第三百五十五話・(後始末? いやいや、俺は何もしていませんよ?)
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御姫様の救出に成功した俺たち。
どうにか無事に封印を解除できたけど、問題はここから逃げるための手段。
回廊を登って地下二階に出ると、恐らくは目を覚ました警備員や小倉庵さん、そして監視カメラが待っている。
今、この回廊にも監視カメラはついているだろうけれど、それは瀬川先輩がハッキングしてダミー画像を流しているのだと思う。
そもそも、支配人自ら確認に降りて来ていたので、これ以上は怪しまれることはないと思うが。
「のう、小春や。この男子は、何を考えているのじゃ?」
「ここからの脱出経路かと。それで、ここには何があるのですか?」
部屋の中に案内された俺たち。
ここに脱出の鍵があるというのだけど、それって……。
「これじゃよ。去年の春じゃったかな? その辺りに、いきなり地面から生えて来たのじゃが……これは、そなたらの管轄のものではないのか?」
御姫様が部屋の奥を指さしている。
そこには、筍のようなものが生えているんだけど、これってまさかだろ?
「水晶柱……のようだが、小さいな」
祐太郎が高さ1メートル程の水晶柱に近寄って、触れている。
闘気を流しているらしく、時折ほう? とか、へぇ、という声が聞こえてくるんだけど。
「オトヤン、小さいが水晶柱に間違いはない。俺の闘気にも反応するから、まだ成長前? のものじゃないかと推測できるんだが」
「待て待て、ちょいと俺にも確認させてくれ」
急いで筍水晶柱に近寄り、天啓眼を発動してみる。
『ピッ……地球型水晶柱。星のマナラインより魔力を吸収し、それを霊脈へと誘導するための要石でもある。水晶柱としての効果もあるが、一度使うと、魔力を吸収するまでは使用することができない』
「よしビンゴ。これなら帰れる。ということなので、すぐにでも札幌まで送りますけど、引越しの荷物とかは大丈夫ですか……って、新山さんが手伝っているんだね?」
「はい、もう少しで終わりますから」
御姫様は桐箪笥やらちゃぶ台やら、あとは部屋の中にある細々とした装飾品も集めて風呂敷で包み込んでいる。
それを新山さんが受け取って、ルーンブラスレットに収納している最中。
まあ、それほど多くの荷物はないから、すぐに終わるようだけどさ。
十分ほどで部屋の中は空っぽになり、御姫様も満足そうな顔をしている。
「よし、山口典韋から貰ったものも全て収めた。これで帰れるな」
そう告げてから、御姫様が部屋の真ん中に手紙を置いている。
え、それは何?
「あの、この手紙は?」
「ここで世話になった御礼じゃ。妾をここに閉じ込めた理由、安寿の話から全て察しておる。その上でも、ここに匿ってくれた事には変わりはない。この手紙には、妾の霊力がほんの少しだけ、付与してある」
「それって、ここに置いておけば、今ぐらいの繁栄は約束されるってこと?」
「今ぐらいまでとはいかん。が、欲を出さず、真面目に仕事に精を出しているのなら、今よりも少しは質素になるが生活はできるぞ」
まあ、真面目に頑張れば、それだけ見返りがくるってことらしい。
それでも良いんじゃね?
「それでは、行きますか」
俺は空間収納から鍵を取り出し、水晶柱にしゃがんで差し込む。
すると、高さ1メートルの小さな扉が出来上がった。
「うぉわ!! しゃがまないと入れない」
「わ、私最後に入りますから、先に入ってくださいね」
「わかってるって、でも、オトヤンなら新山さんの後でもフベシッ!!」
──スパァァァァァン
あれ、ハリセンって新山さんにもあげたかな?
