第四百十話・艱難辛苦、待てば海路の日和あり(時空魔法使いを舐めるなぁぁぁ)
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魔大陸中央。
帝都ブラウザニア消滅から一時間後。
王城内、中央尖塔と呼ばれる場所で、嫉妬のアンバランスは意識を取り戻す。
周囲には瓦礫の山、幸いなことに炎が巻き上がるなどということもなく、すでに鎮火している。
「……くそっ。いったい何があった、何が起きているというのだ!!」
身体の異常を確認するが、疑似肉体には大きな損傷はない。
だが、周囲を見渡すと、既に事切れ霧散化を始めた兵士や、体の半分を瓦礫に潰されて瀕死のものまで存在する。
「動ける奴は、怪我人の救助を……誰でもいい、何が起きたのか説明できるものはいないか!」
アンバランスの叫びも虚しく、この場のだれもが、何が起きたのかを理解していない。
それもそのはず、伯狼雹鬼の姿を直接観たのはプラティ・パラディとピク・ラティエの2人だけ。
その他のものは、突然の爆発音を聞き現場へと向かっていた最中だから。
とりあえず状況を把握するため、アンバランスは崩れた壁から外を見る。
「……なんだ? これはどういうことだ?」
アンバランスが見た光景。
それは、虹色の壁に包まれた帝城そのもの。
その外は巨大なクレーターが存在し、長い時を経て繁栄をしてきた帝都の姿はどこにもなかった。
「大結界で帝城を包んだ? いや、これはピク・ラティエの空間結界の中なのか? 奴はどこにいる!」
アンバランスは走る。
最初に爆発音が聞こえた封印書庫のあった場所へ。
………
……
…
瓦礫に埋まる封印書庫。
その場で、仰向けに倒れるプラティ・パラディと、その肋骨部分から身体を起こしている瀕死のピク・ラティエ。
伯狼雹鬼が放った黒焔、それにより何もかもが灰燼へと帰する直前。
プラティ・パラディの体内に取り込まれ保護されていたピク・ラティエは、その内部から手を外へと突き出し、最後の力を振り絞って帝城全てを包み込む大空間結界を構築した。
だが、この場所は仮初の空間であり、ここから外に出るとクレーターとなった帝都の姿しかない。
それでも、この帝城にいる人々ぐらいは救えるかもと、ピク・ラティエは最後の力を振り絞って大規模空間結界を発動したのである。
「……全く。そんな傷でこの規模の術式を唱えるなど……無謀にも程があると思わなかったのですか?」
身体を起こしつつ、プラティ・パラディは小さくなったピク・ラティエを肋骨の奥へと押し込む。
彼自身もあの爆発により、身につけた様々な魔導具をはじめ衣類全てが消し飛んでいたのである。
それでも、一斉に発動した魔導具の力とピク・ラティエの機転があったため、最低限の被害で済んでいた。
「妾は……十二魔将ぞ……魔人王のため、民のために命をかけて問題があるのかや……それに、複合式空間術式は成功しておる……」
「複合式? それはいったい?」
立ち上がり瓦礫の隙間から外を見る。
帝城の外には虹色の壁、その外は巨大なクレーター。
だが、プラティ・パラディにはそのクレーターの上に、破壊する前の帝都の姿が薄らと見えていた。
「帝城を中心に爆発を抑え込むための結界と、外の都市を守るためのドーナツ状の結界。その二つの結界の隙間、円環の部分に伯狼雹鬼を封じ込め、自らが放った爆炎で焼き滅ぼす……といったところですか。しかし、この結界はあなたしか解除できませんよね?」
そう問いかけるものの、すでにピク・ラティエは失った魔力を取り戻すために休眠モードに切り替わっている。
自らの胸部をコンコンと叩くものの
中にいるピク・ラティエはすでに意識がない。
「はぁ。しかしこの場所にも、災禍の赤月の起動鍵があったとは。それを破壊して封じるために、ここまでの魔法を撃ち放つとは、本当に伯狼雹鬼は何を考えていることやら」
そう呟くものの、誰もその答えなどわからない。
