第三百七十三話・真実一路、触らぬ神に祟りなし?(目に見える神見えない神)
『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週火曜日、金曜日を目安に頑張っています。
はい、俺たちが向かいたかった場所とは座標が違います。
天羽総理たちを奪還するために鏡刻界へと向かったはずなのですが、どうやら『聖徳王の天球儀』の効果で『来れるはずのない世界』に足を踏み込んでしまいましたが。
しかも、『堕ちた神々の眠る眠る大陸』ってなに?
魔皇さんは『ミルトゥーンは御伽噺。いいね?』って、存在を否定。
いや、まあ、日本人として考えるなら『ここは高天原だよ、普通は来れないんだけど君たちの持つ魔導具で来れてしまったんだね』ってことだよ?
なに、この魔導具、おかしくないか?
「まだ、連れの方は困惑しているようだが、話を進めさせてもらうよ。私は空間を操る魔術を習得していてね。それを使えば、この世界に『空間の澱み、歪み』が発生したかどうかを知ることができる。それで反応が無ければ、君たちの探し人はこの地にはきていないことになる」
「それをお願いしたいのだが。当然、無料でということではないよな? 何か望みのものがあるのか?」
「まあ、ね。君たちは、このミルドゥーンについてどれだけのことを知っているかな?」
あ。話が進んでいる。
横で祐太郎が腕を組んで考えているので、俺は魔皇紋にアクセスして、ミルドゥーンについての情報を探して貰う。
恐らくだけど、祐太郎も自分の体に刻まれた魔皇紋に確認しているんだろうと思う。
『ピッ……ミルドゥーン、堕ちた神々の眠る大陸。かつて、魔神ダークの暴走を抑えるために、善なる神々と魔神が戦った地。全ての世界への影響を考慮し、外部からの干渉を全て阻害する結界に覆われている。この地にで魔神は敗北し、魔族は『生命』を失い精神体として生きることを強いられた。なお、魔神は大地に封じられ、それを監視すべく多くの神々もまた、眷属たちによる封印結界を施し、恒久なる監視を行っている……旅の吟遊詩人ライデンの残した記述より抜粋』
な、なんだってぇぇぇぇ。
って驚きたくなったが、横で祐太郎が『ライデン? いや、知っていたのかライデン?』とかブツブツと呟いているところから、おそらくはこの記述しか残っていないんだろう。
「ミルドゥーンですが。魔神を封じる地であり、眷属神により封印が監視されている、何人たりとも入ることを許されていない大地だと認識していますが」
「お、オトヤンもそこにたどり着いたか」
「まあな、ライデンに感謝だよ」
そうトゥルーソン伯爵に説明すると、伯爵も頷いている。
うん、これはほぼ正解なんだろう。
「ほぼ正解だな。それで、頼みというのは、この領地の中心にある『武神ブライガー』の神像に、魔力を注いで欲しいということなんだ。長年の結界維持のためか、ブライガーの神像に曇りが現れ始めていてね。恐らくは魔神の力が溢れ始めたのかもしれないと思うから、今一度、ブライガーの活性化を促したいのだよ」
「武神ブライガーだって!!」
これには祐太郎が驚いている。
いや、自分に力を与えてくれた神の像が、ここにあるっていうんだから無理もないよなぁ。
「おや、異世界の方もご存知でしたか」
「あ、ああ。実は俺は」
──ガシッ
素早く祐太郎の腕を掴む。
危ねぇ、祐太郎にしては珍しく冷静さを欠いている。
そこで実現するのは俺の役目だ、いや、そうじゃなくてな。
「俺は、異世界で武神というものを研究していてな。俺たちの世界にも存在する魔族から、その名前を聞いたことがあるんだ」
「おお、そうでしたか。では、そちらに力を与えてもらえるのでしたら、そののちにお二人の知り合いとやらがこちらにきているのか確認してみましょう」
「済まないが、よろしく頼む」
「俺たちとしては、いつでも準備オッケーなので」
そう伝えると、すぐにでも動けるようにと場所の手配をしてくれるらしく。
伯爵はバタバタと部屋から出ていった。
