第三百六十話・一期一会、快刀乱麻を断ててない?(I ain't afraid of no youmaってことで)
『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週火曜日、金曜日を目安に頑張っています。
奈良県・春日の地の夕方。
クラスメイトたちはホテルでのんびりと体を癒し、明日の大阪自由研修へ向けて事前準備に余念がない。
俺たちの班も、明日は『大阪といえばここ』と言うイベントスポットを巡る予定なんだけどね。そこでのんびりと、妖魔とか使徒とか妖とか怪異とかとは無縁な、高校生活最後のイベントを堪能するんだよ。
つまりは、そのためにもこの神鹿の依頼を今日中にこなす必要があってね。
春日大社の敷地内にある、大小合わせて3000もの灯籠に住み着いた化物を退治せねばならんと言うこと。
早速俺と祐太郎、新山さんに加えて立花さんも参加しての、夕方のゴーストバスダーズとなりましたが。
「……オトヤン、この辺りの灯籠の中は神鹿の魂魄が潜り込んでいるな。これが正常ということなら、追い出された神鹿が入っていた灯籠って、つまりはこういう反応なんだろ?」
綺麗に並び明かりが灯っている灯籠、その一つの横に祐太郎が立つと、それを軽くコンコンと叩いている。
「おおう、祐太郎、そいつは記念物みたいなものだが取扱注意だからな」
「分かっているって。さて、ここから追い出すにはどうしたものか」
「それでは、試しに私が魔法を使ってみます。その灯籠に潜むものや、かの場所は汝の棲家にあらず……出て来なさい!!冥府葬送」
素早く印を組み上げて、静かに韻を紡ぐ新山さん。
すると、その灯窓のところから黒い霧が吹き出し、やがて地面に広がってから小鬼のような姿に実体化して。
「八尺さん、食べて構いませんわよ?」
──シュッ
その小鬼の足元を中心に、地面から丸く牙が生み出されると、それは口を閉じたかのようにシャキーンと隆起して閉じる。
その顎に噛み砕かれた小鬼は分解し、中心部の口の中に吸い込まれていった。
「……うわ、えげつないわ」
「死霊術っていうのは、こういうのなのか?」
「まさかですわ。これは八尺さんの能力であって、私は何もしていませんわよ……と来ましたわね?」
立花さんが話しつつ指差した先。
そこでは、透き通った神鹿がゆっくりとこちらに向かって歩いて来ていた。
やがて灯籠の真横までやってくると、灯籠の中に吸い込まれるように消えていき、先ほどとは違う、淡く柔らかい光を放ち始めた。
「よし、これで終わりだな。意外と早く終わったじゃないか」
こうもあっさりと終わるとは思わなかった祐太郎だけど、君の真後ろで順番を待っている神鹿がいることに、いつ気づくかな。
──パクッ
ほら、ジャケットの裾を飾られてるし。
「ううぉあ、なんだなんだ……って、マジか、これは新しい神鹿か?」
「ええ。さっきホテルにいた子はこっちの子ですわね。それは、私たちがここに来たことに気がついた神鹿のようですわよ?」
「はぁ。まだこんなにいるのかよ」
軽く数えても20以上。
この全てが、灯籠から追い出されたっていうのか?
そう思ったら、神鹿たちは俺の心の言葉を理解したのか、はたまた偶然なのか、頭を上下に動かしている。
「それじゃあ、ちゃっちゃと終わらせてしまいましょう。次はどこですか?」
「待て待て、灯籠を絞らないと……神鹿の収められている灯籠をマークして、次にそれと同じ反応を全て除外化して……残った灯籠のみをサーチ、からの祐太郎とデータ共有……と」
次々とコマンドワードのように条件設定を始める。
その間、立花さんが俺を指差しつつ祐太郎に何か聞いているし、祐太郎も俺にハンドサインで合図を送っているし。
「ん、教えても構わないよ。立花さんなら口が硬いだろうからさ」
「オッケー。実は、このゴーグルなんだけど」
と言う事でサーチゴーグルのことを立花さんに説明して貰っている間に、俺は新山さんと目的の灯籠を一つずつ巡回。
そして新山さんが灯籠から『何か』を追い出して、俺が魔術で浄化するっていうのを繰り返す。まあ、すぐに祐太郎からも連絡があったので、そこから先は二人一組で動き、とっとと終わらせることにしたんだよ。
そんなこんなで1時間もしたら、全て終わったんだけど。
「いや、全てじゃないよなぁ」
「ああ、これは予想外でな。俺と立花さんだけじゃ対処に困るから、二人にもアドバイスを求めたいところなんだが」
「築地くんのいうとおりですわ。さあ、乙葉君、早くなんとかしてくださいませ!!」
最後の灯籠から出て来たのは、下級妖魔でも怪異の小鬼でもなく、小さな女の子の幽霊。
どことなくゴシックスタイルのワンピースを着ている女の子で、まるでビスクドールのように見えるし。金髪青目ってことはつまり、日本人じゃない。
待てや、この土壇場で時間のかかりそうな案件にぶつかるなんて予想外なんだが……。神様や、俺に何の恨みがある?
