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【書籍化】ネット通販から始まる、現代の魔術師  作者: 呑兵衛和尚
第七部・災禍の赤月、或いは世界滅亡へのカウントダウン
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第三百八十三話・奇想天外、駿河の富士と一里塚(法則性と対策と報告と大佐)

『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週火曜日、金曜日を目安に頑張っています。


書籍第五巻は鋭意製作中。

続報をお待ちください。

 無事にカイン大佐を連れてラナパーナ王国から帰還した翌日。


 前日の簡単な報告に続きまして、俺と祐太郎は札幌テレビ城外の広場に作られたテントの中に作り出された深淵の書庫アーカイブの中に座っています。

 外では、サイバーパンク風のゴーグルを装着した新山さんと、その横で空中にコンソールを浮かべて操作している瀬川先輩。

 昨日の情報交換では幾つかの不明点があったので、深淵の書庫アーカイブにてさらに深い調査を行いたいということで、俺たち二人は呼び出されましたとさ。


「新山さん? そのゴーグルってナンジャラホイ?」

「これは、深淵の書庫アーカイブの端末の一つですよ。目に見えない空間波長だったり、人のバイオリズムデータなどを解析することもできるそうで」

「はぁ、なるほどなぁ。そのゴーグルをつけて丸いシールドを持ったら、何処かのグランドオーダーのコスプレイヤーにしか見えないよね。マシュっているよ」

「ましゅっているの意味がよくわかりませんけれど。まあ、それじゃあ先輩、お願いします」

「はいはーい。では、乙葉くんと築地くんは、二人を助け出したところまでの記憶を蘇らせてね。それを深淵の書庫アーカイブで抽出して解析しますので」

「……先輩? あの、深淵の書庫アーカイブってそんなことできました?」


 予想外の高性能を発揮する深淵の書庫アーカイブ

 でも、以前はそこまでのパワーはなかったよね?


「最近になってですね。ムーンライト様の加護が完全覚醒したようでして。おそらくは、世界中のスパコンを繋いでも深淵の書庫アーカイブの解析能力には敵わないと自負していますわ」

「……こわ!! それで、俺たちの記憶を読み取って解析するということですか」

「そういうことよ。二人が見て聞いて、感じたこと全てを元にデータ化し、それを解析します。体には副作用もありませんからご安心してください」

「プライベートな部分はカットしてくれると助かるが」


 うん、祐太郎。そこは重要な。

 見聞きしたこと全てっていうことはつまり、個人的に見せたく無いことまで見られてしまうわけで。

 そう祐太郎が問いかけると、先輩もやれやれと困った顔。


「そんなことはしませんわ。では、始めますわよ」

「そうだよね……」

「待てオトヤン!! おそらくオトヤンは、自分の頭の中の考えに対して先輩が呟いたと思ったろ? 今の返事の流れを考えろ!」

「カットしてくれると助かるが……そんなことはしませんわ? え? 」

「冗談ですわ。では、始めますわよ」


 深淵の書庫アーカイブが虹色に輝き、内部モニターにさまざまな情景が浮かび上がる。

 それが、俺や祐太郎の視点からの風景であったり、俺たちの言葉や耳に入ってきた音の全てが小さく流れているのもわかる。

 うわ、これはとんでもない才能を発揮したものだよ。

 犯罪捜査に役立つレベルだなと、思わず感心。

 俺たちも何か見誤っていないかとか、聞き逃したことがないかと二人で手分けして調べていたんだが。

 特に、おかしい部分は……。


「オトヤン、そこ、その風景をアップできるか?」


 祐太郎が、俺の前のあるモニターを指差す。

 映っているのはラナパーナの王城前、ちょうど俺たちが到着してフリューゲルさんと話をしていたシーンだな。

 

「ここか? どやってアップに? こう?」


 スマホの画面を大きくするように、親指と人差し指で操作してみると。


──ヴン

 大きくなったわ。

 そしてそこ、俺たちから見て右斜めにある屋敷の物陰に、見知った男の影。


「……はぁ?」

「な、そこにいるだろ? 同じような人かなと思ったんだが、服装も俺たちの世界のものだ。どうしてそこに、陣内がいるんだ?」

「陣内だよな? 上級人魔の……って、祐太郎、確か陣内は囚われて魔力を封じる枷をつけられているはずだよな? どうしてそこにいるんだ?」

「わからん。同一人物なのか、それともそっくりな人か……」


 確認のためにスマホを取り出し、忍冬師範に連絡を取ろうとしたが。


「待って乙葉くん。余計なことをすると抽出データを破損するかもしれないわ。今の話なら私にも確認できたので、新山さんに連絡を取ってもらうわ」

「ふぅ……わかりました。新山さん、あとはお願いね」

「はい。それじゃあ……」


 データ抽出中の深淵の書庫アーカイブの中では、外で何が起きているのかさっぱりわからない。

 だから、全て新山さんにお願いをして、俺たちは再び、記憶の呼び起こしに専念することにした。


………

……


──五時間後

 深淵の書庫アーカイブが消滅し、俺たちもようやく解放された。

 朝一番で記憶の抽出を始め、今はもう昼過ぎ。

 途中のトイレと水分補給もあったけど、ぶっちゃけ腹が減って死にそうです。


「……祐太郎、浩介。新山さんから連絡を受けて確認してもらったが、陣内議員は東京の特別拘置場にいるらしい。確認は取ってもらったし、魔族の囚人ということで二十四時間の監視も付いている。特に姿を消したとか、そういうことは確認されていない」