「ギャリバンさんにも助けられましたね、ありがとうございます」
「いやいや、礼には及ばない。それよりも、君たちの世界にも武神ブライガーの話が伝わっていたとは驚きだよ。かの神は冒険者の神でもあり、徒手での武術の祖でね、その拳は砕けぬものはないと伝えられているんだよ」
「へぇ。それじゃあ、今度祐太郎にも何か砕いてもらうか」
「砕くのが前提なのかよ……まあ、武術を学ぶものとしては、さまざまな流派を知ることも大切だからさ。さて、それじゃあいくとしようか」
ちょうど窓の外が騒がしくなり、迎えの馬車が到着したようだ。
それじゃあ、とっとと武神の像に魔力を注ぎ込んで、天羽総理たちを探して貰わないとなぁ。
………
……
…
「でっか!!」
「いや、これは凄いな」
トゥルーソン伯爵に案内されて、この領地の中心にある巨大な大聖堂へと俺たちは案内されました。
建物の大きさもさることながら、聖堂中央に安置されている巨大な立像に、俺たちは呆然としてしまいましたが。
高さにして30メートルを越える、水晶のような透明な素材を削り出したかのような神の像。
武神の名にふさわしく、フルプレートを身につけ、巨大な盾とハルバードを構えているその姿は、今にも動きそうな雰囲気を醸し出しています。
それごほんの僅かに光り輝いているし、心なしかその光も暖かく感じる。
「まあ、予想通りにフル武装状態か……」
「武神ブライガーは冒険者の神でもあります。それゆえに、如何なる武具の扱いにも長けています。まあ、徒手で戦う冒険者は限られるために、このような姿になったのかと思われますが」
「そして、すべての武具はブライガーの力を抑制するための枷である。本気を出したブライガーは、武器も防具も持たない……だろ?」
祐太郎の言葉に、ギャリバンさんが笑顔で頷いてますが。
そこの脳筋同士で通じ合っているのは放置して、とっとと鑑定しますか。
「この素材はなんだろう……天啓眼」
『ピッ……鑑定不可能』
「なん……だと?」
はい、天啓眼でも鑑定不可能。
これはあれだよ、触らぬ神に祟りなしってやつだ。
「台座に嵌め込まれている魔石に、魔力を送り込むような感じか」
「ええ。おおよそ100年に一度、魔力を注ぎ込んで結界を維持しています。ここ以外にも七箇所、そして天空の小島にある聖堂と地下迷宮最深部の結界維持術式の合計十箇所の神像によって、この大地に魔神ダークを封じています。それでは、お願いします」
そう告げられると、素直に魔石に手を当てて……。
(天啓眼、この封印結界術式の解析を頼む)
『ピッ……10神式神威結界術式。神の眷属10柱による、時間停止および凍結、睡眠、仮死の効果が施されている。魔力充填期間限界までは1589日』
(へぇ……それなら……内部の魔神ダークの鑑定は?)
『ピッ……鑑定不可能』
ですよね〜。
まあ、安全であることは確認した、封印が解けるギリギリではなく、余裕を持って俺たちの魔力を注ぐだけというのも理解した。
まあ、見た目の印象も話した感じも悪人じゃないし、ここは魔力を注いで構わないんじゃないかなぁ。
「よし、祐太郎、ゴーだ!!」
「お、鑑定結果が出たのか。それじゃあ……ブライガァァァァア」
──シャキーン
魔導闘衣+ブライガーの籠手、肩当て、パーツアーマーを装着したバトルモードの祐太郎、降臨。
これにはトゥルーソン伯爵の護衛についてきたギャラバンさんも身構えたものの、胸当てや籠手に刻み込まれた紋様がブライガーの紋章であることを理解し、素直に構えを解いた。
「まさか……神器?」
「あ、そんな感じと思って結構ですよ。そんじゃ、祐太郎ぶちかませ」
「それでは」
ゆっくりと半身に構えると、祐太郎の体内の闘気が一気に練り上げられていくのを感じる。
それも、いつもの手加減している状態じゃなく、本気の全開パワーモード。
全身の装備が全て光り始め、その輝きがゆっくりと右拳に集中すると。
「そいぃぃぃぃぃぃっ!!」
手の中に超圧縮した闘気玉を生み出し、魔石に向かってそっと触れる。
いや、そこは全力で叩き込むんじゃないのかい!!
