第四十一話・枕戈待旦、産むがやすし(三人目の覚醒と)
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先日。
築地祐太郎くんの自宅で、彼のお父様とお話ししました。
実際に会うのは3年ぶりぐらい、私の父と築地君のお父様、そして乙葉君のお父様は同じ小学校の腐れ縁だったそうです。
乙葉君のお父様とは高校卒業後に会えなくなったそうですが、わたしの父と築地君のお父様は、ずっと交友関係は維持していたそうです。
昔、まだ私が小さかったころ。
父と築地君のお父様、そして乙葉君のお父様は、こう約束したそうです。
『俺たちの子供同士で結婚してもらって、皆で楽しく生きようじゃないか‼︎』
事実上の婚約でした。
でも、実際に婚約者になるのは私たちが18歳になったとき。でも、それも私の父が他界したので、無効にするそうです。
そして、私たち4人の秘密、妖魔についての話も終わりました。
結論から言えば、私たちは好きにして良いと。
面倒事は、全て築地君のお父様が引き受けると。
それで皆、ホッとした顔に戻ります。
それまでは、何が起こるかわからなかったので私と新山さんは正直言いまして不安で仕方がなかったのです。
けれど、築地君がうまく話を誘導していたのと、乙葉君がまるでどこ吹く風のように話を聞いていたので、ああ、大丈夫なんだなぁと思いました。
そのあとは、のんびりと食事を楽しんで、自宅に戻ると、明日に備えて早めにベッドに入ることにしました。
…
……
あら、久しぶりね。
わたしは貴腐神ムーンライト。
どうやら、あなたも目覚める時が来たみたいだから、私の授けた加護を解放するわね……って、あら?
どうして、統合管理神オーニ・ソプターの加護の卵があるのかしら?
まあ、それは別に構わないけれど、雅、貴方は選択しなくてはならないわ。
1人の人間が受けられる加護は、原則一つだけ。
まあ、中には乙葉浩介っていう例外も存在するけれど、私は例外を許さないしオーニ・ソプターも許しはしないわ。
だから、選びなさい。
もしも、私の加護を得るのであれば、朝、目覚めたら私の名前を呼びなさい。
オーニ・ソプターの加護を得るのであれば、彼の名前を呼ぶこと。
正直言うと、私は、貴方の世界の管理神でしかないけれど、オーニソプターは世界を創造した神直属の、全ての世界の管理神の一柱。その力は絶大よ。
彼の力は、今後、貴方を助けてくれるはずだから。
……
…
──ガバッ
酷い汗。
なんで、今になって貴腐神ムーンライトの夢を見たのかしら。
でも、これって私に神託をくれたのよね?
私の中にある加護の卵、これが覚醒しない理由は、私の中にムーンライトの加護があったからなのね。そして、オーニ・ソプターは、私にとって力となってくれるのね。
魔導書を見た限り、私の得られる魔術はこの世界に存在する精霊を使役できるということ。いわば自然を支配できる。
今の私達にとって、これほど必要な力はないはず。
だけど、答えは決まっていますわ。
「私、瀬川雅は、貴腐神ムーンライトの加護を得ます。ありがとうオーニ・ソプター……でも、私の命は、ムーンライトに救われたようなものだから」
──キィィィィィン
私の中にあった、加護の卵が消滅する。
具現化していた眼鏡が消えて、そして私の手元には魔導書が姿を現した。
私が作った魔導書。
そう、今なら、この魔導書の真の名前が見える。
『私は貴腐神ムーンライト。求めなさい、叡智を』
お願いムーンライト。
私は戦う力ではなく、皆を知恵でサポートしたい。
ですので、叡智を、授けてください。
──シュゥゥゥゥ
静かに魔導書の名前が変化する。
そして、そこには、こう記されていた。
深淵の書庫と。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
最悪だ。
実に最悪な事態が発生している。
とりあえず、祐太郎と新山さんにはホームルームが終わってから話はしてある。
放課後、部室に行ってから改めて対策を練ることにしようという事で話し合いはついたので、放課後までは静かに授業を受けていた。
そして放課後。
……
…
「という事で、文学部の顧問が杉田先生と、新しくわが校にやってきた要先生になったのですけど‥‥」
部室に行ったら、すでに要先生が椅子に座って本を読んでいた。
どうやら瀬川先輩には昼休みにでも連絡が入っていたのだろう、普通に、きわめてスムーズに紹介されてしまいましたよ。
だから、コソコソと祐太郎とヒソヒソ話タイムでございます。
「はぁ‥‥どうするオトヤン」
「アアアアア‼︎ どうもこうもないわ。まだ俺たちのスキルや魔法がバレるのはまずい。いや、校外でならまだワンチャンあるけど、校内はまずい、まだ時期が早すぎる」
「そうだな、第六課が此処まで早く動くのは予想外だったけど、それなら何か対策を考えるとするか。新山さんもその方向で、後で先輩にも伝えておいて」
「はい、分かりました」
三人でコソコソと話をしていると怪しまれる恐れもあるので、あとは堂々と部活動に勤しむ事にした。
え?
