第三百九十八話・難攻不落? 論より証拠を見せてもらおうか(少しずつ違う……いや、とんでもなく違う)
『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週火曜日、金曜日を目安に頑張っています。
帝都・東京。
岩手県遠野市から車にゆらりゆらり揺れながら、途中で宿に一泊して到着したのがここ。 ※地理は現実に即していると思われるので
巨大な結界によって守られている東京帝都24区。
そのさらに中、『山手線可動式結界壁』という鉄道路線を走る『動く結界壁制御装置』に包まれた多重術式防護膜の中に、この帝都の中心である【帝都タワー】がそびえたっている。
「……うん、もうどうでもいいわ。考えるのも嫌になってくる」
「はっはっはっ。この帝都タワーはわが国最大の結界発生装置でね。これによって関東一円が対妖魔大規模結界によって保護されるようになっているのだよ。また、その帝都タワーを護るために作り出した『可動式結界』のおかげで、第24次侵攻も無傷で抑え込むことができたのだが……」
そう説明してから、麻生さんがばつが減るそうな顔をしている。
うん、ここから先の話は聞きたくないよなぁ。
何かあるのが、肌にもかんじられるよ。
こう、『実は頼みがある光線』を全身から放出しているような感じといったら、分かってくれるよね。
「実は」
「その前に、俺がこの世界で何ができるか、何をしたらいいのか、それを知ることが先決ですよね。何か頼みたいというのは重々感じていますけれど、俺も理由なくほいほいと力を貸すことはできませんので」
「当然だな。それじゃあ、まずは我々の世界が【災禍の赤月】によって滅びの道を」
歩むことになったいきさつを見て貰ったほうがいいか……帝都書庫管理センターに向かうとしよう」
俺たちの世界でいう国立国会図書館のような場所に移動し、俺は『特種甲式術師認定証』を提示して中へ。
麻生さんは係りの人間に俺のことを説明して、すぐ近くにある国会議事堂へと戻っていった。
あとから俺の担当秘書官みたいな人が来るので、なにか困ったことや頼みがあったらそっちに話を通してほしいこと、そして向こうから俺に頼みがある場合も、秘書を通じて連絡がもらえることまで教えてくれたので、色々と助かったよ。
なんたって、電波帯が違うからスマホが使えないんだよ。
ついでに相手が術師でないので念話も不可能。
ということなので、その担当秘書官とやらが来るまでは、俺はここで【災禍の赤月】について調べることにした。
しっかし。
あまりにも資料が膨大だし、認定証の効果で一般人閲覧禁止の書庫まで案内されたんだわ。
さて、これを調べまくるにはあまりにも時間が足りない。
瀬川先輩の深淵の書庫のようなスキルや魔法、もしくは書物をコピーする魔導具でもないものか……。
〇 〇 〇 〇 〇
――カグラ世界・妖魔特区
天羽総理を連れて戻った来た築地は、何が起こったのか説明するために一旦、札幌市退魔機関庁舎へと移動。
大通り13丁目の旧札幌控訴院、近年は歴史的価値が高いために国の重要文化財に指定、『札幌市資料館』として公開されていた。
ここに内閣府退魔機関が移設され、今は『内閣府退魔機関庁舎』として運用活用されている。
この建物の二階奥にある会議室で、築地と天羽、忍冬、瀬川と新山、そして白桃姫と第1課の書記官が集まっている。
そして、築地と天羽が異世界で起こった出来事を全て説明したのち、これから起こるであろう【災禍の赤月】についての対応策をどうするべきかと話し始めたのだが。
「……ふう、残念ですけれど、私の深淵の書庫をもってしても、災禍の赤月についての情報はありません。皆無といっていいほどに、なにもヒットしませんわ」
「災禍災禍……うーむ、妾も聞いたことがないのう……今の築地たちの説明が確かならば、災禍の赤月を引き起こすのは破壊神、つまり妾たち魔族の神である魔神ダークが、世界を破壊するというのか……一概に信じたくはないのじゃが」
「ああ。だから、その真偽を確認するために、オトヤンが向こうに残っている。そこで問題のは、三つの月が重なるときがいつなのか、それを阻止する方法があるのかということなんだが……」
築地の補足で、全員が考え込む。
あまりにも情報が少なすぎること、その真偽も定かでないことが、この場の全員の思考を阻害している。
