第三百四十二話・力戦奮闘? 情けは人の為ならず。(魔導工学と、修学旅行と)
『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週火曜日、金曜日を目安に頑張っています。
カナン魔導商会・札幌支店。
何故、日本に出店したのかと言う理由について、唐沢リナちゃんと勝負したんだけど。
ただの財政対策という理由だけだというオチで終わりましたとさ。
まあ、簡単なアイテムならスキルを使ってネット通販しなくても済むようになったんだけど、査定とかはできない、現金一括購入、そして商品ラインナップが異世界テイストすぎで、普段使いにも考えてしまうレベルなんですけどね。
なお、アクセサリーショップで販売している宝石の原石については、俺たちもそっちに向かうことができることも判明。
魔晶石を使ったペンダントとかも販売していたので、素材として購入することはできるんだけど。
やっぱり支払いは現金のみ。
結論。
俺は、たまに商品を眺めに行く程度でオッケー。
寧ろ祐太郎や新山さん、瀬川先輩が回復アイテムを購入しに向かうようになったのは、実は俺としてはありがたい。
緊急時に必要になっても、俺が捕まらなかったり動けなかったりしたら最悪、間に合わないこともある。
祐太郎を経由して購入するにも、月に一度しか使えないコマンドなので使い勝手はイマイチ。
そうなると、直接店で購入して、ルーンブレスレットの中に収納しておいた方が楽でいいよね。
リナちゃんと沙那さんも、先輩と新山さんと一緒に購入しに向かったらしく、目をキラキラと輝かせていたそうです。
………
……
…
──北広島西高等学校・魔術研究部
「さて、そんなこんなですが、明日からはいよいよ修学旅行です。私たち三年生が留守の間は、沙那さんに部室の管理をお願いします」
「はい。確かに鍵をお預かりしました」
「それに伴い、部長を有馬沙那さんに引き継ぎます。入部試験などに使う魔力感知球も、沙那さんにお渡ししますので」
いよいよ部長の引き継ぎ。
俺たちは大学進学のため、あまり頻繁にここには……って、推薦が決まっているからいつもと変わらないのか。
「ちなみにですけど。今年の一年生で新入部員がいないのですけれど、どうしたら良いのでしょうか?」
「そーなのです。今年の新入生の中でも、魔力値が高い生徒はいませんでした。逆に、魔術研究部に入部して魔力を高めたいという生徒がいっぱいでしたけど?」
「う〜ん。難しい問題ですね。乙葉くん、どうしたらいいと思う?」
そこで俺に振るとは。
やるな新山さん。
「そうだなぁ。例えば、闘気の修練については祐太郎とリナちゃんが主導で、毎朝、体育館でやっているよね?」
「あい!! 築地ブートキャンプですね」
「同じように、魔法使い希望の人を集めての魔術訓練って、やった方がいいのかなぁ」
「私や先輩、築地くんはやった方がいいと思うんですよ。私たちの加護って、元々は私たちの世界に魔法を広めるために授かったものですからね」
そこなんだよなぁ。
祐太郎は闘気講習として、武神ブライガーの加護をうまく利用している。
俺たちほどの闘気量を持つ生徒とかはいないけど、そこそこに闘気を使えるような生徒は少しずつだけど出てきているんだが。
そこが、問題になっているんだよ。
「まあ、実際の問題としては、うちの学校の運動部の生徒たち、ほぼ全員が闘気修練を行なっている。そして、そこそこに闘気が纏えるようになってきた生徒もいるんだが、まあ、なんというか」
「身体活性能力だけしか使えないんだが、そこが問題ってやつだよな」
「ああ。うちの野球部のエース、闘気を体に纏った状態での最高速度は球速149km。なお、闘気を纏うと一試合持たない。コントロールも安定しない」
「それでも、すでにプロのスカウトが見にきているんですよね? リナちゃんも見たことあるよ?」
野球部だけじゃない。
陸上部も、剣道部も、柔道部も。
闘気修練により、ほんの少しだけ身体能力が高められるようになった生徒は存在するし、高体連などでもそこそこの成績を収め始めている。
「そんな奴らがゴロゴロとしていて、その原因が俺の闘気修練だっていう噂も流れている。まあ、漫画でよくある『気功』が使える生徒が部活で活躍する、それを地で行える奴らなんだからなぁ……俺のところにも、高校卒業後には闘気修練講師として生徒に教えてくれないかっていう誘いがあちこちからきているんだよ」