日課の魔法訓練?
無理無理、そこまでタネを明かす気にはならないよ。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
『なるほど。では、顧問の要先生には注意しましょう。でも、そうなると、魔法の勉強会ができるのは学校が休みの時になりますね』
自宅に戻って瀬川先輩とlinesで連絡を取る。
兎にも角にも、第六課が堂々と動き始めたのは事実なら、こっちとしても何らかの対処を考えないとならない。
「『では、その方向でお願いします……』と、これでいいや。それじゃあ始めますか、本日のメインイベントを」
──ブゥン
カナン魔導商会をオープンすると、メニュー画面にある『提携店舗一覧』を見る。
今の俺たちに必要なのは何か。
俺が錬金術で魔導具を作るには、素材が必要。だけど、今のところはカナン魔導商会で購入できるものか、俺の錬金術スキルの『魔導化』で補える。
なので、冒険者ギルドに素材回収依頼を出す必要もない。
今持っている魔導具やカナン魔導商会の商品をこっちの世界で販売する気はないので、商業ギルドも必要ない。
そう考えると、選択肢は一つ。
俺だけならいざ知らず、この先は瀬川先輩と新山さんも巻き添えにしてしまう可能性がある。
祐太郎はまあ、逆に安心感がある。
なら、二人の身を守れるものを、それも、こっちの世界で使うために必要な『とんでも兵装』が欲しい。
「契約。乙葉浩介は、サイドチェスト鍛冶工房と提携する」
──キィィィィィン
画面が光ったと思うと、メニュー画面に新しく『サイドチェスト鍛冶工房へ』という項目が増えていた。
恐る恐る画面をタッチして切り替えると、そこには様々な武具項目が並んでいる。
「普段、普通に使うためのアイテム、アクセサリーはないか? あ〜、鍛冶屋だから無いわぁ」
流石にそこまで万能ではなかったか。
でも、色々な武器防具が並んでいるので、今日はここをのんびりと眺めている事にしよう。
一時間ほど見ていると、すでに夜も遅くなり始めたので晩飯やら日課やらを終えてベッドに入る。
「あ、要望欄があるじゃないですか……」
それならダメ元で、特注品が作れるか尋ねてみよう。
「普段はアクセサリーで、コマンドで全身装備になる防具。武器とワンセットで、現代兵器のいかなるものにも耐性があるもの。ステータス強化、対魔族兵装、ついでに空間収納もしくは収納バッグに収納可能で、そこから一発で装備できるもの……」
いやぁ、厨二病が再発したかと思うレベルで盛り込みましたなぁ。
これでどんなものが出来上がるのか、楽しみである。
まあ、カナン魔導商会のように、無理なら無理ですって連絡が来るだろうからなぁ。
それではお休み、グンナイ。
………
……
…
──何処かのサイドチェスト鍛冶工房
『ピッピッ……システムメール』
ん? なんだ?
