第四百十六話・初志貫徹? 一筋縄ではいかない(修学旅行が終わって、気がつくと夏休みかい)
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朝。
本当に久しぶりの実家での朝食を堪能してから、俺はいつも通りの時間にいつもど 通りに祐太郎のうちの庭へ移動。
これまた久しぶりの祐太郎との再会。
「久しぶりだな。オトヤンはいつ帰ってきたんだ?」
「今日の深夜かな。もう日付も変わっていたからメッセージだけで済ませたんだよ」
「どうりで。まあ、今日から学校なのは嘘楽しいかもしれんが、明日は終業式だからな」
「嘘? まじで?」
あっれ? 時間の流れがおかしいのか?
最初は修学旅行が終わって七月になって。
あちこちの世界を旅してきたり……あ、それなりの時間は経過していたっていうことか。
それにしても、時間が経ちすぎるんじゃね?
「それにしてもおかしくないか?」
「いや、そう思って活動メモを作って時間経過を調べたんだが、多少のずれはあるものの問題はない。そもそも、うちの学校って一学期の終業式が早いだろうが」
今日か七月二十日だろ?
明日が土曜日で終業式で、夏休みが始まるだろ?
修学旅行が終わって帰ってきて、すぐに異世界に行って……うむ、時差発見。
どのタイミングで時差が発生しているのかわからん。
「どこだろう?」
「封印大陸説が濃厚。あとは鏡刻界の霊峰も時間軸がおかしいだろ? 最後のあの世界でも数日分の誤差は発生していたと推測できる。まあ、誤差だな」
「それなら良いんだが。災禍の赤月の件で何かおかしくなっているんじゃないかって思えてきたからさ」
そんな話をしつつ、庭にある丸い円の中へと移動。
ここが飛行型魔導具の発着場として俺たちが使っているやつ……ってあれ?
心なしか地面の素材とか変わっているんじゃね?
「祐太郎、ここって改築したのか?」
「俺たちがいない間に、親父が色々とやらかしたらしい。国交相に申請して【飛行場外離着陸場】の認可を貰ったらしくてな。ついでにここに着陸可能なものは飛行型魔導具および個人飛行能力保有者のみ。【飛行型魔導具の個人空港】という許可をとってあるらしい」
「親父さんも暇だなぁ」
「いや、こうやって前例を作ったのち、国内の各空港にも同じ設備を導入できるようにするんだと。ようは飛行型魔導具の普及のためのお膳立てらしい」
「へぇ……」
──フワッ
まあ、まずは学校に行って久しぶりにみんなに会いたいというのが本音。
新山さんに会うのだって久しぶり……っていうか、数日ぶりなんだけれど。
そもそもクラスメイトに会うのは修学旅行以来のようがしてきたし。
「な、なあ、祐太郎」
「ん? どうしたオトヤン」
「俺たち、卒業できるのか?」
「国からの依頼で活動していたから公欠扱いらしい。まあ、特に問題はないらしいから安心しろ」
「さすが、俺より数日早く帰ってきただけなことはある」
そっか、無事に卒業できるのか。
まあ、今後の活動内容にもよるし、災禍の赤月が発生したらそれどころじゃなくなるからなぁ。
今日の放課後は、どこかに集まって情報のすり合わせをした方がいいか。
それに、オリジナルの【聖徳王の天球儀】を回収しないとならないからさ。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
──放課後、妖魔特区内・札幌テレビ城
まあ、学校の授業は普通に受けてきたよ。
新山さんたちもとも久しぶりの再会、涙ありラブシーンなしでそのまま放課後へ。
そして忍冬師範も巻き込むために、りなちゃんや沙那さん込みで全員まとめて札幌テレビ城集合。
白桃姫もいた方が楽しくていいんじゃない?
