第四百五話・(異世界への扉とチャレンジャー)
『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週火曜日と金曜日を目安に頑張っています。
天羽総理が異世界から戻って来た翌日。
築地祐太郎、新山小春、白桃姫、瀬川雅の四人は、異世界鏡刻界への魔大陸に向かい、魔王城にある書庫で【災禍の赤月】に関する情報を調べることにした。
そのため、朝一番で妖魔特区の水晶柱の前に集まることにしたのであるが、どこからどう情報が流れたのか知らないが、水晶柱の前には様々な人たちが待機していた。
これが内閣府退魔機関第6課とか、築地たちを知っている人たちの見送りだったらまだ納得ができていたものの、まったくといって関係ない『報道各局』とか『政府関係者』『特戦自衛隊幹部』『諸外国大使館職員
』といった面々が、あたかも自分たちも同行するかの如く大量の荷物を手に集まっているのである。
「……それで、ここに集まっている輩は、どういう理由で集まっているのじゃ? まさかとは思うが、妾たちに同行しようとか考えてはいないじゃろうな?」
白桃姫がそう問いかけると、集まっている連中を取り仕切っていたと思われる人物が、スッと手を上げて前に出てきた。
「初めまして。日本政府、対妖魔委員会から派遣されてきました本郷篠芽と申します。この度、築地祐太郎さんたちが異世界へ調査に赴くと聞きまして、対妖魔委員会も同行させていただきたく参りました」
名刺を取り出して差し出しつつ説明する本郷。
だが、白桃姫はその名刺を受け取ると、フムと軽く目を通してからぽいっと投げ捨てた。
「そうかそうか、それは無駄足ご苦労じゃったな。では、好きについてくるがよいそ」
「「「えええ!!」」」
まさかの返事に築地たちも驚く。
「ちょ、ちょっと待ってくれ、こいつらの安全なんて俺たちは一切保証しないぞ? 普通の人間なんて、あの世界にいったらゴミのようなものじゃないか。自衛する手段もない、日本の法律も通用しないんだぞ」
「安全保障条約も締結されていませんので、向こうで殺されても自業自得。国によっては奴隷として攫われて売り飛ばされるのがオチでしょうけれど……まあ、それも覚悟というのであれば、それは仕方がないことですわね」
「……うわぁ……」
築地と瀬川の言葉で、その場に集まっている人たちからざわめきが起こる。
「そ、それは確かに危険ですわ。それなら、私たちは貴方たちに同行して、できる限り安全な場所で待機しているということで」
「へ? 俺たちは魔人王の居城にいくんだけど? 皆さんは招待状は持っていますか? 一国の国家元首自らの招待状、それも個人宛てのものだから口利きも難しいんじゃないかなぁ」
「そ、そのようなものが……いえ、そこをどうにかお願いできませんか?」
「あの、日本では、ローマ法王が個人宛てに送った招待状を見て、そこに俺もいかせろとねじ込んでくる無頼漢しかいないと思われたいと? そもそも招待もされていない人のために、国がどうこうしてくれると思っていること自体間違っていますよね?」
さすがに二人の言葉で、周りは沈黙してしまう。
ただ、それでも報道陣からは『報道の権利って、異世界で使えるのか?』とか『真実を報道するためには犠牲が……でも……』といった言葉が聞こえてくる。
「まあ、そもそも魔族にとっておぬしら人間がどのような存在であるのか、それを身をもって知るいい機会じゃなかろうか? こっちの世界では共存共栄のために動いている魔族は大勢いるが、そもそも鏡刻界の魔族にとっては、依然として人間は芳醇濃厚な生気の塊であることを理解するがよいぞ……と、では、ターミナルを開放するぞ。指定座標は水晶の森、そこからのんびりと歩いて首都まで向かい、あとは街並みを散策しながら王城へ参ろうぞ」
――フゥゥゥン
白桃姫が水晶柱に触れる。
するといつもよりも大きな扉が浮かび上がり、そして静かに開いていった。
ただ違うのは、扉の向こうには水晶の森の風景は見えていない。
ただ真っ暗な空間のみが広がっている。
「あれ……と、ああ、なるほど」
