第三百六十九話・晴耕雨読? 論より証拠……か?(舞台は異世界? いや、日帰りも可能です)
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修学旅行から帰って来た俺たちは、妖魔特区の白桃姫たちの元へとお土産話を持って来たのだが。
その際に、俺の所有していた【聖徳王の天球儀】から溢れた魔力が空間収納を超えて溢れていたらしく、白桃姫からそのことについてつっこまれまして。
いや、まさかあそこまで強力な魔導具の術式とは思わなかったんだよ、だから急いで白桃姫に対処方法を確認してから、空間収納の効果をアップデートしたんだよ。
そこまではいい。
その後の、忍冬師範からの報告で、アメリカと中国と日本の要人が異世界に攫われたという報告を聞かされまして。
「異世界渡航に関する話し合いの最中に、その異世界へ攫われるってどういうこと? 何処のどいつが攫ったわけですか?」
「全くわからん。現地での目撃情報でも、ぽっかりと開いた空間へ引き摺り込まれたという話しか届いていないのだ。だから、各国の関係機関から乙葉浩介と同行して救助に向かいたいという連絡が後をたたないらしくてな。どう思う?」
「どう思うと言われましてもねぇ」
ぶっちゃけるなら、各国の関係機関の協力申請っていうのが信じられない。
そもそも、自分たちで帰って来れるのか? それなら俺たちは連れて行くけれど、そっちの都合で俺たちが振り回されるのなら俺たちだけで向かった方が早く無いか?
「忍冬師匠、各国関係機関の協力申請については、勝手にやってくれて構わないと報告してください。行くのも帰るのも自由にということです。俺たちは独自に動いて、調査に向かいます。そもそも、異世界に行き来できるのは俺たちだけなのを知っていて、協力しようだなんて都合が良すぎます」
「瀬川先輩の深淵の書庫なら、なんとか何処に向かったか知ることができるのかも」
「そう思って、彼女にもここに来るように連絡はしてある。ただ、アメリカと中国、日本の関係機関だけはかたくなに同行したいと言っているが」
つまり、かなり上からの命令が忍冬師範のところにも届いているっていうことか。
だが、断る。
「そりゃあ無理だわ。俺たちでさえ、異世界鏡刻界については知らないことが多すぎるのですよ? そんな場所に移動してさらにそいつらの護衛やらなんやらまで引き受ける気はありませんし……まあ、開くだけなら可能ですから、あとは勝手にやってくださいと返答しておいてください」
「そういうと思ったさ。それじゃあ……」
忍冬師範がすぐさま無線を取り出して、何処かに連絡を入れる。
その後、誰かと激しいやり取りをしているようだけど、俺たちはそんなことは無視。
やがて瀬川先輩もスクーターに乗って札幌テレビ城までやってきたので、状況を一通り説明すると。
「う〜ん。私の深淵の書庫は、この現代世界での情報収集については無敵と言っていいレベルですけれど、流石に鏡刻界でどれだけの効果を発揮できるのかまでは、やってみないとわかりませんね」
「ですよね〜。それに、何処に行ったのかまで調べる必要もありますし。さっきのニュースによりますと、異世界へのゲートのようなものが開いた場所は、国会議事堂ですよ? そりゃああの侵略国家の付近に繋がるのは目に見えているじゃ無いですか」
つまり状況は最悪。
それをどうにかしないとならないだなんて、かなり難易度高く無いか?
