表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化】ネット通販から始まる、現代の魔術師  作者: 呑兵衛和尚
第六部・饗宴なる修学旅行、或いは平穏な日常編
352/586

第三百五十二話・(やるなら今、やらねばならぬ)

『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週火曜日、金曜日を目安に頑張っています。

 雄太郎たちと合流し、お互いの情報を交換した俺たち。

 しっかしまあ、未遂とはいえ咲坂たちはやらかしたよなぁ。

 まだ魔法を用いた犯罪という定義については、細かい調整が必要な部分もあって、なかなか法曹界も重い腰を上げてくれないんだけど。

 それでも魔法特措法では、しっかりと洗脳、隷属、それに準ずる思考誘導などの法的処置についての法律は作られているので、咲坂たちはこの後どうなるのやら。


 未成年で、しかも運動系の推薦を決めているのに、これで全てが終わりかと思うと、まあ自業自得ということで。

 そもそも、万引きして警察に突き出された子の親が、本屋を訴えるっていう不思議なことも起こる時代だから、咲坂たちの親はしっかりとしてくれると助かるんだけどな。


「さて、お昼も食べましたし、この後は清水寺や金閣寺、あとは聖徳太子ゆかりの寺などを廻るのですよね? 我が班はどちらに向かうのですか?」 

「聖徳太子なら法隆寺で構わないと思うから、明日、奈良に向かった時で構わないと思う。それで、清水寺とか金閣寺は人が混んでいるだろうから、別のルートを調べに行きたいんだが」


 立花さんの言葉に、俺が別のルートを提案してみる。


「別のルート? それはどこですの? 神社仏閣以外の見学は、自由研究としては認められていませんわよ?」

「それは承知。その上で、行きたい場所はここ」


 地図を広げて指差す場所は、京都府上京区のとある神社。


「小さい神社ですわね?」

「オトヤン、晴明神社か?」

「そのとーり。安倍晴明ゆかりの地、晴明神社。日本最古の魔術師……っていうか陰陽師であり、今もなお、その血は日本に残されている。やはり魔術研究部としては、ここに向かいたい所だか。という事なので、立花さんは、別チームと移動しても構わないよ?」

「そもそも、うちの班はそれが許されているからさ。新山さんはどうする?」

「ん? 私はみんなと一緒に晴明神社で構わないですよ」


 俺と祐太郎、新山さんは同行確定。

 あとは立花さんと織田。


「織田は、いつもの仲間とどっか行くんだろ?」

「まあな。身辺警護も兼ねて、あいつらと遊んでくるわ。そもそも、俺の魔術系統は鏡刻界ミラーワーズなんだろ? そこに向かう理由はないんだよ」

「確かに。そんじゃ、そっちは宜しく頼むわ。立花さんはどうする?」


 祐太郎が立花さんに問いかけるが、腕を組んで考え込んでいる。


「正直な話、午後の自由研究には築地くんを連れてこいと、ファンクラブの方々から頼まれています。ですので、できれば築地くんには、他の女子の班と合流して欲しいところなのですけれど……昨日の話を聞いた限りでは、晴明神社にも何かのヒントがあるのですよね?」

「ヒントはないが、鴉天狗とやらがちょっかい出しやすい場所じゃないかなと思ってな。オトヤンも、それが目的だろう?」

「いや、行ったら行ったで、何か動きがあるかもなと思っているだけで。今現在でも、俺たちの方を気にしている妖魔の姿はちらほらと見えているし、かといってこんな昼間の昼下がりに、堂々と襲って来るとも思えないしさ」


 鴉天狗の親玉が動いてくれたらよし、そうでなくても、晴明神社には一度、行ってみたい気はしていたんだよ。

 何分にも、今日の夜はお姫様奪回作戦が始まるからさ。

 早めに宿に戻って、急ぎ作りたい魔導具もあるし。

 そのヒントになればなぁと、晴明神社へ行きたいのも事実。


「よし、立花さん。女子たちには明日、奈良の研修が終わった夜の自由時間にでも、相手をするって伝えてくれるか? さすがにやらなきゃならないことを放置して、オトヤンに全てを任せるのは俺の流儀に反するからさ」

「ええ、畏まりました。では、私はそちらへ向かいますので」


 軽く頭を下げて、立花さんが席を立つ。


「そんじゃ、俺もあっちに合流するわ。夜に何かやらかすのなら、俺も協力するから」


 織田も仲間達の元に向かったので、魔術研究会のメンバーのみでの活動なる。

 

