第三百八十一話・支離滅裂、隣は何をする人ぞ?(魂の輝き? 命の煌めきではないよな?)
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探し人であるアメリカのカイン・マッカーサー大佐は、どうやらラナパーナ王国のフリューゲルさんが保護しているようで。
それなら俺たちも、すぐにそこに向かえばいいだけで、これでミッションは完了……って、そんな簡単な話ではなく、ラナパーナに向かうためには、霊峰【ストンウィル】を越えなければならないという。
しかも、霊峰にはお約束のように守護竜が存在するらしく、つまり俺たちはここから先に向かう事も戻る事もできないという事態に突入したかと思いきや、通行許可証を発行してくれるそうなので、これで何事もなくラナパーナへと向かうことができるようです。
「あの、乙葉さまが上の空のように見えるのですが」
「ご安心ください、いつも通りです。おそらくは今後の動向について策を巡らせているのだと思います。なあ、オトヤン、そろそろ帰ってこい」
「おう。大丈夫だ、ここから先は最高速度でラナパーナへ向かうだけだからな」
そう祐太郎に返事をすると、守護聖女のポリンさんが小さな箱を持ってきてくれたようで。それに、なにやら祐太郎と話していたらしが、すまん、その辺りは聞いていなかった。
「では、改めまして」
ゴホンと咳払いをしつつ、ポリンさんが箱を開く。
そして中に収められているペンダントを取り出して、俺たちに手渡してくれた。
「これは、あなたたちの魔力と私の魔力により生み出された、聖女の証と呼ばれるものです。これを所持していれば、守護竜は貴方たちが霊峰を越えることをお許しになる筈です」
「これが、霊峰の通行許可証のようなものか……ありがとうございます」
「助かった。これでカイン大佐を連れて帰ることができる」
祐太郎と二人、ポリンさんに頭を下げる。
そして受け取ったペンダントを首から下げると、ペンダントトップについている水滴のような形の水晶が、淡く光り始める。
「おお? いきなり光り始めたが」
「俺のも光っているが。俺とオトヤンのは色が違うのはどういうことなんだ?」
そう祐太郎に言われて、改めて俺と祐太郎のペンダントトップを比較した。
「俺のは薄い紫色? そんな感じに光っているんだが」
「俺のは青色か。ポリンさん、この色に何か意味があるのか?」
「こ、これはまさか、オーラの輝き?」
まあ、漫画とかアニメではよくあるやつ。そう思って問いかけてみたんだけれど、ポリンさんが額に指を当てて、渋い顔をして何か考え込んでいる。
「ううんと……築地さんの持つ魂の力は青。冷静さと柔軟さを兼ね備えつつ、慎重に物事を考える力を持っています。深い愛情を持ちながら、時には冷酷に突き放すこともできる……決断力が高い……闘気使い……うん、武神ブライガーが認めた使徒だけのことはあります。今のままの貴方でいてください。貴方の闘気は底が知れません」
おお? まじでそういう感じの色なのか。
オーラの輝きとか、命の光、それがこのペンダントトップに映し出されたのか。
そういえば、かなり昔、目に魔力を循環させた時には、俺にも人の持つ魔力の色っていうのが見えていたんだよ。
最近はずっと、ゴーグルのサーチ能力に頼っていたからさ、すっかり忘れていたよ。
「……乙葉さんのは、うん、独特の価値観を持っている方なのですね。これからも頑張ってください」
「は、はぁ? それだけ?」
「はい」
「祐太郎のように説明とか、アドバイスは?」
「乙葉くんの魂の輝きは、紫。それもより深く優しく、限りなく銀に近い紫なのです。これは魂の力、霊的資質を表すのですが、逆に自由奔放さと独特的な価値観を持つものという意味合いも含まれています。貴方は魔術師、それも異世界でただ一人の魔術師。それゆえに、他者の教えにより染まることなく、他者に染められることもない……ただし、その力を制御できないなら、その先にあるのは破滅です」
うっそだろ?