あ、結構前に渡したか。
俺たちがそんなドタバタしていると、御姫様は部屋の真ん中で正座をして、入り口に向かって頭を下げている。
「安寿よ。大義であった……典韋よ、世話になった」
深々と頭を下げ、そう呟く御姫様。
それを俺たちは静かに見ていると、ゆっくりと立ち上がって俺たちの方に歩いてくる。
「最後に、頼みがある」
「ん?」
御姫様がそう話しながら、俺たちに三本の小枝を手渡してくれる。
「これは?」
「妾の霊力の封じてある『マダの木の小枝』じゃよ。これを夜、この屋敷の外で振っておくれ。それで、妾をさかじていたものたちは、遠野へと帰っていくじゃろうから」
手渡された枝を見て、軽く振るう。
すると、白く光る何かが、枝から発して大気中に広がっていく。
「了解。仲間たちが狂気に囚われないように、だろ?」
「任せておけ。アフターケアも万全だからな」
「あとは私たちに、全てお任せください」
「世話になる……」
ぺこりと頭を下げる御姫様。
さて、それじゃあ行くとしますか。
まずは俺が潜り抜けてから、次は御姫様が。
そして祐太郎、新山さんと抜けてくると、扉は力無く崩れ去っていく。
「はぁぁぁぁぁ、これでミッションコンプリートだな。ようやく修学旅行を楽しむことができるわ」
「激しく同意だ。もう、旅先での怪奇現象担当はたくさんだわ」
「……それは良いのじゃが、この童は何者じゃ?」
「「ゲッ、白桃姫!!」」
俺たちが腰を伸ばしていると、白桃姫がぴょこっと空から降りてくる。
そして御姫様の前に着地すると、上からマジマジと見下ろしていた。
「……高濃度霊力の集合体、それが具現化し、実体化した存在。妾たち魔族とは異なるが、これはこの裏地球の魔族のようなものじゃな?」
「妖。そう呼ばれておるぞ。妾はチョウピラコ……まあ、胡蝶と呼ばれておる」
「胡蝶かや? 妾は白桃姫じゃ。それで乙葉よ、この子はここに住まうのかや?」
「まあ、遠野っていうところに妖の里があってさ。そこが魔族に襲われて逃げ延びたらしくてね。そこが安全かどうか確認できるまでは、この……ええっと、胡蝶ちゃんはここに匿って欲しいんだけど」
そう頼み込むと、白桃姫が腕を組んで考えている。
俺、かなり無茶振りしたよな、きっと。
「その辺の廃墟、そこに家を建てるが良い。よく見ると、そなたは『家盛り』であり『家守り』の加護持ちじゃ、自分が住まう家ぐらいは、建てられるのじゃろ?」
「そうじゃな……では、お世話になるぞ、白桃姫とやら」
「よかろう」
どうやら、『ダブルのじゃロリコンビ』が完成したようで、まあ、あとは白桃姫に任せよう。
「俺たちは、修学旅行が終わったら遠野にいって調べてみるから。それまでは頼むわ」
「そういうこと。それじゃあ、京都に戻るとするか」
「ではでは、よろしくお願いします」
白桃姫に頭を下げ、胡蝶には手を振ってから水晶柱へと近寄る。
さて……ここからどうするか。
「全員、魔法の箒か絨毯に乗って姿を消してから、水晶柱を越えて二条城へ移動。そこから姿を消したままホテルに戻って、入れ替わるってことで良いんじゃないか?」
「祐太郎の案を採用。では、その手で行きますか」
三人とも飛行用魔導具に乗って姿を消す。
そして銀の鍵で水晶柱を起動して、目的地の二条城をイメージ。
──シュゥゥゥゥ
すると扉が完成したので鍵を開けて扉を開くと、そこには昼間に見た、二条城裏門近くの柱からの風景が見える。
そして、向こうの人たちもこの異変に気がついたのか、扉のこっちを覗き込んでいるんだけど、これは姿を消して正解だったわ。
『それじゃあ、一気に駆け抜けますか!』
無言で頷く二人を確認してから、俺たちは水晶柱を抜けて京都へ。そして、ホテルにまっすぐ飛んでいくと、姿を消したまま部屋に移動、待っていた形代にトイレへ行くように指示してから、トイレで入れ替わってはい、おしまい。
「……はぁ。本当に、疲れたわ」
「安寿さんとは、もう二度と手合わせしたく無い。本気でやったらなんとかなるとは思うが、ステータスの差を経験で埋め尽くされていたからなぁ」
「同感……って、新山さんは、何をしているの?」
新山さんは部屋の窓辺、広縁のテーブル席について広げられているレポートを確認している。まあ、完全に自立行動できるのではないから、何も進んでいないのは理解している……ってそうか、何も進んでいないのか。
「やっべ、アリバイ用に進めないとならないのか」
「そういうことです。二人は休んでいてください、私の方で少し進めておきます……って、乙葉君のは、書き込んでありますよ?」
「ん〜、まあ、俺のは並列思考である魔導執事さんに任せていたからさ。多少は……って、うわぁ」
そう呟きながら確認してみると、明らかに俺じゃ考えないレベルで、レポートが作られている。
これ、民俗学者の専門書レベルじゃね?
