第三百六十四話・一路平安、死に馬に針を刺す?(異世界渡航を夢見るもの)
『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週火曜日、金曜日を目安に頑張っています。
大阪での自由研修。
俺と祐太郎はアニメの聖地巡礼に焦点を当てて行動したため、実に有意義な1日を過ごしていたよ。
なんといってもご当地限定グッズの大量購入、普段使いと保存用と一通り揃えまくって、どれだけ金を使ったか覚えていないレベルで散財しまくったよ。
ちなみに祐太郎もガッツリと購入、コスプレ用品や現在はでは入手不可能なグッズなどを限定ショップで買い漁り、ついでにNGKやら食い倒れやらを満喫して大阪駅まで戻ってきましたが。
「くっそ、アトラクションをほとんど回らなかったんだが」
「乙葉ぁ!! 並んでいる列を横入りするための魔法とかないのかよ。他の高校の修学旅行と被ったせいか、平日だと言うのに混み合いすぎてまともに楽しめなかったんだ」
「頼む、他の学校の生徒が入らないように結界を施してから、一日時間を巻き戻してくれるか?」
「結界はまあ、できないことはないが。俺は時空魔法を使うことはできないからな、時間の巻き戻しなんてできないからな」
落胆しているクラスメイトたちに説明すると、がっくりと肩を落としている。
今日はこのまま新幹線で東京へ、そして一泊して午前中は自由研修、午後には札幌へ帰還となりますが。
まあ、俺の班はのんびりと国会議事堂や皇居を回りたいという立花さんたちの班に合流して、疲れを取ることにしたんだよ。
だってさ、4時間しかないのにどこで遊ぶって?
しかも東京研修はレポート提出があるんだから、遊びになんて行く時間はない。
「なあ、乙葉。東京駅から千葉のデスティニーパークまで空を飛んだらどれぐらいで行ける?」
別のクラスの野郎たちが話しかけてきたんだが。
いくらなんでも無理だろ?
「え? いったことないから知らんが。なんでまた、デスティニーパーク?」
「実はよ。明日の午前中の研修でさ、東京デスティニーパークのアトラクションを楽しみたいんだよ。自由研修時間は午前9時半から午後1時半、そのあとで羽田に向かって札幌へ戻るだろ?」
「乙葉の魔法で飛んでいったとして、往復時間を除いたらどれぐらい楽しめるかって話していたんだが。どうなんだ?」
「普通に東京駅からのシャトルバスだとさ、30分ぐらい掛かるんだわ。それだと往復で1時間、万が一のために30分余裕を見ると楽しめる時間がほとんどないだろ?」
指折り数えても、2時間半ぐらいしかないのか。
そりゃ楽しめないわ。
運がいいと二つか三つぐりいはアトラクションを楽しめるだろうけれど、客層や混雑具合によっては一つも楽しめない可能性があるじゃないか。
「多分だが、バスとあまり変わらんと思うぞ、通る場所は幹線道路の上だし、高度による速度制限もある。何よりも、お前らを乗せて飛ぶなんてごめんだわ、一体何人で行く気なんだよ?」
「クラスの半分ぐらいだから、20人切るぐらい?」
「……俺の持っている魔法の絨毯でも、流石にその人数は無理だなぁ。ふつうにバスで行ってこい」
「やっぱりかぁ……まあ、仕方ないか、ありがとうよ」
手を振ってクラスに戻っていく野郎ども。
そして聞こえてくる落胆の声とか、転移しろとか無理難題を叫んでいる。
「うちのクラスだと、俺の魔法に対しての造詣が深いので、無理難題は吹っ掛けてこないんだがなぁ」
「そもそも、今のうちのクラスの魔術師は4人から5人に増えただろ? それだけ可能性があるんだけど、魔法は万能じゃないって理解しているからなぁ」
一年の時とか二年の最初の時は、そこそこに無理を言う輩が多かったんだけどさ。今じゃ殆どのクラスメイトが相談はあれど強要したりはしてこない。
たまにダイエット飴を売って欲しいとか言うけど、それは定価で融通しているし。
「え? うちのクラスに5人もいたか?」
「乙葉ぁ、あと一人は誰なんだよ?」
やっべ。
祐太郎の話に食いついた奴らが集まってきた。
「あら? 5人目は私ですわよ? なにか御用で?」
「え、立花さんが? どうやって魔法を覚えたんだ?」
「すごい、私にも使えるようになるかな? 小春と二人で教えて!!!!」
「うふふ。私の場合、才能があったのですわ。まあ、東京に着いたら、皆さんにも教えて差し上げても構いませんわよね?」
その話を俺に振るなって。
「祐太郎、タッチ」
「了解。立花さん、君の魔法が特殊なのは知っているよな? それを教えるとしてもまずは基礎から学んだ方がいいと思わないか?」
「そうですわね。小春さんからある程度の基礎は学んでいるのですよね? それじゃあ私からは応用ですわ」
「「「「「きゃぁぁぁぁぁ」」」」」
お〜。
女子の黄色い悲鳴。
これは明日あたりは、何処かの公園かホテルで魔術研修かな。
「なあ、乙葉。東京に行ったらってわけじゃないんだけど。俺は一度、ラナパーナ王国に行きたいんだが」
間も無く新幹線の搭乗時間というタイミングで、織田がいきなり話を振ってくる。なんでこのタイミングで?