いきなり詳細説明されたと思ったら、俺、破滅に向かう可能性があるって言われて動揺していますが。
「……それで、俺はこれからどうすれば?」
「さぁ? 自分自身で考えるのが良いかと。それが、貴方の生き方なのでしょう?」
「……う〜ん。よく分からないが、まあ、今のままでも構わないんだよな?」
「そうですね」
つまり、何も分からないし対策もわからないから今のままで良いと。
うん、わかったような分からないような、そういうあやふやな存在が俺なのか。
「オトヤン、まずは先に進もう。今の話だって、あくまでも指針でしかない、己の運命は、己で切り開く。それで良いんじゃないか?」
「まあ、そういうことにするか」
結論、今と変わらず。
そして俺たちの言葉にポリンさんも微笑んでいるので、それで問題はないようだ。
「では、お気をつけて」
「ええ。それでは、失礼します」
「ありがとうございました」
ポリンさんに礼を告げてから、俺と祐太郎は箒を取り出して跨ると、勢いよく高度を上げる。
俺たちの方を見ていたらしい人々が驚いていたけれど、まあ、またこの国に来るとも思えないからこのまま逃げることにしますか。
「このまま高度を上げて、水平飛行で山の向こうへ向かうか」
「それが無難だな。まず、上空の雲を越えてから、正面に聳える山へと向かう。そのあとは山を越えてから高度を下げる……ってことで、それゆけレッツゴー」
──キィィィィィン!!
急角度で上昇を開始。
そのまま雲を突き抜け、雲海の向こうにまだ聳え立つ霊峰へと向かう。
やがて周囲が霧に包まれて視界が悪くなったので、俺たちはゴーグルを装着して障害物がないことを確認しつつ、少しだけ速度を落として霊峰の上へと向かうことにした。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
──ラナパーナ王国王都、ククルカン
王城・城壁内にある小さな屋敷。
その居間で、カイン・マッケンジーは頭を抱えていた。
外交官としての交渉は失敗に終わり、しかも帰るすべさえないと言われてしまった。
ただ、乙葉たち現代の魔術師が迎えに来る可能性もあるので、それまではこの屋敷に滞在していいと告げられたものの、何をしていれば良いのか、全く見当がつかなくなってしまった。
今日の午前中は市街地の散策を行い、商店街のような場所で買い物を楽しもうと考えたものの、この世界のお金を持ち合わせていなかったため、持ち物を買い取ってもらうことになった。
結果として、失っても気にならないと腕時計を買い取ってもらい、それを元手に色々なものを購入して戻ってきたのである。
「……はぁ。どうして、このようなものを買ってしまったのだろう」
目の前のテーブルには、小さなナイフと一冊の書物。
カインは魔法について色々と知りたいと思い、そういうものを学べる場所がないかと屋敷の侍女に尋ねていた。
その時教えてもらったのが、ミスティ魔導商会という魔導関係の専門店。
以前、ここに来たという学生も、そこで色々と学んだらしいと聞かされ、それなら自分もと考えて散策の最中に立ち寄り、魔法使いになるために魔導具を売って欲しいと頼み込んだ。
その結果が、この書物。
「小さい子供が魔法を学ぶための本……ねぇ」
パラパラと巡ってみたものの、この世界の文字がカインには分からない。
会話ならばスマホアプリを通してどうにかできているのだが、読み書きについては全くの未知数。
無駄なものを買ってしまったと、後悔している。
「このラナパーナの子供たちは、12歳で教会に洗礼を受けに向かいます。その時に魔導素養を持つと判断された場合、親はその魔導書を買って子供に与えるのですよ」
日本語で話をする侍女に、カインは笑顔を作って頷く。
「その素養とは、教会で洗礼を受けると得られるのですか?」
「いえ、素養を持っているか持っていないかを測るだけですね。普通は持っていませんので、ご安心を。生まれつき、何らかの素養を持つというのは本当にごく稀なのです。でも、その魔導書があれば、素養がなくとも魔法を学べますから」
「その、文字が読めないのだよ。できるならば、辞書か何かを使って一つ一つ調べたいところなのだが」
