ!
「乙葉浩介!! どうして扉を閉めたのだ? この機会に異世界の調査を行なうべきではないのかね。それを貴様は勝手に閉じるとは」
特戦自衛隊のどこかの部隊のなんだか隊長が,俺に向かって叫んでいるが知らんがな。
「はいはい、それじゃあどうぞ鏡刻界にでも行ってきてくださいよ。おかえりも自分たちでどうぞ、すべて自己責任もしくは特戦自衛隊の責任でどうぞ。そんなことよりも無事に戻ってきた連中を急ぎ病院に連れて行った方が」
「それは新山さんが治療中だわ」
祐太郎が親指をグイッと向けた先。
仮設テントの中で新山さんが魔法治療の真っ最中。
「はぁ。まあ、それじゃあ後はお任せしますよ」
「待て、まだ話は終わっていない。君たちが異世界に向かってから、アメリカで西16丁目のように世界が入れ替わる事件が発生している。確認できているもので西海岸方面で三件、巻き込まれた人たちも大勢いる。彼らを助けるためにも、異世界への門は開きっぱなしにした方が良いのではないか?」
「マジかよ」
やっべ、予想よりもあっちの動きが早い。
「先輩、その転移状況の映像って映し出せますか?」
「そうくると思って用意してあるわ。こっちにきてくれる?」
急ぎ深淵の書庫の中で手招きしている先輩の方に向かう。
そしてくるっとモニターの一部を回転して貰うと、三つの映像が浮かび上がっている。
「一つはサンフランシスコゲートの外、ヘキサグラムの部隊の駐留地点。ここにら森が広がっているわね。大きさは直径50メートルほど。次はサンフランシスコゲートから少し離れた場所の森。ここは砂漠のようになっているわ。大きさも同じだけれど、ここでの被害者はいない。そして問題なのがこっちね」
そう告げてから、先輩が映し出した場所。
サンフランシスコ南方のサン・ブルーノ。
その街中に突然、異世界の建物が姿を現していた。
大きさは他の二箇所と同じ程度、問題なのは呆然として周囲を見渡している獣人たちの姿が映し出されていること。
「ええっと、ひょっとして街の中ひとつ飛んだのか?」
「そう見たいね。今現在は、ヘキサグラムが転移現象によって姿を現した街並みを封鎖、セクションの中で獣人を選出して説明を行なっているらしいわね」
「はぁ、なるほど。それでアメリカに異世界の恩恵がと叫んだ一部議員が特戦自衛隊をここに寄越したってことかな?」
その問いかけに、先輩も困った顔で頷いている。
うん、まずは人命第一だよなぁ。
少なくとも一箇所目と三箇所目、この場所の特定と調査、あとはその座標に扉を開く……って、こういう時こそ白桃姫の出番だろうがぁぁぁぁ。
くっそ、俺たちの方に色々と乗せられすぎだわ、こんな重い荷物はとっとと分配した方が良さそうだよなぁ。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
・誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




