第三百六十一話・平穏無事、六根清浄ありがたい(二度あることは、三度ある? あってたまるか!!)
『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週火曜日、金曜日を目安に頑張っています。
ガチャッ
祐太郎が水晶柱を起動させて扉を開放する。
立花さんにとっては初めての、俺たちも祐太郎の扉解放は二回目とあって、少し祐太郎の様子を確認して見たんだが。
「お? 以前とは違って、闘気を吸い出される感覚はあるがすぐに途切れることもなさそうだな。これなら、1時間ぐらいは開き続けられるが」
「おそらく、基礎闘気量も増えているから、それで長期間の扉解放も可能になったんだろうなぁ」
まえに祐太郎に渡した鍵は回収して、新しく今の闘気量に合わせた銀の鍵を作成。ついでに2人のルーンブレスレットを回収してそこに鍵を組み込み、手をかざすことで扉を生み出せるように調節。
新山さんのも鍵を組み込んで神聖魔法による扉の開放も可能にして、うん、これで満足。
「……のう、乙葉や。いきなり水晶柱を開いてやって来たのは構わぬが、そのまま柱の前で何やら作り始めるのはやめて、説明を所望するが」
「お?」
おっと、つい興が乗ったもので。
「まあ、オトヤンのいつもの流れだから気にしてはいないし。それで、一応だが、白桃姫にも立花さんを紹介しておいた。あと、札幌テレビ城の面々と、この辺りの白桃姫配下の魔族にもな」
「うん、慣れるまでは大変だけど、すぐに慣れるようになるからって説明しておいたんだけどね」
そう告げてから、チラリとベンチに座っている立花さんを見る二人。
背筋を伸ばしてベンチに座り、なにやらぶつぶつと話しているし、周りでは彼女に興味を持った魔族が集まって来て、何やら話しかけているし。
うん、洗礼を受けているということで、今は良し。
「しかし、相変わらず乙葉の友達は面白い輩が多いのう」
「まあ、ひとりびっくり万国博覧会って程じゃないが、面白いのは否定できないなぁ。と、すまないが白桃姫、実は頼みがあってだな」
「頼みとは、そこのオートマタの保護かえ?」
白桃姫が指差した先。
やはりベンチの上に座って、膝を抱えてガクガクと震えているビスクドールの付喪神ちゃんの姿があってさ。
立花さんの方とは違って、集まった魔族が殺気をフルパワーで発揮しまくっているのはなぜ?
「……なに、あのやる気満々な配下のみなさんは。なにか、あの子に恨みでも?」
「いや、あの子にはないのじゃが、あの子のマスターには恨み満載じゃろうなぁ。何分にも、彼奴は二代目魔人王ディラックが十二魔将、魔人形使い・プロダクトが作りし戦闘用自動人形。その魔石が長き年月により自我を持ち、こちらの世界で神威を身につけたのじゃろうなぁ」
「なにそれ、格好いいんだけど。それで、あの殺気の理由は?」
「理由もなにも、ここにいる魔族はディラックに恨みしかないからなぁ。正確には、ディラックの無理な大侵攻により仲間を失った魔族じゃから」
つまり、恨み満載の対象が作ったから、お前も憎いと。
うーむ。
この辺りは、人間とは感覚が違うんだろうなぁ。
「それで、あの付喪神は受け入れてくれるか? マスターの元にかえりたいそうだけど」
「帰るも何も、聖徳王に滅されておるわ。こっちの世界でいう、輪廻転生の輪の中、円環の理の最果てにあるじゃろうなぁ」
「つまりは無理ってことか。まあ、そらならそれで仕方がないから、あとは任せていいか?」
そう説明すると、にっこりと笑って右手を差し出してくる。
はぁ、やっぱりだよなぁ。
「あの場にいる全員を納得させるのじゃ、その人数分は寄越してたもれ」
「はいはい。そんじゃ、こんな感じで」
右手を出して、その上に大量の魔力玉を溢れさせる。
それを急いで受け取って、魔導ストッカーへと走って納めに行ったけど。
「乙葉や、ここに直接入れてたもれ!! いちいち受け取って走るのは嫌じゃ」
「そりゃそうだ」
まあ、ストッカーの中の『俺の魔力玉』も減っていたから、補充にはちょうどいい。祐太郎と新山さん、瀬川先輩の分は半分以上残っているんだけど、俺のはもう一段分だけか。
「俺の、減るの早くない?」
「そなたのは、魔族への俸禄としても使っておる。三人のは、妾のオヤツとお茶請けとデザートじゃからな」
「その三つは同じだな。まあ、ここに立花さんのも増えるとなると、新しいストッカーも必要ってことか」
「あとは、たまに座敷童子も貰いに来ておる。あの子は小春のしか受け付けられぬけどな」
「波長というか、ものが違うからなぁ。俺のはダメなんだろ?」
「そうじゃな。スプーンでひとすくい、それでもう満腹らしい」