「霊会話を発動します……ねぇ、貴方はどこから来たの?」
『ここにいた』
「うん、ここにいたんだね。それじゃあ、いつからいるの?」
『わからない。気がついたら、ここにいたの』
「気がついたらここに……うん、そっか。お名前は?」
『名前……なまえ?』
自分の名前も忘れてしまっているらしく、頭を傾げて考え込んでいる。
これは、なかなかに難しい案件なんだが。
『名前は、覚えていないの』
「そっか。ここには誰かと一緒にきたの?」
『一緒に……大勢の人と来たの。それでね、どこかに住んでいたんだけど、でも覚えていないんだよ?』
「覚えていない……のかぁ。そっか、どうしょうかなぁ。乙葉くん、何か聞きたいことはある?」
そのまま新山さんは女の子から聞いた話を説明してくれるんだけど、どうにも手がかりがない。なさすぎて涙が出そうになる。
「しゃーない。天啓眼、発動」
『ピッ……付喪神亜種。固有名の認識については、霊体の力が弱いので不明瞭。古いビスクドール?が100年の時を経て神威を得た存在であり、すでにビスクドール?自体も霊体化している。なお、本体は鏡刻界製であり、第二次妖魔大氾濫期に、転移門を超えてやってきた』
「まった、ちょいまち、本気でストップ!! この子は付喪神なんだが、本体は鏡刻界原産で、こっちで長い時を経て付喪神になったらしいんだが。あ〜もう、なんでこんなにややこしい存在が姿を表してくれるんだよ!!」
思わず頭を抱えて絶叫してしまう。
どうせなら普通の付喪神が姿を現して、主人を探しているとかの方がよっぽど気が楽だったよ。
それならば、修学旅行が終わってから、俺はこいつと旅に出るって感じで主人探しの旅に出かけられたんだよ。
「あの、鏡刻界というのは、確か築地くんたちがいったことのある異世界で、織田くんが勇者として召喚された場所で間違いはないのですわよね?」
「まあ、そんな感じ」
「それって、霊力が満ち溢れているこの場所にいることは可能でしょうけれど、敷地外に出てしまったら、先ほどまで灯籠に取り憑いていた妖のような存在に狙われてしまうのではないですか? 確か、妖魔や使徒が食べるものは、精神エネルギー及び生体エネルギーであると、国会の中継で見ましたわよ?」
そうなんだよ。
幸いなことに、春日大社の敷地内ならば、大気成分にも霊力のようなものが含まれてあるらしく、それを吸収することで今までは付喪神としての力も温存できていたらしいんだが。
それにしても、ビスクドール型の付喪神とはまた、なんとしたものか。
「それって、ここから出ることはできないっていうことだよな。でも、灯籠から出しておくと」
「多分だが、その辺の低級霊に食い殺されるとか、他の妖魔に吸い尽くされる案件だが、どうする? そもそも神という名前がついている時点で、高濃度霊力の集まりであることに変わりはないから、もれなく捕食対象だとは思うんだよ」
「ということらしい。オトヤン、いや新山さん、その付喪神にどうしたいか聞いてくれるか?」
「わかった。ねぇ、貴方はどうしたいの?」
『帰りたい……』
「そっか。どこに帰るのか、わかるかな?」
『分からない。でも、門を越えてやって来た』
「帰りたいって。さっきの話は本当らしいわ、門から出て来たって話していたから」
「門……転移門かぁ。そんじゃ、この子も白桃姫の元に連れて帰って、後でまとめて面倒を見るってことにするか。それで良いのなら、鏡刻界に連れて帰れるよって話してくれる?」
「オッケー。あのね、今すぐに帰るのは無理なんだけど、実は……」
と、新山さんに付喪神との話を付けてもらっているところだけど。
問題は、札幌へ向かうための水晶柱。
春日大社の敷地内にもあるんだけど、京都の二条城のように接触禁止のロープも何なく、普通に堂々と立っているんだよ。
近くには二の鳥居もあって、人の目にも触れやすくなっているからなぁ。
「はぁ、また水晶柱を起動しないとならんのか」
「俺が代わりに開いてみるか?」
「ん〜。今の祐太郎なら、楽勝かもな……ほい、鍵を預けておくから、試しに開いてくれるか? それで簡単に開けられるのなら鍵を複製し直すから」
ヒョイっと鍵を祐太郎に投げると、それを軽々と受け取って頷いている。
うん、あれもこれも俺じゃなく、ここは祐太郎にも色々と負担して……という理由で、立花さんへの説明を任せることにする。
いや、面倒臭いんじゃなくて、何処まで説明したら良いものか難しい所なんだよ。
織田のように鏡刻界に行ったことのあるやつなら、ある程度は理解できるだろうし説明も早いんだけどさ。
立花さんは、後天的覚醒型なので、こっちの世界の魔術の理なども説明しないとならない。
いっそ、魔術研究会に誘ってみるというのもありなんだが、そこはほら、立花さんの彼氏でもある……彼氏だよな? 自分で築地祐太郎の彼女って公言していたから。
「んんん? オトヤン、鍵は反応するから試してみるわ。ちょいと見ていてくれるか?」
「了解さん。そんじゃ、水晶柱まだ向かいますか。新山さん、付喪神を連れて来てくれる?」
「はーい。それじゃあ、ついて来てくれるかな?」
そんなこんなで、急遽、水晶柱を稼働して札幌までまた繋ぐ必要が出てしまったよ。
なんだろう?
旅の感覚がだんだんと薄れ始めて来た。
ん〜どうして、こうなった?
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