「ふむふむ。いつもの最強メンバーか。それじゃあ、向かうとしますか?」

「そうだな。できるだけ早い時間に終わらせた方がいいだろう。逢魔が刻の前に、ホテルに戻りたいところだからな」


 祐太郎がスマホで時間を確認。

 今が午後1時、逢魔が刻、すなわち暮れ六つの18時までは5時間。

 ホテルに戻るまでの時間を考えると、17時までには全てを終わらせたいところだ。


「それじゃあ、行きましょうか」

「そうだな。京都の街並みも札幌と同じく碁盤の目、迷うことはまずないから大丈夫だろう」


 そういうことで、いざ、晴明神社へ移動開始。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯

 


──京都府・晴明神社

 敷地内の聖堂。

 その中では、現、安倍家当主の安倍緋泉と、小倉庵安寿が静かに茶を嗜んでいる。


「安寿、御姫様の封印を解けるものが来たというのは、本当なのか?」


 緋泉が目の前で羊羹を眺めている安寿に問いかけると、安寿もまた、腕を組んで考え込んでいる。


「魔術師としての腕なら、確実に現世界最強なのは緋泉殿もご存知のはず。あの国会議事堂前の、異世界侵攻を食い止めた魔術師の冴え、空間を支配する水晶柱ターミナルをも、自在に使いこなす術式の強さ。あれならば、旧館地下の結界の守護者をも打ち倒すことができるでしょうなぁ」

「早々、簡単に倒されても困るのだがな。あれは蘆屋の先祖が残した秘術により紡がれた式。なぜ、あのような凡庸な男が、あれを所持していたのかは甚だ疑問ではあるが」


 そう告げながら、右手をじっと眺める。

 その掌には、晴明印と呼ばれる五芒星が浮かび上がっている。

 

「あの男の家系図には、蘆屋道満の血筋は有りませぬ。ただ、土師の系譜の流れにはあるかもしれません。何故ならば、あの男は感じている(・・・・・)のですから」

「覚醒前、それも予兆ありか。それはまた、厄介な……さて、どうやら、件の魔術師が来たようだな。そとの鴉が告げているが」


 窓の外を見ながら、緋泉が告げる。

 それならばと笠を手に安寿も立ち上がると、玄関へと向かっていく。


「今宵は、ホテルに張り付けかな?」

「ええ。乙葉たちが動くとすれば今宵、だから御姫様には手を触れさせないようにと伝えられています。まあ仕事ですから、手を抜くことはありませんが、正直言って、勝てる気もしません」

「だろうな。もしも御姫様を救い出されたなら、鴉天狗を飛ばして道を記す。そう伝えてくれると助かる」


 その緋泉の言葉に、安寿は頷いてから外へ出る。

 そしてジャン、ジャンと錫杖を鳴らしながら、境内を後にする。


………

……


──ジャン、ジャン

 錫杖の音が晴明神社の境内に響く。

 うん、どこかで見たようなお坊さんだけど、確か

 こっちに軽く頭を下げ、そのまま神社から出ていった。

 

「小倉庵さん?」


 そう後ろから声をかけてしまったけど、僧侶は立ち止まって軽く錫杖を鳴らしてから、そのまま立ち去っていった。

 うん、小倉庵さんなんだろうな。


「さてオトヤン。神社の中からは何も感じないんだが」

「敷地ギリギリに結界が施してあるね。しかも、かなり強力なやつ。外から内部の様子を伺うことはできないし、ゴーグルを使って妖魔反応を探っても何も見えない。新山さんは、何か感じる?」

「いえ、残念ですけど、私ではなにも感じられないです。結界? のようなものがあるようなのは理解できますけど」

「それだけでも、大したものだよ。回復以外の神聖魔法を使いこなせるようになってきたんだよなぁ」


 俺が褒めると、新山さんも少し照れている。

 まあ、努力の人だからなぁ。

 そのまま意を決して中に入ると、心無しか肌がピリピリとしている感覚がある。なんというか、スパでよく見かける電気風呂? あんな感じのピリピリ感を感じるんだよ。

 そして、とんでもない数の妖の反応。

 しかもこれ、鴉天狗のものも混ざっている。

 その全てが、敷地内の建物の屋根、鳥居の上、生い茂る木々の上や影から感じられるし、何かこう、俺たちが踏み込んだ瞬間にピリッとした緊張に包まれたような雰囲気なんだよ。


