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【書籍化】ネット通販から始まる、現代の魔術師  作者: 呑兵衛和尚
第六部・饗宴なる修学旅行、或いは平穏な日常編

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第354話・呉越同舟、網無くして淵にのぞむな(ガチの退魔僧って、聞いてないんですけと?)

『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週火曜日、金曜日を目安に頑張っています。

 旧館地下三階、その回廊の奥にある『封じの間』の手前で、錫杖を構えた小椋庵安寿が俺たちに向かって頭を下げている。


「さて、このまま騒動を起こすと、後々が厄介。空間断絶結界は作れるかな?」


 空間断絶結界、すなわち魔族が生み出す異空間。

 それを作れるのは中級以上の魔族及び妖魔であり、人間では結界師と呼ばれる存在ぐらいしか、それらを作り出すことができないらしい……んだけど。


──シュシュシュン

 素早く空間に向かって左右の手で印を組み込むと、俺たちと安寿さんを囲むように、10メートル立方の空間が生み出される。

 これは魔皇印によるものであり、俺自身は空間系魔術が苦手なので、サポートして貰って発動しているんだけどね。

 お陰様で、魔導書にしっかりと術式は記されていると思うよ。


「これで良いかな? 流石に白桃姫のような巨大なものは作れないけれど、十分に対処できると思うよ?」


 しっかりと結界内部は外と同じ作りになっている。

 つまり、旧館の壁もあれば天井も床もあり、細い回廊も当然再現されている。

 けれど、ここで壁を破壊しようが天井を撃ち抜こうが、それは結界内部に作られた擬似的な実物であり、結界外の本物には一切の影響はない。

 

「ふぅむ。これはまた、見事な。人の身でここまでの結界を生み出すことができるとは、さすがよのう。では、参るとするか? 殺す気で行くから、死ぬ気でかかってきなさい」


──バリバリバリバリィィィィン

 安寿さんが錫杖を振り下ろし、稲妻が俺たちに向かって放出される。

 だが、素早くセフィロトの杖を生み出してそれで受け止めると、俺は術式を中和した。


「神威型……に近い神聖系。僧侶の使う術式の根幹は、神の力の代行なのですか?」

「それと闘気もだな」


──シュン

 一瞬で俺たちの目の前から安寿さんが消える。

 そして俺の目の前に姿を現したと思ったら、さらに祐太郎もそこに出現して、安寿さんの素手と錫杖による打撃を全て詠春拳で受け止め、流している。


「ふぅ、一撃一撃に闘気が篭った、重い一撃だな」

「それを受け止められる神器、それが噂の神代の籠手か」

「まあ、な。ブライガーの籠手といって、武神の加護を受けている。使徒にも有効な打撃を生み出せるんでね」

「ほう。では、こうなるとどうする?」


 安寿さんが後ろに飛び退ると、懐から大量の呪符を取り出して、何かを唱えている。そして素早く俺たちに向かって投げ飛ばすが、俺は呪布に向かって左手のフィフスガントレットから雷撃を飛ばして迎撃。

 祐太郎も右手に闘気弾を生み出して飛ばして破壊するが残りの何枚かは新山さんは向かって飛んでいって。


──シャキーン

 彼女の前面に生み出された水晶の盾が、呪符を受け止めた。


「うん、多分だけど、新山さんが一番、防御に優れているよな?」

「だな。安心して見ていれるわ」

「そこは、少しは守るとかないのですか?」


 そう呟く新山さんだけど、すでに俺の右手にも祐太郎の足元にも力の矢フォースアローやら闘気弾が構えてあるんだよ。

 いつでも迎撃できるように。


「まあ、大丈夫大丈夫」

「保険はかけてあるから」


 さて。

 この間のやりとりを見ていても、安寿さんが仕掛けてくる様子はない。

 本当に、殺す気でくるのなら、まだ凄いものを仕掛けてくると思うんだよ。

 だけど、それらしいものは飛んでこないし、俺たちの、いや俺の弱点でもある新山さんを集中して狙ってくるような雰囲気もない。


「これで終わり……な訳ないか!」

「如何にも!!」


 ここまてまは小手調べ。

 ここから先は、とにかく地獄。

 全ての技を複合して使ってくるし、様々な呪符を飛ばしてきては、俺たちを動かなくしようとしたり式蛇を生み出して襲わせてきたり。

 その全てを受け止め、破壊しつつ攻撃を繰り出していくけど、それらも受け止められるんだよなぁ。


「……オトヤン、魔力の残量は?」

「か〜な〜り、ある。ほら、闘気譲渡(トランスファー)と、魔力譲渡(トランスファー)。これで少しは楽になっただろ?」


 右手を祐太郎に、左手を新山さんに伸ばして闘気と魔力を譲渡する。

 同じ術式なんだけど、俺のは神威なので放出する瞬間に切り替えることが可能なんだよ。

 それで二人ともフルチャージ状態。

 かたや安寿さんは、疲労困憊。

 

「……成る程、安倍緋泉殿が話していた通り。この三人は、世界を救える力を持っている……」

「世界を? それはどういうことですか?」

「いや、特に何か起こるわけではないが、魔族の大氾濫のようなことがあっても、それを抑えられる力を持っているよなぁっていうことだな。何も含むところはないし、何かを予見しているわけでもない」

「それなら良いのですが。それで、実力は理解してもらえましたか?」


 その俺の問いかけに、安寿さんは目の前に錫杖を突き立て、両手を左右に広げてからパーンと手を合わせ、すかさず印を組み上げる。


「解!!」


──バッギィィィン

 その一言で、俺が作り出した空間断絶結界が破壊された。

 嘘だろ?