「ありがとうございます……そうなると、似たような人物説が有効か。記憶の中の端っこにいた存在だから、見間違いという可能性も……でも、映像ではしっかりと映っているんだよなぁ」

「その辺りも踏まえて、このあとは深淵の書庫アーカイブでの解析作業を行います。明日の朝までには終わるかと思いますので、乙葉くんと築地くんは明日の出発前、昼過ぎでも構わないからここに来てくれますか?」

「それは構いませんよ。ぶっちゃけ、一晩じっくりと眠らないと魔力が回復しないような気がしますから」


 俺の言葉に祐太郎も同意、コクリと頷いている。


「それで忍冬師父、カイン大佐の容態は?」

「今日から一週間の検査入院だ。さすがに異世界から帰ってきたという事実があるので、病気や未知のウィルスが感染している可能性があるという理由をつけて、検査をするらしい。ちなみにアメリカ政府からは、即時引き渡しを要求されているらしいけどな」

「そりゃそうですよ。ちなみにカイン大佐も魔術師になりましたからね」

「それも理由の一つだ。また、お前は無茶なことをして……はぁ、説教はまた今度にする、今日はゆっくりと休め」

「「うっす」」


 よし、お小言は回避した。

 ちなみに深淵の書庫アーカイブでの記憶抽出にも俺たちの魔力や闘気を吸い込むらしく、残存魔力は半分しかない。

 

「よし、焼きそばでも食って帰るか?」

「上手いのは札駅前の焼きそば屋さんだが……」


 妖魔特区内なのでむーりー。

 ということで、俺と祐太郎の二人は自宅へと戻り。

 瀬川先輩と新山さんが解析作業を続けてくれるそうで、実働班の俺たちは束の間の休息タイムです。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



── 札幌医科大学附属総合病院

 一週間の検査入院。

 そういう名目で、日本の政治家たちが俺を調べようとしているのはわかる。

 だが、予想外に病院内での検査は一般的であり、尿検査や血液検査をはじめ、日本でいうところの『人間ドック』のちょっと大袈裟なものぐらいと認識している。

 

 私物も検査のために預けられたが、翌日には全てが返却されたのは幸いであるが……スマホの中身を確認したいと言われた時は、速やかに拒否をした。

 また、異世界から持ち込んだ魔導書についても、今後の研究のために提出して欲しいと求められたが拒否。

 そもそも、この文字を読み解ける人間がいるのかと、頭を傾げてしまう訳だが。


「ふぅ。今日も訓練で終わらせるか」


 乙葉浩介から聞いた、魔法の訓練。

 夜、寝る前には魔力を限界まで使う。

 そうすることで、自然回復量が増えるのと、魔力のキャパシティも増えるらしい。


「灯りよ、我が手に集え」


──ボゥッ

 魔導書を開き、灯火(トーチ)の魔法を唱える。

 すると、右手のひらの上に、光の球が生み出される。

 ヘキサグラムの魔導セクション、そこに登録されている2人の魔導士も、初めて乙葉浩介から学んだ魔法がこれだったらしい。


「この本は、生活魔法しか記されていないと話していたな……軍人としては、やはり攻撃魔法を覚えたいところであるが……」


 生活魔法の利点は、魔法の発動に必要な触媒が少なく、このように灯火(トーチ)程度なら魔力だけで発動するということ。

 だが、攻撃魔法や防御魔法といったものを唱えるには、魔力だけでは補いきれないらしい。

 

「……一度の発動で30分。俺が一日に使える魔力量は、これを四つ作り出すと枯渇する。魔導書により消費魔力は抑えられている……か」


 パタン、と魔導書を閉じ、枕元に置いておく。

 盗難の心配もあるので、魔導書は透明の袋に収めてから鎖で腕のリストバンドに繋いである。

 一度でも契約した魔導書は、他人に使うことができないと乙葉は教えてくれた。

 だが、油断は禁物、解析だけならば可能かもしれない。

 そして、この魔導書を俺はどうすれば良いのか。


「速やかに報告書と共に提出するべきか、それとも俺個人の財産として所有しておくべきか……」


 渡せば最後、二度と俺の手元に戻ってくることはないだろう。

 この本を完全に解析し量産化に漕ぎ着けられたなら、アメリカは世界最大の魔導大国として名乗りを上げることができる。

 恐らくは、現アメリカ大統領もそれを望んでいるであろう。


 だが、これは機関の予算で入手したものではない、俺の手持ちの物品を買い取ってもらい、それを元手に入手したものだ。

 そして乙葉浩介から魔導の真髄についての話も聞いた。

 いや、本当に触りだけ、全てを知るのは、まだその時ではないと乙葉は話していたから。


「ふぅ……俺よりも先に救出された中国の政務官も、俺と同じ気持ちだろうなぁ……一度でも知って仕舞えば、これは手放すには惜しい」


 まあ、全ては検査が終わり、アメリカに戻ってから。

 それにしても、隣の部屋から時折、悲鳴のようなものが聞こえるのはなんだろうか。

 この階はVIP専用の特別病棟だけだから、あそこまで悲鳴を上げるような容態の患者がいるとは思えないし。

 それに、豚に襲われる、搾られるとは、なんなのだろうか。

 このことは、報告する必要もないか。

 やれやれ。

 

いつもお読み頂き、ありがとうございます。

誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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