そういえば、こんなシステムあったなぁ。
最近平和すぎて、すっかりウィンドウ開くの忘れていたわ。
………
『注文書
普段はアクセサリーで、コマンドで全身装備になる防具。武器とワンセットで、現代兵器のいかなるものにも耐性があるもの。ステータス強化、対魔族兵装、ついでに空間収納もしくは収納バッグに収納可能で、そこから一発で装備できるもの……』
………
はぁ。
なんだこりゃ? どこのドイツだジャーマンだ?
こんなとんでも面白兵装を頼む奴は?
誰がこんな注文を受けるかって……空間収納から一発装備? なんだ、あいつかよ。
はぁ、確か青生生魂が余っていたからなあ、これで作るか。
サイズは自動調整で、あいつしか使えないようにしないと面倒だよなぁ。
まあ、めんどくさいから『賢者専用装備』って事にしておくか。
普段の外見は、あいつの普段着でローブ仕様、コマンドでローブの中に封じてある強化外骨格を装着すると。
頭部兵装……多分、潜入工作に使う装備だよな?
そうじゃないと普段使いのやつで十分だし、対魔族兵装ってことは魔界にでもいくんだろうなぁ。
顔がバレないようにすればいいか。
フルフェイスで、オープン時にも認識阻害術式を組み込んで。
まあ、一週間もあれば作れるか。
さて、二人とも、ちょいと手を貸してくれ、あいつの悪い癖が出たからな。
………
……
…
実に快眠である。
どれぐらい快眠かと言うと、天井をフヨフヨとフローターが浮かんでいて俺を狙ってくるレベルで快眠。
「いやいや、なんで家の中まで入ってくるかなぁ、しっしっ」
右手に魔力を集めて、シッシッと手で払うようにする。それに気づいたのか、フローターはス〜ッと壁の外に飛んでいく。
「あ、そういえば、魔除のネックレスつけてなかったわ。まあ、フローターぐらいなら別に構わないけどなぁ。どうせHP1しか吸わないし」
そんなことを呟きつつ、カナン魔導商会を確認する。
『ピッ……注文を受け付けました。代金は『特選シーフードカレー』を大寸胴一つ、『ドラゴンシチュー』を大寸胴一つです。完成は一週間後、代金と引き換えになります』
ん?
俺の厨二病が火を吹いたのか?
それはいい、いや良くないんだけれど、一週間後には、異世界の鍛冶屋の装備が手に入るのかぁ。
上等、覚悟完了だ。
どんなデザインかなぁ、強化外骨格なら良いなぁ、エクゾ・スケルトン零改とかかっこいいよなぁ。
「瞬着‼︎ 乙葉浩介・零式‼︎ とか叫んでさ、くぅぅぅ、かっこいいなぁ……学校行く準備しよっと」
いかんいかん、厨二病が再発する。
どうせなら、みんなの分も作ってあげたいよね。予算ならそこそこに……カレーとシチュー?
え?
どういう事?
もう一度、注文書を支払いシステムを確認する。
あ、なるほど、支払い窓口は別だけどもカナン魔導商会のチャージからも支払いは可能と。
支払いについては、指定があった場合はサイドチェスト鍛冶工房、面倒だからチェスト工房でいいや、そこに直接なんだ。
「カレーとシチュー……俺が作るの? 変なもの作ったら返品されない? これ拙くない?」
やばい、なんだか変な汗が出てくる。
兎に角、今日は瀬川先輩と新山さんにも相談しよう。
二人とも女子力高いからカレーやシチューぐらいは一発だよね?
そのまま登校の準備をして、こっそりと家を出る。
ゴーグルでは、常に『第六課』を追跡するように設定してあるから問題はない。
「でも、見えないようにはしてあるけれど、触れるとバレるんだよなぁ。これも改良しないとならないか……はぁ、やることが多すぎて、楽しくなってくるわ」
まずは登校。
そして支払いについての相談と、可能ならみんなの装備も注文しよう。
今後は、姿を隠してオープンな活動を目指したいからね。
まるで、スーパーヒーローだよ。
だけどだ、め、じゃーないよ‼︎
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。