第三百四十四話・跳梁跋扈?事実は小説よりも奇なり(霊にも色々ありますが)
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空気が重い。
修学旅行の京都の宿、【リーグロイヤルホテル】。
全国各地の中学、高校の定宿でもあり、全国屈指の☆四つの宿。
俺たち北広島西高等学校は本館を、さらに二つある別館にも二つの高校が修学旅行としてやってきているんだけど。
問題は、ここに張る結界ではなく、ホテルの敷地に足を踏み入れた瞬間に走った寒気と、蛇のように睨みつけてくる視線。
重力というか、一種異様な雰囲気が体に纏わり付いてくる。
「あ、あの、乙葉くん、手を繋いでいい?」
「その程度ならいつでも。それよりも、早いところ、結界発生装置を設置したほうがいいんだよなぁ。まず一つ目は、この正面玄関から正門へかけての部分か」
正面入り口の巨大な看板。
恐らくは大理石を磨いて削り出したものらしく、風光明媚というか、この京都の歴史を感じるぐらい、あちこちがすり減りいい雰囲気を醸し出している。
その台座の後ろと地面の接合部分に結界発生装置を置き、魔力を注いで固定化、からの起動!!
──バシバシビシビシッ
すると突然、正面入口のガラス全てに亀裂が走ったんだが。
明らかに、何か質量を持った見えない何かがぶつかった感じに、蜘蛛の巣状にひびが入っているんだが。
それも、あちこちに。
「ひっ!!」
「……くっそ、顔ゴーグルでも視認不可能って、どういう事だよ。幽霊って、確認不可能なのか?」
そう呟くけど、よくよく考えたら、去年はクラスメイトの女子の家にあった市松人形に憑依したご先祖さまの幽霊とも友達になっているからなぁ。
あとは……最近なら少し前、妖魔特区内部地下鉄路線の確認で出会ったメリーさん。
妖魔や魔族、使徒のような実態がある存在ならいくらでも相手するけどさ、目に見えない怪異なんて相手したく無いんだよ。
「お、乙葉くん、次も早く終わらせよう? きっと結界を張り終わったら、ここの幽霊も外に追い出せるよね?」
「う〜ん、どうだろうなぁ。新山さんの神聖魔法で、幽霊に効果のある魔法って無い?」
「ゆ、幽霊に効果のある?」
俺の言葉で、新山さんも魔導書を取り出し、必死に何かを探し始める。
それならそれで、俺も以前、ジェラールから受けとった書物を取り出し、そこを確認。
まあ、俺の方は巫術がメインなんだけど、それっぽいものがなくてなぁ。
「あ、除霊術とターンアンデット。あとは神の祝福!!」
「ダンクーガ?」
「ん?」
「んん?」
はい、ボケ失敗、すまなかったよう。
「問題は、それが現代世界の幽霊たちに効果があるかどうか。俺は使えないからなぁ。頼みの綱は、新山さんということになるんだけど、大丈夫?」
「ええっと。乙葉くんって、一度見た魔術は、魔導書に刷り込まれるのよね? 私が使ってみて、それを憶えるとか?」
「それだ!!」
そうと決まれば早速、と行きたいところだけど、まずは結界の設置を先にしておこう。
気のせいか、ホテルの裏側からも悲鳴のようなものが聞こえてくるし、ガラスが割れた音もするが無視だ、無視。
とっとと結界を張り巡らせて、お終いにしようぜ。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
一時間後には、全ての結界を張り巡らせることに成功したんだが。
俺たちは、その結界装置の設置時に生じたらしいガラスや壁の損傷について、支配人室に呼び出されましたが。
「はじめまして。私がここの支配人の山口典韋です。要さんとは最初に打ち合わせをしましたが、どうも皆さんが結界装置を設置した時に、ガラスや壁に損傷が出ているという報告を聞きましたが、ご説明頂けますか?」
吊り目細めオールバックの山口支配人が、真面目な顔で質問するので。
「そうですね。まあ、結界装置の設置については問題なく完了しました。以上です。ガラスや壁は、結界装置によって弾き飛ばされた幽霊の仕業かと思いますので」
「幽霊……ねぇ。見えもしない存在のせいにして、弁償を免れようとでも?」
「あ、支配人は幽霊を信用していないのですか? 魔族は信じるのに?」
──ピクッ
俺の言葉で、支配人の眉根が動く。
うん、それは何か、都合の悪いことを尋ねられた時の反応だよね?
