第三十八話・本末転倒、我が振り直せ(妖魔派閥新たに))
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はてさて。
クラ○アンにトイレのことを聞いたけどさ、これは施工元の仕事らしい。
翌日午前中には修理が終わったので、午後にはまたみんなで集まるかどうか話し合ったんだけどさ、日曜日はみんな用事があるらしいから、俺はのんびりと散歩する事にしたよ。
……
…
日曜日、大通り公園。
家族連れやカップルが闊歩し、ストリートパフォーマンスがあちこちで繰り広げられている。
ノンビリと散歩しつつ、月に一度の我楽多市があったので眺めてみることにした。
「うん、物の真贋なんてわからないわ。俺に天眼でもあれば、どんな物でも真贋を見ることができるのにね、幽庵君みたいにさ」
などと呟きつつ見ているけど、ふと、思い出した。
「Goggles、GO‼︎ 戦え大戦隊‼︎ そしてモードを鑑定にセット」
すぐさまセンサーゴーグルを換装して、鑑定モードで売っている古物を見て回る。
まあ、こんな日常に溢れているような我楽多市では、そんな高額の名画や焼き物なんてそうそうあるはずが無い。
『ピッ……丹波の壺のレプリカ、2500円。ピカソ作『老いたギター弾き』贋作、1500円、円山応挙『写生図鑑』贋作、1200円……』
おおう、次々と真贋ハッキリと分かる。しかも価値まで分かるとは。
しかし、贋作が多すぎてあまり褒められた物じゃありませんぜ‼︎ これは贋作ですぜ‼︎
などと、怪しい画商Fを気取りつつ見て回る。
どこから見ても高校生ぐらいの子供相手に、高額なものを売りつける人はいないから、安心して見て回る。
「へぇ、ここは古いポストカードが売っているんだ」
ヨーロッパの風景画を使ったポストカード。
それが大量に、乱雑に置かれている店がある。
「学生さんかい? どれでも一枚500円でいいよ」
「安っ。そんなのでいいの?」
「ああ。知り合いのコレクターからまとめて処分したいって言われてさ、買い取ったはいいけれど価値なんかわからないから。一枚500円なら、半分ぐらい売れたら元は取れるからね」
それなら鑑定してみますか。
『ピッ……』
次々と表示される鑑定結果。しかし、どれも一枚2000円とか、1800円とか、そこそこの価値があるぞ?
一枚500円なんて勿体ないじゃありませんか。
『ピッ……アドルフ・ヒトラーのポストカード、モルゲンシュテルンのサイン入り、180万円』
ブッ!
こ、これはあかん。
なんでこんなものが紛れているのかなぁ。ガチのものじゃありませんか。
「お、おっちゃん、これ」
「それだね、500円だよ」
「違うわ、これ、アドルフ・ヒトラーのポストカードだよ、1910年に書いたもので、モルゲンシュテルンっていうヒトラーの額縁商だった人が売ってたものだよ、これ一枚で180万はするんだよ? 500円で売ってちゃダメだよ」
あ、思わずやっちまったか?
店主のおっちゃんがポカーンとしているぞ?
「そ、そうか、本当に本物なのか?」
「この俺が保証する‼︎」
──ブハァ
おっちゃんが大爆笑しながら、ヒトラーのポストカードを手に取ってみている。
「はぁ、まあ、君がそこまで真剣に言うのなら、何かあるのかもね。じゃあこれは売らないで取っておくよ、お礼に一枚持っていきなさい」
「お礼なんていらないよ。まあ、名画が埃を被ったまま、歴史の影に埋れてなんとかって漫画で見たことあるからさ、じゃあこれ買っていくよ」
適当なポストカードを手に取って、ちゃんと500円払って別の場所に行こう。
俺が離れてから、近くの骨董商がおっちゃんに取引を持ち込んでいるようだけれど、俺には関係ないもんね。
しかし、この鑑定能力は凄いわ。
これで今日一日は楽しく遊んでいられるわ。
………
……
…
遊べてない。
なんでこうなった?
