第三十六話・火のないところに曲突徙薪(学校の怪談というか妖魔退治)
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魔力酔いで保健室に運ばれた俺ちゃんだよ~。
という事で、大体30分程度で回復したので、訳の分からないステータスになった件については保留、強くなったので問題なしとしておこう。
考えるのが面倒くさくなったし。
「乙葉浩介、無事に帰ってきましたっっっっっ」
「オトヤン、そのネタはやめれ」
「あらほらさっさー。それで、俺がいない間に何かあった?」
テーブルの上を見ると、大量の魔封じの御石がおいてある。
手に取ってみると、一つ一つに魔導化したダイヤモンドも嵌められているし、自動で魔力を供給するシステムも構築されていた。
「へぇ、見事な作りだね、これ、誰が作ったの?」
「オトヤンだよ。魔石を作ってから意識が朦朧としたまま錬金術の術式を構築して、全て仕上げてぶっ倒れたんだよ。覚えてないのか?」
はて? そうだったか?
顎に手を当てて考えるが、あ、たしかに意識なくなる寸前! というか意識がなくなってからもなんかしていたような感覚はあるわ。
流石は俺、天才じゃね? 二度とやりたくないけど。
「乙葉くん、もうなんともないの? もう少し休んだ方が良いんじゃないの?」
「ありがとう、そしてありがとう新山さん、俺はもう何ともないよ、スカイハーイって気分だよ」
「それだけ元気なら十分だな。そんじゃオトヤン、配置してきますか」
「そうだな、明日、またフローターがうろうろしているのは見たくないからな」
「そうだな、それじゃあいってきますか」
そこからは、俺と祐太郎の二人で見取り図に記してあるマークの場所に移動。
魔除の御石に魔力を注いで起動すると、人目のつかない置物の隅っこや避難用具入れの隅、玄関の簀子の角や俺の下駄箱の中など、とにかく見つからない場所を探して校内を走り回った。
祐太郎は外担当、壁際を選んで闘気体術の石刃拳を打ち込み地面に穴を開けると、そこに起動した御石を埋めていったらしい。
そんなこんなで部活終了ギリギリには全ての御石を起動して隠してくると、あとは部室に戻って先輩や新山さんにハイタッチ‼︎
「ふう。俺は、もう今日分のMPは使い尽くしたぞ」
「ユータロの闘気術式はまだ未知数だからなぁ。石刃拳って、闘気を注げば注ぐほど硬く鋭利になるんだっけ?」
「そういう事だ」
「それは私も瀬川先輩も同じですよ? 私たちは確か二人と違って未覚醒ですしMPも少ないようですから。いくらでも使える乙葉君が凄いのですよ‼︎」
まあ、そこがチートキャラとしての良いところなのか? 実際に俺が魔法使うのなんてあまり無いし、寧ろ大量の魔力も錬金術に殆ど費やしているからなぁ。
そんなこんなで自宅へと帰る事にする。
あとはほら、日課を終えて一休み。
ベッドに横になってカナン魔導商会を展開し、何か掘り出し物がないか調べるだけさ。
「ふむ、特に変わりはないなぁ。まあ、要望欄にメッセージでも書いておくか。
『俺たちの世界にいる妖魔に対して、有効的な魔導具を商品として開発してください』。
はい送信、ピッとね」
これで何か良いものが開発されると良いんだけれどなぁ。
……
…
『ピッ……いつも当商会をご利用頂きありがとうございます。
乙葉浩介様のご要望にあった『妖魔に対して有効な魔導具』の件についてですが、開発担当から『妖魔ってなに? 俺そんな存在しらねぇよ』という報告があったので、現状では開発は不可能であります。
出来るならば、当商会にて販売されています魔導具にて対処していただきたく思います。
いつもご利用頂き、誠にありがとうございました。
カナン魔導商会商品担当 フィーム・ロイシィより』
……
…
──ビビビビ
あ、はい、起きる時間ですね?
最近の朝の目覚めは完璧。
まずはカナン魔導商会のページをって、返事きてるぞおい‼︎
慌ててメッセージを確認する。
あ、なるほど、そちらは妖魔って知らないのね?
え?
じゃあ、このカナン魔導商会って、何処にあるの?
てっきり鏡刻界にある商店かなぁと予測しててさ、いつか向こうの世界に行った時には遊びに行こうと思ったんだよ?
