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【書籍化】ネット通販から始まる、現代の魔術師  作者: 呑兵衛和尚
第七部・災禍の赤月、或いは世界滅亡へのカウントダウン
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第三百六十八話・急転直下、雉も鳴かずば撃たれまい(よし、これからはスローライフ……って、ダメなのか?)

『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週火曜日、金曜日を目安に頑張っています。

 衆議院議員第一会館・国際会議室。


 この日は、朝から重要な会議が行われている。

 日本国は与党代表として武坂勇次郎(むさかゆうじろう)幹事長、現日本国総理大臣の天羽太郎ら計六名と野党からは国憲民進党の燐訪、日本共和党の椎名と若林、社会民進党の福沢など、国会では日夜議論をぶつけ合う議員達の姿があむた。


 かたや向かい側の席に座っているのは、中国の国務院退魔部次席官の王健祐、諸葛の二名とアドバイザーとしてジェラール・浪川が。

 その隣ではアメリカ国防総省所属退魔組織ブラックホークのカイン・マッカーサー大佐およびスコット少佐、事務次官のメアリーキッス。

 表向きは火花を散らすアメリカと中国であるが、今はここ、日本において大切な話し合いを行なっている最中である。


「手元の資料では、現代の魔術師である乙葉浩介は、異世界へ幾度も渡航している経歴があります。ここ最近の我々の世界での大きな魔族による事件や、人と呼ばれる存在との邂逅、そしてオーストラリアで起きた、ウルルの消失事件。これらの事件は、何か大きなことが起きる予兆ではないかと崑崙八仙が算出。今一度、乙葉浩介による異世界開放を行い、現地にてその謎の究明を行う必要があると、我が国の劉坤明リュウ・クンミン国家主席は提唱しました」


 王健祐が説明を行いつつ、資料として用意したデータをモニタースクリーンに映し出す。


「使徒については、我がアメリカが最も被害を受けている。あれもまた異世界からの侵攻であると考えるなら、ここはより強力な魔術機関を設立し、対抗する手段を作り上げるべきではないかと考えます。国家の垣根を越えた、国際的超法規的退魔機関。それこそが必要であると。中国のいう話も理解できるが、まずは護るべき力をつけなくてはならないのでは?」

「戦う相手のデータを持たずに、組織を先に作るとは何という愚考。退魔機関を作るのなら、まずは先遣隊なり偵察隊なりを国連平和維持軍により編成し、異世界を知るのが良いかと思いますが」

「そして異世界に拠点を作り上げ、中国は異世界へと進出するか……」


──ダン!!

 力強く机を叩きながら、王健祐とカイン大佐が立ち上がる。

 そして二人を諌めるように、隣に座る諸葛とスコット少佐が声を掛けて座らせるということ光景が、幾度となく繰り返されている。


 議論は一見すると地球を守るために軍を組織するか、各国からも軍事力として魔術師を派遣するかなどの話にはなっているが、その裏では中国は異世界進出のための橋頭堡を作りたいという意志が溢れている。

 方やアメリカはそれを諌めるという立場を貫いているものの、中国に出し抜かれてなるものかと牙を向く勢いで話を続けている。


「日本国の立場は? 今、最も異世界渡航について現実的な立場にありますが。まさか、日本は他国を出し抜いて独自に異世界への繋ぎを取ろうと考えているのではありませんよね?」

「そもそも、異世界とはどの国にも属していない自由な世界。確かに早い者勝ちと言われたらそれまでですが、ここで各国の足並みを乱すようなことはありませんよね?」


 さらに釘を刺しにくるアメリカと中国に、天羽総理大臣はハァ、とため息をついていた。


「総理!! 何を躊躇う必要があるのですか! 我々の立場としては軍事力を身につけるための戦力提供などできません。憲法第9条をお忘れですか」

「そんな話は今はいいだろうが、それよりもいつ、日本もまた異世界からの侵攻に脅かされるかわからないのだぞ? ここは国連機関に退魔組織を設立し、日本国内にも戦力増強のための国家予算の捻出を」


 天羽総理を挟んで、左右から聞こえる声。

 これにも天羽総理はハァ、とため息を吐いている。


「国防の国家予算は、今は関係ない話だろうが黙ってろ。それよりも中国とアメリカの話のことだが。うちには乙葉浩介をはじめとした現代の魔術師達がいますが、異世界渡航についての話は相談することはあれど、彼らに強要することはありません。彼らは民間人ですから」