ぶっちゃけるなら、『ヤマトタケルが滅ぼした八岐大蛇が復活するので、それをどうにかしないといけない』と言われた方が、まだ真実味がある。
初めて聞く単語、初めて聞く情報、それも自分たちの世界には関係がないこと。
それをどうにかするべきであるなどという話し合いなど、MARVELのヒーローでもない限りは不可能である。事情を知らない人が聞いたならば、中二病をこじらせたとか夢想癖とか笑われるのがオチなのだが。
「まず、三つの世界の観測ができないことには話になりません。私たちの世界で空を見上げたところで、赤月が見える訳でもありません……深淵の書庫での観測でも確認できていませんけれど……」
「私の神聖魔法による鑑定でも、空に三つも月が浮かんでいるようには見えません」
「同じく、目に闘気を集めても見えない。ということは、それを見る手段が別にあるんじゃないか?」
「それと、三つの世界が重なる……世界そのものが月のように見えているっていうことですよね。私たちの世界からは『封印大陸』『鏡刻界』『ソーマヴィッター』の三つが見える。これは確か、築地君たちが『封印大陸』で教えてもらった『三つの月』という話と一致する部分でもあります……」
「そうじゃ、その封印大陸の話じゃよ!! 築地らは、我らが神の封印を見たのじゃよな?」
封印大陸での話には、白桃姫が前のめりになって食いついてくる。
「まあ、封印が綻び始めたので再封印をしたぐらいだが。そもそも、破壊神というか、魔神ダークは神々に喧嘩を売ったんだろ? それも魔族を率いて。その結果、神々に封じられ、魔族は肉体を失ったんじゃ無いのか?」
「そ、それはまあ、その通りじゃが。今の魔族は、その封印の綻びから力を、つまり魔神の加護を受けているからなぁ……これが途絶えるとなると、われらは存在することすら叶わなくなってしまう。じゃから、封印自体も少し緩くなっているのか、それとも隙間から神威が溢れておるんじゃろうなぁ」
完全に封じられているとなると、魔族はその加護を失ってしまう。
そういう意味で白桃姫が説明すると、忍冬が手を上げる。
「つまり、その魔族の加護を断ち切る封印術式があるということだよな? それがあるのなら、魔族収監所をさらに強化できるんだよな?」
「忍冬師父、その術式はオトヤンしか知らないですよ。そもそも、あの地に行く手段だってオトヤンしか知りません。俺の持っている銀の鍵では、封印大陸に扉を開くことはできませんからね?」
──ブゥン
ブレスレットの収納バッグから、銀の鍵を取り出して見せる。
これは以前、乙葉が作った『水晶柱を媒体とする鍵であり、築地や新山、瀬川も保有している。
そして両腕にブライガーの籠手を装着した祐太郎が、目の前の壁に向かって鍵を突き出すと、いきなり扉が生み出される。
「その扉は?」
「あ〜、おそらくは鏡刻界です。オトヤン程ではありませんけれど、俺も水晶柱を媒介しないで扉を開くことはできます。ただ……」
──ガチャッ……ギィィィィィッ
ゆっくりと鍵を開けて扉を開く。
すると、扉の向こうには何処かの練兵場のような場所が広がっていた。
全身に甲冑を着た騎士団が、武器を構えて模擬戦のようなものを行なっている。
「……やっぱりラナパーナ王国だよなぁ。封印大陸をイメージして鍵を使ってみたんだが、やっぱりオトヤンじゃないと無理か」
「それでも、単独で扉を開くことができるのは大したものよ……と、そうじゃ、王都の禁断書庫になら、何かヒントがあるやも知れぬ。妾たち魔族や魔皇ではわからぬことも、魔神クラスの力を持つ魔族なら知るやもしれるからな」
「魔神クラスの魔族?」
「ん? 綾女ねぇさんとかと同じ力っていうことか?」
「うむ。禁断書庫には、鏡刻界の全ての叡智が納められている。まあ,その扉を開くには魔人王の紋章が必要なのじゃが」
その白桃姫の言葉で、忍冬と天羽はため息をつく。
魔人王の紋章など、どうやったら手に入るのか二人にはわからない。
ただ、今の話を聞いて築地や瀬川、新山の三人は次の方針が決定した。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
・この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
・誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




