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【書籍化】ネット通販から始まる、現代の魔術師  作者: 呑兵衛和尚
第七部・災禍の赤月、或いは世界滅亡へのカウントダウン
388/586

第387話・国士無双? 蒔かぬ種は生えぬ(滅びの未来と、まもるべきもの)

『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週火曜日と金曜日を目安に頑張っています。

 秋田県・遠野市郊外


 謎の空間によって連れ去られた天羽太郎総理大臣は、この郊外に一軒だけ建てられていた古い日本家屋へと招待されている。

 この世界にきた当初、自分自身に何があったのか理解できなかった天羽。

 だが、少しして小さな提灯を手にした子供が彼を迎えにくると、何が起きたのかを理解するための情報収集を開始したのである。

 

「遥か彼方、星々の一つである世界からいらしたお客様。まずは、私たちの長とお会いしてください。そして、何が起きているのか、それを知ってほしいのです」

「長だって? いや、そもそもここは……どこなんだ」

「ここは、可能性の未来の一つであり、聖徳王の天球儀によって作り出された世界のひとつ。天羽さんの住む『カグヤ』とは異なる地球です。まあ、詳しい話については長から直接聞いてください」


 そう告げる子供に手を引かれ、天羽は屋敷の中へと入っていく。

 遠野特有の曲がり屋風の屋敷、外から見た限りは普通の一軒家であったはずが、玄関から入り縁側を抜け、いくつもりの曲がり角を曲がっていくうちに、今いる場所が見た目の大きさでないことを天羽はようやく理解した。

 

「……位相空間、もしくは拡張空間の屋敷……というところかな」

「よくごぞんじで!! 人の身でそれを理解できる人はあまりいないのですよ。ひょっとして、お客様にも魔術の素養がおありとか?」

「いや、魔力はない方だ……確か31マギカスパル、魔術よりの闘気というのが、この俺の魔術素養だったはずだからな」

「ふむふむ。まあ、人としてはそれなりに高いということは理解できます、ひょっとして日本政府の退魔機関で検査をされたのですか?」


 日本政府の退魔官。それはつまり内閣府公安委員会所属のものだろうと天羽は考えたのだが、子供の口からでた続きの言葉に、天羽は息を飲み込んでしまった。


「でも、八咫烏からの報告では、お客様ほどの魔力素養がある人がいるっていう話は聞いていませんね。草薙剣もしくは八咫鏡に所属されているとか?」

「い、いや……そのような機関は聞いたことがない。俺は日本政府の人間でね、それも、さっき君が話していたカグヤという世界の住人だからな」

「あ、そうでした……これは失礼をしました。いえ、久しぶりに魔力素養がある人と出会えたので、うれしくてつい……と、こちらです」


 ようやくたどり着いた奥座敷。

 子供はその襖の前に静かに正座して軽く一礼すると、座敷の外から声をかける。


「長さま、カグヤのお客様をお連れしました」

『うむ、入るがよいぞ。それとウスツキに、お茶を用意して欲しいと頼んでくれるかや?』

「かしこまりました。それでは失礼します」


 そのまま一礼して、子供はその場から立ち去る。

 そして天羽はというと、襖の前でどうしてよいのかと思案をしていた。


『お客人よ、中に入ってくるがよい。本当なら妾が迎えるべきなのじゃが、妾はこの部屋から外には出る事かなわぬゆえ』

「そうですか。では、失礼します」


――スッ

 正座して一礼したのち、体が入る程度に静かに襖を開けると、天羽はもう一度一礼したのち、こぶしを握った手で体を支えるように、室内へとにじり入っていく。

 そして襖を閉めようと振り向こうとしたが、ゆっくりと襖が閉ざされていったので改めて室内を見渡した。


――ヒュゥゥゥゥ

 部屋の壁が見えなくなるほどの大量のしめ縄や呪符が、正面左右、そして天井を覆いつくしている。

 そして部屋の中央にある囲炉裏の向こうに、着物姿の女性がたたずんでいた。


「初めまして……私はこの遠野の管理者であり、八百万の時と星にすまう妖の主人。名は様々ゆえ……そうですね、では、この場では愛宕(あたご)と申しておきましょう」

「私は日本国内閣府総理大臣を務めます、天羽太郎と申します。こちらのみなさまの言う、カグヤという世界が、私の故郷ということになりますが」

「ええ、存じ上げています。カグヤの私は、かつて遠野を追われ京の古い宿に幽閉されていた身です。それゆえに、外の情報については詳しくはなかったのですけれど、外に出られるようになってからは、貴方の名前もうかがっていますので……」


 天羽には彼女の言葉の意味のいくつかは理解できないが、少なくとも愛宕がカグヤにもいたという事実は理解できた。


「愛宕さまは、私たちの世界にも来ていたということですか」

「いえ、カグヤにもいた、というのが正しいかと。あまたの世界が存在し、星の数より多い魂があろうとも……われらの魂は一つ。それゆえ、私は世界を見、妖たちをすべています。ここにいても、私はカグヤの私と繋がっています。全にして個、個にして全、そう告げるなら理解していただけるでしょうか」

