第三百九十二話・鴉巣生鳳? 学びて思わざれば則ち罔し(妖の里と、合流するオトヤンたち)
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俺が空間結界に閉じこもってから三時間後。
ようやく周辺海域の調査にやってきた護衛艦が海域を離れてくれたため、俺と祐太郎はようやく空間結界の外に出られるようになった……と思う。
何故、断定できないかというと、この空間結界の中だと、外の様子は見えるけれど魔術によるサーチその他は一切使用できない。まあ、空間そのものが断絶されているから、そりゃそうだと納得するしかない。
そもそも、俺たちの世界でも調べたことがなかったものだから、今一度、俺は自分が扱える魔術についてもういちどしっかりと調べた方がいいと思い始めたよ。
「う~ん。やっぱり闘気も外に浸透させることができないか……」
「だろ? この結界って防御用に使えたりどれだけ楽なことか。対魔術、対物理どっちにも使える魔術なのに、個人用に使えないっていうのがまた、なんとも面倒くさい術式なんだよなぁ」
「でも、呪符として付与することで使えるんだろ? そのあたりをうまく改良すればどうにかできそうなんだが」
「そもそもが儀式魔術で、しかも空間系魔術については魔族にしかわからない詠唱構文が必要になる。俺のこれだって、巫術書に書いてあったものを用いているだけであって、口が二つないと詠唱できない代物なんだからな」
「結構前に、新山さんが白桃姫に言われていたやつか。一つの口で三つの童謡を同時に歌えるかっていうやつ。これは二つでいいのなら、多少難易度が下がったと思うが。オトヤン、魔術で口を増やすとかできないのか?」
また、無茶なことを。
「祐太郎だって、闘気で腕を増やしたり出来ないだろ? それと同じでちょっとまったぁぁぁぁぁぁ」
――ヒョイ
俺が問いかけている最中に、祐太郎が自分の右肩から闘気を練りこんだ腕を生やしたんだが。
それって反則じゃないか?
「闘気を練り上げて疑似腕ぐらいなら作れるようになったが。まあ、まだ自在に動かすことはできないし、精密作業にも向いていない。緊急時に使えないとだめだから、まだまだ試行錯誤中だけどな」
「はぁ……さすがに魔力で口を増やすなんてことはできないぞ? 臓器の複製については、肉体とのリンクがかかわってくるから難しいんだよ。いくら俺が人体錬成ぐらいならできそうだとはいえ、魂の錬成はできないからな。同じように腹に口を作ったとしても、声帯もなければ呼吸できるわけじゃない」
「そりゃそうか……」
はい、ということなのでこの話はおしまい。
そもそも魔族の二重発声や三重発声ができないから呪符に術式を組み込んだわけだし、それを改良しようにも呪符魔術についての基礎知識はない。
カナン魔導商会のある異世界の魔術体系が基礎なので、いくら俺でもむーりー。
「さて、目視できる範囲では護衛艦の姿もなし。そろそろ東北に向かって飛んでいくとするか?」
「そうだな、そうさせてもらいますか」
空間収納から魔法の箒を取り出して跨ると、空間結界を解除。
それと同時にゴーグルで周辺海域の生体反応を確認し、人間サイズのものがないとわかったので東北めがけてレッツらゴー!!
………
……
…
──東北・岩手県遠野市近郊
乙葉と祐太郎が空間結界から外に出て、遠野に向かい始めたころ。
その目的地である遠野市郊外の『亜空』では、天羽太郎が与えられた曲がり家で来客の応対を行っている最中である。
常人ではたどり着くことすら難しいこの『亜空』に、来客は黒塗りのセンチュリーで横づけにやって来たのである。
最初に応対したのは天羽の世話係を拝命した『ツバキ』という少女。
そしてすぐさまセンチュリーに乗ってやってきた人物は客間へと案内され、そして天羽もその部屋へと案内されたのである。
「初めまして。私は日本国帝府首相を務める麻生秀一郎だ。巫女姫の神託を受けて、ここまでやってきたんだが……貴方が異世界からの迷いびとで間違いはないのか?」
白髪オールバック、額から右目下まで伸びる3本の切り傷を持つ麻生が、目の前に座っている天羽に話し始める。
すると天羽も、傍に座るツバキの方をチラリと見るが、彼の心情を理解しているかのようにツバキも無言で頷いている。
「なるほど、これも愛宕さんのお導きということか……俺は日本国総理大臣の天羽太郎だ。貴方がいう迷いびとの一人ということになるかな。それで、ここまできた理由は?」
「一人? という事は、他にも迷いびとがいるということか。まあ、その話は今回は関係がないから、単刀直入に説明するが。魔力消失事件について、貴方はどこまで話を聞いている? 愛宕という名前には私たちは何も聞き及んでいないが、巫女姫様からは、貴方にこれを渡すように告げられているんだが」
そう告げてから、麻生が鞄の中から一枚の鏡を取り出す。
それは天羽も見たことがない古い鉄鏡、考古学的には内行花文八葉鏡と呼ばれる福岡県から出土されたものと非常に酷似している。
