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【書籍化】ネット通販から始まる、現代の魔術師  作者: 呑兵衛和尚
第六部・饗宴なる修学旅行、或いは平穏な日常編

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第三百五十三話・悪戦苦闘、叩けよさらば開かれん(俺たちを誰だと思っている!!)

『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週火曜日、金曜日を目安に頑張っています。

 はい、晴明神社から戻ってきました。


 まだ午後3時半、他の生徒達はのんびりと自習というか班ごとに課題を決めて目的の寺社仏閣を訪れ、色々と話を聞いてくるようでして。

 当然ながら、メジャーな場所は混み合っているため、観光案内とか修学旅行生相手に蘊蓄垂れる自称観光通のおじさんとかを捕まえるのは難しく、そんなに簡単に話が進むことはなくてね。


「それで、乙葉たちの班は、どこを回ってきた? こんなに早く戻るとは、まさかサボりじゃ無いよな?」


 玄関で待っていたのは、五里山先生。

 その奥、ロビーでは要先生もスタンバっています。

 だから、堂々と空間収納チェストから御朱印帳を取り出して、先ほどの晴明神社の御朱印を見せましたよ。


「しっかりと晴明神社に行ってきましたが。俺たちは魔術師、その原点でもある陰陽道の系譜に連なる、晴明神社を訪れてくるのは摂理ですよね?」

「しっかりと、宮司の安倍緋泉さんとお話もしてきましたよ。これから部屋でレポートに纏める予定ですけれど」


 祐太郎と新山さんが説明するのだが、どうも五里山は納得していない。

 それじゃあ、ここは俺の出番だな。

 伊達に、有馬とーちゃんの話術を学んできたわけじゃ無い、勝手に覚えただけだけどさ。


「……どうも怪しい。何か企んでいるんじゃ無いか?」

「そんなことはありませんよ。俺たちはしっかりと、安倍晴明ゆかりの地にて、かの陰陽道についての話を聞いてきました。流石に俺たちの魔術の系譜とは異なりますけれど、確かに安倍晴明という偉大な陰陽師の物語を聞くには時間がありませんでした。ですが、あの晴明神社には古くから伝えられている伝承も数多く存在し、それらの中でも晴明のライバルでもあった蘆屋道満の話を聞いて、こらは彼の系譜にも連なっていると噂されているこのホテルのオーナーにも話を聞きたいと思いまして。五里山先生はご存知ですか? 蘆屋道満の物語。彼と安倍晴明との因果関係、これは現代にも伝えられているのかというと実はそれほどでもありません。実は、蘆屋道満の子孫と言い人物にもお会いしたく思いまして」

「わわわ、わかったわかった、もういい!! 部屋に戻ってレポートを書け」


 よし!!

 この息継ぎを忘れるほどの高速弁舌。

 専門的単語があちこちに並ぶと、それを知らないほどはうんざりして聞きとばし、最後は話を聞くのを諦めるという。

 

「それでは、失礼します」

「そんじゃ」

「早めにレポートを仕上げますね」


 三人で五里山に頭を下げて、そのまま部屋へと移動する。

 その途中、要先生の前を通った時だがと、必死に笑いを堪えていたのは解せないなぁ。まだ、甘かったか?


 そんなこんなで部屋まで戻ると、早速、これからの作戦を練ることにした。


「目標地点は、旧館地下。幸いなことに、見取り図は簡単に手に入ったので、旧館まで移動して地下へと続く階段を降りる。地下二階の奥に、関係者以外立ち入り禁止の場所があるから、そこから先に進んだら、さらに地下へと続く斜めの回廊がある。そこが、目的の場所だな」

「……祐太郎、いつのまに、こんなに細かい見取り図を手に入れた?」

「いや、ネットで検索したら出てきた。消防法で義務付けられている避難経路の図面だけどな。そしてここから先、地下二階から奥の図面は、瀬川先輩に連絡して検索してもらったから間違いはない」


 なるほど、ここ1番の瀬川先輩。

 そこに痺れる憧れる。


「なお、報酬は赤福で手を打ってくれた。割り勘な?」

「了解……って、赤福? あれ三重県だよな? まあ、売っているとは思うから、探してみるけどさ……それならついでに、監視カメラの掌握もお願いしたいところだ」

「それも話はついている。俺たちが計画を開始する時点で、すぐに監視カメラにダミー映像を映してくれるように手筈は整えてある」


 こわ!!