「と思ってきたんだが。白桃姫は鏡刻界かよ」
「ああ、俺たちと一緒に情報収集をするために帝都に向かったんだよ。俺たちは先に戻ってきて各自で情報収集をしていたし、白桃姫もある程度の情報が集まったら戻ってくるんじゃないのか?」
「それならまあ、帰ってきたら説明するということで……まずは消音結界、か〜ら〜の、虹色の力の壁っっ!」
──パチン
外部の人達に見られないように、俺たちの座っている場所の周りを魔法(物理)で目隠し。
音も漏れないようにしたので、早速全員の情報交換を始める。
災禍の赤月については、忍冬師範と要先生は天羽総理から話を聞いていたらしいので参加してもらい、後ほど天羽総理にも報告をお願いすることにした。
まずは瀬川先輩の話から。
地球全域を包み込む大規模結界について、中国主導で【大転移門解放プロジェクト】というものが動いていること、それに伴う必要魔力の測定なども終えているため、あとは水晶柱に魔力を蓄えるための儀式術式を構築するだけになっているという。
これについては、そもそも前提が違う。
災禍の赤月のためではなく、転移門を構築するための術式であり、無関係。
問題なのは、その儀式術式などの話を持ち込んだ第三者の存在。
「……要注意ですか。忍冬師範、日本国政府にはこのことは?」
「大使館を通じて連絡は受けている。この計画が成功すると、水晶柱が全て転移門に置き換えられるため、どの国でも異世界へと向かうための転移門入手については積極的だからな」
「はい、要注意どころか、最重要危険度として認識しておきましょうか。そんで、祐太郎の情報は?」
「俺は小澤さんからのやつだな。さっきの先輩の話に繋がる部分だけど、そもそも主導で動いていたのは鏡刻界の黒狼焔鬼だ。それ以上は分からなかったが、今回の一件についても後ろで手を引いている可能性はある」
黒狼焔鬼っていうと、国会議事堂にいた人かな?
いや、あれは首相官邸だったか。
鷹川首相の公設秘書を鑑定したら、黒狼焔鬼っていう名前が出ていたような記憶がある。
「前鷹川首相の公設秘書・白川塔矢。以前、俺と浩介と新山の三人で潜入調査したときに発見した妖魔だな」
「ええ。2代目魔人王の副官の一人です。黒狼焔鬼、銀狼嵐鬼、伯狼雹鬼の三鬼の一人であり、鏡刻界でも屈指の暗殺者……という情報しかありませんわ。深淵の書庫で調べてみても、公設秘書として天羽総理に付き従っているということ以外は……」
「やばいな。天羽総理が迂闊なことを黒狼焔鬼に話していないといいのだが」
その忍冬師範の懸念はごもっとも。
今は一つでも多くの情報を独占したいところである。
「それじゃあ、オトヤンの報告は?」
「俺のか……実は」
この場だけの話ということで、俺はあの世界で入手した魔導書を取り出して開くと、そこに記されている情報を全て説明する。
最初は普通に話をしていたのだが、だんだんと全員の顔が引き締まり始め、最後の方は憤怒の表情さえ伺えてしまう。
破壊神が復活するために、世界に散った残滓を探す。
そしてそれを開放するための儀式が【災禍の赤月】であり、おそらくは今、中国が主導で行っているものがそれを引き起こすための鍵であろうと予測できる。
それを起動させるカギであり、止める手段であるのが【聖徳王の天球儀】。
それを俺が手にして、空間収納に収めてしまえば主導権はこちらが手に入れることが出来る。
だが、あれが他人の手に渡ってしまったら、その時は覚悟を決める必要がある。
そう説明を終えるが、事の重要さに誰も言葉が出てこない。
「……ということで、俺からの報告はここまで、それじゃあ、とっとと天球儀を手に入れて来るわ」
「乙葉君、聖徳王の天球儀は、今は北海道にあるかもしれないわ。道立近代美術館で明後日から、『聖徳太子展』が開催されるようだから、そこにいけばあるんじゃないかしら?」
「なんで北海道に……ってああ、そういうことか。俺たちが奈良で見たものが、そのまま順番に全国を回っていだけか」
「そうみたいね。このスケジュール的に考えると、ちょうど奈良県での最終日辺りに乙葉君たちが見たものが、そのまま北上した感じね。この公開順には何か意図的なものを感じなくもないけれど」
奈良の次にどっかの県で公開して、その次がいきなり北海道だなんて何か陰謀的なものを感じても仕方がないじゃないですか。
まあ、それでもこの陰謀には乗ってみるのもありですよね。
それならそれで、ちょいと事前準備もしっかりとしておく必要があるか。