つい調子に乗って、ちゃんとした骨董商の露店の前で、並んでいたちゃんとした茶碗の来歴を話していたらさ、それならうちの店の商品全部判るかいって言われたからさ。
「へぇ、随分と骨董に詳しいねぇ」
「いやいや、詳しいんじゃなくてさ、こう、持った瞬間に分かるっていうの? 本当は少しだけ勉強していただけなんだけどね」
「それにしても大したもんだよ、お客さん、その茶碗の来歴は彼が説明した通りさ、箱書も全て本物だよ」
それならと、お客さんは喜んで茶碗を購入した。萩だか楽家だか俺にはよく分からない、鑑定で表示された文章を読んだだけなので。
それじゃあ昼飯でも食べに行こうかとしたんだけれど、あちこちでお客さんから声をかけられる始末になった。
「にいちゃん、この壺はどんな価値なんだい?」
「この絵画は本物かな?」
「リトグラフって、どれぐらいの価値なんだろう」
こんなのが次々と頼まれるんだよ?
しまいにはさ。
「この中から、一番価値のあるやつを見繕ってくれないか?」
だって。
俺が顔を出した瞬間に、店主が慌てて壺とか水墨画を隠したもんだから、思わず笑いそうになったよ。
チラッと見ただけじゃあ鑑定できないから分からなかったけどね。
そんなのに付き合っていたら、昼飯どころか晩ご飯の時間になったので、今日は外食で終わらせて帰ることにしたよ。
明日はいい事あるかなぁ。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
本日は日曜日。
本当なら、乙葉君たちと一緒に妖魔の対策を考えないとならないのですけれど、このようなものがあると、どうしてもお世話をしたくなってしまいますわ。
昨日、乙葉君から頂いたカメラ。
これで乙葉君くんたちを写したのですが、カメラから出てきた写真には別の光景が写っていました。
それは、新山さんが乙葉君の腕に自分の腕を絡めて、楽しそうに笑っている写真。
このカメラは、『被写体の望む光景』『被写体の感情』などを映し出すことができるようです。
いわば、『対象の感情を映像化』する。
そして、こんなものを見せられてしまったら、私としてもお手伝いしてあげないとなりませんね。
ですので、午前中に母の病院に向かい用事は済ませておきました。
今執筆中のいけない小説はひとまず置いておくとして、早速新山さんを私の家に招待しました。
……
…
「うわぁ……社長令嬢っていうのは本当だったのですね?」
「う〜ん。令嬢と言いますか、名目上は私が社長で、代表取締役なんですけれどね」
「え?」
「まあ、そんな話は置いておきましょう。まずは、いつもの日課から始めましょうか」
そう告げて、女子会の雰囲気のままいつもの魔術訓練を行い、あとはのんびりと楽しい女子会モードに突入しました。
「……ねぇ、新山さん。あなたは、乙葉浩介くんのことが好きなんじゃないかしら?」
──ブハッ、ゲフッ
あら、ストレートに聞いたのがまずかったわ、思いっきり気管にオレンジジュースが入ったようで。
「せ、先輩、突然何を言い出すのですか?」
「まあ、貴方が文学部に入ってから、ずっと乙葉君を目で追いかけていましたし、それに」
──スッ
先日撮影した写真を取り出して、新山さんに差し出す。すると、彼女はその写真を見て顔を真っ赤にしてしまう。
「ここかかっこっこっこっこれはなんですか」
「昨日、乙葉君に貰ったカメラで撮影したでしょ? あのカメラはね、人の心の中の希望とかを映し出すこともできるみたいなのよ。あの時、他の誰よりも貴方の心が溢れていたみたいだからね」
──カーッ
すでに彼女の頭の中は沸騰寸前のようである。
でも、相手が乙葉君なら、もっとストレートに行かないと分かってもらえないんじゃないかしら?
