第三百九十話・(嵌められたなら、堂々とします)
『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週火曜日、金曜日を目安に頑張っています。
白波を突き進む言霊級特務駆逐艦『オモイカネ』。
最大船速42ノット、術式防護壁と水制御装甲、そして四八式魔導タービンにより生み出される擬似魔力により、全ての兵装に魔力が自動付与されている。
おそらく、乙葉浩介らの世界の特戦自衛隊がこの駆逐艦を見たならば、防衛予算の上限値アップのために悪戦苦闘する姿を見ることができるだろう。
それほどまでに、この世界の妖魔に対する対策は充実しているのだが、それでも足りないと思わせるのが上級妖魔であろう。
どれだけ兵装が充実しようとも、それを扱うことができる人間の力量には限界がある。
乙葉の持つサーチゴーグルと同等の索敵能力を持つ『キルリアン波長放出型アクティブセンサー』を用いても、それさえも無力化する能力を持つ妖魔が何処からともなく発生する。
故に、対妖魔戦については、その技術がイタチごっこのように繰り広げられている。
──ビーッ、ビーッ
オモイカネ艦内に警戒音が響く。
『間も無く本艦は、渡島結界を越えて北海道結界内に突入する。第一戦闘配備になるため、民間人は与えられた個室から出ることを禁じます。なお、この指示に従わない場合、日本国特務機関法24項に基づく法的処分もあり得ますので。繰り返します……』
うん、艦内に警報が鳴ったと思ったら、戦闘海域に突入するそうで。
渡島結界から外に出るそうで、ここからの10分間を無事に走り抜けることができるかどうかが、勝負どころだそうだ。
そう、コンビニで立ち読みした雑誌に書いてあったから間違いなし。
「オトヤン、妖魔の反応があるか? 闘気センサーでは見当たらないんだが、なんというか、ジャミングのようなものをこの船から感じるんだ。比較対象がないからうまく確認できないんだが、波長に乱れが出ている感じだ」
「ゴーグルでもダメな?」
「そのゴーグルは使い物にならない。確か、俺のゴーグルってオトヤンのと同性能だよな?」
「ちょい待ち、確認してみるわ……ゴーグルゴー……うわ!」
サーチゴーグルを換装して魔力を通すんだけど。
本来なら透過しているゴーグルが真っ暗に染まっている。
しかも、その黒い中にあちこち術式が浮かび上がっているんだよ。
なんというか、雑なジャミングだよ。
「……ふぅ。俺のもダメだわ、ちょいと時間をプリーズ」
「よろしく」
人差し指に魔力を集めて、目の前の空間にゴーグルに浮かんだ術式を書き出す。
それを天啓眼で確認するんだけど、見たこともない術式なのでどうにもあやふやな答えしか出てこない。
『人工魔導……開放型妖気感知……魔人核を探すための術式……この波長以外の探査系術式の阻害……』
「う〜む。こんなの初めてすぎて面白いわ。中和術式を組むにも、こいつ自体を一度発動させてから、細かいところまで調べてみないとどうにも」
──ドッゴォォォォォォン
俺が祐太郎に説明している最中、突然爆音が響き船が大きく揺れた。
いや、揺れたなんてものじゃない、大きな横波を受けたかのように船体が右側に大きく傾いたんだわ。
「うわ、始まったのかよ」
「どうやらそうらしいな。窓がないから外が見えないし、状況が全くわからないから調べようもない……オトヤン、どうする?」
「如何にもこうにも、静かにここにいるしかないだろう? 迂闊に飛び出したらそれこそ、監視カメラの向こうの人たちの思う壺だよ。それで、どうするのですか?」
監視されていることが前提で、俺は大声でそう叫ぶ。
北海道結界から外に出ようとしたことはバレているし、俺たちのデータもたぶん保有しているはず。
それなのに何もしてこないってことは、こっちの出方を伺っているんだろう?
──ゴゥゥゥゥゥゥッ
そして再び、大きな爆発。
さっきよりも大きく、そして揺れが酷い。
俺たちの耳にも爆音が聞こえてくる。まるでこの部屋の外側に攻撃が直撃したかのようなビリビリとした空気が切り裂かれるような音だよ。
本来なら窓がある部位が大きく歪み、亀裂まで走っている。
つまり、この部屋が狙われたってことだろ?