「それじゃあ、俺の方でもちょいと策を練ってみるので、ほかの情報のすり合わせとかはみんなに任せてもいい? なぜかりなちやんがやる気満々になっているようだから、そのガス抜きも兼ねてさ」
「りなちゃん、いつでも戦闘準備は完了!!」
「それは良かったわ。まあ、まだ敵がはっきりとしていないからさ。そのあたりの情報収集も任せるよ」
「……了解。そんじゃ、オトヤンは準備を頼むわ」
うむ、祐太郎は俺が何をするか予測がついているようだから。
俺は急ぎ自宅に戻って、ダミーの【聖徳王の天球儀】を作ることにしようか。
これと本物をすり替えておく、それが俺の作戦だから。
〇 〇 〇 〇 〇
――サンフランシスコ・ゲート
元、黒龍会のあった場所。
今はそこには、周囲の建物を取り込んだ幾何学的な形状の建物がそびえたっている。
その周囲には幾重もの結界が張り巡らされており、人間たちの侵入を拒んでいた。
その建物の地下にある空洞では、直径3メートルほどの肉塊がドクッドクッと脈打っている。
肉塊にはいくつもの人間の顔が浮かび上がっており、そこから幾重もの細い触手が壁際にある巨大な鏡に繋がっており、その手前では数名の魔族が椅子に座って鏡を見つめている。
「……ふむ。やはり伯狼の予想通り、災禍の赤月の鍵は聖徳王が握っていましたか」
黒いスーツを身に纏い、黒狼焔鬼がそう独り言ちている。
その横では、なめくじのような頭を持つ魔族がウンウンと頷きつつ、鏡に写し出されている映像を停止すると。
「ここです。現代の魔術師・乙葉浩介が手にしているものこそ、我らが魔神ダークさまの再生に必要な儀式の鍵。聖徳王の遺産である天球儀に間違いはありません。この男なら何かを知っていると思ってとらえて正解でした」
なめくじ男がチラリと肉塊を見る。
そこには、今回の計画についての情報を持っているであろうと思しき人間たちが捕らえられ、そして取り込まれている。
生きたまま人間の脳に接続し、その記憶を無理やり引きずり出す『鏡塊聖母』という魔獣に取り込まれた人間は、己の意思とは無関係に問いかけられたことについて記憶が反応し、映像化してしまう。
そして映し出されている映像は、乙葉浩介がベットの上で体を起こし天球儀を空間収納から取り出してテーブルの上に置いている映像。
これが目的のものであると、黒狼焔鬼も映像を見て納得していた。
「それで、この聖徳王の遺産について、お前はどれだけの情報をしっているのかね? 秘術商人のジェラール・浪川さん……」
そう呟きつつ、なめくじ男が肉塊へと近寄り、そこに取り込まれているジェラールの頬をヌラァァァァッと舐め上げる。
だが、すでにジェラールに意識はなく、なめくじ男の問いかけについて勝手に脳が反応し目の前の鏡に映像を浮かび上がらせてしまうのだが。
今は、先ほど写し出されていた『乙葉浩介が天球儀を持っている映像』だけがリピート再生されている。
あまりにも質問があやふやすぎて、ジェラールにも答えが見つかっていないのだろう。
「はぁ……そんな質問ではだめですね。ジェラール、あの天球儀は災禍の赤月を引き起こすための鍵である……違いますか?」
そう黒狼焔鬼が問いかけると、鏡は静かに波打ち始め、そして巨大なモニターが浮かび上がる。
そこには世界各地に記されている水晶柱が記されてあり、それらを繋ぐことによって一つの巨大な魔法陣を形成している。
そして、その魔法陣の紋様が乙葉浩介が手にしていた天球儀の表面に浮かぶ紋様と酷似していたため、黒狼焔鬼は確信に近い情報であることを理解した。
「さて、こうなるとやるべきことは二つ。一つは、この大規模結界術式を起動させて、この世界にも鏡刻界と同じような環境を作り出すこと。そのあとで、この世界に溜まる魔素を使い、災禍の赤月を発動させること。粘涎大公、貴方はこの大規模結界術式を起動させるために必要なものを調べるのです。予想では、間もなく兄が鏡刻界から戻ってくるでしょうから、それまでにすべてを準備しなさい」
「はっ。それで、彼の持つ天球儀はどうするのですか?」
「藍明鈴を向かわせましょう。私は……そうですね、私もあとから向かいます。どうせ日本政府にも協力させる必要はありますからね」
そう告げてから、黒狼焔鬼は部屋から出ていく。
彼の持つ転移能力では、このサンフランシスコ・ゲートから外へは転移できないため、堂々と正面ゲートから出る必要があったから。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
・誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