「それで、どうなの? 彼は奥手で鈍感だから、ストレートに行かないとダメよ?」
「わ、わたしは……乙葉君と……プ、プラスチックな絞殺死体……」
「ふむふむ、新山さんは……プラトニックな交際がしたいと‼︎」
「は、はい、あれ、私いまなんて言いましたか?」
「軽井沢連続殺人事件のような告白かな?」
もしも乙葉君くんがいたなら、とんでもないツッコミが入ったんだろうなぁ。
「それで先輩、この事は秘密にしていてください……怖いんです。このことを話して、告白して返ってくる答えが。なら、今の、この関係を続けていきたいのです」
うん。
気持ちはよくわかるわ。
だから、わたしも黙って見守ってあげる。
「そうね。なら、今暫くは、今の関係でいいんじゃないかしら? 私は乙葉君を取ったりしないから安心してね」
「はい……ありがとうございます」
これで、この話はおしまい。
あとは、またいつものような時間が戻ってくるだけ。
あと数か月だけの、私の自由な時間。
………
……
…
私こと瀬川雅は、うちの文学部の部員の皆さんとは、常に敬意を払って接しています。
乙葉君が女神の加護を得て魔法を修得したときは、それはもう心が落ち着きませんでした。
昔見た物語のような、ファンタジーな世界が、目の前に現れたのですから。
とはいえ、私は小学校に就学した時点で、家業を就ぐために英才教育を施されてしまいました。
テレビドラマや映画などは、私にとっては夢の世界。そのような些事に惑わされる事なく、私は常にエリートたれと両親から言い聞かされてきました。
ですが、中学校三年の時。
父が航空事故でこの世を去りました。
私も母も、その事故に巻き込まれてしまいましたが、私は奇跡的に怪我一つなく、母は一命は取り留めたものの、今でも病院に入院しています。
父の会社は、まだ中学三年生である私が引き継ぐこととなり、父の側近である常務が私の代行として会社をコントロールしています。
ですから、私は高校を出た時点で父の残した会社を守らなくてはなりません。そのために、最後のわがままとして、私は人のしがらみのない新設の高校に入学しました。
今でも覚えています。
私たちが乗っていた航空機が着陸する少し前、両翼が真っ二つに引き裂かれていたことを。
そのような事は到底、自然現象で起きるはずがありません。人為的ななにかであったとしても、飛んでいた飛行機の翼に『巨大な三本の爪』を突き立てて引き裂くような存在など、この世界には存在しないでしょう。
その直後に飛行機は爆発、炎上しました。
気がついた時は、私は病院で、見たこともない天井を見上げていたのです。
ただ、その天井には私以外の誰かが浮かんでいました。
『私は貴腐神ムーンライト。貴方に加護を授けましょう』
姿はわからない、けれど、そこに確かに誰かがいる。それも、神のような存在が。
「加護? 私に? 何故? それよりもお父さんは? お母さんは?」
『ごめんなさい。私では、貴方のお父さんを助けられなかったの。けれど、これだけは覚えていて、そして注意してください。貴方の両親は、ある組織に命を狙われていました……』
「どういうこと? 意味がわからないわ」
『そうでしょう。でもいずれ、貴方の前に、貴方の力となってくれる人が現れるから……その時までは、今、この場での話は忘れなさい』
そう。
私は忘れていました。
乙葉君から、私がムーンライトの加護を持っていると告げられるまで。
そこで思い出しました。
神の加護の話を、そして、そう遠くない未来に、私は命を狙われるだろうと。
けれど、今は、この時間を大切にしたい。
だから、私はムーンライトの加護を使わせてもらいます。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
札幌市、円山公園。
昼下がりの長閑な喫茶店・九曜。
そのカウンターでは、のんびりとコーヒーを嗜む老人と、女性店員の姿があった。
「どうやら、この札幌でも第六課が動き始めたようですけど、老子、何か情報がありますか?」
カウンターの中から老人に向かって問いかける女性。すると、老子と呼ばれた人物がこめかみに指を当てて何かを考えている。
「ふむふむ。『目』からの情報では、札幌に魔術師が生まれたようじゃなぁ。『耳』から察するにまだ高校生じゃが、我ら妖魔を滅するには十分な実力を持っているようじゃ」
「どうします? 先に手を打たないとラクリラが食べてしまう可能性もありますけど」
「その魔術師が贄となるか糧となるか。いずれにせよ、今、このタイミングで魔術師が生まれたということは、その目的は一つしかあるまいて」
静かにコーヒーを飲む老子。
「召集を掛けます。この地に滞在する魔将は計都姫とチャンドラ、老子・羅睺の三名だけですが」
「構わんよ。現・妖魔王派にさえバレなければな」
「了解です、少し出かけますので、あとはセルフで」
そう告げて、女性はカウンターから外に出ると、外に『臨時休業』の看板を下げた。
「……魔術師の誕生か。よりにもよって乙葉の血筋とは、運命というのは余りにも残酷すぎないか?」
羅睺は静かに呟きつつ、遠くを眺めていた。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。
・今回のわかりづらいネタ
ギャラ○ーフェイク / 細○不二彦 著
軽井○シンドローム / たがみよ○ひさ 著
きりきり○のぶら雲先生 / きく○正太 著
その他色々。