「魔導ギルドでしたら、異世界の言語を研究していますから翻訳用の資料か何かを持っているかもしれませんが……関係者以外の資料の閲覧は禁止されていますね。もしくはフリューゲルさまにお尋ねするのがよろしいかと」
異世界に来ても、現代知識があればなんとでもなる。
そう考えていたカインは、ここに来て自分の無力さに絶望している。
何がチート知識だ。
何が現代技術だ。
魔法文明の世界においては、現代知識におけるチートなんて無力でしかない。
よく見る異世界ファンタジーのチートは、この世界では役に立つような気がしない。
鏡刻界との国交が樹立した際に、少しでも役に立つだろうと異世界転生系の基礎を事前知識として身につけていたカインではあるが、今の彼は。そもそも『転生者ギフト』も何も持っていないのである。
着の身着のままで、言葉も通じない異国に放り出された状況である。
「なあ、以前来た高校生だったか? そいつも俺のように落ち込んでいたのか?」
「いえ、なんと申しますか。前向きでしたね……あの乙葉さまのご学友だそうですし、魔導師としての才覚も実は兼ね備えているとフリューゲル様は申していましたから」
「……そ、そうなのか?」
「はい。本来ならば子供の時から学ぶべきものなのですが、まだ間に合うと仰っていました。まあ、異世界人は体内のマナラインが細く、そしてマナを生み出す力も弱いため大成はしないともおっしゃっていまして」
「やはり、体質的なものも関わっているのか……と、そうか」
カインはスマホを取り出し、今の会話の全てをメモに残した。
どうせこの世界では、スマホの充電など不可能だとカインは思っている。
でも、メモだけでも残しておけば、万が一にも帰ることができたなら、この話はいつか必ず役に立つと考え直したのである。
落ち込んでいるのはもう終わり、ここからは外交官としての情報収集に集中することにしよう。
「それでは、誠に申し訳ないが。ここに記されていることを日本語に訳して、読みあげてくれないか? それをメモに残しておきたいのでね」
「ふふふ。瞳に力が戻りましたね。では、私も侍女として、可能な限りお手伝いをいたします」
それからカインは、侍女と共に魔導書の翻訳を始めた。
………
……
…
──霊峰山頂付近
はい。
雪の中に墜落している俺ちゃんだよ。
いや、視界が真っ白になってさ、ゴーグル頼みで低速飛行をしていたんだけど。
気がついたら雪の中に飛び込んで……っていうか、重力が歪んでいたらしく、まっすぐ前に飛んでいたと思ったら、雪の中に突入して今、この状態。
「オトヤン、怪我はないか?」
「雪のおかげで助かったよ。それで祐太郎は?」
「俺も無事だが……なあ、これって折れるものなのか?」
そう呟きながら、祐太郎が真っ二つに折れた魔法の箒を両手で見せてくれる。
うん、折れるなんてあり得ないんだが。
そして俺の横におちている魔法の箒を見ると、同じように真っ二つに折れている。
「……まじかよ、これ、壊れるものなのかよ」
「いや、俺が聞きたいんだが。そもそも、魔導具が壊れることってあるのか?」
「それはある。あるんだけど、大抵は経年劣化で魔力が枯渇したりすると起こるんじゃなかったかな。まあ、ルーンブレスレットは機能しているようだから、ここから先は、俺の予備で飛んでいくしかないか」
「それが良いんだが……また、空を飛んでいったら方向を見誤って墜落するんじゃないのか?」
それな。
恐らくだから、俺たちが墜落した原因も、霊峰の持つ特殊な魔力阻害効果か何かなんだろう。
そうじゃないと、ゴーグルが危険を察知してくれるはずだし、俺たちが方向を見誤るようなこともない。
「はぁ。それじゃあ、雪原ギリギリと飛んで行きますか。危険を回避するために速度も落として、この辺りから霊峰を回り込んでいくしかないよな」
「そうだな。それじゃあ、そうするか」
まさか異世界で雪山讃歌、ならぬ雪中行軍をすることになるとは思っていなかったよ。
前に、大雪山の金庫岩を目指して飛んでいた時を思い出すよ。
とほほ。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




