第四百十九話・禍福得喪は青天の霹靂?(大丈夫、ただの致命傷ですから)
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北海道立近代美術館で行われる【聖徳太子展】、そこに展示される予定の『聖徳王の天球儀』をどうにかゲットしてきたものの、その帰り道で藍明鈴と南雲という上級魔族に襲撃された挙句、どうにか逃げてきた俺ちゃんです。
真っ直ぐ家まで帰るっていう手もあったんだけど、一旦、状況整理のために妖魔特区内部に移動。札幌テレビ城下で一休みしつつ、ステータス画面で俺の状況を確認。
『ピッ……魔障毒の吸引により魔障中毒・強に侵食されています。高レベルの呪詛ですので、神威による上位神聖魔法以外では完全な治癒は不可能です』
「そうだよなぁ。回復はできないんだよなぁ……さて、どうしたものが」
そう考えていると、追加で天啓眼の説明が頭の中をよぎっていく。
『ピッ……身体の代謝能力と魔障中毒の浸食濃度が平衡なため、現時点での身体的影響はありませんが、魔力の自然回復は不可能です。また、神威の回復速度も半減しています』
あうち。
俺の身体能力では、侵食速度と回復速度がぎりぎりバランスを取っているのかよ。
物は試しにと、右手を出して炎を生み出してみるか。
「炎創造……と」
――ボウッ
俺の手の中に炎が生み出される。
それと同時に急激に魔力が消費されていくのと、魔障が体内で増幅している感じもあるが……魔障については誤差だな。
「ふぅん……俺が魔法を使うと魔障がごく僅かに噴き出すけれど、代謝能力ですぐに消滅するのか……でも、今の体内魔障濃度を下げることはできないと……う~ん。これは要相談案件だよなぁ。しっかし、なんであの南雲とかいう魔族は魔障毒みたいなものを操れるんだ? 確か黒狼焔鬼の配下って言っていたよなぁ……」
そもそも、魔障については伯狼雹鬼の18番かと思っていたけれど、まさかその兄弟の黒狼焔鬼も使えるとは思っていなかったよ。
しかもだ、その配下まで使えているっていうのはどうよ?
「魔障毒っていうのを操れるのか。いや、それにしてもあの僅かな瞬間にここまで汚染されるなんて予想外だわ。あの南雲っていう魔族が魔障毒を自在に操れて、黒狼焔鬼たちはその力を借りているって考えた方が無難かもな……力の継承とか貸与とか、そんな感じなのかなぁ」
今一度、南雲にあって鑑定してみたいというのはある。
だが、今の状態で再会したら、こんどはかなりやばそうなことぐらいは自覚している。
本気で魔法をぶち込んだら瞬殺できそうだけれど、この毒の秘密を解き明かさない限りは迂闊なことはできないよなぁ。
「はぁ。まだ学校に行くには早すぎるし……ちょっと調べてみるか」
カナン魔導商会のメニューを開き、そこに表示されている魔法薬を片っ端から調べてみる。
新山さんの神聖魔法で回復できればいいんだけれど、こいつだけは特殊すぎて新山さんでも解呪不可能。まあ、呪いの一種だし解呪条件が『神威を伴った神聖魔法』という時点でお察しモード。
せめて薬で症状を緩和できればいいんだけれどさ。
「……さすがに、魔障中毒を癒す薬はないか。上級解呪薬でも無理そうだよなぁ……と、メッセージが大量に届いているな……ああ、納品依頼が山のようになっているわ、これは明日にでも処理しておくか」
うん、今の時点ではこれ以上何を考えても無意味。
回復できない魔力……というかMPは神威を消費して補うしかない。
そもそも俺の魔力と闘気は亜神化してからゼロで、神威を変換して代用している状態だから……ってあれ、あまり問題はなないような気がしてきたが。
神威変換は、無理やり神威を魔力に変換し、それを使って魔法を発動する技術であるため、消耗したMPは回復しない。これを無理やり、一時的にでも神威を低下してMPに変換するものだから、体の中を走る魔力経絡にも多大なる負担が強いられるんだよ。
『ピッ……高レベル魔術の運用における魔障生成速度が代謝速度をうわまると、神威にまで影響します』
はい、すいません調子に乗りました。
とりあえず当面の間は様子見で、新山さんには相談してみるか。
祐太郎のようにプラティ師匠の元にいって治療なんてことになったら、今の時点では時間が取れないんだよなぁ。
はあ。
学校にでも行くか。
「その前に、状況報告だけでもしておかないと」
LINEのグループチャットで魔術研究部のメンバーに連絡。
ついさっき、藍明鈴と南雲という上級魔族に狙われたこと、聖徳太子展会場近くで遭遇したことと天球儀を探していたということの二点について書き込む。
するとほら。
『ピッ……新山:怪我はないのですか? もしも必要なら飛んでいきますよ』
『ピッ……瀬川:はぁ、やっぱりそうなりましたか。詳細については、今日の放課後に札幌テレビ城で』
『ピッ……築地:それじゃあ、先に学校にいっているわ』
『ピッ……りなちゃん:かたき討ちは必要ですか?』
『ピッ……シャナ:りなちゃん、先輩はまだ生きているからね。何か手伝いが必要でしたらご助力します』
うん、反応が早いわ。
それならまとめて返事をば。
『ピッ……乙葉:詳細は放課後、札幌テレビ城で』
これでよし。
どうせ今日は終業式だし、まっすぐにここに来たらいいか。
そう思って、スマホを閉じて一旦帰宅しようとしたんだけれど。
大通公園横の廃墟群の一角に、建設途中の日本風家屋があるんだけれど。
あれって、誰が建てているんだろうか。
見た感じ、岩手とかのほら、ええっと。
「あ、遠野の曲家か。でも、なんでこんなところに?」
ふむ。
誰か、白桃姫の配下とか綾女ねーさんが家でも建てているのかな?