 祐太郎の手回しの早さには脱帽しそうになる。

 それじゃあ、俺も準備を開始。

 カナン魔導商会を起動して、魔導具のコーナーから『インビジリング』を購入。今後のことも考えて六個もあればいい、俺と祐太郎は持っているからさ。


「これは新山さんに」

「え、指輪……」

「あ、先に告げておくけど、これは魔導具だから、インビジリングで、姿を消すためなのだから。これもルーンブレスレットに登録しておいて」

「あ、そ、そうよね、そうね、登録ね、わかっていたよ?」


 うん、力一杯の誤解。そしてニヤニヤと笑う祐太郎、先輩の赤福はお前の奢りでいいか?


「悪かった、それは許して欲しいということで、話を続ける。先輩が監視カメラを掌握した時点で、俺たちは姿を消して旧館の目的地まで進む。あとは直接、御姫様のいる封印の間へと向かい、オトヤンが結界を破壊する」


 俺たちは、最終的な作戦のすり合わせを始める。

 

「そしてお姫様にも指輪を装着してもらい、ホテルから脱出する。俺が貼った結界は俺が中和するから、その間に2人はお姫様を連れて外に出てくれ」 

「そして、私がお姫様を連れて魔法の絨毯で高速移動、築地くんに護衛してもらって透明化したまま、二条城裏手の水晶柱ターミナルまで向かい、乙葉くんが合流するまで息を潜めて隠れている、これで良いんだよね?」


 作戦としては完璧じゃない。

 御姫様を狙う敵の存在、このホテルの支配人が、金のなる木である座敷童子のお姫様をみすみすと攫われるようなことはない。

 おそらくは、何らかの手を使って俺たちを探し、追いかけてくることは明白。

 その役割は、恐らくは小倉庵安寿さんに違いない。


「さて、そんじゃあ、もう一つの切り札を……」


 空間収納チェストから取り出したのは、かなり前にジェラールから購入した魔導書。ほら、封印術式と封印呪符が書き込まれていたやつ。

 古代チベットの巫術書を取り出して、パラパラとページを開く。

 そこに記されている術式を頭の中で反芻してから、媒体になるミスリルと魔石、竜の爪、ダイヤモンドのクズなどを取り出して並べ、俺の髪の毛を添えて……。


「形代よ、目覚めきたりよ我が元へ」


 ゆっくりと韻を紡ぎ印を組み替える。

 すると目の前のミスリルが細い糸状に変化してから、まるでマネキン人形のように形を作り出し、そこに俺の遺伝子情報の入っている髪の毛から読み込んだ情報をもとに、俺の外見を作り出した。


 全裸です。

 

「きゃぁぁぁぉぁ!!」

「うぉぁ!! しまった!!」


 慌てて空間収納チェストからローブを取り出して放り投げると、それにいそいそと着替え始める。


「も、もう大丈夫。ということで、俺の形代くん。名付けて『頑張れ乙葉浩介一号』だな。俺の思考とリンクしているから、遠隔操作も可能。素材はミスリルなので、車にぶつかろうが崖から落ちようが壊れることはない。なお、溶鉱炉も平気なので、笑顔でサムズアップして沈めることも可能」

「やらないから。しかし、これを置いておくとして、ちゃんとコントロールできるかどうかだよな」

「まあね。でも、いざとなったら俺がマスター権限を使って三人とも動かすから大丈夫だ、そのための『並列思考』だからな」


 そう説明すると、祐太郎も納得したので早速、物陰に隠れて『それいけ築地祐太郎一号』を作成。着替えはルーンブレスレットから取り出して、着替えさせたんだけどね。


「あ、あの、私も作らないとダメだよね?」

「ん〜、俺たちの偽物だけいて、新山さんがいないのも怪しまれるからさ」

「それじゃあ、内風呂のなかに素材を入れて、魔法が発動したらすぐに出てくれるかな? さすがに囮とはいえ、裸を見られるのは……」

「おっけぃ!!」


 笑顔で答える俺、紳士。

 そのまま新山さんの形代『負けるな新山小春一号』を作成。

 バスルームで着替えさせてから、2人で仲良く出てきたよ。


──コンコン

 すると部屋がノックされる音。

 すぐさま顔を見合わせて頷くと、三人同時にインビジリングで透明化して、部屋の隅へと移動。透明化した時に、お互いを認識できるようにしたのは当然である。そして『頑張れ、負けるな、それいけ』の三人をそれぞれがコントロールして見る。


「あら? もう何かやらかしているかと思いましたけど、まだなにもしていなかったのですわね?」


 立花さんが戻ってきたらしい。

 

『ええ、立花さんも、今、戻ってきたの?』


 念話の要領で話を始める新山さん。

 その間、俺と祐太郎はボロが出ないように旅のしおりを開いて、レポートを書き始める。まあ、自分で考えて書かないとならないから、結構ハードであるが。


「ええ。ちょうどこれから、ホテルの喫茶店でお茶会などと思いましたけど。レポート中なら無理そうですわね? 一段落したら、合流しても構いませんので、お待ちしていますわ」

