第三百六十三話・一蓮托生、船頭多くして山を突破!!(悪魔っ娘・小春ちゃん爆誕? 聞いてませんが?)
『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週火曜日、金曜日を目安に頑張っています。
修学旅行からの札幌帰還も3回目。
もう、なんと申しますか。
目の前で腕を組んで立っている白桃姫さんが怖いのですけれど。
「……はぁ。地元のあやかしの保護、元魔将の眷属の避難先。それだけでもお腹いっぱいなのに、今度はラティスハスヤの眷属化と立会人……全く、この話を持ち出したのが乙葉ならば、魔力玉1000個の刑じゃぞ?」
「あれ? あの、眷属化するのは私で、白桃姫さんにはそれを見守ってもらいたいだけなのですよ?」
「……ラティスハスヤ。そなた、しっかりとすべて説明したのかえ? 妾が見届け人となるという意味を?」
「う〜ん。してなかったかも。説明したのだってついさっきの話だからね」
え?
なんのことなのか今ひとつ理解できないのですけれど。
立会人って、証人みたいなものですよね?
「まあ、裏地球の小春が知らないのも無理はないか。それで、ラティスハスヤは妾が立会人で構わないのじゃな?」
「そうですね。ルクリラの部下の時から、貴方の派閥には興味がありましたから。それでお願いします」
「よかろう!!」
──パン
白桃姫が両手を合わせて術式を唱え始めます。
すると私と月形さん、そして私の足元に魔法陣が展開しました。
正三角形の形に三つの魔法陣が生まれ、それらが術式によって複雑に組み合わさっていきます。
「我、怠惰のピク・ラティエが名により、新山小春とラティスハスヤの眷属化の繋がりを生み出す。主たるは新山小春、従なるはラティスハスヤ……」
詠唱が始まり、私の身体に赤いリボンのような術式が組み込まれていきます。
それと同時に、ラティスハスヤさんには薔薇のような術式が刻まれ、白桃姫さんの元には二つの術式が流れていきました。
「ラティスハスヤの眷属化については、我、ピク・ラティエが承認となる。今、ここに三つの楔を生み出し、それを刺すことにより眷属化を終了とする」
──シャルシュルシュルッ
私たちの前に、鉛筆よりも細い楔が生み出されます。
それは一瞬で私たちの体を貫くと、そのまま体の中にとどまり小さな核を形成しました。
そして魔法陣が消滅すると、先ほどまで身体に纏わりついていた術式の全てが消滅します。
「あ、終わったのですか? それよりも今の魔法陣は? 眷属化ってどういう事になるのですか? 白桃姫さんにも術式が刻まれましたよね?」
そう問いかけると、白桃姫さんは右手を開いて私に見せてから、指を一つずつ折りながら説明してくれます。
「一つ、主たる小春は、ラティスハスヤの能力を得る。二つ、従たるラティスハスヤは、許可を得ることにより小春の能力を得る。三つ、立会人、つまり監視者は双方の能力の半分を得る。但し、主従関係が破綻した場合、監視者は責任を持って従もしくは主を滅する……力の均等配分による眷属化じゃな」
「ふむふむ……って? つまりは?」
「そうですね。では、私に神聖魔法の顕現許可をくれますか?」
ユラァと立ち上がるラティスハスヤさん。
まあ、当初の約束なので問題はありませんね。
「ええっと、月形さんに神聖魔法使用の許可を与えます……で良いのですか?」
──シュゥゥゥゥ
すると、月形さんの体が白く輝きました。
「あ、なるほど、この頭の中に生まれたのが術式ですか……聖なる楔の双剣」
──シュンッ
月形さんがそう宣言すると、両手の中に細身の刀身が長い短剣のようなものが生み出されました。
片手に三本、計六本の短剣が指の間に挟まり握られています。
なるほど、私が使うと両手にショートソードが生まれますが、イメージは大切なのですね。
「はぁ、使いこなしていますね」
「私は近接格闘にも精通していますから。この武具は魔族の魔人核を破壊し浄化することができる剣、本来ならば魔族では顕現できないものなのですよ? つまり眷属化は成功です」
「つまり、私にもラティスハスヤさんの能力が?」
「ええ。透明化、憑依、人化、愛欲、吸精、隷属、このあたりは普通に使えますね。この機会に、乙葉くんを愛の奴隷にすることもできますよ?」
「しません!!」
な、な、何を言い出すのですか。
でも、そんなに凄い力が私にも使えるようになったのでしょうか?