「くっそ、洒落にならんわ。祐太郎、あの爆発は防ぎ切れるか?」
「う〜む。上級妖魔の、ほら、百道烈士の配下の生体ブラスターをぶっ放してくる奴がいただろ? 両肩に生体ブラスター発振組織が埋まっているやつ」
「知らん。百道烈士戦で必死だったから覚えていないが、それと同じぐらいなのか?」
「あの倍ぐらいだな。人間なら即死間違いなしだから、そろそろマジで対処しないとやばいぞ」
──シュン
そう告げてから祐太郎がブライガー装備に換装するので、俺も白銀の賢者モードに換装。セフィロトの杖は持たず、魔導書のみを手に持つ半分だけ本気モードに切り替える。
「72式力の盾、全周囲モード……」
俺の周りに、60個の三角錐型のたてがうかびあがる。 それが俺の周りに展開し、正五角形の魔力の壁を生み出し、それがさらに集まり接合し、12面体の球界結界を作り出す。
日々、魔術は進化するのだよ、アニメを見て思いついたんだよ。
そして祐太郎も体のあちこちに丸い闘気壁を作り出し、攻撃が当たる際にそれを動かして強度を上げるようにしている。
こっちがサイコミュなら、そっちはピンポイントバリアってか。
──ガシュッ!!
そして俺たちの準備が終わるのを待っていたのか、突然、扉が開く。
だが、誰かが襲ってくる様子もないし、何か指示が来るわけでもない。
「祐太郎、これって誘われているよな? ここから出て応戦するなら、そのデータを回収ののち、俺たちは特務機関法24項違反で逮捕だよな?」
「確実に罠だな。だったら、ここから動かないでやるしかないだろ?」
──キィィィィィン
祐太郎の右拳、ブライガーの籠手に闘気が集まる。
「下がってろ、オトヤン…… 五の型、地対地・対艦誘導拳っ!」
──ドッゴォォォォォォン
亀裂の入った壁に向かって、祐太郎が一撃を放つ。
その瞬間に俺たちの部屋の外壁が全て砕け消し飛び、外が剥き出しになった。
「……なあ、なんというかこう、手加減をだな」
「普段から加減しないオトヤンには、言われたくないわなぁ……と、妖魔が大量に飛んでいるな。しかも、俺たちに気がついたのか、こっちに向かってくるな」
「そんな感じだね。さて、次は俺の番か」
魔導書を開き、第四聖典のページを開く。
こんなに本格的に使うことなんて滅多にないよなぁ。
「魔導紳士……対妖魔戦に魔力のリミッターをカット。神威を魔力に変換……108式・魔導レーザーキャノン」
右手に『光の弾』の魔力を圧縮。
さらに手の周りに術式による砲身を形成し、飛んでくる妖魔目掛けて構える。
高速で砲身の術式が光り回転を開始すると、俺は手の中の魔力を開放、妖魔目掛けて一直線に撃ち放った!!
──キィィィィィン
手から放たれる魔力の帯。
それは一直線に妖魔に直撃すると、その魔人核をも破壊し蒸散させる。
「さ〜ら〜に、カーニバルだよっと!!」
そこから右手を左右に振る。
放たれた魔力帯が左右に動き、放出されたままの光弾によって次々と妖魔を焼き飛ばす。
「お〜、凄いな。あのトラウマが蘇るわ」
「そんなこと言ってないで、海面のやつは頼むわ。俺は上空のを受け持つからさ」
「応さ……視認ロック……闘気砲連続発射!!」
海面から飛び出してくる妖魔には祐太郎が、そして上空から来る妖魔には俺が対処。
いや、それは構わないんだが、なんでこの船は攻撃をやめたんだ?
さっきまでは攻撃していたんだよな?
今は妖魔と戦闘しているのは俺たちだけだぞ?
責任者、出てこいやぁぁぁ。
………
……
…
信じられないものを見た。
駆逐艦タケミカヅチの報告では、彼らは結界中和能力を保持していた。
それは魔術分類では『特亜』、すなわち特別亜種能力者に分類されるものであるのだが、今の、監視モニターに映し出されている彼らの戦闘力は『甲種』もしくは『特種』に分類される。
この駆逐艦オモイカネの対妖魔兵装、そのどれをもうわまるだけの火力と殲滅力を有する術者など、この世界には存在しない。
いや、実際に目の前にいるのだから存在はしているのだろうが、これはかなり興味深い。
「か、艦長、急いで舵を切ってくれ。転進だ、彼らの保有魔力の限界値を知りたい。早く戦闘海域に戻りたまえ」
「冗談じゃない、あと二分で結界中和は完了し、北海道結界の外に出られるのだ。これ以上、この艦や民間人を危険に晒すことなどできない」
「艦だ? 民間人だ? そんなくだらない感情は捨てろ、あの魔力を知りたい、あの戦闘力を解析できれば、対妖魔戦において我々人類が遅れをとることなどなくなる……さぁ、早く戻りたまえ」
そう叫んだマイスター・白音だが。
オモイカネは転進することなく、その場で結界の中和を続けている。
「何故だ、何故わからない?」
「この艦の責任者は私です。予定通りに戦闘海域を離脱します。あなたの言葉は全て、特務機関に報告させてもらいますので」
「この石頭が!!」
そう叫んだのも虚しく、結界は中和され駆逐艦オモイカネは北海道結界を後にする。
まあいい、それなら彼らから直接話を聞くだけだよ。
必要ならば、洗脳術式を使ってでも、我らが機関に取り込むだけだからな。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




