第四百話・(三竦みの攻防と、一方的な強者)
『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週火曜日と金曜日を目安に頑張っています。
日本帝国帝都・内閣府妖魔調査室。
日本帝国政府による、公式な対妖魔機関。
元々は民間組織であったグノーシスとは同等の権利を持つものの、対妖魔調査室は日本国民を守るための機関であり、主に妖魔関係を殲滅するために存在するグノーシスとは目的及び存在意義が異なる。
そもそも、グノーシスが日本帝国政府に対して『対妖魔兵装』を提供し始めたのが組織の設立のきっかけであり、以後はグノーシスから対妖魔兵装を提供されている。
だが、今から54年前、対妖魔兵装の独自開発に成功してからは、大規模結界発生装置を始めとした『守護兵装』と呼ばれるものを製造し、国内に配備を行っている。
だが、攻撃については未だ、グノーシスからの兵器提供に頼るしかなかったのだが。
乙葉浩介という存在が、そのバランスを大きく傾けたのである。
──内閣府妖魔調査室
大型モニターや各種計測機の並ぶ室内。
そこを訪れた麻生は、観測員たちの様子を確認したのち、敢えて問いかけた。
「……乙葉浩介の様子は?」
「今は部屋で寛いでいます。それと、敷地内にグノーシスの特殊部隊が展開していますが、どのように対処しますか?」
「上に連絡をしておけばいい。乙葉浩介に手を出すのなら、こちらとしても実力行使に出る可能性があるとでも伝えておけ」
グノーシスと妖魔調査室のバランスは、まさに『矛と盾』のような状況。
お互いを監視し合いつつ、対妖魔戦においては協調し手を組む。
だが、今回の件についてはお互いの主義主張がズレている。
・乙葉浩介から魔術の真髄を授けてもらう
・乙葉浩介を研究し、必要ならば洗脳し解体してでも魔術の真髄を得る
あくまでも受け身である妖魔調査室に対して、グノーシスは洗脳や解体による研究もやむなしと考えている。
それ故に、今のこの現状は綱渡りのような際どいラインを進んでいるようなもの。
──ピッピッピッ
室内のアラートランプが光り、警告音が響く。
「何があった!!」
「乙葉浩介の姿が消失しました。廊下や外に出た形跡もありません、グノーシスの干渉については現在調査中です」
「室内の映像を出せるか!! 監視用魔導具は設置してあったはずだろう?」
万が一の為に、VIP用の部屋には監視用魔導具が設置されている。
それは必要に応じて室内からオンオフができるようになっているものの、緊急時には自動的に作動して室内を監視するようになっている。
これは要人警護のために認められている措置であり、海外の要人が日本で妖魔に襲われるなどということがないようにという配慮である。
「はい、緊急モードで再生します」
大急ぎで室内を映し出す。
すると、そこには何もない空間から呪符を取り出し、姿を消した乙葉浩介の姿があった。
「魔力測定は?」
「フラット……彼からは魔力を感じませんでした。恐らくは呪符師型の魔導具ではなかろうかと」
「転移か、もしくは空間超越か。上級妖魔でも、そんな能力を持ち合わせたものは聞いたことがないぞ?」
冷静に呟く麻生。
だが、要警護対象者が消滅したとなると、こちらとしては手も足も出せない。
「周辺の調査、及び乙葉浩介の魔力帯をサーチ……室内はそのままで、また戻ってくる可能性がある」
秘書官から、乙葉浩介が国立国会図書館で姿を消した件について報告を受けていなかったら、恐らくは全力で外の調査のみに集中していただろう。
それ故の指示。
そして麻生の言葉でその場の全員が冷静さを取り戻す。
「了解です。サーチ範囲の拡大を行います。同時に、室内の監視魔導具をアクティブモードに移行」
次々とコンソールに指を走らせる監視員たち。
その様子を、麻生は静かに見守っていた。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
──空間結界内