違うのは、錆すら浮かび上がっておらず磨かれたように輝いている。
「これはなんだ?」
「わかりません。ただ、私たちはこれを【魔払鏡】と呼んでいます。いかなる魔をも退ける光を放つ神器……帝府から表に出したのはこれで二度目、一度目は、最初の『魔力消失事件』の時ですから、すでに300年は経過していると思われます」
「わからないのに、詳しい……歴史書にでも記されていたのか?」
「姫巫女様から教わっただけです。それで、これと同じものが貴方の世界にもある。それを探すようにと伝えられました。貴方も高名な魔術師ならば、この鏡から発せられる神威を記憶することができるだろうと」
いきなりそう言われても、天羽には何が何だか理解できない。
そもそも、天羽は魔術師ではない。
乙葉浩介が退魔機関第六課に行った【魔術講習】の内容をこっそりと教えてもらい、毎日寝る前に30分だけ実践しているぐらい。
その程度で魔術師に覚醒することなどあり得ないと思っているのだが、今、ここで魔術師と呼ばれると何やら小っ恥ずかしい気持ちになっている。
「悪いが、俺は魔術師ではない。だから神威を覚えるなんていうのは俺には無理だが……と、どうやら、それを実践できる連中が到着したようだから、そいつらに見せてやってくれないか?」
傍のツバキがいきなり部屋の外を凝視したので、天羽もその二つの気配を察知することができた。
そもそも、普通の人間では高魔力保有者が近づいた程度では何もわからないのだが、ここにきて天羽も魔術素養が覚醒し始めていた。
………
……
…
──遠野、亜空外
空間結界の中で仕上げた『魔力遮断の護符』を身につけて、ついでに透明化して視覚にも囚われないようにしつつ高速で飛行。
目的地は天羽総理の反応がわずかにある東北。
ということで、やってきました岩手県遠野市郊外、大きな森の上空で俺たちはホバリング状態で周囲を見渡しているんだが。
「オトヤン、これは結界だよな?」
「永続型の空間結界でこの付近をまとめて包み込んでいる感じだよなぁ。ほら、ここが結界の壁で、この向こうが別空間に繋がっているようだけど」
──ペシペシ
右掌に魔力を込めて、結界をペシペシと叩いてみる。
この程度で触れられるとは思ってなかったから、しっかりと神威を纏って触れてみて、そして触れられたよ。
「ふぅん、この向こうに閉じ込められているのか、それとも保護されているのか。どっちだと思う?」
「ゴーグルの反応は変化なし。つまり状況は大きく変わっていないから、とらわれて閉じ込められているんじゃない感じだな。衰弱した雰囲気もないし……敢えてここにいるって感じなのかなぁ」
「それなら、そろそろお迎えが来る可能性も十分にあり得るか……」
──カラーンカラーン
祐太郎がそう呟くと、眼下の木々の間から、提灯を片手に女性がゆらりと姿を現す。
「乙葉浩介さま、築地祐太郎さまですね。愛宕様より、お二人がここにいらっしゃることは伝えられていました。天羽さまがお待ちですので、こちらへどうぞ」
「あ、はい」
「天羽さんが待っている……か。安全そうだな」
「同意」
高度を下げて地面に降りると、女性が結界の方へと歩き始めたので、俺たちも後ろを着いていく。
すると、結界の一部が消滅して、目の前には鬱蒼と茂った森ではなく田園風景と幾つもの屋敷が広がっていった。
「これはまた……位相空間内の町……という感じか?」
「祐太郎の言うとおりだよ。まあ、妖魔特区内の街並みって考えると、あまり新鮮ではないが……こりゃぁ、同一空間に幾つもの街を作り出すこともできるようになるんじゃないか?」
「ここは私たちの隠れ里。亜空とも呼ばれている場所です……では、こちらへ」
女性の後について畦道を進む。
あちこちに人の気配も感じるし、農作業をしている人の姿も見える。
古き良き田舎の風景、そこを歩きつつ一軒の曲がり屋の前までやってくる。
「センチュリー? しかもこれ、退魔兵装が組み込まれているよな? 対術式装甲まで組み込んであるぞ?」
「はぁ、オトヤン、そんなの見えるのかよ」
「ゴーグルが魔力を感知するからね。あとは頭の中の術式一覧と照らし合わせて見ただけだよ。こっちの世界の術式は、俺たちの世界のものとは違うみたいだけど、おおよその方向性で理解できる」
「これだから錬金術は……」
いやだなぁ、褒めるなよ。
そう思っていると、女性が屋敷の玄関まで近寄っていく。
「ここからは、この子についていってください。中で天羽さまがお待ちですので」
「わかりました。ここまでありがとうございます」
「その提灯、それがないと恐らくは道を踏み外して、どこか別の場所に迷い込んたのでしょう?」
それが正解だったかのように、女性がニッコリと微笑む。
さて、ようやく天羽さんも救出できるし、これてでようやくのんびりとした時間が帰ってくるよ。
え?
フラグが立つ?
そんな馬鹿なことはないよね。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