その場で瓦礫に身体を預けるように腰掛けて、プラティ・パラディは太陽の光を身に浴びて、魔力の回復を促していると。
──ガラガラカラッ
瓦礫を崩しながら、アンバランスが姿を表す。
「プラティ老は無事か。ピク・ラティエは?」
「わしの身体の中で休眠状態だ。こうなると100年は目覚めないだろうなぁ」
「そっちもか。タイニーダイナーも神威兵装を使って力を失った。しかし、伯狼雹鬼は何が目的で、この場所を襲ったのだ?」
アンバランスも手近な瓦礫を崩して座りやすいようにすると、どっかりと腰を下ろす。
この場所で災禍の赤月なる怪奇現象について魔人王たちが調べていたことはアンバランスも知っている。だが、災禍の赤月が何を意味するのか、それについてはアンバランスは知らない。
タイニーダイナーは何か気がついていたらしく、積極的に調べていたのだが、やはりこれといった手がかりは見つけることができなかったのだが。
「この書庫に、災禍の赤月についての記述がある。そう、伯狼雹鬼は考えたらしいが……そんなもん、このわしも知らんわ。そもそも、ピク・ラティエや魔人王さまがそれらについて調べていたなど、初耳じゃからなぁ」
「プラティ老はアトランティスから出てこないからな。まさかとは思うが、プラティ老は災禍の赤月について知っているのか?」
それはないだろうと思いつつも、アンバランスは問いかける。
「多少は知っている。三つの世界を重ねて、魔力を奪う大規模儀式術式。それが発動することにより、封印大陸にて封じられている魔神ダークさまが封印から解き放たれるというが……そこから先は何が起きるか知らん。それに、あの儀式魔術を発動するためには、星全域を包み込む魔法陣が必要。それも20万単位の魔素を持つ媒体を魔法陣の核として必要とするし、その数も膨大」
「そりゃあ無理だな。そもそも裏地球には、そんな魔素を持つ存在はないだろう? 大気に含まれている魔素も少ないのだから……」
「そうじゃよ。だから、災禍の赤月なぞ発動するはずがない。災禍の赤月はこことは異なる遥かな異世界での出来事、物語の一つでしかない……そう、記憶の石板にも記されているからな」
記憶の石板。
それがなんであるのか、アンバランスは知らない。
「その記憶の石板というのはなんだ?」
「さあな。わしがアトランティスを発見したとき、その中心にあった光の塔の地下にあった、いわば聖遺物だが。求める知識がそこには存在しているが、より細かなものについては代償を要求してくる。災禍の赤月については、そもそも光の塔の書庫にあった手記で見たことがあったからおぼえていたまで、その実情などわしは詳しくはない」
「そうか。さて、話は変わるが……俺たちはここから出られるのか?」
アンバランスが問いかけると、プラティは黄金のどくろの顔でニィィィッと笑った。
「この術式を解除できるのは、おそらくはピク・ラティエ本人だけじゃろうなぁ。まあ、幸いなことに帝都市民も複合結界の中にいるから、ここが解除されるまでは休眠してもらうしかないというところだが」
「はぁ……折角、災禍の赤月についての情報を魔人王さまに届けられると思ったのだが……そもそも、我らがここで情報を持っていたことにより、裏地球が災禍の赤月によって滅んでしまったら……いや、その時はこの世界も全て消滅するのだぞ」
そう問いかけるアンバランス。
だが、プラティは人差し指を一本立てると一言。
「最後の鍵は、わしが持っている。じゃから、ここにわしがいる限り、災禍の赤月は完全発動はしない。不完全な発動をしたところで、望む結末を得ることなどできるはずがないからな」
その言葉で、アンバランスもほっとする。
しかし、この場所から解放されるのはいつのことだろうと、頭を抱えるしかなかった。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
・誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