「はぁ? 俺たちの世界以外の、本当の異世界があるのか? まじか? まじだよな?」
これは夢が膨らみますよ。
という事でいつものようにバスに乗って登校したのはいいんだけどね。
……
…
バスを降りて校舎に向かい、玄関に入って……。
──オェェェェェ
いきなり吐き気がした。
なんだかわからないけど、突然来た。
目の前もクラクラするし、なんだろコレ、一体なにがあったんだ?
思わず周囲を見渡すけれど、俺以外の生徒は特に問題もなくニコニコと上履きに履き替えて教室に向かっている。
なんだなんだ?
一体なにがあった?
「……ウゲェ、マジで気持ち悪い……」
これは、まっすぐに保健室行く案件だわ。
ふらふらと歩いていくと、保健医が椅子に座って頭を捻っている。
「おや、君は昨日の乙葉君だったかな? 君も原因不明の目眩と吐き気?」
「ピンポーン、その通りでウゲェ……。駄目っす先生、ベッド借ります」
「ああ。君で四人目、ちょうど満員か。担任にはこちらから連絡をしておくので、少し休んでいたまえ」
──ガラガラッ
そう告げて保健医は立ち去っていく。
『はぁ、そのうち声はオトヤンか。お前さんも吐き気とめまいか?』
隣のベッドからは祐太郎の声がする。
「そ。何があったのか全く以って不明だわ」
『そうですね。これは何かの偶然でしょうか?』
『先輩もそう思いますよね? どうしてか私達だけが、具合が悪くなったのです……ウッ』
あら瀬川先輩と新山さんの声もする。
という事は、朝食に当たったわけではないと。
『妖魔……かなぁ?』
「ユータロの言う通りかもね。そんじゃ調べますか。オーケィGoggles、探知モード、対象は妖魔でウゲェェェェェェェ」
それはもう、綺麗なスプラッシュでした。
いきなりゴーグルに大量の妖魔の気配がでるんだもの、俺の頭の中にもフィードバックは来るよね。
ざっと数えても40以上、しかも下級も中級も混雑している。
『止める前にやったか。俺も、さっきそれをしてスプラッシュしたからなぁ。オトヤン、原因わかるか?』
「膨大な妖魔の気配に当てられた感じ? 俺たちってさ、妖魔のことを知っちゃって、それでいて妖魔の好きな魔力の塊みたいなものじゃない。精力は魔力に繋がるからさ」
『その膨大な魔力を持つ私たちを妖魔が狙った。けれど、私達は魔除の御石を持っているから、近寄らない。周囲を妖魔が取り囲んで狙っていると言うところかな?』
あー、そうね、そんな感じよね。
そして新山さんに至っては、喋ることもできないのか。
「‥‥‥まいった‥‥‥あれ効くかな」
こんな時の新山さんの回復魔術だけど、当の新山さん本人はまた覚醒していないから使えないし、具合が悪すぎて身動きが取れていない。
という事で、空間収納から病気治療ポーションを取り出して一気に飲み干す。
実にピーチなネクター味だよね? 以前飲んだ時は無味無臭だったのに。
そして飲んだ瞬間に全身が淡く輝き気分爽快さ。
「おっ‥‥‥俺も行くわ‥‥‥」
祐太郎も病気治療ポーションを飲み干して立ち上がると、肩をぐるっと回している。
「私も行きたいところですけれど、ここに新山さん一人にはできないから、お願いしますね」
「任しておけ」
「当然。先輩は新山さんの気分が良くなってきたらポーション飲ませて待機していてください」
――ピッピッピッピッ
どうしてこうなったのか、その理由はまだ判らないけれど、ゴーグルに示されている場所に行けば判る。
偶然なのか判らないが、見取り図でいえば魔よけの御石によって作られてしまった袋小路の部分がある。そこにすべての妖魔が集まって漂っているのは確認できた。
「‥‥‥さて、授業は始まっているから目立たないように」
「インビジリングを起動して、抜き足さし足忍び足‥‥‥と」
授業中なので静まり返った廊下を俺と祐太郎は進む。
よく見ると、霧状になった妖魔反応が廊下全体、いや校舎全体に広がっているのが判った。
この霧の中に入ると、魔力の高い人間は魔力酔いのような現象を起こすのだろう。
怖いけど、この霧を鑑定してみる。
『ピッ……流れ溜まる妖気、魔力が高い人間に強制的に魔力酔いを引き起こし身動きが取れないようにする』
あ〜。どうやら俺の予測は的中していたので、霧の発生源でもある目標地点へと急いで進む。