「魔族自体も、あまり信用はしていませんけど。まあ、テレビのニュースや国会で話があったので、信用ではなく認めているってところでしょう」
「それなら、幽霊も信じてください。つい最近になって補足が加えられた対妖魔特措法の中では、魔族、使徒などの異世界からの来訪者、妖などの怪異的存在、悪霊等の幽霊なども存在しうると記述されていますよ?」
俺の説明ののち、要先生がその部分をタブレットで表示する。
「それと、今回のホテル敷地内に対しての結界装置の設営については、魔術による直接的な被害については補償しますがそれ以外については補償の対象外であると記されています。そもそも、何故、ホテルの敷地内に幽霊がいるということを説明していなかったのか、そこから説明を求めたいところですが?」
淡々と説明し、最後は質問に切り替えるところはさすがだとは思う。
それに、山口支配人も表情を一つも変えず、静かに頷いているので問題はなさそうである。
「なるほど、それならば、これは当方の事故ということで処理することにします。そこでですが、今回の結界発生装置なのですが、買取は可能ですか?」
今度は買い取りの確認か。
まあ、あんな怨霊にいつまでもウロウロされていたら、ホテル側としても堪らないだろうからなぁ。
だが、今回は非売品で、このあと明日にも回収して、次のホテルに設置しないとならないからさ。
「残念ですが、今回はお売りすることはできません。それに、外からの侵入だけでなく中から出すこともできませんから。今現在、このホテルには結界によって閉じ込められた化物が存在するはずです。彼らは、ここから出ることができませんので」
「そうですか。まあ、それならば仕方ありませんね……なるほど、内部からも出られないのですか」
「はい。ですから、元々ここに住み着いている幽霊とかは閉じ込められますけど、まあ、俺の魔力が外に漏れて、使徒や野良妖魔を引き寄せるよりはマシですよね? 奴らは物理的に破壊しにきますからね」
そう念を押すと、問題ないという言葉ももらえた。
そして、この話の中、祐太郎と織田の二人は、ずっと口を閉ざしているんだが。
「では、二泊三日と時間も限られていますが、楽しい修学旅行をお楽しみください」
「はい。では、失礼します」
これで話し合いも終わり。
明日はここから京都を巡り、明後日はここから奈良へ向かう。
明明後日が大阪での自由研修、その日の夕方に新幹線で東京へ!!
