第三百四十三話・暗中模索、鬼が出るか蛇が出るか(伝承は、語るものであって体験するものではない)
『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週火曜日、金曜日を目安に頑張っています。
さてと。
料理研究部の清水さんの依頼で、本邦初挑戦の『時間停止型・収納バッグ』を開発することになりました。
まあ、午前中て学校は終わったので、今は部室で一人のんびりと作業中。
祐太郎はクラスの女子の買い物に付き合うことになったらしいし、新山さんは対妖魔機関に行って許可証を受け取ってこないらしく。
そのあとで立花さんたちと買い物に出かけるらしく、ついでに例の占いの館で色々と占ってもらうらしい。
青春していますなぁ。
「それで……と、時間停止型の術式が、空間系魔術で……ここを、こう?」
用意した魔石に術式を刻み込む。
最初の一つ目なので、ゆっくりと時間をかけて刻み込む。
おおよそ1時間程度で時間停止術式が組み終わると、今度は空間拡張。
「はあ、なるほど……ここの数式を調節して、使用魔力量を調節かぁ。また、魔力吸収機関を作る必要があるということは、さらに時間が……とほほ」
空間拡張は規格があるそうで。
2メント×2メント×2メントで、1コンラスという規格。
ん、2メートル立方の箱一つが、1コンテナとなるって翻訳されたわ。
「初めてだから、加減して……1コンテナで作ってみるか」
コキコキと術式を組み込み、その次が自動魔力吸収装置。
妖魔特区内のあちこちに設置している結界発生装置に組み込んでいるアレを、量産化の魔法で増やすだけ。
最後は、魔力吸収装置と術式を組み込んだ魔石を融合化し、縮小。
これで『アイテムバック核』が完成したよ。
──シュゥゥゥゥ
「あとはカバンか。まあ、これについては、ウォルトコカモーン」
カナン魔導商会をオープンして、ウォルトコの画面からバックパックを選択し、ポチッと購入。
この中に完成したアイテムバック核を組み込み、固定化の魔法で定着させる。
「これで、完成したはず……起動!!」
手を入れてアイテムバック核に触れ、魔力を注いで起動させると。
──ヒュゥゥゥゥ
バックの入り口は特に変化なく、鞄の中が丸見え状態。
でも、手を突っ込むと中はとてつもない空間が広がって……。
「ん、作り直し。中身が認識できるようにして、それを念じて手元に取り寄せる術式……ぬがぁぁぁぁ!! ラノベの中に出てくる空間拡張カバンって、どれだけチートなアイテムなんだよー!」
今のままだと、中に入れたものに手が届かず、取り出すことができない。
さらに、カバンの入り口より大きなものは入れられない。
まあ、それはいいや、自転車とか入れてもって行く奴も出てきそうだから。
さてと、あと二つの術式を調べることにしますか。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
──翌日、千歳空港
集合場所へは自力で移動。
まあ、遅刻する奴らも出ることを予測しているらしく、集合時間には余裕があるということなので。
「ほら、約束通りの『乙葉印の収納バッグ』だ。別にレンタル料はいらないから、修学旅行が終わったら返却してくれ」
「あ、ありがとう!! これで京都と奈良の名産が買い放題だよ」
集合場所の付近で一休みしている清水に、完成して間もない収納バッグを手渡す。
すると、他の生徒たちが観ている中で、自分の荷物を次々と放り込んでいる。
うん、物理的に不可能な量が入っていくけど、特に問題もないし。
バックパックの口の部分を改造して広がるようにしつつも、手荷物として機内に持ち込めるほどにコンパクトに。
「俺としても、久しぶりに面白い魔導具が作れたから満足だわ。それじゃあ、約束を宜しくな」
「了解さん。それじゃあね」
嬉しそうにクラスメイトの元に戻っていく清水。
さて、俺も自分のクラスへと向かって……うん?
なんでみんな、俺の方を見ている?
「乙葉、荷物は?」
「着替えとか色々とあるのに、ロッカーにでも預けたのか?」
そんな質問があちこちから。
「まさか。空間収納スキルだよ、それがあるから、俺は無限に……とまではいかないけど、荷物は持って歩く必要がないんだよ」
爆弾発言。
するとクラスメイトの視線は、新山さんと祐太郎、織田にも注がれる。
「ま、まあ、私も一応、似たようなものを持っていますので」
「俺もだな。着替えとか必要な荷物はしっかりと持ってきているぞ」
祐太郎は腕輪の辺りに指を添えてから、そこからショルダーバッグを取り出して見せる。
すると、その場の全員が驚いて織田を見る。
「あのなぁ。俺は、乙葉達とは違って普通の魔法使いなんだからな、空間湾曲系術式なんて使えねーよ」
自分の鞄をバンバンと叩く織田。
だけど、しっかりと内部空間が拡張されて……いや、違うな?