「はぁ。まあ、お前が行きたいといったら連れて行く約束はしているが、なんでこのタイミングで?」
「この修学旅行が終わったら、あいつらは受験のために遊ぶ時間はない。俺はまあ、北海学園の推薦が決まっているから良いんだが、俺がアホなことをやらかしたおかげで、あまりみんなであちこち遊びに行ったりしていないんだよ」
「無理やり異世界に行った時のことか。あの時は俺との接触禁止まで言われていたからなぁ。それに成績が下がると転校だったよな?」
そうそう、そんな話もあったわ。
「だからさ、俺は世話になった人たちにお礼を言いたいし、奴らを観光で連れて行ってやりたい気持ちもある。なあ、うちのグループ全員を異世界に連れて行くことはできるか?」
「全員……ちょっと待て」
異世界に行く時の許可って、誰かに取る必要あったか?
行く手段は水晶柱からの銀の鍵による転移門の開放、もしくはランダム開放。
ランダムの場合、それこそ星辰の位置により開く座標が大きく変化するので、安全を考慮したら水晶柱で移動するしかない。
ここまで考えても、特に禁止はされていないんだよなぁ。
つまりは俺の心次第ってことか。
「まあ、東京着いてから考えるわ」
「別に今日明日とかじゃなくて構わないんだわ。それこそ受験が終わった後とかでも構わないし」
「ん〜、まあ、俺も少し気になったからさ」
ということで、ちょうど新幹線も来る時間が近づいてきたので、俺たちは一路、東京へレッツゴー。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
──東京・ホテルグランパレス
東京駅からお茶の水まで移動した場所にある、修学旅行客御用達のホテル。
ここで一泊して自由研修へと向かうのだけど。
もうね、豪華絢爛なホテルなんですが。
東京ドームも近く、まさにどこへ向かうにもいい場所。
部屋もツインなのでゆったりと。
一旦荷物を置いたのちレストランでバイキング。
大浴場もあってゆったりとした時間を過ごせるんだけどさ。
まずは先に、異世界への移動が可能かどうか。
ぶっちゃけるなら妖魔特区でも試せばいいんだけど、この東京で銀の鍵を使った場合、どこに繋がるか気にならない?
そう思っていたら、立花さんと新山さんもやってきたので、その事を説明したんだけどさ。
「はぁ。俺が立花さんたちと打ち合わせをしている最中に、そんな話になっていたのか」
「まあ、俺も久しぶりに興味があったというか……」
「あの、乙葉くんにも話しておかないとなりませんけれど……」
「ん、何かあったの?」
「ええっと、見せた方がわかるかな?」
そう話してから、新山さんが両拳を握ってぎゅっと力を込めると。
──ポフッ
新山さんの頭の横に羊のようなツノが生えましたが。
「え? まさか魔族に覚醒?」
「違いますよ、実はですね……」
今日の昼間の大阪での出来事。
まさかタケもっこす先生と会っていたとは知らなかったし、先生が新山さんの眷属になったことも、そのために札幌に戻ったことまで説明してくれた。
その時に、魔族のある集団が異世界渡航を企んでいることを教えてくれた。
「まさかとは思うけど。新しい水晶柱があるのか?」
「そこまではわかりません。ただ、そういう人たちもいるので気をつけなくてはならないって」
「最悪、人間と手を組んでいる可能性もあるが……」
「まあ、試してみるか」
銀の鍵を空間収納から取り出し、魔力を込めて目の前の空間に突き刺す。
──ガチャッ
うん、アメリカでハイエルフの彼女を送り届けた時と同じ感触。
そのままゆっくりと鍵を回すんだけど、意識的に水晶柱に繋がるように念じてみる。
だけど手応えも何も変化しないから、そのまま扉を構築して開いてみると。
──ヒュゥゥゥゥ
風が吹き込んでくる。
うん、今いる部屋が11階、高さにして40メートル近く。
そりゃあ、高層ビルも何もない異世界ならば、風は吹き荒れることもあるだろうさ。
「空……か。地上で開いた場合は、海抜とかも考慮して開けられたんだろうな。でも、今の場所がそもそも高度が高いので、さらに扉が開いてしまったというところか?」
「祐太郎のいう通りだとおもうよ。ほら」
落ちないように腰をかがめてから、そーっと扉の外に頭を出して下を向く。
そこに広がっているのは広大な森林。
あまりにも高すぎるし木々が生い茂っているので、地面を確認することはできない。
「あっちの世界の地図があれば、ゴーグルとリンクできるんだが。流石にオトヤンでも、鏡刻界の地図なんて持ち合わせていないんだよなぁ」
「イェース。ということで、銀の鍵でも繋がることは証明したが、地面で開くのをお勧めする。それで、織田たちの願いを聞くとなると、やっぱり学校で開くのが無難だろうなぁ」
ゆっくりと扉を閉じようとすると、立花さんが近寄ってきてヒョイと外を覗き込んだ。
「これが異世界ですの?」
「鏡刻界っていう、俺たちの世界の裏にある世界ってことらしい。まあ、わかりやすく説明すると異世界ファンタジー」
「指輪物語とか、ハリーフディーニと賢者の杖とか?」
「そういうこと。それで、オトヤンはそこに繋がる扉を開けるんだが、高さまでは融通が効かなかったらしく、ご覧のように空に開いたっていうこと。もういいだろ? 開いて維持するのにも、かなりの魔力を必要とするからな」
「あら、それは申し訳ありませんわ」
後ろに下がってくれたので、あとは扉を閉じて鍵をかけ、銀の鍵を引き抜いておしまい。
以前よりも疲労は少なく、1日ぐらい開けっぱなしでも疲れそうもない。
「これは……使えますわ。乙葉くん、卒業旅行で異世界に行きたいのですけれど、それは可能ですの?」
「織田にも頼まれている。できるかできないかはわからん、向こうのお金もないだろうし言葉もつながらないだろう?」
「そうですわね。うん、少しだけ考えさせてください」
諦めるという選択肢はないのか。
まあ、立花さんは祐太郎に任せておくとして、明日にでも織田たちにも説明しておくか。
また、ひと騒動起こりそうな気がしてきたわ。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




