第三百九十九話・四面楚歌? 論より証拠を探しましょう。(滅びの歴史と未来の真実?)
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国立国会図書館の封印書庫。
俺はここで【災禍の赤月】についての情報を調べている。
一般的な歴史書に載っているのは、突然開いた転移門とそこから姿を現した妖魔の軍勢。
そして転移門をめぐっての長い戦争時代。
「こっちの世界で転移門が発生したのが、聖暦1021年、聖歴っていうのが、聖者イングウェイの生まれた年が紀元0年として計算されていて……と。地球の西暦と同じ計算か。一年の長さが324日、一年が13か月でひと月が24日、一週間は6日計算……これは地球の公転と自転で算出されていて……と、まあ、おおよその計算式が俺たちの世界と似通っているのは驚きだけど、やつぱり差異があるんだよなぁ」
転移門が発生したのが、アメリカのグランドキャニオン上空。
突然発生した三つの月が重なり、それがレンズのようになって地上に光を照射。
その光のトンネルを通って、妖魔が大挙してやってきたのがはじまりであると。
そして、アメリカのシャーマンたちはその前兆を予知していたため、妖魔を迎撃すべく魔術師の軍勢を待機させていた。
1021年6月18日、第一次妖魔対戦が始まる。
こののち、世界各地にも光のトンネルが発生し地上に妖魔たちが侵攻。
まだ国連はおろかまともな外交を行っていない世界各国は独自に迎撃を行い、ある国では妖魔を退けていたり、ある国は滅んで妖魔の国家が成立したり。
この第一次妖魔戦争を皮切りに、現在の2021年7月まで、戦争は続いているという。
妖魔と人間の戦争についての歴史は、各国の歴史をさらに事細かに調べる必要があるのだけれど、あまりにも時間が足りなすぎる。
──ピピッ
俺の座っている席の傍ら、通路の真ん中に設置してあった錬成魔法陣が術式終了の合図を送っている。
「ふう、完成まで5時間たったのか。まあ、これである程度の本のバックアップを取ることができるか」
魔法陣の中の一冊の魔導書。
これが、俺の作り出した新しい魔導具。
「収納の魔導書……空間固定と保存が行える魔導書か。俺の神威の半分も持っていかれたぞ」
それじゃあ、さっそく魔導具の起動実験。
まずはこの国立国会図書館全体を、空間結界術式により『異空間』に同じものをつくりだす。
これは魔族の固有能力であり、生物でない限りは全く同じものを作り出すことができる。
この術式の欠点は、『この術式で作り出されたものは外に持ち出すことができない』ということ。
俺や祐太郎が、初めて妖魔と対峙したのも新宿で空間結界にとらわれた時だったし、今の俺は呪符でこれを作り出すことができる。
ということで、空間結界呪符を取り出して発動する。
──ヴン
俺の目の前が虹色に光り、そして位相空間に国立国会図書館をつくりだした。
「さて、この規模のものが収まるかどうか……」
収納の魔導書を開き、魔力を流し込む。
すると、俺の立っている場所に小さな魔法陣が生み出されたので、これをゆっくりと大きく広げていく。
「……くっそ……ここでもがっつり魔力を持っていくのかよ……」
全身から力が抜けていく感覚。
だが、一度発動した魔導具は、最後まで制御していないといつ暴走するか分からない。
残り少ない魔法回復薬を飲んだとしても焼け石に水なので、ここは気合入れていく。
──ブゥン
30分後、ようやく図書館の建物全体を魔法陣で包み込むことができたので、最後の仕上げを行う。
「……無事に収まってくれよ……完全収納っ!!」
──シュン
魔導書を発動し、その中に図書館を保存する。
魔法陣全体を包み込む光が収まったとき、俺はなにもない空間収納、つまりまっさらな空間結界の中に立っている。
「無事に収まっている……か?」
おそるおそる魔導書を開くと、そこには国立国会図書館の写真と、そこに収められている物品全てが目録として網羅されている。
それこそ、消しゴム一つから封印書庫に保存されている古代の魔導書まで。
そのものを完全にコピーして保存する術式が完成したんだけれど……。
「……残念だけど、空間結界内にしか開放できないっていうのがネックなんだよなぁ空間結界の外に持ち出すことはできないっていう絶対法則は変えられなかったか……」
それでも、これでここに収められているものは後で確認することができるようになったので、まずは一安心。
そして空間結界から外に出ると、そとは真っ暗。
「……げぇぇぇぇぇ、もう0時に近いってどういうことだよ」
「どうもこうも、こっちが聞きたいのですけれど……」
俺の叫びに、疲れ切ったような女性の声。
ふと声の方を振り向くと、受付カウンターで座っている女性が一人。
「え、あ、あれ?」
「乙葉浩介さまですよね? 日本帝国政府内閣府妖魔対策事務局所属、神薙撫子事務次官です。麻生総理の命により、貴方の秘書官として派遣されてきました」
「あ、これはどうも……あの、ここでずっと待っていたのですか?」
まさかとは思うけれど、俺が空間結界にいる間、ずっとここにいたっていうこと?