「‥‥‥さっき飲んだポーションのおかげて、こうやって霧の中を進むことが出来るのか」
「そうみたいだね。よし、あと少しで一番濃度の濃いところに到着するってゴーグルが教えてくれているわ、優秀すぎる」
そして1階奥、階段の横にある使われていない備品庫まで向かうと、俺と祐太郎が扉を開けて中に入っていく。
――ムワァァァァッ
内部は霧がかかったかのように真っ白な空間になっている。
「‥‥‥気持ち悪いわ‥‥‥この霧が全て妖魔とはなぁ」
『ピッ‥‥‥中級妖魔ハングリーミスト、自身の体を霧状の『流れ溜まる妖気』に変換して空間に広がり、そのエリアに入ってきたものの精気を吸収する。フローターを取り込むことでより広く、より大量の獲物を捕らえることが出来るようになる‥‥‥HP26、MP30、魔族共通能力/透明化・憑依/霧散化/流れ溜まる妖気』
予想外に強そうに感じる。
すでに俺と祐太郎はハングリーミストのエリアに入っているらしく、じわじわと体内になにかが浸透してくる感じがする。
「オトヤン、こいつらには魔よけの御石が効いていないぞ!!」
「せっかく作ったのに、いきなりこれかーい!! って、相手は中級妖魔だから効果ないのか。くっそ、魔法使いたいけれど部屋が吹き飛ぶ音がする、備品も壊れるの三拍子だわ」
すぐさまハリセンを引き抜いて周囲の霧を払うようにぶんぶんと振り回す。
すると、それに当たらないように霧がサーッと晴れていき、ハリセンが通過した後にまた霧が集まってくる。
「ダメだ、おれの闘気術式じゃ実体がない相手だと辛すぎる。オトヤンなにかないか?」
「普通の攻撃魔法じゃだめだわ‥‥‥つてそうか!! 風精製‥‥‥範囲拡大、これでどうだぁぁぁぁ」
俺の周囲に風を生み出すと、それを部屋の奥に向かって飛ばしていく。
相手が霧状ならば風に乗って流れていく!! その予想は見事に的中。
ゆっくりとハングリーミストが部屋の奥に向かって集められ、そして角まで追い詰めると人型に実体化した。
「あれだ!! 祐太郎頼む!!」
「よっしゃあ」
――キィィィン
祐太郎の右手に銀の籠手が生み出される。
「確か、こいつらはダメージを受けると霧散化っていって散っていなくなるんだよな? また集まってくる可能性はあるけれど、魔核を破壊すればいい‥‥‥だったな」
――ダッ!!
素早くハングリーミストに向かって走り出す祐太郎。そして俺はゴーグルでハングリーミストの魔核を探し出す。
「ピッ‥‥‥ユータロ、左肩付け根に魔核がある!!」
「応さ!!」
――ダンッ!!
力いっぱい踏み込んでから、右腕を伸ばすように正拳を入れる。
それはまっすぐにハングリーミストの魔核に直撃すると、一撃で魔核を破壊した。
――ガッシャァァァァァァァァァァァン
砕け散った魔核は床に落ちると、全て破片が蒸発していく。
慌ててセンサーゴーグルでハングリーミストがまだいるのか確認したけれど、もう周囲には存在していない。
「ミッションコンプリート。という事で、少しだけ配置をずらしていくか。ここはまた吹きだまりになってしまうしフローターが集まっていると中級妖魔が寄ってくるのが判ったわ」
「ああ、フローターが妖魔の餌になるんだったよな‥‥‥しっかし、どこから来るんだこいつらは?」
周囲を見渡してみても、今はフローターの姿はない。
センサーゴーグルでもフローターの反応がないようなので、おそらくフローターはハングリーミストに食べられてしまったのだろう。
「妖魔の発する魔力が妖気か‥‥‥厄介だな」
「そうだねぇ。とりあえずは御石の場所を変えて保健室に戻るとしますか」
そのまま石の位置を少しだけずらして、俺は祐太郎と一緒に保健室に戻っていった。
二時限からは普通に授業を受けて、放課後までは、また妖魔の反応があるかもしれないと周囲に気を配り続けて心身ともに疲労困憊状態。
どうにか放課後まで頑張ったものの、今日はこれ以上の部活動は不可能だと、俺と祐太郎は部活を休んで帰宅することにした。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。
・今回の分かり…安いかもしれないネタ
Tiger&Bunny




