第四百二話・一蓮托生、風が吹けば桶屋が儲かる?(実験終了、得たものと失ったもの)
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て、貞操は守り切った。
卿は朝から、グノーシスの連中からの依頼で追加の検査を行った。
午前中は検査用魔導具を用いてさらに細かい検査だったが、特に俺に対して害をなすような事はないと天啓眼で確認できたので、大人しく検査を受けた。
そして昼を挟んでこれからは、三つの術式の発動実験。
場所は防衛庁敷地内にある『特殊兵装実験棟』。
グノーシスの実験なのだけど、専用の施設を使うことを条件に出した結果、妖魔調査室と合同での発動実験となった。
案内された場所は、体育館のような広い施設。
いくつものカメラやセンサーが並び、その真ん中で俺はインカムを装着して指示を待つ。
──ピッ
やがて全ての出入り口がロックされ、実験開始となったんだが。
『それでは、一つ目の術式を発動してくれるか?』
「一つ目……と、ああ、退魔兵装のやつか」
昨日の夜に全ての術式の解析は終えている。
だからイメージもしっかりと頭の中にある。
──シュンッ
無詠唱、魔導具なして退魔兵装術式を発動。
俺の右肩のあたりに、巨大な銃器が浮かび上がる。
『ま、待て、それはなんだ?』
「何って、退魔兵装の術式ですよ。俺は本体である銃火器を持っていないので魔力を練り上げて具現化し、こんな感じに見えるように作り上げただけですけれど?」
『非常識だろ!!』
そんなの知らんわ。
武具に付与する対妖魔用の術式を発動しろと話したのはそっちなんだからな。
ほら、俺の肩の上に浮かぶ『6砲身ガトリング式回転式キャノン砲』を。
弾倉は俺の体に直結、そこに魔力を送り込んで術式弾を形成する代物だぞ?
「それで、次の術式の発動実験に移っていいのか? 約束通り、術式の発動はできたんだが」
『今から専用装備を運び込ませるから、そこに術式を組み込んでもらえるか?』
「嫌ですよ。それって、こっちの世界の装備を強化するって言う事ですよね? 俺は俺の持つ魔術の解析については許可しましたけれど、装備強化や開発の手伝いをするとは一言も話していませんよ?」
『……』
うん、黙りこくったな。
俺を好き勝手にできると思われても癪なのでね。
「それじゃあ、これは解除しますね」
『ま,待ってくれ、その退魔兵装の威力を確認したい。今から試験用装甲板を運び込むので、それに向かって攻撃をしてくれないか?』
「その程度なら構いませんよ」
すぐさま施設内に分厚い装甲板が運び込まれてくる。
『ピッ……有機装甲、魔獣の攻殻から削り出した装甲材であり、魔力を流し込むことにより強度と柔軟性を自由に変化できる』
おお?
天啓眼よありがとう。
こんな素材があるとは思わなかったよ。
これ、もっと細かく解析して、俺たちの世界でも似たようなものがないか探してみたくなるやつだよなぁ。
『それでは、そのターゲットに向かって攻撃を行ってください。手加減は必要ありませんので』
「……ん?」
攻撃許可はでたけれど、ターゲットに魔力を込める様子もない。
こんなの、素材強度のみしか無いんじゃないか? 魔力を循環させてこその生体装甲だよな?
