第407話・温故知新、求めよさらば与えられん?(突撃、魔族の歴代書庫)
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ガラガラガラガラ。
六本足の馬が引く馬車に揺られ、築地たちは魔大陸王都に到着。
そのまままっすぐに中央街道を抜け、王都南方の巨大な王城へとたどり着いた。
中世というよりも近代ヨーロッパ、機械仕掛けの道具こそ目に映らないものの、それに類似する魔導具はあちこちで見受けられる。
整頓された街並み、ゆるやかな弧を描くように伸びる街道。
都市内部もいくつもの城壁によって区分されており、侵入者がまっすぐに王城へとたどり着くのを防いでいる。
「ふぅん。敵の王都侵攻にも備えてあるっていう感じだが」
「築地の言葉に間違いはないな。この第5城塞はかつて、蛮族の侵攻を阻んだ鉄壁の城塞。当時はここが王都の外縁部であったのじゃが、長い年月の間に多くの人々が集い、町を大きくし、そして城塞が次々と追加されていったのじゃよ」
「蛮族? この地にも蛮族がやって来たというのか?」
「ん~、まあ、蛮族というか、神兵といった方がよいか。我らが神である魔神ダークが暴走し、すべての神々へ喧嘩を売った時代。魔族は魔人の加護を受けて神々との戦争に加担したのじゃ。まだ、我らが築地たちと同じように肉体を持っていた時代じの話じゃな」
淡々と説明する白桃姫。
その一語一句を忘れないようにと、瀬川はモノクル型深淵の書庫を起動して今の会話を保存していた。
そして築地と新山の二人も、手元にメモを取り出して要点を次々とまとめていく。
「その、神々との戦争って、どれぐらい昔なのですか?」
「さあなぁ……妾がまだ生まれる前、初代ラティエがまだ存命だった時代じゃから……何千年昔なのか、さっぱり分からんわ。当時の記録など残っておらぬし、それを口伝として伝える魔皇も殆どおらぬからな……知っているとなると、羅刹とかその階位の魔族ぐらいじゃわ」
「羅刹ってことは、綾女ねーさんか。彼女はそんなに古い魔族だったのか」
「始原の魔族の一人じゃからなぁ……魔皇化しておらぬのが不思議なぐらいの存在じゃよ。それに、乙葉の母親も、始原の魔族じゃ。そもそもあの二人は、魔神の眷属じゃったし、力を取り戻せば魔神級の力を呼び起こすことができると思うぞ」
三人はまさか、始原の魔族の話から乙葉の母親のことにまで話が飛躍するとは思ってもいなかった。
「ということは、オトヤンの力って母親譲りなのか?」
「それも全て失われておるわ……」
そう呟いて、白桃姫はチラリと新山を見る。
彼が母親から受け継いだ力、それは妹である『ミラージュ』にも受け継がれている。
もっとも、浩介はその力の大半を小春の蘇生時にすべて失い、今ではどれだけ残っているのか分からない。
また、ミラージュもその力の制御方法を理解しておらず、いまだ母親の能力をつかすこなすことはできないという。
「ということは、妹さんだけが力を継承しているっていうことか。まあ、今はその話は必要ないから、ほかにいい情報はないか?」
「うーむ。まあ、まずは帝城ドミニオンに到着してからじゃな。ほら、見えてきたぞ?」
「帝城?」
「王城、ではないの?」
「小春や、わが国は王国ではなく帝国。正式名称はメルキド帝国じゃよ、だから帝城でまちがいはないぞ?」
その説明を受けて、三人は目を丸くする。
「そ、そういえば、私たちはこの魔族の大陸について何も知りませんわ」
「すまん白桃姫、そのあたりから説明を頼んでいいか?」
「……そもそも、私たちはここに来るのは二度目です。魔人王就任の時以来、ここに来ることはありませんでしたから」
「そうじゃな。まあ、帝城に入れば雅が主人じゃ、好き勝手していても問題はないぞ」
「しませんから!!」
カンラカンラと笑う白桃姫に、瀬川もやや膨れた顔で抗議する。
そして馬車が静かに帝城正門の中へ入ると、ゆっくりと門は閉じていった。
〇 〇 〇 〇 〇
四人が帝城へと入ってから。
すぐさま帝城に滞在している十二魔将たちに連れられて、瀬川は魔人王・雅として玉座の間へ。
築地たちも四天王としてそのまま付き従う形で同行すると、半日ほど帝都ブラウバニアに滞在している諸侯たちとの謁見を行う。
そののち、財務卿および軍務卿から魔人王の留守の間の報告などが行われ、夜には貴族たちが集まって晩餐会が繰り広げられる。