なんだあの術式?
「天啓眼起動……ついでにゴーグルゴー……って、へぇ。面白い術式を練り込んでいるなぁ」
「オトヤン、織田の鞄もそうなのか?」
「いや、違う。あの鞄の術式は『物品引き寄せ』と『物品転送』。空間術式を組み込んでいるんだが、ありゃ、俺でも手がつけられない高等術式だぞ? おい、織田ぁ!!」
気になったので手招き。
すると取り巻きーズに何かを話してから、こっちにくる。
「なんだよ乙葉」
「その鞄の術式、誰に組んで貰った?」
「ん? ん〜。妖魔特区にいるジェラールって魔導具の露天商がいるだろ、そいつの口利きで、白桃姫って魔族に組み込んでもらった」
「ああ、なるほど納得。道理で、俺の知らない術式が組み込んであるわけだ。使い勝手は?」
「悪い。一度使うごとに、かなりの魔力が削られる感じがする」
「だろうなぁ……まあ、魔力が足りなくなったら言ってくれ、魔力回復薬なら作れるから」
薬なら任せろ。
薬機法に引っかかるかどうかの瀬戸際レベルで、魔法薬を作れる。
市販しない、確実に治ると宣言しないなどの条件はあるものの、身内でなら使っても問題はないし、そもそも、民間療法レベルでしか説明できないものだからさ。
魔法薬の存在自体、認めたくはないし犯罪されたくないんだろう?
以前来た、どこだかの製薬会社のように。
「あの、乙葉くん。その、なんでも入る鞄って、まだある?」
「修学旅行中だけでも、貸して欲しいんだけど……」
「うちもだ、俺たちにも貸してくれ! 荷物が重すぎて堪らん」
やっぱりか。
まあ、こうなることは予測していたので、あらかじめ多めに用意はしてあるからなぁ。
「学食のチケット七枚。それでどうだ? 班につきひとつだけなら、貸してやらんでもない」
「乗った!!」
「私たちもお願い。鞄一つで済むのなら、修学旅行も楽よね」
次々と学食のチケットが手元に溢れる。
結局、クラスの8班全部に収納バッグを貸し出すことになったけど。まあ、たまにはクラスに貢献するのも、悪くはないよな。
うん、平和が一番だからさ。
そんなこんなで、時間になったので一同、チェックイン。
俺たちはみんながチェックインしてゲートに入るのを見送ってから、別のゲートへ移動なんだよ。
「さて、それじゃあ魔力値が規定を超えているみなさんは、こちらから。乙葉くん、魔法の絨毯は持ってきているわよね?」
要先生が楽しそうに告げるので、俺は指を鳴らしてカバンを空間収納から取り出して見せる。
これはダミーで、ここから出したように見せかけるため。
「任せておいてください。さて、今回、魔法の絨毯で空の旅を満喫するのは……」
俺と祐太郎、新山さん、要先生は当然として。
新たに追加で織田と立花さんも、魔力値が規定を越えていたんだが。
なんで立花さんまで?
「六人。ちなみに絨毯は何枚?」
「俺とオトヤン、新山さんは自前の魔法の絨毯を持ってますから。立花さんは新山さんと一緒で?」
「いえいえ、私は、築地くんと一緒に乗りますわ」
「だってさ」
あ、久しぶりの祐太郎のドヤ顔。
くっそ、もげてしまえ。
「私は魔法の箒なので、二人乗りはできませんし」
「それなら、織田には魔法の絨毯を貸し出すから、それで乗っていけ。貸し出すだけだからな、返せよ?」
「取らねーよ? 欲しいけど、まあ、それはそれとして」
のんびりとした空の旅。
目的地は大阪国際空港、そこから京都へはリムジンバスで移動。
そして最初の宿へと向かうのが今日のスケジュール。
昼に千歳から飛んで、京都の宿には夕方4時に到着し、そこでまたなんやらかんやらとあるんだが、俺たちはそれよりも早く飛んでいって、結界装置を稼働させないとならない。
「それじゃあ、行きましょうか」
「はいはい。巡航速度で安全運転……って、織田、飛ばすなよ?」
「そもそも、飛び方もわからないわ。先に教えておけよ」
「織田がこっちのグループだって知ったのはさっきだわ。まあ、10分だけレクチャーするから、覚えろ? すごく簡単だからよ」
そんなこんなで、空港の端っこで俺は織田に魔法の絨毯のレクチャー。
本当に10分で扱い方を覚えてくれたので、あとは全員が魔法の絨毯に乗って、移動開始。
ちなみにここからは飛び立たないよ、飛行機の邪魔になるから。
ここから先は、高速に乗ってから高度を上げて、道なりに加速しつつ一 高度120メートルを維持。
さあ、楽しい修学旅行の始まりだぁ!!