「生命の起源……ですか。それで、私がここに案内された理由というのは」


 単刀直入に問いかける天羽。

 へたな小芝居や小細工など無意味であり、なおかつ、韻を含んだように言い方は必要ないと判断した。

 それは正解であり、愛宕は一度天井を見上げてから、天羽の方へ向き直る。


「まず、私たちからカグラの皆さんへ伝えたいことがあります……遠くない未来、ある事件をきっかけに魔力大消失が起こります」

「それは、私たちの世界でですか」

「ええ。信じていただけるかわかりませんけれど、三つの月が正しく重なる時期が訪れようとしています。そして、月が重なり合った時、世界に存在する、魔力によってもたらされたものがすべて力を失うことになるでしょう。それはほんの数年の間、三つの世界が一つに重っている間は続きます」

「私たちの世界には、魔力がほとんど存在しません。それで魔力が失われるといわれましても、とくに害はないかと思われますが」


 そう告げる天羽だが、愛宕は静かに頭を振った。


「貴方の住むカグラ、ミラーワーズ、そしてソーマヴィッター。この三つの世界から魔力が失われるのです。この三つの世界のうち、魔力によって支えられているのはミラーワーズとソーマヴィッターの二つ。ですが、カグラもまた、滅びの道を歩むことになります」


 それは何故?

 自分たちの世界は魔法文明ではない、むしろそれらの事象から最も遠い世界であると天羽は考えたが。

 すぐに、一つの可能性について考えてしまった。


「魔力喪失はすなわち、世界各地に封じられている悪鬼羅刹の復活……ということですか」

「ええ。人の身に宿る魔力が失われることはありません。ですが、この魔力大消失が齎す災禍はそんなに優しいものではありません。それを伝えるべく、私は禁を犯して彼らを導きました。三つの世界の旅の終焉がこの地であり、貴方と出会い、この事実を知ること。彼らは自分たちの目で見て、自らが知った事実とどのように向き合うのか。そして災禍を躱すための道しるべを探してほしいのです」


 愛宕が告げる彼という存在。

 それが誰のことをしているのか、天羽には心当たりがあった。

 物質世界において魔術を再び世に知らしめた存在。


 乙葉浩介、築地祐太郎、新山小春、瀬川雅、この4人の魔術師が、愛宕の告げる彼であろうと考えたのである。

 そしてその思考を読み取ったかのように愛宕はクスリと笑うと、部屋の外で待っている少女に室内に入るようにと促した。


………

……


 重い話から一息入れて。

 ウスツキという少女が運んで来たお茶とお茶菓子をつまみつつ、天羽は先ほどの愛宕の話を頭のなかで反芻している。

 これまでも、地峡で魔族がらみの事件が起こった時、乙葉浩介たちが手を差し伸べてくれた。


 札幌市妖魔特区の転移門、アメリカのメサに現れたエルフの救出、国会議事堂にやって来た異世界の侵攻軍との戦い……。

  

 これら未曾有の危機を救ってくれたのは乙葉たち。

 それならば今回もという考えは起こらず、むしろ今度こそ彼らの手を煩わせないようにしなくてはと考えるのだが。


「いくつか聞かせて貰えますか」

「どうぞ」

「三つの月が重なるといいましたが。それは、私たちの世界でのことですか? 知っているかもしれませんが、私たちの世界では、月は一つしか存在しません。それが重なるといわれましても、何かこう、意味が分からないのです」

「そうですね。では、三つの月について簡単な説明をします。まず、先ほど説明した三つの世界では、自分たちの世界以外の二つの世界と、『封印大陸』という世界が月のように空に浮かび上がっています。それは、決して手が届く場所には存在しない、位相空間にある世界そのもの。それがまるで、レンズのように空に浮かびあがっています。それが『月』と表現されています」


 だが、地球からは目視できない。


「当然ながら、世界というのは一つの場所にはとどまっていません。ゆっくりと世界を包む球体のようなものの中で揺蕩っています。それが偶然重なり合う時代、それが『災禍の赤月』と呼ばれる現象を起こします。ただ重なるだけでなく、すべての世界から見た月がすべてそろわない限り、これは起こりえません……ただ、それを起こそうとしているものがいるのです」

「……起こすとは?」

「それは私からは告げられません。ですが、悪しき意思の集合体であるそれは、まもなく活動を再開するでしょう……失われた力を取り戻すために……それこそが、世界全てが崩壊へと進む始まりとなります……」

「だが、そんな世界が崩壊したとして、悪しき集合体とやらはどうするのです? 世界征服? それともなにか崩壊させることに意味があるのでしょうか」

「破壊神は、破壊することが使命……ゆえに、この三つの世界を破壊したら、また次の世界へと旅立つでしょう……そういうものなのです」


 ザワッ

 愛宕の言葉に、天羽は寒気を覚える。

 冷汗が背中を伝わり、胸が締め付けられるように苦しくなってくる。

 ただ、破壊することだけが目的。

 そんな化け物を相手に、どうやって戦うというのか。

 いや、それよりもどうやって止めるのか。

 まったくと言っていいほど、答えが出てこない。


「私は、何をするべきでしょうか」


 思わず、そう問いかける。

 すると愛宕の姿も、薄く透き通り始める。


「彼らに、このことを伝えてください。私は彼らと一度、干渉してしまった。だから、二度と干渉することはないのです……まもなく彼らは、この世界にやってくるでしょう。その時には、彼らをここに、この遠野に迎え入れてください……」


 そう告げて、愛宕の姿は消えた。

 そして、天羽の目の前には愛宕の代わりに、小さな少女が座っていた。



誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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― 新着の感想 ―
[一言] 突然のアーニャ参上にびびりましたw(なるます→なります)ですよね。誤字報告しておきました。シリアスだったのにズコーとなりましたよw
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