「ええ。私がここに来た時、ちょうど乙葉さまの姿が消失しましたので。ほかに行くところがないと思い、ここで待機していました。もっとも、この場所で高濃度魔力値が計測されましたので、なんらかの理由で姿を隠していたのではないかと推測していましたので」
そう説明しつつ、懐から懐中時計のようなものを取り出して見せてくれる。
時計のような長針も短針もないけれど、細かい計器のようなものがびっしりと収められている。
『ピッ……センサーゴーグルのような計測用魔導具です。範囲は限られていますし効果を持続するためには膨大な魔力を必要としますが、それ以外はほぼ同性能に近いものかと』
天啓眼で見た結果は、超高性能すぎて欲しいっていうところ。
いや、これのデータも、おそらくは天羽さんが持ち帰ったデータの中にあるんじゃないかと思うから、いまはぐっとこらえる。
「それは申し訳ないです。では、今日はもう遅いので……あの、どこか泊まれる場所はありますか?」
「乙葉さまは赤坂離宮で宿泊していただきます。これは警護の関係もありますのでご了承ください。いつでも迎えるように、外で栗間も待機していますが、どうしますか?」
「あ、そ、そうですか、それじゃあ、今日はもう戻りますのでよろしくお願いします」
「かしこまりました。では、こちらへどうぞ」
そのまま神薙事務次官に案内されて、国立国会図書館から赤坂離宮へ。
移動はほら、麻生さんが乗っていたセンチュリーに乗せられ、前後左右を警備用車両ががっちりとガード。本当に要人扱いなにんだよ。
「はぁ……日本でもここまで歓迎されたことなんてないんだよ……尻がムズムズかゆくなってきそうだわ」
「食事が必要でしたら、今のうちに手配しておきますがどうなさいますか?」
「あ、そ、そうだね、食事ね、それもお願いしようかな……あはははは」
至れり尽くせりで、乾いた笑いしかでない。
でも、神薙事務次官はキリッと引き締まった顔で、淡々とどこかに連絡をしているだけ。
「はぁ……早く帰りたいよ」
………
……
…
赤坂離宮へと連れられて。
部屋まで案内されて食事もとって風呂で一息入れましたけれど、まったく落ち着きません。
そもそも、何を食べたかなんて説明を聞かされていても理解不能、とにかく天啓眼で毒物や魔法薬の反応があるかどうか解析してから食べていたからさ。
そして部屋に戻ってから室内を結界発生装置で覆いつくしたのち、ようやくゆっくりと眠ることにしましたよ。
はぁ……おやすみなさい。
………
……
…
──同時刻・赤坂離宮外・グノーシス移動指揮車両
乙葉浩介が赤坂離宮へと移動したのち。
グノーシス所属の白音は、指揮車両の中で腕を組んで考えていた。
すべては独断先行、生きる対妖魔兵器としての力を持つ乙葉浩介を分析し、その力を得るためには多少の違法行為もやむを得ないと考えている。
もっとも、現在は偵察部隊を赤坂離宮内部に送り込み、乙葉浩介の動向を探ることに集中しているのだが。
「マイスター、インビジブル4から入電。ターゲットの部屋までたどり着くことできたものの、結界により室内への侵入は不可能とのこと」
「はぁ? なぜだ? まさか特戦群でも待機していたとか? いやいや、それよりも結界だと? たしかに赤坂離宮の構造物は対術式加工を施されているが、結界を生み出すような魔導具はしかけられていない。そもそもだ、部屋一つを包み込む結界を生み出す装置が、どれほど大きなものなのか知っているだろうが……特戦群の結界術師でも待機していたとか?」
「いえ、特戦群は建物の外の警備を行っているようですし、そもそも結界術師は存在していない筈です」
その報告を受けて、白音は懐から煙草を取り出して咥えると、指先をパチンとならして火をつける。
「……ふう。結界中和能力、魔導兵装並みの攻撃術式を使う現代の魔術師……まさか、自ら結界をも生み出すことができるっていうことか? 観測兵を出せ、魔力の揺らぎを計測しろ。術式解析班を編成して、結界術式だけでも盗み出してこい」
「配置に30分ほど掛かります。それに、特戦群が邪魔でうかつに術式を展開できません」
陸上自衛隊特殊部隊・特戦群。
この世界での特戦群の役割は、対妖魔戦闘および要人警護など、多岐にわたっての活動を行っている。
なかでも対術式兵装については、対妖魔特務機関グノーシスと互角の兵装を使用しているとも、それ以上とも伝えられている。
特に、防衛力についてならばグノーシスを大きく上まっており、そんなプロフェッショナルが乙葉浩介の警護を担当しているなど、マイスター白音は想像もしていなかったという。
「……ちっ。とにかく監視体制の強化、特戦群の動向も逐次報告。乙葉浩介が動いたら、その動向まで全て網羅しておけ。このまま日本政府だけに彼の力を好き勝手されても困るからな……」
「了解です……しかし、かのものは用件が終わったら、自分たちの世界に帰るという話ではなかったですか?」
「ああ? 帰すはずがないだろうが……それに、異世界へと向かう転移門が使えるというのなら、それも有効活用させてもらうにきまっているだろうが……こんな滅びしか見えない世界になんて見切りをつけて、新たなる地に向かうのもいいとは思わないか? かの世界でも妖魔との戦闘は行われているらしいが、我々のような対妖魔兵装は存在しないという報告を受けているからな……」
咥えタバコを噛み切り、床に吐き捨てる白音。
そのまま椅子に座ると、足を組んでからモニターをじっと眺めていた。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
・誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