「まあ、ものは試しだ。オトヤン、そこから開けるか?」
「魔力はバリバリ全開だから問題なし。そりゃ、銀の鍵〜」
右手の中に銀の鍵を生み出すと、それを目の前にある水晶柱へと接続する。
そして鍵を開けて一気に扉を開くと、鬱蒼と茂った森へと繋がりましたよ。
「……なあ白桃姫、そこが何処かわかるか?」
「なんじゃそりゃ? どうして妾が手伝わぬとならんのじゃよ……」
ブツブツと文句を言いながら、白桃姫が銀の鍵によって生み出された扉の向こうへと足を踏み込む。
そして両手を開いて何やら言葉を紡ぐと、目を閉じて意識を集中させ始めた。
「ははぁ……今の鏡刻界の場所は、そちらの世界より最遠部にあるようじゃな。ちょうど聖王国の真裏側、蛮族の住まう亜竜大陸のようじゃが」
「何それ? 頭が骸骨のやつ?」
「オトヤン。それは大空魔竜な。で、亜竜大陸ってどういうところだ?」
「別名は獣人大陸。さらには飛竜族という亜人の住まう小島があちこちに浮かんであってな。我らが飛行船でも迎撃される恐れがあって、この地までは侵攻したことはないぞ」
つまり、この獣人の大陸の何処かに攫われたっていうことかよ。
はぁ……こりゃあ、面倒くさいことになって来たわ。
「……ふぅ。話はついた……って、いきなり異世界と繋いだのか?」
おや、忍冬師範が連絡を終えて戻って来ましたね。
「いやいや師範。繋ぐのは簡単なんですよ。問題はですね、この接続先が俺たちの知る国家のある大陸じゃ無いっていうことです」
「だから、今一度、攫われた場所の近くにある水晶柱から扉を接続させ直してから、調査に向かわないとならないと思う。妖魔特区の水晶柱からなら、あまりにも距離がありすぎるのです」
そう説明している最中にも、瀬川先輩まで扉の外に出て深淵の書庫を展開しているのですが。
──ヴン
真っ赤な深淵の書庫、すなわち魔人王モード。
その内部に走る大量のデータを頭の中で精査している最中のようですな。
「先輩、どのような感じですか?」
「世界に漂う魔力波長をつかんでいるのですけれど、この辺りでは知っている波長は一つもありませんわね。そもそも、私が知っているのは天羽総理大臣のみですので、もしもバラバラになって居ましたら、発見はほぼ不可能かと思われますが」
「そのようじゃな。妾は攫われたものたちの誰も知らんから、探しようは無い。それよりもほら、お主らの後ろ、カメラとやらが回っておるが良いのかえ?」
白桃姫が指差した先。
そこには、俺たちの方にカメラを向けている報道関係者の姿があった。
おそらくは『張り付き』と呼ばれるタイプの、カメラを常駐さている奴らだと思うがよかったね、大スクープがとれてさ。
「無視。見られたところで今更困らん。俺たち以外には誰も連れて行く気はないし、同行したところで、どうやってこの広い異世界を調査をするっていうんだ?」
「そういうことだ。先ほども、浩介のいう通り行くも帰るも自分たちで出来るのならどうぞと話をしたら、無線の向こうで怒鳴り声が聞こえていたぞ」
「それで、問題は俺たちの単位だよなぁ。どう考えても一日や二日で終わるとは思えないし」
明日は代休、明後日は土曜。
つまり、このあとすぐの調査開始で、最大三日間の時間を使うことができる訳でさ。人の命に関わることだから、速攻で動こうとは思うけど。
それ以上の調査時間となると、学校を休まないとならない。
まあ、推薦入学が決まっているから休むことぐらいは構わないんだが、あまりにも休みが多いと卒業できなくなる可能性があるってこと。
「公欠扱いになるように手配はしておく。それで、引き受けてくれるのか?」
「行かない……って言う選択肢はありませんね。攫われた先が異世界で、そこに行けるのが俺たちだけっていうのなら、行くしかないじゃないですか」
「そういうこと。本当なら現地に詳しい白桃姫にも同行して欲しいのだけど」
「面倒だからいかんぞ」
祐太郎のお誘いにも、白桃姫は全面否定。