執事さん、何を考えてここまでやるかなぁ。
俺の並列思考なんだから、俺の頭のレベルに……って、レベルが上がって知力も上がっているから? そんなアホな。
それともあれか? お前ならこれぐらいはできるっていう嫌がらせか?
「くっそ、これを柔らかく描き直しかよ!!!!」
「俺のは変化ない……っていうか、何も書いてないか。よし、やるか」
「それじゃあ、三人で始めますか」
「そうだな……と、先輩に監視カメラの改変が終わったのも報告しておくわ」
「それは祐太郎に任せた」
──カキカキカキカキ
このまま夕方の、みんなが帰ってくるまで俺たちはのんびりとレポートを作成していましたが。
お陰様で、夕食までにはレポートは全て完了。
俺たちと入れ替わりに、織田のチームがずっと頭を抱えていましたが、こればっかりは手伝えないからなぁ。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
──支配人室
無事に、何事もなく1日が終わる。
問題であった乙葉浩介ら三人についても、外から戻ってきてからずっと、監視カメラと警備員たちに命じて動向を探っていたのだが。
監査室の映像でも、廊下の警備員たちからも報告はない。
一度だけ、地下二階の封じの間へと続く扉の警備員たちから、意識が閉ざされてしまっていたことが説明されるも、急ぎ向かったところ小倉庵は何も起きていないことを報告してきた。
念の為にカメラの映像も確認したし、俺自身が直接、封じの間の回廊の中まで足を伸ばし、異変がないか確認もした。
結果として、何もなく全て順調。
乙葉浩介たちは部屋から出てきた形跡もないので、あとは今晩一晩、明日の朝十時のチェックアウトまでに警備を強化すればよい。
「ふぅ。出来ることならば、このホテルの周りの結界発生装置も継続して使いたいところだが。まあ、変に欲を出して、怪しまれると面倒だからな」
テレビのニュースでも、うちのホテルに現代の魔術師たちが宿泊していることが取り上げられている。
夕方のバラエティー番組など、うちのホテルに取り憑いている悪霊も退治してもらったらなどと笑いをとっているのでこれは放送局にクレームを入れさせてもらおうか。
悪霊が住む宿だなど、風評被害も甚だしい。
そもそもここは京都だ、老舗になれば、なんらかの怪異があってもおかしくない土地じゃないか。
そのために、俺は高い金を払って、晴明神社のツテで有名な退魔僧を雇ったんじゃないか。
お陰で、ここ最近は怨霊がなんだというクレームもないからなあ。
「うん、これで我がホテルにも箔がついたな。あとは魔術師たちが、ホテルは安全でしたよって話してくれたら万々歳だな……」
………
……
…
──夜
就寝時間の前に、俺と祐太郎、新山さんは許可を取ってホテルから外に出る。
そして結界ギリギリのところまで向かうと、必死の形相で結界に爪を立てている鬼やら妖の姿が見える。
「お前たちが、遠野の妖だな。ほら、お前たちの御姫様、胡蝶ちゃんはここには居ない。だから、安心して遠野に帰ってくれな」
──シャラン
俺が小枝を振ると、白い光が周りに広がる。
すると、それまで目が血走り憤怒の形相だった妖たちが、まるで憑き物が剥がれたかのような穏やかな顔に戻っていく。
「貴方たちの主人は、今は札幌にいます。けど、私たちが、必ず遠野へ送り届けます。ですから、安心してください」
──シャラン
新山さんの言葉が届いた妖たちも、優しい笑顔を見せてから、振り向いてここを立ち去る。
「もしもだ。遠野でお前たちに何かをしでかす輩がいるのなら、俺たちがそれを止める。遠野の地は、お前たち妖のものだからな。だから、何かあったら、俺たちの元に伝言を寄越せ、いいな?」
──シャラン
祐太郎は両手にブライガーの籠手を嵌めてから、枝を張っている。
その力強さに、妖たちも頷いて飛び去っていく。
そして一時間後には、土地の妖以外のものたちは、全てこの場から立ち去る。
結界の外にいるのは、純粋に俺たちの魔力に引き寄せられた野良妖魔と、地元の妖、そして……。
──シュタタタッ
駆け足で立ち去る、黒い姿の女性。
年齢はよくわからないが、とにかくでかい。
そして俺にはわかる。
あれは、使徒だ。
まだ、何か起こるのだろうか。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