「それだよ、なぜ、そのような力を国家で制御しようとしないのだ? あの力が我が中国にあれば、とっくに異世界へと渡っているところだぞ」

「ヘキサグラムの誰よりも強い退魔能力、それが国家機関であるブラックホークに所属したならば、民間の退魔組織などに頭を下げる必要がないのだ!!」


 ハァ。

 幾度となくぶつかる話し合い。

 結局は現代の魔術師にも国連機関に登録してもらい、協力要請できるようにしろという話に戻っていく。


「「我々にも、直接話し合いをさせろ!!」」


 両国代表の叫びとも取れる声に、天羽は苦笑する。

 その答えなんて、すぐに想像ができるのだから。


「まあ、機会があれば。でも彼らは靡きませんよ? 国に協力することのメリットがないという話で終わりますし。魔術師というのは、独自の価値観で行動していますからね?」

「ほう? では、彼らが何を望んでいるのか、天羽は知っているのか?」

「当然です。だからこそ、何もしません。彼らが望むことは、国家が干渉しないことですから」


 つまり、どことも話をしないと乙葉浩介たちは話している。

 だからこそ、日本国は窓口を小さく小さく設置し、内閣府退魔機関第六課に乙葉達との繋ぎを頼んでいるのだから。

 それを聞かされて、両国代表は椅子に座り直し腕を組んで考える。


「現代の魔術師抜きでの、異世界渡航か……」

「より強力な魔術師の選定、それによる国際退魔機関……」

「日本の利権が……」


 三者三様で考え込む様子を見て、天羽は心の中で笑っていた。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



──札幌市・妖魔特区

 はい、修学旅行からついさっき帰ってきた俺ちゃんだよ〜。

 帰りもしっかりと魔法の絨毯やら魔法の箒で飛んで帰ってきたし、千歳空港で華麗な着地を決めてからの、空港ロビーでの解散。

 そして混雑する札幌駅行き快速エアライナーに乗らずに、なぜかタクシーのようにクラスメイト達を魔法の絨毯に乗せて一路、新札幌駅まで送り届けてから、妖魔特区まで戻ってきましたけど。


「解せぬわ!」

「うぉわ、なんだなんだ、何がどうしたオトヤン?」

「祐太郎は親衛隊の子を連れて送ってきた、これは理解できる。新山さんはクラスメイトの子とか立花さんを送って来て、これも理解できる。なんで俺だけが、定員オーバーになりそうなギリギリの人数の、しかもむさくるしい男達を乗せて飛んでいかんとならんのだ」


 わかるか?

 乗っている奴らから『もっと高く飛べないのか?』とか『もっと早く、光の速さで』とか。しまいには『俺にも操縦させろ」と来たものだ。

 魔導具飛行免許を取ってから話をしろと叫んだり、スピード違反で捕まるから黙っていろとか叫んでも、やつらすぐに戯言を始めるんだぞ?


「あ、あのね乙葉くん、心の声がダダ漏れだよ? まあ、免許を持っているのが私たちだけだし、クラスメイトだからね」

「はぁ、まあ、新山さんがいうのなら……」


 ということで、札幌テレビ城の横に錬成魔法陣を起動、必要な素材を全てぶち込んでから魔法の絨毯の製作を開始。

 これは立花さんの分で、鉛筆20ダースを渡されたので今回限りで仕方なく製作。なお、あちこちに貸し出してあった収納ポータルバッグは全て回収。

 これも安価な素材で作れないか、調べる必要があるよなぁ。


──パンパン

 魔法陣が起動したので、あとは完成まで待つ。

 ついでに足りなくなった素材を購入するために、カナン魔導商会を起動して錬金術用の素材を買い漁ることにしたんだが。


「……いつもよりも素材が足りないよなぁ。買い占められたわけじゃないが、全体量が不足しはじめている」


 チラリと祐太郎達の方を見ると、修学旅行のお土産を白桃姫達にも渡しているようで。浅葱色の羽織を被った白桃姫、何か楽しそうで良い。


「魔石不足か。ミスリルも足りないしレア素材がかなり減っている……」


 今稼働しているのはルーンブレスレットと魔法の絨毯、魔法の箒、ダイエット飴の魔法陣。それぞれ四つとか五つぐらいは動かしているけどさ、それにしても足りなくなっている。


