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【書籍化】ネット通販から始まる、現代の魔術師  作者: 呑兵衛和尚
第七部・災禍の赤月、或いは世界滅亡へのカウントダウン
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第三百八十二話・一期一会、海のものとも山のものともつかぬよね(霊峰の主人と、世界の仕組みと)

『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週火曜日、金曜日を目安に頑張っています。

 はい。

 久しぶりの冬山登山に、心ウキウキすることもなく周囲を警戒しまくっている俺ちゃんです。

 まさかの墜落に動揺するものの、予備の魔法の絨毯で移動は可能だから、慎重に霊峰を越えることにしましたが。


「……やっぱりおかしい。いくら経年劣化の可能性があるとはいえ、魔導具が壊れるなんて事態はそうそうにあるものじゃない。ましてや、まだこの魔法の箒だって購入してから二年ぐらいだぞ? 毎日乗っていたからといっても、そこまで劣化するか?」


 俺と祐太郎の乗っていた魔法の箒は、墜落の衝撃で破損。

 今は、その壊れた場所とか原因を、移動しながら調べているんだが。

 絨毯の操縦は祐太郎に任せて、俺は後ろの方で天啓眼てんけいがんを駆使しつつ解析作業を続けている。


『ピッ……魔力枯渇及び◯◯◯の⚪︎△による経年劣化。築地祐太郎所有の魔法の箒と乙葉浩介所有の魔法の箒では、劣化の度合いが違います。また、内部魔力回路も損傷部位があるのと、錬成が終わっていない部分も発生……』

「んんん? 魔力回路の損耗が部位によって異なっているっていうことか?」

『否……魔力回路の一部は、製造から1200年以上も経過していますが、別の場所ではまだ回路自体が完成していません』

「……ん?」


 待て待て、そいつはどういう事だ?

 完成から1200年経過した場所もあれば、まだ術式が回路に定着していない部分もあるっていうことか?

 時間の流れがおかしい?

 それとも、時間が逆行している?

 

「祐太郎……この霊峰って、かなりやばいかもしれん。時間の経過がおかしい」

「……なるほど。因みにオトヤンに質問だが。魔法の絨毯の予備はあるか?」

「まだあるにはあるが……ってまさか?」


──ビリィィィィィィィッ

 俺の返事と同時に、魔法の絨毯が真ん中から真っ二つに裂けた。

 その瞬間に俺たちは地面に落下したけど、雪面から1メートルほどの高さで飛んでいたからダメージは軽微。

 膝上ぐらいまで埋まったけれど、この程度ならまだなんとでもなる。

 伊達に、学校の冬季スキー実習で校舎敷地外の原生林を駆け抜けちゃあいない。年に二、三人は授業中に遭難するからな。

 まあ、言うても校舎の裏、体育の教科担任がすぐに見つけて問題なく授業は再開するからさ。


「はぁ……今度は絨毯かよ。こいつは俺の作ったやつだから、素材はしっかりして……」

『ピッ……絨毯の繊維が風化しています』

「ウッソだろ?」

「オトヤン、どうし……って、風化? まさかとは思うけど、この霊峰って時間の流れがおかしいのか?」


 祐太郎もどうやら答えに辿り着いたらしい。

 いや、俺もそんな予感はしたんだけどさ、まさかここまで顕著に現れるとは思っていなかったんだよ。

 

「そのようだけどさ。俺たちの姿が変化していないのは、どう言うことなんだろ?」

『許可証を持っているからな……それを持つものは、時空嵐の影響を受けないのだが、身につけていないものは多少なりとも影響を受けてしまう』

「「!!」」


 はい、重低音の声が周囲に響きました。

 守護竜さんの登場のようです。

 祐太郎は声が聞こえた瞬間にブライガー旋風モードに換装して構えているし、俺も瞬時に白銀の賢者ローブに装備を変更したよ。

 

「守護竜……か?」

『さん、を付けろ』

「守護竜さん?」

『それで良い』


 意外とそのあたりはきっちりとしていましたか。

 いや、付けろって言われた後に、デコ助野郎って言われるかと思ったけど、流石に俺たちの世界の流行りは知らないよなぁ。


「一つ教えて欲しいんだが。俺たちが乗っていた魔導具の風化について、それはこの霊峰の影響なのか?」

『そうだな』

「それじゃあ、この先も、同じように魔導具で移動したらやっぱり風化するのか?」

『……』


 あれ、返事がない。

 この質問は気まずかったのか?