「合格だ。では、拙僧は上で待つ、ここから先は、君たちの仕事だ」


 左手に錫杖を持ち、右手を前に出して一礼すると、安寿さんは俺たちの横を通り過ぎで地下二階へと向かっていく。


「え? 俺の結界を破壊した?」

「……おいおい」

「乙葉くんの魔法が、破られた? え?」


 驚愕というか、ちょい待って、使徒とか百道烈士(くどれっし)すら退けた俺の魔術だよ? しかもパワーアップしているのに?

 

 思わず、頭をくしゃくしゃって掻き乱したくなったよ。

 っていうか掻き乱したわ。


「経験の差……かよ。本当に、世界は広いや。俺だけが魔術師じゃなく、世界には元々、色々な魔術師が存在していた。表には出ていなかったし、その血筋の殆どが失われているって話も聞いたけどさ」

「オトヤンの言う通り。まだ、凄い人はいる……俺も精進しないとなぁ」

「うう、頑張る。…」

「さて、それじゃあ頭の中を切り替えますか」


 そのまま扉に手を触れる。

 すると、バジッと手が弾かれた。


「ほほう、ほうほう、天啓眼てんけいがん……」

『ピッ……隔世型、保護結界陣によって守護されています』

「それじゃあ、中和術式をば……」


 解析された術式を中和するために、結界の元となる霊力の流れを変化する鍵を作り出す。この手のものを作り出すのはお手のもので、5分も掛からないうちに鍵を作り出したんだけど。


「姿を消せ!!」


──シュン

 上の方から、安寿さんの声が聞こえたので、再度、透明化の指輪で姿を消す。

 すると、上の方で扉が開く音がしたかと思うと、聞いたことがある声が。


「小倉庵、外の警備員が倒れていたのだが、中に入られたのか?」

「まさか。この鍵は内側から掛けられてますし、そもそも拙僧がここにいるのに、中は入れるはずがないでしょう。確認しますか?」

「ふむ、一応は確認させてもらうか」


 安寿さんに連れられて、支配人らしき声の人が降りてくる。

 通路が細いので、万が一のために逃げておくか。


──シュシュシュン

 空間断裂結界をもう一度発動。

 今度は俺たち三人だけを取り込むようにして、さらに外が見えるようにしておく。

 すると、俺たちの目の前を支配人と安寿さんが通り抜けていき、扉を確認してから、また上へと戻っていく。


「どうやら何事もないか。まあ、明日まで守り通せば、奴らは手も足も出せないだろう。所詮か子供の浅知恵、どこでここを見つけたのか知らんが、余計なことに首を突っ込まないように今一度、あの高校の教師たちにも釘を刺しておくか」

「それが良いかも。ですが、今はまだ、生徒たちは外に出ています。後で集会でも開いてもらい、そこで話をして貰えばよろしいかと?」

「それはまずい。座敷童子を隠しているから手を出すな? なんて言えるはずがあるまい。施設内を勝手に見回るな程度だ」


 安寿さんもなかなかに言いますなぁと思いつつ、鍵がかけられる音が聞こえてくる。

 

「それじゃあ、作業開始……と」


 結界を解除して、出来立ての鍵を扉に近づける。


──ヴン!


 すると、扉を中心に、巨大な魔法陣がいくつも浮かび上がってくる。

 細かい魔法陣を連ねて、巨大な魔法陣を形成している。

 その中心、扉の真ん中に鍵を突き立てると、ゆっくりと鍵を押し込んで。


──カキッ

 右に回して術を解除する。

 ゆっくりと60度回してから、さらに奥へと押し込む。

 また60度回し、今度は手前に少しだけ引いて。

 回すたびに魔法陣が一つずつ消滅し、そして最後、鍵が一回転した時、扉の魔法陣が全て消滅した。


──ガチャッ

 すると、扉がゆっくりと開き、女の子が顔をぴょこっと出してきた。


「んんん? お迎えかや?」


 見た目で6歳前後の少女。

 座敷童子っていうから着物姿かと思ったら、黒髪の、エプロンドレス姿の女の子でしたが。


「初めまして。私たちは、あなたをお迎えに来ました。まだ遠野が安全かどうかはわからないので、今一度、私たちの知っている安全な場所について来てもらえますか?」


 新山さんがしゃがんで、彼女に目線の高さを合わせてから話し始める。

 すると、座敷童子ちゃんは手をスッと差し伸ばして。


「握手」

「はい、握手ですね」


 座敷童子ちゃんを疑うことなく、新山さんは握手する。

 すると、座敷童子ちゃんもニッコリと笑って。


「小春は優しい。ついて行く」

「ありがとう。ひょっとして、私の心を読んだのですか?」

「ううん。貴方の中の(えにし)に尋ねただけ。優しい人には、優しい(えにし)が集まるの。それじゃあ、よろしくお願いします」


 ぺこりと頭を下げる座敷童子ちゃん。

 さて、ここからが本番、どうやってこの回廊を抜けて行くか。

 地下二階には安寿さんがいて、外からくる人たちを防いでいるんだろうけれど。そこから先は、監視カメラと警備員の山。

 この子を連れて同じ手段を使うにしても、どうしたら良いものか。


「……こっち。ここからなら、いける」


 すると、座敷童子ちゃんが俺のズボンを引っ張る。

 部屋の中へと案内しようとしているらしく、そのまま引っ張られるままに、俺たちは部屋の中に入って行った。


 


いつもお読み頂き、ありがとうございます。

誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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