腹も膨れ風呂を堪能したので、あとはのんびりと体を休めたかったんだが。
室内の監視魔導具、室外の警備員だけじゃなく、窓の外に不穏等な気配を感じたので空間結界呪符師で位相空間に逃げましたが。
「はぁ……監視されているのは理解できるけど、何処かしこに監視員やらカメラやらあるのはどうよ? それだけじゃなく特殊部隊のような奴らが、部屋の外で待機しているのもおかしくないか? 連携取れているのか?」
内閣府の妖魔調査室と、対妖魔機関グノーシスが対立しているという話は聞いた。
まあ、技術提供やら情報共有とかで手を組んでいるというのも事実らしいから、お互いにwin-winな関係なのだろうと理解もした。
だけど、外から感じられる殺気のようなものは、明らかに俺を狙っているのが判る。
「はぁ……ここにいても安全というわけじゃないのは理解できたよ。身を護るのに他人任せにしてはいけないっていうこともな」
――シュッン
空間収納から結界呪符を取り出して発動。
一瞬で俺は位相空間に放り込まれたんだけれど、部屋全体を複製しているからベッドに腰かけたままのスタイルになっている。
「まあ、まだ眠るには早いし、少しでも情報を探すことにするか」
収納の魔導書を取り出し、そこから気になる本を取り出す。
ここは位相空間内なので、収納の魔導書に収められているものは取り出し自由。
外で出せないのが残念です。
「……第一次妖魔侵攻と、その際に戦っていた人物は……と、あれ?」
本に記されていたのは、【予言の術師】と呼ばれている存在。
本に記載されている内容によると、災禍の赤月を予見していた術師が過去に存在していたらしい。
ただ、そのものは人ではなく神の御使いであり亜神。
名前は記されておらず、ただ、ふらりと時の陰陽府に姿を現し、『三つの月が重なるとき、位階の門が開き妖が飛来するであろう。やがて妖たちは魔神を呼び起こし、世界は破壊される』と告げたらしい。
そして、その災禍から逃れるためには、妖と戦う力を持つ術師を育て、そして対抗するしかないと。
『妖が飛来する門は破壊不可能だが、それを閉じることはできる。そのためには三種の神器を揃えよ。いかなる魔をも封じる【神代の錫杖】、門から力を奪い閉ざす【五芒星封印術式】、そしてすべてを見通す【天神珠】。
それらを集め、力をなしなさい……。
「神代の錫杖と五芒星封印術式については心当たりがある。だけど、天神珠については今一つ分からないなぁ……それに、こっちの世界ではそれであっていると思うけれど、俺たちの世界ではすでに転移門は閉じているので、災禍の赤月が発生する予知的な事象は起こっていない……というか、起こっているけれど、全部止めたよなぁ……」
転移門の発生、妖魔の顕現。
異世界からの進軍、使徒と封じられ師ものの出現。
そのほかにも、サンフランシスーコ・ゲートとかいろいろあったよなぁ。
まあ、そんな中でも学生生活はどうにかエンジョイしてきたし。
高校生最大のイベントである修学旅行も、これといって妖魔がらみの事件もなく無事に終わったからなぁ……。
ああ、聖徳王の天球儀が手に入った程度で、それ以外は特に大きな問題もなかったし。
「ん?」
そうか、聖徳王の天球儀。
これが天神珠の可能性があるというのなら、こっちの世界での破滅への道を防ぐことはできるんじゃないのか?
「そうと決まったら、せめてヒントだけでも探しておくか。さて、こっちの世界では、あの三種の神器はどのように伝えられているのだろうかねぇ」
今まで読んでいた本を収納し、今度は魔導具や伝承について記されている本を探そうと思ったんだけれどさ。
ここにきて、いきなり睡魔が襲ってきたので今日のところは寝ることにしようそうしよう。
バタン……ぐぅ。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
・誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