「まあ、小春の場合、体内に擬似魔人核が形成されている。そこに魔力を循環することで、魔力を妖力に変換することができる。その妖力を使うことで、魔族の力を使うことができるぞ? 今でも魔皇の紋章を使えば同じようなことができるはずなのじゃが、それを試したことは?」
ええ、魔皇の紋章にはさまざまな能力が封じてあります。
それを使うことはできるのですが、それはその、まだ抵抗がありまして。
「まだ、使ったことはないです。恐らくは乙葉くんも築地くんも、瀬川先輩……は使っているのかなぁ?」
「築地は使っているな。闘気の増幅とか身体強化など。あやつの魔皇紋は自身の闘気をさらに増幅することができるからのう。まあ、乙葉は魔皇の持つ術式を全て自身の魔導書に転送している筈じゃ。というか、勝手に浮かび上がって、それに気づかず向かっていると思う……」
「ふぅん。それじゃあ、簡単なやつで、これはどう?」
月形さんが私に背中を見せます。
すると、ポン、と小さな蝙蝠のような翼を背中に出現させます。
そしてゆっくりと羽ばたくと、そのままふわりと体が空に浮かび上がりました。
「そ、それは?」
「飛翔術式ですよ。この背中の羽根が術式の塊です。これなら、そんなに負荷も高くありませんから、練習にはいいと思いますよ。人化については小春さんが人間なので意味がありませんし。あとは中級の……いえ、私が眷属化したので上級空間結界術式が使えます」
「へぇ〜、それって白桃姫さんが使うやつですよね?」
「妾のは超級空間結界じゃな。まあ、今回の件で、妾も中級の癒しの術式が一通り使えるようになったし……ラティスハスヤのはしょぼい能力じゃからいらんし、そもそもすべて使えるからのう……それでラティスハスヤや、そろそろ隠していることを説明してもらえるかや?」
ニッコリと笑いつつ、白桃姫さんが月形さんに問いかけます。
え、隠している?
「あはは。さすがは白桃姫さま、そこまで見抜いてますか」
「当たり前じゃ。妾が中級回復術式を使えるようになったということは、妾の眷属たちは自動的に下級回復術式が使えるようになっておる。魔族では得ることができない神の神秘。そのようなものを妾に与えて、何を企んでおる?」
目線が鋭くなり、月形さんを見据えています。
すると、月形さんもウンウンと頷いていますけど。
「さすがは白桃姫。マグナムに次ぐ知略家だよね……それじゃあ種明かし、この水晶柱を使って異世界渡航を企んでいる組織がある。そいつらは、この世界の水晶柱をコントロールして異世界への門を生み出し、双方の自由な出入りを可能にしようとしているんだよ」
「ほう? ほうほうほう? それは面白いのう」
「まあ、当然ながら人間如きが制御できるはずがないのは理解しているよね? だから失敗する確率が高い。しかも暴走してあっちの魔物をこちらに放逐し始めるかもしれない。そうなると、緊急時にすぐさま人命救助ができる人材が必要になる……」
つまり、まだ起こる時期のわからない、転移門騒動がまた起きるというのですか? あの惨劇が……。
──ザワッ
あの百道烈士に殺された記憶。
その時の恐怖が、また私の中に蘇ってきます。
寒い、身体が寒くなってきます。
「落ち着け小春や、あの時とは状況は違う。今の小春は鍵ではない、逆に門を封じる力を持っている……乙葉が生み出した扉を開く鍵、それがあるじゃろうが」
「あ、は、はい……」
私の後ろに白桃姫さんが近寄ってきて、後ろからぎゅっと抱きしめています。
この感覚、あの時も白桃姫さんは私を守ってくれました。
そして、その直後に乙葉くんが私の元にやってきて……。
うん、大丈夫。
今は守られているだけの自分じゃない。
私は、少しだけ強くなったから。
「さて、ラティスハスヤ。その企みを起こしている輩は、何処のど奴じゃ?」
「まだ情報が未確定。でも、これは必ず起こる……私の知り合いの魔族が予見した未来、その直後に彼女は殺されたから」
「ラティスハスヤの知り合いの予見者か。つまりルクリラ配下の魔族で、敵対するもの……マグナム残党の可能性があるのか」
「まだ不明で。だから、白桃姫さまには、この地で水晶柱の監視をお願いしたかったのですよ。こうして繋がりができれば、空間魔術が使える貴方さまなら念話で連絡を貰えるでしょうし、私が何かに気がついたら小春さんと白桃姫さまに連絡できますから」
このことは、私だけの心の中に入れておくわけにはいきませんよね。
乙葉くんたちや先輩にも伝えないといけません。
「どれ、雅には妾から伝えよう。小春は乙葉らにこのことを説明……さて、立花とやらはどうするかのう……うむ、任せる!」
「了解です。では、そのことも踏まえて色々と注意しますね。では、大阪に帰りましょうか」
「ええ。小春さんは修学旅行中なのよね? 私からの用事はこれで終わったので、あとは、ゆっくりと楽しんできてくださいね」
「はぁ、心から楽しめるかどうかわかりませんけどね」
まずは乙葉くんたちに合流してこのことを説明。
そのあとは気をつけつつ楽しむことにしましょう。
それにしても……はぁ。
巻き込まれ体質って、こういうことを言うのですよね。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