「では、新山さん参りましょうか?」
「はい、先輩」
まず築地がなにも動じることなく足を踏み込む。
すると一瞬で姿が消えたため、見ていたギャラリーたちはざわざわと騒ぎ始める。
そこに何も臆することなく瀬川と新山が入っていき消えたので、『安全なのか?』『いけそうだよな』
といった声まで聞こえてくる。
「あ、あのですね、彼らは本当は鏡刻界に向かったのですか? それも魔族の跳梁跋扈する危険な土地へ」
「失礼なやつじゃな。妾の住む国にもしっかりと法律は存在するわ。都市の治安維持を行う騎士団もあれば、様々な商売を行っているものたちもいる。こっちの世界でいうところのメイジとかタイショウといった元号の時代とそんなに違わんぞ」
「それなら安全ですか」
「まあ、そうじゃな。ただ、さっき話した注意事項さえ守れば、別に行っても構わんのではないか? そうそう、時折こっちの世界の人間が迷い込むことがあるが、運が良ければ貴族の慰み者として保護されたり、実験素材として捕まえられることもあるからな」
ニイッと笑いつつ説明する白桃姫。
「え、運が良ければ? ですか? 運が悪かったらではなくて?」
「阿呆が、運が悪ければその場で骨までむさぼりつくされて終わるか、それこそ予期せぬ出来事に巻き込まれるだけじゃからな……だから最後の忠告じゃ、ここを進むものは全て自己責任、それを心に命じて進むが良いぞ……と、ここの会話は全て、『音響鬼』によって録画録音とやらがなされているので、あとからごちゃごちゃいっても無駄じゃからな」
――ゴクッ
今の白桃姫の言葉に返事するかのように息を呑む音が聞こえてくる。
「では、妾は先に進むぞ、あと10分ほどはこのターミナルは開き続けるから、覚悟を決めたものだけ入るがよい……と、そうそう、ターミナルはきまぐゆえ無事に鏡刻界のたどり着けるかどうか、そこが第一試練と思うがよいぞ」
「ま、待ってください、今の発言、無事にたどり着けるかどうかって」
「あでぃおす、あすたれいごじゃ」
手をひらひらと振りつつ、白桃姫がターミナルに躍り込む。
そしてスッ、と姿が消えていくのを見て、またギャラリーと化した人たちは話し合いを始めるのであった。
………
……
…
――鏡刻界魔大陸・水晶の森
無事にターミナルを通過してやってくる築地たち。
先に入った三人は、その場で周囲の警戒をしつつ白桃姫を待つ。
やがて5分ほどして、白桃姫がこの上ない笑顔でターミナルから出てくるのを見てがっくりと肩を落とした。
「はあ、また向こうでなにかやらかしたのか」
「何をいうか。今回の妾はとてもやさしいぞよ、入るときの注意事項を全て説明して、そのうえで入るなら自己責任でと釘もさしておいたぞ。いつもなら乙葉や築地がむりやり突入して強制的に転移門を閉じたりしているじゃろ? あれは効果がないぞ」
「え、そうなのか?」
白桃姫の説明に、築地と新山は理解できない顔。
だが、瀬川はすぐに意味を察した。
「北風と太陽……のようなものかしら?」
「正解じゃ。といいたいところじゃが、しっかりと自己責任ということを念頭に説明し、しかも録音録画までして言質というのもとってある。あとは何か不都合があっても奴らの責任じゃよ。あそこまで説明して、ライオンが闊歩しているサファリパークの中を全裸であるく阿呆はおるまい」
そう呟いてから、白桃姫は目の前の小さな水晶の木を眺めている。
そこがターミナルの接続した場所である、水晶柱の苗木のようなもの。
「しっかし、これがターミナルの接続先とは。水晶柱ではないんだな」
「ええ。私も転移門のようなものが作られているのかと思ったのですけれど、この、私より少し大きいだけの木とは思っていませんでしたわ」
「まあ、ラナパーナの女王が水晶柱によるターミナルを創った時、空間魔法との干渉率が最も安定しているこの木を媒体としたのが始まりじゃからな。ゆえに、この鏡刻界での水晶柱消失事件後も、この場所だけは唯一ターミナルを繋げることができる。まあ、あっちとこっちなので妾にしかできぬがな」
その説明ののち、瀬川が銀の鍵を取り出す。