魔力玉をスプーンで掬って食べるのかよ。
まあ、あちこちに取り憑いて生気を吸われるよりもマシか。
そんなことを白桃姫と話していると、立花さんが祐太郎と新山さんに支えられてやってくる。
「これが、乙葉君たちの世界なのですわね。インターネットやテレビで見たものとは、やはり少し違うようで……なんと言いますか、人智を超えた体験ですわよ」
「まあまあ。立花といったな、築地の良き人ならば歓迎じゃよ。あとはまあ、報告を受けて走って来た忍冬とかにも話をせねばならぬようじゃから、あとは人間同士で話をするが良いぞ」
はい、俺たちがここに来たってことは、自動的に監視している退魔官から対妖魔機関に連絡が入るわけで。
そして妖魔特区ということは管轄は札幌支部な訳で、そして俺がいるってことで忍冬師範が来るところまではテンプレート。
「浩介と祐太郎? それと新山さんとそのクラスメイトか。報告では確か、修学旅行中だよな? 数日まえにもここに来たっていう話を聞いたが、何をしているんだ?」
「正確には昨日ですけどね。まあ、話せば長くなるので細かい報告は修学旅行から戻って来てからということで。実は……」
簡単に座敷わらしのことと付喪神の話を説明。
まあ、ホテルに封印されていたとかいう部分ははぐらかし、遠野から京都に連れ去られた座敷童子を助けて帰って来た、そのうち帰すからそれまで白桃姫に預かってもらったことを説明。
付喪神については隠すことなく説明し、白桃姫に預けたのであとは彼女と相談して欲しいと、対応は白桃姫に投げ飛ばしたよ。
すると、忍冬師範と随伴している退魔官は腕を組んで考え込む。
「う〜む。白桃姫さんに投げたか。そうなると、俺たちとしても観察しかできないからなぁ」
「そうでしょう? まあ、詳細報告とかは後ほどで。そろそろ奈良に戻らないと、時間がやばい、9時までにホテルに戻らないと反省文なんですよ」
「それと、新しい魔術師が一人増えたので、それについても後日、改めて。オトヤン、マジで時間がやばいぞ」
うぉあ。
今から水晶柱で戻って、空飛んで帰ってもギリギリか。
「それでは、これで失礼します」
新山さんが頭を下げるのを見てから、俺が水晶柱に鍵を差し込んで……まてよ、短距離転移と扉を組み合わせてみるか?
「水晶柱起動……術式・短距離転移を組み込み、指定座標に扉を構築……」
──ヒュゥゥゥゥ
俺の体の中の魔力が、銀の鍵に集まっていく。
うん、指定したホテルの前に扉が構築されるのを感じる。
これが成功したら、ターミナル経由だけど自由に好きな場所に行ける。
鏡刻界へのランダムな扉ならどこででも作れるけど、あれは星辰の位置によって開く場所が違うからさ。
行きたいところに行くとなると、やはり水晶柱を媒体としないとならないからな。
──ガチャッ
扉を開いて鍵を抜いた時。
──ボロボロッ
鍵が砕け、銀色の粉に変化する。
「うわ、鍵が持たなかったのかよ」
「当たり前じゃ!! ターミナルを用いての現界転移術式、しかも魔人型簡易転移門の構築など、伝説の聖徳王の力ではないか!! その辺の適当な素材で作った魔導具など、耐え切れるはずがあるまい。それよりもはよう、扉に飛び込め、鍵が破損したから不安定じゃぞ」
「うぉあ!! それじゃあまた」
新山さんの手を掴んで扉に飛び込む。
祐太郎も立花さんの手を取って扉を越えると、その数秒後には扉が光って消滅した。
「……ここ、ホテルの前、だよね?」
「オトヤン、今の術式はなんだ? こんな魔術は俺も知らないぞ」
「……もうお腹いっぱいですわね。新山さん、早く戻りましょう」
「あ、はい。それじゃあおやすみなさい」
手を振って立ち去る新山さんを見送ってから、俺は地面に落ちている光る粉を回収する。
なんだろう、この粉は。
天啓眼で鑑定しても『解析不可能』という文字が出ているし、銀の鍵の素材でもない。
つまりこれは、この扉の構築によって生み出された副産物のようなものなのだろう。
「まあ、祐太郎には後で説明するよ。それよりも要先生のところに行って、報告だけでもしておくか」
「そうだな。それじゃあ、戻るとするか」
案の定、ロビーのソファーに座って本を読んで待っている要先生がいたので、そこに向かって作業完了の報告をしておく。
すると、ちょうど忍冬師範からも連絡があったらしく、細かい報告は札幌に戻ってからでいいということになったので。
風呂に入って、寝ることにするよ。
明日はいよいよ、大阪!!
さあ、思いっきり遊んで喰い倒れるぞ。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