まあ、怠惰の氏族だから、働きたくないでござるよなぁ。
「うん、断られると思ったから、白桃姫はここを守っていて欲しいんだけど」
「何からじゃ?」
「今回の人攫いの件、まだ裏で何か動いているような気がするんだわ。だから、瀬川先輩と連携して、このあとで人が異世界に拐われた場合、その共通点とか攫われた場所とかを調べて欲しいんだけど、無理かな?」
──ブゥン
魔力ではなく、神威を小さな飴状に固めたものを作り出す。
これ一つで、俺が普段作っている魔力玉の濃度100倍糖度100倍甘味成分上昇……とまではいかないけれど、濃度100倍は正解。
ほら、口をぽかっと開いて涎が溢れて来ている。
──ジュルッ
「そ、そんなもので妾を懐柔しようなど腹ただしいわ」
「三つなら?」
「え、三つ? やるぞ、妾は瀬川と連携を組んで、この人攫い事件の真相を掴むのじゃ!!」
「そういうことで、あとは異世界に向かうメンバーの設定か。俺は当然として」
ふと周りを見渡すと。
祐太郎が自分を指さしている、オーケィ。
近接戦闘の要は必要だからね。
そして新山さんも自分を指さしている、ん〜、どうしようかな。
「新山さんには、私のサポートをお願いしたいのですけれど、よろしいでしょうか?」
「え、先輩のサポートですか? どのような?」
「こんな感じでは、いかがかしら? 深淵の書庫、ツインドライブ」
〜ブゥン
いつも使っている深淵の書庫がより大きくなり、内部の椅子が背中合わせに二つに分かれる。
「これはメインオペレーターを私が、サブオペレーターを新山さんにお願いしたいと思いまして。魔力操作が上手い人でないと扱えないのと、神聖魔術による起動なら遠隔ヒーリングが可能かどうかも試してみたいものでして」
「なるほど了解です!! ても、乙葉くんたちの回復は」
「ん? 乙葉印の回復薬ならいくらでもある。という事は、俺たち二人での突撃ということになるのか」
「まあ、一番慣れている二人なら問題はあるまい。それでいつ向かう?」
そうですねぇ。
明日の朝一番での水晶柱の起動、それなら十分に時間は取れるかと。
今日はさっき鍵を使ったので、魔力の消耗が激しいのでね。
では、おさらい。
扉を実体化するのに必要な魔力は500MP。
そして開いてからの維持には秒間1MP。
今の俺のMPがおおよそ39000、開くのに使って残り38500秒が扉の開放時間制限。
うん、凡そ10時間は開け続けられるんだけど、この扉の大きさが倍になると消耗時間も倍。維持時間も倍になるから、車なんて入れるだけの大きさを開くとなると、だいたい横に四倍高さ二倍。つまり八倍の魔力消費。
扉の制作に4000MP、持続に秒間8MP。
結果として一時間ほどしか開けませんが、さらに開いたとして俺の魔力の残量が減ると回復にかなりの時間が必要になるんだわ。
つまり、車両を持ち込んでの調査なんて不可能、ましてや航空機などを持って行くなんて無理。
そんな巨大な転移門を制作、維持するだけの魔導具なんて、俺が持っているはずが……ん?
「まさか、だよなぁ」
空間収納のリストを表示して、その中の『聖徳王の天球儀』を確認。これを媒体にして転移門を自在に開くことができるっていうことだから、これを使えば移動も楽になるんじゃね?
そもそも、そのために作られたもののはずなんだが。
「なあ、祐太郎や。俺の持っているアレ、この場合は使い勝手がいいとは思わんかね?」
「オトヤン。俺も今、そう思ったんだが……このタイミングで使うのか?」
「……試す価値はあるが、もう少し調べてからにしたいところなんだが」
「だよなぁ。いくらなんでも、急ぎの案件で確認しながらの実験なんてできんな、はい、次回に繰り越し」
ですよね。
さて、そうと決まったら急いで自宅に戻って用意して、とっとと東京に向かいますか。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