 そう思って祐太郎を見ると、何か納得したらしく手をポン、と叩いていた。


「守護竜さん、俺たちの質問に答えて欲しい。この先、この霊峰を越えるために魔導具を使った場合、それらも風化するのか?」

『そうだな。この霊峰を流れる風は、時を進める力と時を戻す力がある。それが何故、どのように流れているのかはワシも知らん。だから、この先は歩いて進むか魔導具を大量に壊す覚悟で進めば良いかと』

「あれ、なんで俺の質問には答えてくれなかったんだ?」

『……』


 俺は無視かよ。

 祐太郎の質問には答えたのに、俺の質問に……あ?


「オトヤンの質問には、一つしか答えてくれなかったろ? 一つ教えて欲しいって話したからだと思うぞ」

「素直かよ!!」

「そうらしい……それで話は戻しますが、俺たちが霊峰を越えることについては、問題はありませんか?」

『許可証を持つならば、ワシがどうこうすることではない。通りたければ勝手に通れば良いし、帰るなら帰ればいい』

「ここから霊峰の向こうへは、どれぐらいの距離があるのですか?」


 祐太郎が慎重に質問を繰り返している。

 うん、俺も聞きたいことがあるんだが、質問は一つだけって話してしまったからなぁ。


『さあ。世界を超えるほどの距離もあれば、隣の家の塀を越えるぐらいの距離かもしれん。三つの世界のバランスにより、距離と時間は常に変動する』

「今は、近いのか?」

『さあな。ワシには距離の概念は難しすぎる。目の前の扉との距離を測るにせよ、基準がなければどう説明すれば良いか分からん。近い……とは、どれぐらいなのだ?』


 あ、これは俺にも分かりづらい。

 距離の概念とか時間の概念って、正確な物差しはあっても経過とかはその人それぞれの感覚でしかないからなぁ。

 何もやることがなくボーッとしている一時間と、熱中しているソシャゲに一時間かけていたとしたら、やっぱり体感的にはソシャゲの方が時間は早く進むよなぁ。

 でも、経過している時間は同じなんだよ。

  

「……俺のうちとオトヤンのうちは近いよな?」

「隣だからな。まあ、祐太郎のうちの母屋からは離れているが、そんなに遠くないし、歩いてすぐだからなぁ。庭を通り抜けたらすぐそこだよな?」

「と言うことなので、俺が歩いて五分以内が近いということで。まあ、人それぞれに感覚はちがうから、一概に全ての人の距離と時間の概念が同じではないことは補足しておくが、これで納得したか?」