「私の場合は、やっぱり医療系ですね。主に企業の保有する運動部とかからも、専属治癒師になりませんかって」
へぇ。
みなさん、あちこちから誘われてますね。
「オトヤンは、そういう誘いはないのか?」
「ヘキサグラム、崑崙八仙、第六課、防衛省、特戦自衛隊、英国騎士団、あとはあちこちの国の秘密結社ぐらい? あと、日本三大重工と自動車メーカーと航空機メーカー。そんな感じ? 目的がはっきりとわかって面白いだろ?」
「「怖っ!!」」
俺ぐらいの魔導師になると、逆に大量破壊兵器扱いなんだよ。
工業系は魔導具開発の利権、自動車メーカーも同じ。
航空機メーカーは魔法の箒と魔法の絨毯のノウハウと販売利権。
ヘキサグラムとかは、純粋に俺の魔導師としての力が欲しいってところ。
そんで、日本政府からは、外国企業には加担するなって釘を刺されている。
ぶっちゃけると、そんな余裕なんてないんだが。
「そんな感じでさ。魔術講習をする分には構わんと思うけど、それにともなう危険性も教えてあげないとならんわけよ。利権絡みの奴らに利用されたり、あとは野良妖魔や使徒対策もしないとならないし」
「幸いなことに、闘気修練ではその辺りも十分に説明はしている」
「私も、体内循環式魔力鍛錬法は教えているけど、そもそも魔力回路が開かないのが普通なので、教えた子の保有魔力量はそんなに増えていないのよ」
はぁ。
まあ、今後のことを考えても、新入部員については現状維持、もしも来年度の新入部員もゼロだったら、魔術研究部は解散ってところだろう。
「まあ、そんな簡単に魔力回路が開いたら、世界は魔法使いだらけだよなぁ。でも、俺たちは魔導書によって魔力回路をひらいた、これは高遠先輩や美馬先輩を見ても明らかなんだが。鏡刻界の魔法使いって、魔力回路は普通に開いているものなのか?」
祐太郎の問いかけに、一同、沈黙。
「リナちゃんたち獣人族は、生まれた時には開いているんだよ? そうじゃないと獣人闘気なんて使えないから」
「血による覚醒ってところか。それなら、冒険者の魔法使いは?」
祐太郎がリナちゃんに問いかけると、意外とあっさりとした回答が出てきたんだよ。
「う〜んと、ジョブ」
「「「ジョブ?」」」
沙那さん以外の三人が問い返すと、リナちゃんと沙那さんが頷いている。
「私も詳しくはありませんけれど。鏡刻界で魔法を学ぶには、師匠となる魔術師に師事するか、魔導書を購入して独学で学ぶか、もしくは成人の儀式で神から魔術師のジョブを授かった時だけです」
「はぁ。最初の二つは理解できるんだが、神からジョブを授かるってどういう事?」
「神といいますか、成人の儀式では、こう、神から授かったお酒というものを飲むのですよ。その時に、儀式を受けた人は神からスキルを授かると言われています。それが、ジョブと呼ばれていますね」
へぇ。
そのお酒が多分、スキルを得るためのヒントなんだろうと思ったんだけどさ。
気のせいかもしれないけど、ここに踏み込んたんはいけないような気がしてきたんだよ。
なんでもかんでも興味本位で踏み込んではいけない、これは、とある有名人の言葉だったような気がする。
「うん、そこには触れないでおこう。でも、スキルを得た時点で魔力回路が開くっていうことなら、鏡刻界に行くことができるのなら、誰でも魔法を学べ……ってそうか、織田のパターンか」
「そうなるなぁ。奴の場合は、新山さんの治療を受けて魔力回路が開きかかって、鏡刻界から持ち帰った魔導書を読んで魔術師になったんだよなぁ」
必要なのは、きっかけと魔導書。
やっぱり、一般の人が魔法を学べるようになるのは、まだまだ先なんだなあと改めて感じたよ。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
翌日。
のんびりと登校してきた俺を待っていたのは、料理研究部の元部長の清水香凜さんでした。
「どうも〜。実は乙葉くんにお願いがあってきたんだけど、少し良いですか?」
「はぁ? また妖魔料理でも食べさせようってか? それとも新作料理パーティーの招待?」
道場先輩との料理勝負以来、俺は料理研究部とはちょくちょく付き合いがあってね。試作料理に妖魔が取り憑いたり、追加の食材を頼まれたりと、
瀬川先輩のお願いだったから用意しただけなんだけどさ、まあ、その代わりに試作料理を食べさせてもらったり、クリスマスパーティとかでも料理を振舞ってもらったりと、共存共栄の立場なんだよ。
そんな料理研究部の元部長、今は進学組で悪戦苦闘している清水さんが、はてさて何の願いやら?