──フゥン
すると、台座から光が走り出し、ブライガーの神像が光り輝く。
「お……おおお、ここまで力強い光を放つところを見たのは、生まれて初めてだ。それに、君の身につけている神装具はまさしくブライガーの武具。君はブライガー様の使徒なのか?」
「いや、通りすがりの機甲拳士ってところだろうな。でもまあ……ブライガー様も嬉しそうだし、これで良いんだろう?」
ニィッと笑う祐太郎に、伯爵たちも大きく頷いている。
そして、この光が建物の外まで溢れているらしく、一人、また一人と修道士のような人々や、市民たちが集まってくる。
「それじゃあ、場所を変えて今度は俺たちの頼みを聞いてくれますか?」
「知人が我々の世界に来たかどうか、それを知りたいのだろう? では一度騎士団詰め所まで戻って、そこで調べてみることにしよう。ギャリバン、また執務室を貸してもらうよ」
「かしこまりました」
そのまま馬車で、もう一度騎士団詰め所まで移動。
どこの誰かも知らない奴を伯爵邸に招き入れることはできないそうで、そりゃそうだと俺たちも納得。
天羽総理たちがこの世界にいてくれたら、どんだけ楽なことかと思わず祈ってしまったよ。
………
……
…
──アメリカ・サンフランシスコゲート
かつて、マグナム配下である黒竜会が使用していた建物。
その一角で、椅子に座り瞑想していた男は、突然、心臓あたりを押さえながら椅子から転げ落ちた。
「ファザー、どうしました!!」
「い、いや、大丈夫だ……大したことではない」
ファザーと呼ばれた男性は、脂汗のようなものが額から溢れ出し、急激に下がる体温に体を震わせる。
「この感覚……まさか、結界の効果が高まったのか? そんな馬鹿な……あと1000日もすれば、あの結界は最も弱体化するはず……」
小声で呟きつつ、椅子に座り直して窓の外を見る。
だが、何をどう考えてみても、結界が意図的にここまで強まることなど起こり得るはずもなく、明らかなイレギュラーが発生していることだけは理解できていた。
「け、計画を早めるべきか……だが、手駒が足りない、星辰の位置も悪い……」
自身の分身体が封じられている地、そこで何かが起こったことは明白。
だが、かの地ミルドゥーンについては、彼自身も向かうこと叶わない道標なき世界。
そのような場所に行く手段など存在せず、このまま何もできずに滅びを待つしかないのかと弱気になりつつあったが。
「封印が強まったか?」
目の前に姿を表した男が、机に手をかけて話しかける。
白いスーツに白帽子、そしてサングラスをかけた長髪の男性。
他のものたちが怯え、離れた場所からお伺いを立てることしかできないファザーの前で、堂々と立ち問いかけていた。
「わ、わからん……伯狼雹鬼、何か思い当たることはないか? 貴様ならば、なにか思い当たることがあるのではないか?」
まるで、原因を知っているだろうと言わんばかりに問いかけるファザー。
すると伯狼雹鬼も帽子を外しつつ一言。
「無いことは無い。が、あるかどうかは不明。ただ、それを使える存在については、数名ほど心当たりがありますが?」
「ならば、それらを虱潰しに調べろ」
「そうですなぁ……暇つぶし程度に、適当に当たってみることにしますか」
右手で帽子をクルクルと回しつつ、伯狼雹鬼がその場から離れていく。
やがて体の痛みが薄れ始めてから、ようやくファザーは椅子に座ったまま眠りにつき始める。
その光景を、側近たちは離れた場所で静かに見守っていた。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