「この、乙葉君が作った鍵では、ここに来ることはできないのですか?」
「いや、覚えさせるとよい。その鍵の術式は理解しておるゆえ、そこの苗木のもとにある黒い空間に差し込んでから、引っこ抜けば覚えるぞ。そっちの世界でいう『座標を認識』させるという技じゃからな」
「そんなのゲームの世界だけだよ……と、これでいいのか」
三人がそれぞれ鍵を取り出し、座標を教え込む。
すると鍵が少しだけ輝き、この場所を記憶した。
「まあ、ここにくるような用事なぞそうそうないじゃろうからなぁ……と、どうやら迎えの者たちがきたぞ」
「迎えのもの……ですか」
「うむ」
そう頷く白桃姫。
そして森の中にある小さな小道を、数人の魔族が歩いてくる。
「忘れたのか? そなたの十二魔将じゃよ。この地にて魔王国を管理運営している者たちじゃ。ということで、そろそろ妾たちもむかうとするか」
「ということでよろしいですか、我らが主よ」
「冗談でもやめてくださいね、築地君」
――ザワッ
そう笑顔で呟く瀬川だが。
築地は一瞬、背筋に冷たいものを感じ取っていた。
「あ、はい、さーせん」
「では、行きましょうか」
「「はい」」
先に進む白桃姫に遅れないようにと、築地たちは急ぎ足で追いかけていった。
そして到着していた馬車にのると、そのまま王都への短い旅を堪能することにした。
〇 〇 〇 〇 〇
――地球・妖魔特区
白桃姫がターミナルに入ってから。
「よ、よし、それではいって参ります」
とある報道局のADが覚悟を決め、荷物を背負って歩き出す。
ハンディカメラのスイッチを入れて録画状態になることを確認すると、そのまま意を決して黒い空間へと飛び込んでいった。
「待って、先に特戦自衛隊に入って貰い安全を確認してから……」
そう叫ぶ本郷だが、一人目の報道関係者の突入を期に、他局の関係者も遅れをとるものかとターミナルに殺到。収拾が付かなくなりそうになったため、急遽特戦自衛隊が強制介入してターミナルの前に回り込んだ時。
――スッ
ターミナルが消滅した。
「き、消えただと」
「ちょっと待ってくれ、帰ってくるときはどうするつもりだったんだ」
「ちゃんと築地たちに合流できるのか? 帰ってこれるのかよ」
「だから早く、異世界との国交を締結して恒常型ターミナルを設置しろとあれほど……」
おのおの無責任な発言をする報道関係者。
その姿を見ていた政府関係者と諸外国大使館職員たちは、冷静にため息をつくだけであったという。
………
……
…
――?
「よっしゃぁぁぁ、一般人の異世界突入第一号だぁぁぁ」
一番最初に突入したADは、感極まってそう叫ぶ。
今、彼の目の前に広がっているのは広大な砂漠と、大量のテント。
そして、自分が出てきた水晶柱に接続されている様々な計器と、銃を構えた女。
「はーい。あなたがどこから来たのか、どうやってここに来たのか説明してもらえますか? 私はヘキサグラム魔導セクション所属、閃光のキャサリンです」
元機械化兵士であり、現在は魔導セクションに所属しているキャサリン。
所属担当区域はアメリカのメサ・ターミナル。
かつて乙葉浩介たちがエルフの少女を助けるために、ターミナルを経由してやってきた土地。
「え、英語でパッキンのお姉さん? ここは? 異世界じゃなくメサ……アメリカ?」
「いえーす。日本政府発行の魔導師証明はありますか? 無ければ密入国で拘束しまーす」
「ええっと……俺は北海道のテレビ局の……電話していいですか?」
「場所を変えてから、お願いしまーす。確保!!」
そのまま当局に連行されるAD。
そしてこの日、同じように世界各地の水晶柱から日本の報道関係者が姿を現し、拘束されたという。
白桃姫の作り出した新しい空間転移術式は、保有魔力値50以下のものは容赦なく地球各地に存在する水晶柱のターミナルへと強制送還したという。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
・誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