「パーティーじゃないなぁ。ちなみに妖魔料理って、狙って作れるものじゃないよね? 実は、お願いっていうのは、よくラノベである『時間停止のできる魔法の鞄』が作れないかなって」
「あ〜。収納バッグで、時間停止型かぁ。作ったことはないけど、なんで必要なの?」
「修学旅行で、各地の名産や食材を持って帰ってきたいから。ほら、クール宅配便とかでも代用できるけど、あちこち回って見るたびに、いちいち宅配業社のところまで行くのも面倒でしょう? どうにか売ってくれない? レンタルでも構わないから」
両手を合わせて頼まれる。
まあ、協力するのもやぶさかではないのだが。
さてどうしたものかと頭を捻っていたら、新山さんと立花さんが登校してきた。
「あら? 清水さん、何かあったの?」
「おはようございます。何かお困りのことでも?」
「新山さんと立花さん。実はね……」
かくかくしかじかと説明をする清水さん。
そういえば、清水さんって新山さんと立花さんとも仲が良いんだよね。
一年の時はクラスメイトだったって、俺もじゃんかよ。
魔法使いばっかりやっていたから、もうクラスのことってあまり干渉していなかったからなぁ。
「なるほど。う〜ん、これはどうしたものか」
「難しい問題ですわね。乙葉くんをはじめ、現代の魔術師については魔導具のおねだりなどは禁止されていますわよ?」
「そう、それは知っているのよ!! だからレンタルでも買取でも」
「気持ちはわかるし。でも、う〜ん」
新山さんたちが困っている。
今のうちにカナン魔導商会を開いて魔導具のコーナーを確認。
収納バッグはあるけど、日本円で150万前後か。
時間停止はない、けれど、これって作れたら凄いよな。
魔法の箒や絨毯なら作ったことはある、ルーンブレスレットの中にある収納バッグ能力は、市販品を流用した。
けれど、これを作れるなら、俺は流通業界にも打撃を与えることができる!!
やらないからな!!
個人で使うだけだからな?
「あ〜、ちょい待ち、面白くなってきた」
「「「え?」」」
「実は、時間停止型は作ったことがない。明日の朝には修学旅行が始まるし、今日は準備のために午後の授業もない。制限時間は僅かだけど、やってみる価値はあるか」
やばい、きっかけはどうであれ、なんだか楽しくなってきた。
「それじゃあ?」
「時間停止型収納バッグの製作、やってみますか。ただし、レンタルだけど良い?」
「構わない、全く問題ない。それで御礼は?」
「……魔術研究部のメンバーを招待して、晩餐会を開いてくれたらいいよ。場所は……祐太郎のうちで、ホームパーティー形式で」
「料理ならお任せあれ!!」
これで契約は完了。
始業ベルと同時に清水さんはクラスに帰る。
さて、俺は授業を受けているふりをして、空間収納の中の錬金術教本を漁って、時間停止術式と空間拡張術式を調べるとしますか。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




