第四十話・一念発起、福と為す(どうせなら国ごと巻き込むのもありだよね)
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はてさて。
俺たち文学部マイナス2人は現在、築地祐太郎の実家の居間にいます。居間だけにってショートブローですまん。
「……というわけで、わしの曾祖父さんは大東亜戦争期には、背後から迫る敵国兵士を千切っては投げ千切っては投げ、まさに国士無双の勢いであった。その曾祖父さんの勇姿を見て!時の司令であった陸軍大佐の……」
「親父親父、その曾祖父さんの英雄譚はこれぐらいにしてあげてくれ‼︎ あ 先輩たちがドン引きだ」
「そうか? だが、浩介くんは気にしていないようだぞ?」
「晋太郎おじさん、俺は小さい時からその話を毎日聞いたので、落語のように一字一句間違えずに話せるぞ?」
これはマジ。
祐太郎の曽祖父の話から始まり、今の晋太郎おじさんまでの家系の歴史を、俺は全て教えてもらっていた。
まあ、築地家の歴史を語るのはおじさんの趣味でもあるからいつも聞いていたし、聴き終わった後は小遣いをくれるから近所の駄菓子屋までレッツラゴーだったのよ。
「しかし、瀬川善弥くんの娘さんが一緒とはな」
「ご無沙汰していますおじさま。父の葬儀の時は、ご助力いただき感謝しています。まさかうちの部員の築地くんのお父様とは思っていませんでしたから」
「ああ、そうだな……祐太郎、まさかとは思うが、ここにいる人たちは全員、妖魔と関わったのか?」
いきなり本題を切り出すおじさん。
相変わらず話が三段跳びでぶっ飛んでいくけどさ、瀬川先輩と知り合いだったとは知らなかったなぁ。
「ああ。実際に妖魔とやり合ったのは俺とオトヤンだけな。先輩と新山さんは巻き込まれたというか、オトヤンが巻き込んだ?」
「そういう事ですよ、俺がみんなを巻き込みました」
ここは男らしくキッパリと言う。
すると、おじさんは腕を組んでう〜んと唸ってしまった。
「そうか。乙葉君、妖魔についてどこまで知っている?」
まあ、そう来ることは予測済みなので、俺たちの世界の外にある世界から来ていることと、精神生命体なので実体を持つ攻撃は無効なこと、俺はその対処方法を持っているが、突然その力に目覚めた事と告げた。
「……なんじゃ、昨日、祐太郎から聞いた話と少し違うな」
「え?」
「あ、オトヤンすまん、全部ゲロった。オトヤンが女神の加護を持っているところまで」
「……という事ですおじさん」
あら〜。
まあ、おじさんなら全部話してもいいか。
うちの親父とも古い付き合いというか、幼馴染みだからなぁ。
「まあ、それなら話が早いな」
「おじさん、俺は妖魔を討伐する組織には入らないからね?」
「妖魔と共に生きる道を選ぶんじゃろ? それでいいと思うぞ?」
「「「「 えええ? 」」」」
まさか、祐太郎の父ちゃんは妖魔容認派なのか?
「親父、今朝来た師匠の話では、俺の力を妖魔を討伐するために貸してほしいって言われていたよな? それについて検討するとも。でも、妖魔容認派なら、俺は師匠とも敵対するぞ?」
「かまわんのでは。まあ、忍冬君なら、どちらかと言うと容認派だから気にすることはない。人為的に害意を持つ妖魔の討伐なら、お前でも気にならんだろ?」
まあ、話し合いにも応じず、一方的に敵対してくる妖魔なら、あるいはそうなるのかなぁ、そうなりたくないなぁ。
「そうか、それなら良いけど、いや、よくはないな。親父はどうして妖魔のことを知っている?」
そこだ、今日の本題はそこだ‼︎
よし突っ込め祐太郎、親父さんを包囲しろ‼︎
「何故って、昔から日本国上層部、つまり軍人や議員は妖魔と裏で色々あったからな。まあ、ここ最近はなりを潜めているが、一部妖魔と議員の間には、不穏当な盟約があったぐらいだ」
「盟約?」
「ああ。『一定人数の人間を、妖魔の餌として差し出すこと。妖魔側からは、その議員たちの警護を請け負ったり諜報活動を行う』ってな。これが何十年も、いや、100年単位で人間と妖魔が盟約を結んでいたらしい」
そんな事があるなんて。
人間を、妖魔の餌として売っていた存在がいたなんて。
まさかの言葉に、俺たちは絶句した。
「それでな、わしはその議員たちからも目をつけられていてな。わしの力を削ぐために、幼かった祐太郎が妖魔に攫われたんだ。それを助けてくれたのは、乙葉君だったよな?」
「「 あ、そこが繋がるの? 」」
成る程、人間に歴史あり。
そうか、俺や祐太郎は、そんな昔から妖魔と関わっていたのか。
「まあ、今日皆に集まってもらったのは、覚悟があるかどうかを知りたかったからな。ここまでの話を聞いたら、妖魔と人間の共存など夢また夢の世界なのは理解できたか? 第六課を始め、殆どの組織は妖魔を敵として見ている」
そして、共存派とは即ち、人間を糧として差し出した盟約者たち。
人間を裏切った人間。
「わ、私たちは、誰も傷つく事なく、妖魔さん達と手を取り合って生きていきたいです‼︎」
ここに来て、新山さんが発言した。
それも力強く、まるで自分にも言い聞かせるかのように。
「君は新山さんだったね。君も、加護を受けたのか?」
「い、いえ……私はまだです」
「なら、まだ引き返せるとは思わないか? 妖魔と歩むというのは、並大抵のことではない。連綿と受け継がれた歴史の中で、妖魔は常に人類の敵なのだよ?」
「今までは、です。これからは、違う道があっても良いと思います‼︎」
おおお、今日は新山さんが強い。
一体彼女に何があったと言うのだ。
「そうか。新山さんの意思は理解した。瀬川さんも同じかな? 祐太郎の婚約者としてではなく、君の意見を聞かせてほしい」
「「「 な、なんだってぇぇぇぇ 」」」
おい祐太郎…なんでお前も驚くんだ?