「……これはまた、なんというかやりすぎ感満載な錬金術師じゃな?」

「ん? ああ、白桃姫か。何かあったのか?」

「いや、お主がアイテムボックスからものを出すたびに、異様な魔力を感じるからのう」

「アイテムボックス? ああ、空間収納チェストのことか。鏡刻界ミラーワーズでは、空間にものを収納する魔法のことをそういうのだったよな?」

「まあ、当初は神の加護の一つであったが、妾達空間魔法の研究者達が独自に解析し、作り出すことに成功したからのう。ほら、このような感じじゃろ?」


──ズブズブ

 何もない空間に黒い球体が生み出され、そこに手を突っ込む白桃姫。

 うん、俺も最初はそんな感じだったよ。


「それそれ。でも、白桃姫がアイテムボックスを稼働させても、何も感じないが?」

「妾のアイテムボックスの中には、おかしなものはたいして入っていないからのう。それよりも乙葉、お主は何を隠しておる? 先ほどから幾度となく、異様な魔力がダダ漏れじゃったぞよ?」


 いや待て、俺のは時間停止効果もあるから何か漏れることはない。

 そもそも食べ物とかもぶちこんでいるけれど、匂いなんて外には出てこないだろ?

 それが何? 

 異様な魔力?

 心当たりなんて……あるわ。


「うわぁ、まじかぁ……一度、分解した方が良いかぁ」


 聖徳王の天球儀、それが発している力のような感じだわ。

 

「やはり心当たりがあったか。もしもお主のアイテムボックスが魔力型ならば、神威を通してあっぶでぇとすると良いぞ」 

「あっぷでぇと? ああ、アップデートか。そんな簡単なことなのか?」


 そう思って、空間収納チェストをイメージしてから、そこに神威が流れるようにイメージする。

 そしてもう一度、空間収納チェストを開いて適当なものを引っ張り出すと、白桃姫が頷いている。


「さっきよりはマシじゃが、まあ、悪くはないか」

「そんなにかよ……はぁ、本気で対策考えた方が良いか」

「まあ、妾にはよくわからん話じゃから、首を突っ込むことはせんが。ほら、忍冬達がやって来たぞよ?」


 確かに、大通り2丁目あたりから、バイクに乗った忍冬師範が走ってくる。

 いつもならば徒歩でのんびりくるのに、バイクとはまた何かあったか? それとも俺がやらかしたか?


「オトヤン」

「俺じゃねーよ!」

「いや待て、オトヤン、何かあったのかもなって話そうとしたんだが、いきなり守りに入ったということは、心当たりが?」

「いや、それはない、断じてない!」


 そんなやりとりの中で、忍冬師範がやって来る。


「連絡をしようと思ったんだが、瀬川くんから君たちならここにいるって聞いてな。実は、重要な話があるんだが」

「先輩から場所を聞いて……ほほう? それはまた、どのような話で?」


 これは興味津々。

 

「実は、ある要人を連れて異世界へと行ってもらいたい。名目は異世界視察、異世界との国交を行いたいという事らしくてな、まずはそのための視察団を送り出したいということらしいんだが」

「師匠、それって断られる前提で話していますよね?」

「パス。俺が思うに、異世界と俺たちの世界が繋がるには、時期が早すぎます。ということなので、この件についてはこれまでということで」

「話は最後まで聞け。その話し合いの最中に、関係者である中国の王健祐、アメリカのカイン大佐、天羽総理大臣の三人が消滅した。なんというかこう、突然黒い渦が発生したかと思ったら、そこに飲み込まれるように引き摺り込まれたらしい。その場にいた他国の事務次官や燐訪議員らが目撃していたらしいから、まちがいはない」


 はい、あっさりと話が終わるかと思いましたが。

 忍冬師範がタブレットを取り出して、今の話についてのニュースを俺たちに見せてくれた。


「うわぁ、目撃者がかなり偏った感じだけど、これはマジかも」

「場所が国会議事堂あたりということは、最悪は聖王国付近に引き摺り込まれた? 生贄?」

「極秘会談の最中の誘拐事件だ。異世界の危険性にも拘ることだから、早めに救出をお願いしたいと両国政府からも救助部隊を編成し、異世界へ送り出したいらしくてな」


 待って、いきなりの話なんで情報量が多すぎてついていけない。

 今一度、頭の中で精査させてくださいよ。

 

いつもお読み頂き、ありがとうございます。

誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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― 新着の感想 ―
[一言]  更新お疲れ様です。  うん、オトヤンを強制的に動かすためにやらかした人がいますよねぇ。  今度こそ、オトヤンに退治されちゃったり、封印されちゃったり?
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