なんというか、自由時間は東京だけなのに、大阪でも遊ぶ気満々なのは、学校側も黙認しているからなんだよなぁ。
「さて。二人はずっと沈黙していたけどさ、何か見つけたのか?」
「ああ。俺じゃなく、織田が……」
そう祐太郎が告げた直後、織田は床を指差す。
「ここ、この下、何かいるよな?」
「この下?」
廊下で立ち話もなんなので、俺たちは先にチェックインして部屋に移動。
ちなみに立花さんは魔力は多少あるけど一般人に毛が生えた程度なので、俺たちの作業中は部屋でのんびりと体を休めている模様。
そのため、作戦会議は要先生の部屋で行うことになった。
………
……
…
「なあ、この宿って本格的にやばいよな? 絶対気まずいよな?」
「そりゃそうだ。悪霊系はしっかりといることは掴んでいる、まあ、物理的には見えないし、専門家の出番になるんだがな」
「それで、新山さんが魔導書を持ったままなのか」
「はい。私の出番です……って、怖いのですけど、乙葉くんが魔法を覚えるまでの辛抱です」
フンスと両拳を握って気合いを入れる新山さん。
さて、問題なのは、織田の話していた下。
「因みにだが、祐太郎は織田が話していた下にある何か、わかったのか?」
「よくわからない、が分かった。これで今は通じるだろう?」
「了解さん。どれ、魔力波長放出開始……んんん? これは?」
俺を中心に、全周囲に魔力を波のように飛ばす。
すると不思議なことに、何か目に見えないものに触れるけどスッと透過していく感覚はある。
「はぁ、これが幽霊の波長……霧散化した魔族に似た感触だなぁ」
「それも、100以上あるだろ? 大きいものから小さいものまで」
「へぇ、ゴーグル、この波長を登録して映像化は可能……って、うぎゃぁぁぁぁぁ」
「オトヤンも見たか」
「見た、来た、触れたく無い!!」
全身から冷たい汗が吹き出し、思わず叫んだわ。
いや、これ、ダメ。
目でみちゃいけない、しかも俺と目があった。
幽霊の正体見たら、本当に幽霊。
足はあるし、服装だって普通の格好の人から、白装束までさまざまだし。
やばいのは、どう見ても落武者のような幽霊でさ、甲冑を着て刀を持ってフラフラと歩いていたり、首のない体で床を這いずり回ったり。
「か、要先生、今からでも、ここの宿をやめて他に移らないのですか?」
「予算がねぇ……」
「そりゃあ、こんなに霊障ありまくりな宿だからなぁ。魔力値が一定以上ないと感じることもできないけど、分かる奴らには悪さするタイプだろうし」
「それよりもよ、祐太郎。さっきの織田の話していた場所って、地下三階あたりの封印によって中がわからない場所か?」
そう。
ホテルの旧館地下三階、そこにあるらしい部屋。
そこだけが、ポッカリと魔力波長を全て遮断してくれていますが。
簡単に説明するなら、俺が張り巡らせた結界発生装置、それによって部屋を完全に遮断している感じ。
「そこだな。最初に見つけたのは織田だが」
「見つけたというか、幽霊がいるっていうからよ、あまり関わりたくないからいそうな場所を先に見つけようと『アクティブセンサー』を発動しただけなんだが」
「「「知らない魔法(だな、だね、ですね?)」」」
うん、織田は鏡刻界式魔術に特化してるからなぁ。
俺たちはカナン魔導商会式だし、俺に至っては複合型だからなぁ。
「ま、まあ、そういう魔法があるんだよ、それで見つけたんだが」
「オトヤン、調べる価値はあると思うか?」
「アリ。おおありだよ。その部屋の周囲に、野良妖魔と怨霊が集まっているからさ。そこに何か封じられているんだろうさ」
そう考えつつ、腕を組んで考えていると。
「乙葉、漫画でもあったよな? 確か、修学旅行先で【賢者の石】を発見して、別組織に襲われるってやつ」
「織田ぁぁぁ、死亡フラグを立てるなや!!」
「あ、悪りぃ。でもよ、その見えない場所って、そういったものがあるんじゃないのか? それをどうにかして良いのかどうかって事だよな」
そうなんだよ。
俺たちにしてみたら、触らぬ神に祟りなし。
見て見ぬ振りをして、楽しい修学旅行に集中したらいいんだろうけどさ。
「はぁ。この面倒くさい性格をなんとかしたいわ」
「だよな。いつ調べる?」
「みんなが来てから。だから、織田は参加しなくて良い」
「悪い、そうさせて貰うわ」
うん、巻き込むというよりも、周りに起こるかもしれない影響を確認してほしいところだわ。
「さて、それじゃあ、それまでに新山さんから魔法を教えてもらいますか。とりあえず、実践で行きたいから、怨霊っぽい落武者退治からね」
「お、落武者……はい、わかりました」
おお、新山さんも覚悟完了。
それじゃあ、サクッと新魔法を学ぶことにしますか。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