「おじさま。その話は、彼が高校を卒業してからということではなかったのですか?」
「そうだぜ親父、俺は今初めて知ったぞ‼︎ いったいどういうことなんだ?」
「どういうことも何も、わしと瀬川さんの親父さんとの間での約束だったからな。お互いの子供を結婚させて、みんなで幸せになるってな……だから、善弥が亡き今となっては、婚約の話もなしにしてもかまわないとは思っている」
あ、あ、あ……。
今日1日で、どんだけの情報が頭の中を駆け巡るんだよ。もう、俺のHPはゼロなのよぉぉぉぉって感じだよ。
「私のことについては、新山さんと同じ気持ちです。寧ろ、以前のわたしは妖魔敵対派でしたから」
「ああ、そういうことか。あの事故は妖魔が起こしたものだと、今でも思っているのか」
「はい。わたしは、この目で見ました。妖魔と思わしき存在が、私たちの乗っていた飛行機を破壊したのですから」
……
俺、ここにいて良いの?
なんだか、重い話が続いていて俺ちゃんそろそろ辛いんだけど。
「では、どうして容認派に?」
「乙葉君が、道を示してくれたから。妖魔を知る機会を与えられたし、何よりも、妖魔は全て敵ではないと教えてもらいましたので。ですから、わたしも乙葉君のように妖魔と歩み寄りたいのです」
参った。
こんなに信頼されていたとは。
まさか先輩や新山さんのスリーサイズを見て興奮していたなんて言えない。これは墓まで持っていこう。
「さて、それでは乙葉君、君が妖魔と共存するとして、何をする?」
「……妖魔を、妖魔についての情報を全て公開します‼︎ 知らなかったことが罪ではないですが、今、すぐ隣に妖魔があるのは事実ですから」
いや、それが危険なのは知っているよ?
いきなり人類の敵がいますよ、それはすぐ近くですよなんて知ったら、暴動になるよ?
警察が襲撃させるレベルだよ?
「危険だぞ?」
「でしょうね。ですが、まさかここまでの話をしておいて、全て俺たちに投げるわけないですよね? おじさんは」
そう返答すると、おじさんは目を丸くした。
「はっ……ははっ……はーっはっはっ。よし、わしも腹を括ろう。議員関係にはわしが話をつける。だから、君たちは君たちの好きなようにやりなさい。ただし、公安部第六課だけは気をつけなさい、彼らの存在は法治国家にして法治対象外に存在するからな」
「怖っ‼︎」
「さて、長々と話をしていて疲れただろう。晩ご飯を食べていきなさい」
パンパンとおじさんが手を叩くと、早速居間で食事の準備が始まった。
俺、初めて見たよ。
円山の高級寿司店の店長自らがやってきて、目の前で寿司を握ってくれる『出張高級寿司』ってやつを。
そして、祐太郎の家で飯を食ってから、みんなは車で自宅まで送ってもらった。
俺はほら、隣だから歩いて5分ぐらいだし、隣なのに5分かかるのは解せぬが。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
翌日。
何事もなく学校に……行けないのかよ。
「なんで二日連続で来るかなぁ? 今日は御影さんだけなの?」
朝、昨日よりは少し遅いものの、御影警部補が家までやってきた。
「今日は隣、築地晋太郎議員に用事があってね、ついでに聞きたい事があったんだが」
「はいはい。今日は井川さんはいないのですね?」
怖いからゴーグル換装、何か怪しいものを持っていないか鑑定してやる。
『ピッ……日用品以外に、拘束の呪符と魔導具の杖を所持しています』
ん〜。鑑定眼のレベルが上がったからなのか、それとも賢者になったからなのか、さらに細かい鑑定指示ができている。
『サーチ指定、警官、もしくは第六課職員』
『ピッ……距離22mに4人、ワゴン車で待機しています』
「それで、何の御用ですか? 懐の呪符と杖を使わないのなら話しますよ、あと、近くに待機している警官も御影さんの指示なの?」
「対妖魔用装備だから、人間には使わないことを約束する。待機警官は私の護衛として同行しているだけに過ぎないから安心していい。しかし、君は何故、そこまで見通す事ができる?」
「秘密だよ。それで、何が知りたいんだ?」
「君の学校に『あるもの』についてだが」