「あの、まだターゲットに魔力循環が行われていませんが。この程度なら、普段の俺の魔術で十分な対処で来ますよ?」
『試験用装甲板に魔力など循環できるはずがないだろうが。エイレアン魔導装甲のことを指しているのなら、そのような希少な魔導金属を試験に使えるはずがないだろう?』
「ん? 魔力循環が出来ないのかよ。そんなの、擬似魔導回路を術式付与すれば簡単じゃないのか? 俺たちが結界を越えるときに乗っている駆逐艦があったよな? あの表面装甲にも魔力が流れていたじゃないか?」
どうにもこうにも、魔術に関する知識というか、応用力が偏り過ぎているように感じる。
対妖魔兵装や結界兵器については目を見張るものがある一方、この手の基礎理論についてはあまりにも稚拙に感じてしまう。
『あの装甲素材には、元々付与魔術師による強度上昇及び妖気遮断術式が付与されている。魔力は循環していない。それよりも、早く攻撃を開始したまえ』
「……付与魔術師がいるのかぁ。なるほど、それなら理屈は分かるわ」
とりあえず、速攻で終わらせるために魔導兵装術式に魔力を注ぐ。
俺の場合、増幅の指輪のおかげで125倍までの余剰魔力を注ぎ込むことができる……んだけど。
魔導体術やら神威制御やらを身につけた今は、この指輪は『増幅』じゃなく『制御』の役割になっている。
余剰魔力を『125倍まで使える』んじゃなく、『125倍までしか使えない』という枷になっている。
おかげさまで、変な暴走をすることがなくなったし。
必要ならば指輪を外せば、かなりの増幅が見込めるんだよ、制御できるか自信がないからやらないけれどな。
──BROOOOOOOOOM
俺が右手を試験用装甲板に向かって向けて指を鳴らした刹那。
6砲身ガトリング式回転式キャノン砲が火を噴いた。
僅か数秒で試験用装甲板は砕け散り、その先の壁を破壊する。
「ストップ!」
──ガシュゥゥゥッ
六連装バレルの回転が止まり、高濃度圧縮された魔力の残滓が紫煙のようにノズルからたなびく。
うん、やり過ぎたよな。
「こんな感じですが、どうでしょうか?」
『……一つ聞きたい。私が手渡した術式を実践しただけなのか? なにか細工をしたとか?』
「いえ、普通に発動しただけですが?」
手を入れて良いのなら、幾らでも改良できるが?
それだとテストにならんからそのまま試したんだけど?
『素晴らしい!! その火力があれば北部結界内部の制圧も可能だ。是非ともその力を、我々に』
「それはそっちの都合なので、そっちで勝手にどうぞ。あえて言うのなら、まだかなりの改良点がありますので」
『し、しかし、我々の魔力ではそこまでの術式を発動することができず。そもそも武器に刻み込む術式を、単体で発動して具現化するなど前代未聞なのです。だから、そこも踏まえての術式の調査を依頼したい』
「だからお断りしますって。次の術式の発動チェックをしますので、いいですね?」
『う……ううむ……』
誰が何と言おうとだめなものはダメ。
さあ、とっとと次の術式のチェックを始めますよ。
………
……
…
――そして、夜8時
残り二つの術式の発動チェックも完了。
陰陽師が使用できる上位術式の一つ、式神召喚については契約した式神を召喚するための術式であることが理解できた。これは魔族と契約を行うことで使えるようになるのが理解できたのだが、それとは別に俺はあるものを召喚することに成功。
「ふぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ。我、長き時を超えて復活」
俺の目の前には、黒いローブを纏い、長いひげを蓄えた老人が立っている。
そう。
契約した式神の代わりに、魔皇紋から魔皇が召喚できました、てへぺろ。
「ええっと、俺の中の魔皇というと、鉄幹拳士さん?」
「否。我はヘルメス・トリスメギストス。始原の魔皇の一人で……と、忘れたのか?」
「あ、あ……あ~、錬金術の始祖たる魔皇で、俺の魔人王側近モードの魔皇紋だ、そうだそうだ。本日はご苦労様です」
そうそう、俺が魔人王側近モードの時に力を貸してくた魔皇さんだよ。
ワイルドカードには鉄幹さんが入ってコントロールしてくれているので、すっかり忘れていたよ。
「……まあ、今の式神召喚とやらを使えば、わしを呼び出せるようになったようじゃからな。では、また会おうぞ」
「うっす」
――スーッ
それだけを告げて、ヘルメス老人は姿を消した。
この術式、俺が使ってもかなり消耗するんだけど。
神威がみるみる削れていくんだけどさ。
そして、俺が式神召喚に成功した時点でオペレーター室で待機していた研究員たちも言葉を失っていたらしい。
なによりも、最後の術式実験で発動させた『人工大規模浄化術式』で、監視していたグノーシスの兵士数名と研究員が二人、浄化されて消滅したらしい。
組織の内部にまで妖魔の手が侵食しているという事実に、マイスターをはじめグノーシス関係者たちは頭を抱える事態に突入。
そのまま本日の検査は終わり、グノーシスは緊急事態ということで対策に追われることになったとか。
なにはともあれ、俺の手伝いもこれで終わったので、ようやく細かい調査を続行できるようになったよ。
めでたしめでたし。
やうやくスタートラインかよ!!
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
・誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