 うん、ナイス祐太郎。

 自分なりの説明と、全て同じではないことも付け加えて補足を入れるあたりは、さすがだわ。


『……では、近いと思えば近いはずと、答えておこう』

「曖昧だなぁ。でも、ここはそう言うところなのか?」

『さあな。少なくとも、許可証を持たないものは出ることもできない……それ以前に、壁を越えて入ってくることすら不可能であろうな』

「そうか、ありがとうよ」

「はぁ。これでこの問答も終わりか」


 ふと、空を見上げる。

 あいも変わらず月が三つ。

 昼間なのに見えるのは何故かよくわからんし、あの三つの月の一つが俺たちの世界だっていうことも、ポリンさんの説明で理解したし。

 でも、宇宙の概念のある異世界って面白いと思ったが、そもそも異世界って星単位じゃないってことを改めて理解させられたよ。


「なあ、祐太郎。あの三つの月までの距離って、ここからなら近いのか?」

「はぁ? いきなり何を聞き始めるんだ? まあ、聞いてみるか。まだ姿の見えない守護竜さん、あの空に浮かぶ月までの距離って、ここからなら俺の感覚的に近いのか?」

『この霊峰ストンウィルは、何処にでもありどこにも存在しない。揺蕩う世界の柱の一つ、鏡刻界ミラーワーズを安定させる霊峰。そして、すべての世界への扉であり道。汝が求め、歩むならば、隣の家ほどの距離しか存在しない』

「……うん、祐太郎、とっととここから出たほうがいい。ぶっちゃけると、ここは危険な場所だわ……」


 全てに繋がる場所だなんて、自分たちにどんな影響があるかわかったものじゃない。

 それこそ、ここを起点にすべての場所に向かえるって言うことだろ?

 もしもそれをフェルデナント聖王国が知ったとすると、ここを攻めてくるだろうしここから異世界侵攻だって不可能じゃない。

 でも、魔族もこの霊峰のことを知らないとは思えないけど。

 知っていたら、長い時間をかけて転移門を作り出すなんて言うことを考えるとは思えないんだけど。


「それじゃあ、俺たちは先に進ませてもらうわ。守護竜さん、ありがとうな」

「助かりましたよ。ありがとうございます」


 俺たちは、どこにいるかわからない守護竜に頭を下げる。

 魔法の箒二つと魔法の絨毯を一つ、それと引き換えに色々と話を聞くことができたから、それだけでも良かったことにしよう。


『今はまだ、三つの世界は離れている。だが、それが一つに重なる時がやがてくる。その時は、すべての神が力を失う……気をつけよ、それは遠くはない』

「……守護竜さんの感覚の、遠くはない……か。俺たちにとって、どれぐらいの時間なんだろうな」

「分からんわ。でも、忠告は受け入れます、ありがとうございます」

『……では、またいずれ……』


 気のせいか、先程まで感じていた守護竜の気配を感じなくなった。

 まだどこかにいるのか、それとも立ち去ったのか、俺たちが気づかないのか。

 その辺りがあやふやだけど、もうここには用事はないと思う。


「さて、それじゃあ行くか。霊峰を超えた先も、まだ王都までは距離があるからな」

「そうなんだよ。まあ、絨毯の予備ならまだあるけ……待て待て、祐太郎、俺に妙案ありだ」

「妙案?」


 そう。

 さっき守護竜が話していた概念の話。

 ここからなら、一瞬で王都までいけるんじゃね?

 概念で距離が変動する場所なら、逆に思い込みで距離はコントロールできるんじゃね?

 そのことを説明して、お互いに覚悟を決めて一歩、同時に踏み出すと。


──フッ

 目の前には、何度か見たことのあるラナパーナ王城城壁。

 振り返ると、そこはククルカン中央へと向かう街道。

 さっきまでの雪景色から、暖かい春の日差し。

 

「距離と時間の概念……なぁ、オトヤン。あの守護竜の正体って、ひょっとしたら」

「祐太郎、それ以上は詮索しない方がいい。相手は神かも知れない……っていうか、多分、それ」


 時間と空間を司る神ア・バォア・グゥ。

 もしくはその眷属、星狼かその仲間か。

 そんな上位存在だからこそ、あの場所を守護していたのかも知れない。


「……オトハ? それにツキジも。いつ、ここに到着した?」


 そして俺たちの目の前、正門からはラナパーナの騎士とフリューゲルさんが歩いてくる。

 気のせいか、その奥にある金髪にスーツ姿のアメリカ人のような雰囲気の人も見えますが、まさかこれでミッションコンプリート?

 よし、これは幸先がいい。  

 残るは天羽総理一人、果たしてどこにいるのやら?

 


いつもお読み頂き、ありがとうございます。

誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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