それとも祐太郎か誰かが、どっかの議員に頼まれたとか?
でも今は建設途中でだれも姿が見えないし。
まあ、まだ朝早いから作業員も来ていないんだろうなぁ。
さて、とっとと学校に行きますか。
………
……
…
そして何事もなく学校へ。
終業式も無事に終わり、放課後はみんな揃って札幌テレビ城へ移動。
相変わらず白桃姫の姿は見えないんだけれど、干すの側近の連中は普通に過ごしていたから、場所を借りても問題ないよね。
「それで、一体なにがどういうことで妖魔の襲撃を受けたんだ?」
「あ~、うん、話せば長いことなので、一応全員に念話モードで。どこでだれが話を聞いているか分から無いからさ」
「まあ、それもそうか……と、『これでいいのか?』」
(それでオッケー。ということで、一通り状況を説明するけれど)
昨晩からダミー天球儀を作っていたこと、それを早朝になってすり替えてきたこと。
その手伝いを瀬川先輩にお願いしたことを告げると、何故か新山さんが少しだけプクッと膨れていたのだが、今はそれは置いておくとして。
そのあとで黒狼焔鬼と藍明鈴と出会ったこと、彼女らが天球儀を探していることなどを事細かに説明。
するとその場の全員が腕を組んで考え始めている。
『さすがに、黒狼焔鬼の配下が動いているっていうのは無視できないよな。奴らが天球儀を探しているっていうことは、つまりは災禍の赤月を発動させたいっていうことだろうさ。依ろにもよって、あの伯狼雹鬼の関係者が動いていたとは』
『そうね。それにしても、よく乙葉君は無事だったわね。伯狼雹鬼の実力については、私や築地君は痛いほど知っているから。しかも、その黒狼焔鬼の配下となりますと、やはり一筋縄邪いかないのですよね?』
うん、まあ、祐太郎と先輩の質問には、頷いてみるしかない。
(南雲っていう配下は毒使いだよ。麻痺毒と魅了の二つの効果のある毒を密閉空間収納に噴霧する。あとは粘質状の糸かな。その毒で藍明鈴まで巻き込んでいたからさ)
『毒……ねぇ。まあ、オトヤンは無事のようだから大したことは無いんだろうが、注意は必要だな』
『ある程度の毒なら、私でも中和出来るよ。乙葉君は今は大丈夫なの?』
(まあね。解毒薬は購入したからもう安心さ)
そう説明すると、新山さんはふぅんと顎に手を当てて考え込んでから。
『ちょっと待っててね、まだ残っているかも……診断……って!』
うん。コンディションの部分は鑑定されても見えないようにしておいたけれど、新山さんのこの魔法の効果については失念していた。
慌てて自分の口元に人差し指を軽く充てると、新山さんはうなずいて一言だけ。
「うん、オッケー。でも、みんなは乙葉君ほど丈夫じゃないから、毒については出来る限り触れないようにしてくださいね。乙葉君の体にはもう毒の反応はないけれど、少し回復が遅れているみたいだからあとでもみう一度見てあげるね」
(よろしく~)
『まあ、オトヤンの体は丈夫だからなぁ。それでもまだ、回復が遅れているっていうことはよほどのものなんだろうさ』
『そうね。私も深淵の書庫で乙葉君のバイタルをチェックしているけれど、少し体が鈍いみたい。まあ、少し休んだら大丈夫でしょうね』
(そういうこと。と、あとは特に報告っていうほどのものはないんだけれど。あの建物って、誰が許可したの?)
気になっていた廃墟の日本家屋。
でも、そう問いかけても新山さんも祐太郎も頭を傾げるだけ。
「え? あの建物って、乙葉君たちが修学旅行先で保護した座敷童さんたちの屋敷よね?」
そう先輩が告げ、それに紗那さんもりなちゃんも頷いているんだけれど。
そもそも、俺たちって修学旅行で座敷童なんて保護したっけ?
「はぁ……俺たち、そんなことしたっけ?」
「いや、俺も記憶にないが。確かに京都のホテルでは、大量の妖魔相手に戦った記憶は残っているけれど、そんな座敷童なんて保護した覚えはないなぁ。新山さんは?」
「ええっと……ううん、なんだろう。先輩の言ったようなことがあったかもしれないし、そうでもないような気がするし……なにかこう、あやふやなんですよね」
あやふやって。
つまり、俺と祐太郎がすっかり忘れているっていうことなのか?
そんなバカなことがあるはずがないんだけれど。
座敷わらしだなんて、そんな面白くて貴重な体験、この俺が忘れるはずないじゃないか。」
「……何かあるわね。それじゃあ、乙葉君たちが修学旅行で体験してきたことと、私たちが聞いている話をすり合わせた方がいいみたい。まだ時間はあるわよね?」
「まあ、大丈夫ですよ。それにしても、そんなにポンっと記憶って消えるものなのか? 先輩たちの思い違いっていうことは……ないよなぁ」
「だが、俺もオトヤンもはっきりと覚えていない。そして新山さんはあやふや状態。ちっょと調べてみないと」
うむ。
これはしっかりと原因を探るしかないよな。
どうやら何かが動いているような気がしてきたから。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
・誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