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
一般生徒たちの飛行機が大阪空港に到着する一時間前。
ええ、俺たちは太平洋側の海上を飛行しつつ、ぐるりと和歌山湾から大阪湾に移動。そこから淀川上空を遡る形で京都府へと到着しました。
普通に空を飛んできたかったんだけど、魔法の絨毯は高度制限ありだし、一人じゃなく四枚の絨毯での移動となると、さすがに街の中は目立って仕方がないので。
そんなこんなで、本日の宿である【リーグロイヤルホテル】に到着しました。
修学旅行といえばこれと言われるほどの定番のホテル、実績も充実なのですが、当然ながら、やっぱり問題はあるわけで。
「それじゃあ先に手続きをしてくるので、みんなはここで待ってて」
「はい。それではお気をつけて」
手を振って見送ってから。
「はいはい、魔術研究部プラスワン、集合〜」
「お、そろそろ始まるのか?」
「これを使うのも久しぶりですね。あの時は、本当に魔法については手探り状態でしたから。今も思い出すと、恥ずかしくなってきますよ」
「なあ乙葉。俺もか?」
織田よ。
お前だけが楽をしようなどとは考えないことだな。
しっかりとお前にも、結界装置の設置を任せるからな」
「当然だな。まずは、結界装置の説明をするから、この地図のマークの場所に行って、そこに設置して起動させるだけだ。起動方法は……」
淡々と説明すると、予想通りに織田は使い方を覚えてくれた。
魔法に目覚めてから、頭の回転も良くなっているのがよくわかるわ。
「今回のは、全部で14ヶ所に設置します。帰りには回収できるように改良を施したので、設置した人が責任を持って解除してください。というか、設置したやつしか解除できないからな」
「ほう、新型か。これってやっぱり、道庁と市役所を外に繋ぐためのやつか?」
「そういうこと。そのための結界陣発生装置だからさ」
そう説明をしているうちに、要先生もホテルの職員を連れて戻ってくる。
「許可が取れましたよ。それで、一人につき従業員の方が一人、結界装置の設置に同行します。まあ、見届けるためと思って構わないので」
「了解。そんじゃ、一人三ヶ所、順番に回って設置しますか」
──ドサッ
人数分×3個の結界発生装置を取り出して並べる。
「あら? まさか私の分も?」
「当然。要先生の分担は、地図のEの地点をお願いします。俺がA、祐太郎はB、新山さんはCで織田はDを宜しく」
「乙葉、これって報酬は出るのか?」
「……楽しい修学旅行のために、犠牲になれ。以上だ!」
「くっそ。わかったよ」
ということで、全員で結界装置を設置するためにホテルに踏み込んだんだけど。
──ザワゾワザワッ
突然の鳥肌と寒気。
しかも頭の中がクラッと来た。
「お、乙葉君、今のは何? 寒気がね、鳥肌がすごくて、なんていうか……」
「俺もだ。こんな感覚、今まで感じたことがないんだが」
「あ、おとは!! おとは!! 報酬を釣り上げろ! なんだよこの感覚は。妖魔と対峙した時よりも怖いんだが」
「……なに、何がいるの?」
うん、俺を含めて全員が、このホテルの中に何かを感じたよ。
かくいう俺も、一瞬で白銀のローブを自動装着しているし、ゴーグルで妖魔や使徒を探しているんだけど、なにも反応がない。
「……俺もわからない。いや、こんな感覚、初めてだわ……なんだろう、俺たちは、確実に監視されている……」
そう、何者かに見られている。
しかも、複雑に絡みまくった感情が、あちこちから溢れている。
「いやぁ……さすがは修学旅行名物、何か出るホテルだわ……」
そう呟いた時。
冷たい視線が、俺を射抜いた。
そして新山さんもガクガクと震えてその場に座り込んだので、彼女の周りに力の盾を展開しておいた。
「乙葉くん、まさかと思うけど……いるの?」
要先生も真っ青な顔で、俺に問いかける。
はい、多分います。
でも、ゴーグルでも確認できないし、なによりも、俺だって初めて対峙したんだからさ。
「いますね。幽霊、もしくは怨霊ってやつ……いやぁ、まずは結界発生装置を設置するのが先決なんだけど……方針変更、二人一組織田は一人で」
「巫山戯るなぁぁぁぁ」
「いや、織田は要先生と祐太郎と。新山さんは俺と組んで、先に結界装置を設置してしまおう。幽霊対策は、その後で」
全員がこくこくと頷く。
いや、流石に実態をともわない幽霊などを相手するのは初めてだし。
そもそも、魔法が効くのかも知らん。
こうして、俺たちの奇妙な修学旅行体験は幕を開けたってわけ。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