調べ物をするためにやって来ているため、財務卿の報告から先は築地と新山は帝城の歴代書庫へと移動、そこで文献の調査などを開始する。
「……本当なら、先輩の深淵の書庫で全て調べてもらうところですけれど……さすがに無理ですよねぇ」
「まったくだよ。多少の騒ぎになるとは予想していたけれど、ここまでのこととは思っていなかったな……」
「今頃、乙葉くんも色々と調査しているだろうなぁ……」
「まあ、オトヤンなら無事だろうさ。とっとと調べ終わって、俺たちが戻るころには地球でのんびりとしているんじゃないのか?」
それならそれで、会えない時間が寂しい小春だが。
彼が頑張っているのだから、私も頑張らないとと気合一閃、書庫に並ぶ書物を一つ一つ調べ始める。
「……へぇ、こいつはこの世界の神話か……と、ここには何かヒントがあるかもな」
「それは、どんなことが書いてありますか?」
「まあ、簡単に説明するとだな……」
………
……
…
その問いかけに、築地はこの世界の神話について説明を始める。
この鏡刻界は、創造神が作りし世界の一つである『ネイルアース』世界に存在する、二つの世界のうちの一つ。
裏地球と呼ばれている築地たちの世界とは表裏一体であり、その存在は表と裏、月と太陽、光と闇のように表現されている。
二つの宇宙が鏡合わせに存在するのが、このネイルアース。
それ以外に、ネイルアースにはいくつもの大陸世界が浮かんでいる。
それが、乙葉と築地がたどり着いた『封印大陸』であり、神々の住まう大地である。
そもそも、封印大陸は神々の住まう『神界』であり、神とその眷属以外の出入りは禁止されている。
その目的は、封印大陸中心、神々の祭壇に収められている『創世のオーブ』を手に入れること。
創世のオーブは、世界そのものを自在に作り替える力を持ち、創造神および統合管理神からこの世界を管理するために授かったもの。
それを手にすることで、このネイルアースすべてを手に入れることができるため、魔神ダークは他の神々に対して戦争を行ったという。
封印大地に住む眷属たち、通称・神人と呼ばれるものは戦神の加護を受けて神兵となり、同じように魔神ダークの加護を受けた魔族の兵士・魔神兵との全面戦争に突入。
だが、その戦争のさなか、神々が力を合わせた封印術式により魔神ダークが封印され、戦争は終結した。
魔神兵、つまり魔族は魔神ダークに与していたということで肉体を奪われ精神生命体となり、鏡刻界の『ウィルスプ大陸』に封じ込められたという。
そののち、長い年月の間に魔族はかりそめの肉体を作り出すことに成功。
実は、肉体を奪われ負の感情の塊となった魔族を救うべく、『大地母神』が彼らに『受肉の儀式』を授けたという……。
その後、魔族はウィルスプ大陸にて繁栄を始め、現在に至ったという。
未だウィルスプ大陸は神威期の結界にとらわれており、肉体を持たないものはそこの結界を出入りすることがかなわないという……。
………
……
…
「この本には、『災禍の赤月』についての記述はない。だから、俺たちの世界にある二つの世界……と、なんだか言いずらいな。ネイルアースの二つの世界と、もう一つの世界、その三つがないと月は重ならないんだよ」
「その三つ目の世界とは、どこにあるのでしょうか……」
「今のところ不明。だから、このあたりのことについて重点的に調べたほうがいいと思う。歴史とかそのあたりは、この本に大体網羅されていたから、あとで先輩の深淵の書庫に取り込んでもらうことにしよう」
「当面の調査目的は災禍の赤月」についての記述、三つ目の世界、この二点に絞ればいいのですね?」
「そういうこと、さ、とっとと終わらせて先輩を開放してもらうことにしよう」
そのまま二人は、晩餐会が始まるまで書庫に手調査を続けるのだが、初日は残念ながらこれ以上の知識を得ることができなかった。
幸いなことに、明日は魔人王がやらなくてはならない公務は他の魔将に頼むことができたため、ようやく調査チームに瀬川も合流することになった……。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
・誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