「うっわ、なんだこのピリピリ感覚。これってかなり不味くないか?」


 そう呟いてから、いつでも臨戦体制に移れるように身構えるんだけど、新山さんたちはあちこちを凝視はすれど、ピリピリ感覚は感じていないらしい。

 つまり、この肌に感じる何かは、俺だけが感じているようで。


「監視されています。それも、かなりの数の妖魔でない何か。ええっと、これってなんでしょう?」

「地球産妖魔、つまりは妖。しっかりと鳥居の上にも鴉天狗が座ってこっちを見ているな。だが、仕掛けてくる様子はない、なんだこれは?」

「う〜ん。敵対的というか、かなり強い警戒反応ってとこなんだろうなぁ」


 そのまま境内を散策し、本殿でお参りして御神籤を買う。

 何か面白い話を聞きたかったんだけど、宮司さんにそんなに簡単に会えるとは思えず。

 寧ろ、ここに来た理由の一つが、何かあるという予知的なものだからさ。

 それは正解だったようて、俺たちを監視していた鴉天狗が有象無象のように存在するし、妖も大量に見かける。

 まあ、姿形の定まっていない、意思の集合体のようなものまで集まっているようだから、ここが京都の中の妖気溜まりとでもいうのだろう。


「ここの妖たちは、御姫様とは関係がないようだな。そろそろ戻るか?」

「そうした方が無難だな。さて、それじゃあ帰るとしますか」

「待って。本殿から何か来るよ? 凄い力を感じる……」


 新山さんがそう呟くので、俺たちは慌てて踵を返し、本殿を見る。

 なんのことはない宮司さんがやって来ただけなんだけどさ。

 紺色の狩衣に袴姿の宮司さん、あれ、この人って確か。


「ご無沙汰しています。乙葉浩介です、お元気ですか?」


 思わず声を出して頭を下げる。

 そうだよ、フェルデナント聖王国の異世界侵攻が決着した時、首相官邸に呼び出された時にあった安倍緋泉さんだよ。

 陰陽府責任者で、現在の陰陽師統括。

 そんな人がどうしてここに……いて当然だわ、ここは晴明神社だわ。


「ふぉっふぉっ。陰陽で健康を維持している、そんな感じじゃな。それよりも、今日は何故、ここに?」

「修学旅行で、京都に来ています。こちらの二人はクラスメイトです」

「はじめまして。築地祐太郎です。父からお話は伺っています」

「新山小春です。よろしくお願いします」


 二人と挨拶すると、緋泉さんも改めて。


「この晴明神社で宮司を司っている安倍緋泉です。初代安倍晴明さまの陰陽術を継承しており、陰陽府の責任者でもありました」


 にこにこと挨拶してくれる緋泉。

 すると、それまでの張り詰めた空気が一変し、周囲の妖たちからも敵対的意思は感じなくなった。


「それでですね、安倍晴明ゆかりの神社ということで、見学に来ました……けど、随分と、妖が集まっていますね?」


 カマをかけるわけじゃないけど、この現状をどれだけ理解しているのか知りたかったからさ。


「まあ、外には使徒とやらもいる、純粋なら魂のエネルギー集合体である妖を糧としようとする妖魔もいる。ここはそんな輩から、妖を守るために結界を施しているというのもあるし、ここに封じられている初代の式神を封じてもおるからな」

「初代の式神……前鬼と後鬼ってやつか」

「ほう、よく学んでいる。が、それは晴明さまの持ち神。ここには十二天将という、十二支を司る式神さまが眠っている。それらを使役するのもまた、陰陽師の理なりや……と、いうところじゃな。それよりも!!」


 緋泉さんが俺たちをぐるりと見渡す。


「ちがうな……君たちの知り合いに、霊を司る術式を操るものがあるようじゃが?」

「お、おおう……ええっと、個人のプライバシーなので詳しくは説明できませんが……まあ、います」 

「陰陽師としての才覚があるやもな。興味があったら、ここに来なさいと伝えてくれるか?」

「あっ、はい!」


 やっべ、立花さんのことがバレた。

 俺たちにまとわりついていた彼女の霊気を感じたのか。

 これは、ここに長居するのはやばいかもな。


「それじゃあ、これで失礼します」

「そうか。せっかくじゃから中で茶でもと思ったのじゃが」

「いえ、学校の研修でもありますので……」


 そう告げて頭を下げる。

 すると、緋泉さんが一言だけ。


「今日は、外の化物が騒ついている。遠野より現れ、正気を失ったものたちが、そろそろ本当の化け物になりつつある……早う、陽の気にて邪気を払わないとならないかも知れぬな……」


 そう告げて、緋泉さんは手を振っている。

 うん、この人は全てを知っているんだな。

 さっきの小倉庵さんも、一枚噛んでいるんだろうな。


「こりゃあ、早めに手を打つしかないか」

「そうだな……よし、少し早いけど戻ろう。恐らくだけど、逢魔が刻、それまでになんとかしないとやばそうな気がする」


 こういう時の、俺の予感って当たるんだよなぁ。

 ということなので、急いでホテルに帰ることにしたよ。

 さあ、作戦決行といこうじゃないか!!

いつもお読み頂き、ありがとうございます。

誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