あ、あれから学校行ったのかよ。
もう、面倒くさいなぁ。
「勝手に弄ってないでしょうね? 校内で妖魔に取り憑かれたり具合が悪くなる生徒が出ないように、効率よく配置したんですから」
「それは大丈夫だ。警察組織だからと言って、そこまで干渉する気はない。しかし、あれは君が配置したのか?」
「そういうこと。出どころは教えないよ」
「あれだけの貴重な宝具を、まさか……君たちの組織は、宝具を自在に作れると言うのか?」
「ノーコメント、じゃあそういうことで」
まったく。
もう来ないでほしいよ、妖魔を討伐対象としか見てない人とは話ししたくないよ。
あ〜、朝っぱらから会いたくない人と会ったし、一日中憂鬱になるわ。
……
…
「よお、オトヤン!元気か?」
「まっさか。朝から来たよ、あの人たち。ユータロの家にも行っただろ?」
「来たみたいだな。親父たちと話をしていたから、どんな内容なのかは知らないけどな」
「あの。それって昨日話していた第六課のひと?」
新山さんも後ろを向いて話に加わった。
今の時点では、新山さんも俺たちの仲間だから該当者だからなぁ。
「そういうこと。完全に目をつけられたわ。もう、開き直って対応するしかないんだけど、もしも新山さんのところまで来たら連絡頂戴な。対処可能なら話するからさ」
「ありがとう。でも、わたしは大丈夫だよ? 加護を授かってはいないし、魔術だって、まだ何も使えないんだからね」
あ、そうか。
瀬川先輩と新山さんは、加護の卵が未覚醒なんだものなぁ。
──キーンコーンカーンコーン♪
始業ベルがなる。
朝のホームルームの時間なのだが、担任以外にもう1人の女性が入ってきた。
「はい注目。副担任の大川洋子先生が少し早めの産休に入ったので、代わりの先生が来ましたので」
ほう。
大川先生、やるなぁ。
……いや待て、大川先生って、確か今年68歳のオババ様だぞ?
絶対に嘘だわ。
ほら、教室がザワッ…ザワザワッてカイジしてる。
「始めまして。大川先生の代わりに副担任となります、要梓です。どうぞ宜しくお願いします」
おお、美女ですなぁ。
よし、俺は自らの封印を解除するぞ、サイズは如何程かなぁ……。
『ピッ……要梓の鑑定を開始します』
…
……
名前:要梓
年齢:26歳
性別:女性
種族:人間
職業:警視庁公安部特殊捜査課・巡査
北広島西高等学校・副担任
……
…
マジか。
第六課はなんだって、こんなの送りつけてくるかなぁ。完全に潜入工作員だよな。
ああ、薔薇色の高校生活が灰色に塗り替えられる気がしてきたよ。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
大通り公園。
ここ最近、この辺りに人間の魔術師が出没していると聞いてきたのですけど。
「特におかしいところはありませんね。魔力感知にも反応はないですけど?」
喫茶・九曜店長の蔵王真澄はベンチに座って周囲を見渡す。
妖気遮断の護符は身に付けているから、人間如きの、第六課程度の者たちには気づかれることはない。
出来る限り早く、現妖魔王派の者たちに気づかれる前に魔術師を確保しなくてはならない。
もしも彼らに見つけられたら、確実に贄として食べ尽くされる。
「……おやまあ、誰かと思ったら二口じゃないかえ? こんな昼間から堂々と外を出歩いて大丈夫なのかえ?」
ベンチに座っている蔵王の前に、飛頭蛮の綾女がフヨフヨと飛んでくる。
「あら。誰かと思ったら綾女じゃない。丁度いいわ、この辺りで魔術師が居たっていう噂を聞いたんだけれど、知らない?」
「さあねぁ。そんな奴がいたら、私が真っ先に憑依して美味しい思いをさせてもらっているわ」
「そうよねぇ。はぁ、困ったわ」
頭を抱えそうになる蔵王。
「ふむ、何か事情がありそうだね。私でよかったら相談に乗るよ?」
「……まあ、貴方なら口は堅いから大丈夫よね。それじゃあ…」
何か決断したように、蔵王は静かに話を始める。
まるで独り言を話しているかのように。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。
分かりづらいネタはノーヒントで三つ‼︎