『はい。それでは後ほど』


 手を振って立花さんを見送る『負けるな新山』さん。

 そして部屋から出ていくのを確認すると、三人同時に透明化を解除。


「よし、これでいける」

「それじゃあ、今のうちに行きましょう!! 早く終わらせないと、そのうちバレますよ?」

「オトヤン、今度で構わないから、こいつに擬似人格を作れないか? まあ、急がないから、考えてみてくれ。これは、かなり便利だ」

「そりゃそうだ、ちょいと考えてみますか。ということで、新山さん一号もこっちに移動して、三人でレポートを考える仕草で。俺は並列思考でコントロールするから、何かあったらすぐに2人にも連絡……と、そうか、魔導執事、俺のコントロールを頼めるか?」


──ピッ

 ルーンブレスレットの中にいる『魔導執事』を呼び出す。


『はい、お任せください』

「うお!! すでにAIは完成していたのかよ……今度頼む」

「私も、お願いします」

「了解、そんじゃ、安心して行きますか」


 俺の言葉に2人も頷くと、そのまま透明化して、部屋から出ていく。

 さあ、目的地へいざ、ゆかん!!


………

……


 と言うことで、旧館地下二階、回廊手前の『関係者以外立ち入り禁止』の前までやってきました。


『予想外に、警備が厳重でしたね?』

『渡り廊下に1人、地下へ降りる階段も封鎖して2人、さらに地下一階とエレベーター前に2人、警備員が待機しているとは思わなかったな』

『かなり、俺たちを警戒しているよな。でも、高度に発達した魔術の前では、人海戦術など無力』


 念話での話し合い。

 ここに至るまで、まるで俺たちがすることを予測していたかのように、警備員の数が増えている。

 そして、地下三階へと向かう通路の手前の両開き扉の前にも、しっかりと2人の警備員が立っている。


『ゴーグルで見た感じだと、階段を降りた先に結界があり、その手前までは何も魔法的な処理はされていない。そこで問題、祐太郎、あの二人を一瞬で眠らせる方法はあるか?』

『あまり力業には頼りたくないところだが。無いこともない』

『おっけ、それなら眠らせる。だから、先に先輩に連絡して、カメラを掌握してもらってくれるか?』

『了解だ、瀬川先輩、築地です。これから地下に突入しますので、監視カメラをハッキングしてください』


 う〜む。

 しかし、よくよく考えると犯罪チックな香りがしてきた。

 いや、犯罪かも知れないが、囚われている妖を解放する。そのために力を使うから問題はない!! そう自分に言い聞かせてから、祐太郎のゴーサインと同時に、二人の警備員に向かって右手を差し出して。


──フッ

 軽く息を飛ばす。

 その瞬間に、警備員たちがふらふらになりつつ、その場にゆっくりとしゃがんでしまう。


『……これは?』

『眠りのスリープクラウドって言う、対象を眠らせる術式でね。まあ、今のうちに内部に入ってしまって、鍵をかけて仕舞えば問題ないよ』


 そう新山さんにも説明して、俺たちは熟睡している警備員二人をカメラの死角になりそうな場所へと移動させると、両開き扉を静かに開け……開かない。


『ちいっ。開錠(アンロック)


──ガチャッ

 シリンダーロックなら、この魔法で十分に対処できる。

 もしも電子ロックだったら、少々手荒な手段になるところだったよ、危ない危ない。


『それじゃあ、行きますか』

『新山さんは2番目に、俺が殿を務める。オトヤン、先頭を頼む』

『はい、わかりました』

『了解、そんじゃあ、いきますかぁ』


 静かにドアを開いて中に入る。

 ほのかに明るい回廊、木造りの屋敷の廊下のようで、それでいてゆっくりとした傾斜になっている。

 そこを足音を立てないように気をつけて降りていくと、やがて観音開きの鉄の扉の前に到着する。

 蔵などで使われているような、あの鈍重なら扉。

 その前に丸椅子を置いて、小倉庵安寿が座って、俺たちをじっと見つめていた。


「ようやく来たか……悪いが、俺には遁行は通じなくてね。ここまで来れたのには敬意を表するが、ここから先、お姫様を連れて逃げられるかどうか、その実力だけは確認させてもらうとするか」


 ゆっくりと立ち上がり、錫杖を構える安寿。

 これは、何を言っても無意味そうだよなぁ。


いつもお読み頂き、ありがとうございます。

誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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― 新着の感想 ―
[一言] 赤福は三重のお土産。でも大阪・京都で製造販売されているけれど・・・
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