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【書籍化】ネット通販から始まる、現代の魔術師  作者: 呑兵衛和尚
第六部・饗宴なる修学旅行、或いは平穏な日常編
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第三百四十一話・敵本主義!!禍福は糾える縄の如し(いや、それって世知辛くないか?)

『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週火曜日、金曜日を目安に頑張っています。

 カナン魔導商会がテナントとして入っている建物は、札幌駅前のネクスト45ビルなんだけどさ、その場所ってつまり……。 


「妖魔特区内、だよなぁ」

「しっかし、この辺りも随分と人の出入りが緩くなってないか?」

「危険……ですよね? まだ野良妖魔が徘徊しているはずですよね?」


 放課後、部活を休んで俺たちは妖魔特区にやってきた。

 織田たちから聞いた話、クラスの女子や後輩たちの噂を検証した結果、やっぱり直接きた方がいいということで結論は達したし。

 何よりも、カナン魔導商会のトップページにここの住所が書いてあるんだわ。

 魔法の箒に乗って、ゆっくりと飛んでくると、半ば廃墟のようになった建物の一階部分だけが、綺麗に修復されている。

 その近くでは、なにやらチラシを手にした人たちがうろうろとしているんだが、はて、どういう事なのやら。


「あ、魔法使いだ」

「本当だ。ちょっと、この辺りに占いの館があるって聞いたんだけど、どこかわかりますか?」

「友達が昨日占ってもらったらしくて、それで、すごく的中するし魔除けのお守りを買ったら、宝くじに当たったって話していて……」


 俺たちをみて話しかけてから人たち。

 まあ、何処も何も、目の前だよな?

 祐太郎と新山さん、二人と顔を合わせてから、三人同時にネクスト45の一階を指差して。


「「「そこじゃね?(ではないですか?)」」」


 そう指摘するんだけど。


「いや、中に入れないんだよ。まさか、あの廃墟の中ってことはないと思ったんだけど、やっぱりこの中なのか」

「はぁ。入り口だけ修繕されている廃墟なんて、信じたくないんだけどなぁ」

「ここかぁ……正直、怖いわ」

「あ、やっぱり普通に入り口は見えているのですか」


 良かった。

 これで、魔力値が低いと廃墟にしか見えないとかだったら、どうしようかと考えていたんだが。

 そんな事もないようなので、さて、これから向かうとしますか。


「おい、そこの魔術師。そこに何しに向かうんだ?」


 魔法の箒から飛び降りた時。

 後ろから声を掛けられましたが。

 恐る恐る振り向くと、しっかりと防弾ジャケットにヘルメット、その他色々と装備した佐藤三等特佐が立ってましたけど。

 その横には、見たこともない特戦自衛隊の人も。

 

「おや、これは佐藤三等特佐。こんなところで会うとは、奇遇ですね?」

「奇遇も何も、すぐそこは札駅迷宮の入口だろうが。ここにこんな変なものが出来上がって、昨日からここを訪れる奴が後を立たなくてな」

「それで、俺と佐藤三等特佐が、札駅迷宮の入り口の警備に配属されただけです。あ、俺は冨岡陸一等特尉です、よろしくお願いします」


 背の高く、すらっとした冨岡陸(とみおかりく)さんが、手を差し出してきたので、しっかりと握手して。


「うお、佐藤特佐と同じぐらいの魔力……いや、闘気か?」

「へぇ。俺は築地祐太郎だ、よろしくおねがいします」


 祐太郎も握手すると、やっぱり同じように闘気を感じ取ったらしい。

 

「なるほど、確かに闘気含有量は高い。うちの学校の連中よりも高いんじゃないか?」

「こう見えても、忍冬警部補の元で、闘気を学んでましたから。まあ、正確に学び始めたのは去年からですし、一昨年は埼玉の道場で、築地くんとも手合わせをしましたよね?」

「ええ。確か、高杉のあとで……俺が休憩を終えたあとに、手合わせをお願いしましたよね?」


 ほう、そんなことがあったのか。

 

「それで、さっきの質問に戻るが、三人はここに何をしに?」

「え? そこの建物にできた占いの館で、占いをしにですけど」

「……はぁ?」


 あれ、驚かれた。

 俺たちが占いをしてもらうのが、そんなにおかしいのか?

 怪しいから調査しにきましたなんて言えないけど、やっぱり無理があったか?


「待て、乙葉は現代の魔術師、築地は闘気マスター、君が現代の聖女だよな?」

「ま、まあ、そんな感じですけど」

「間違ってはいないが」

「面と向かって言われると、恥ずかしいのですけど」

「魔術の最前線の君たちが、なんで占いを? その程度なら魔法でなんとでもなるんじゃないのか?」


 あ、佐藤特佐も魔法を勘違いしているのか?

 確かに魔法は便利だけど、それを使いこなせればの話。

 そもそも、占いなんかよりも未来を予知する方が早いし、俺は紙に書いてあるものなら未来を見通せるからな。

 それを使えば、確定する未来なら予知できるんだけど。


「あの、俺は未来予知系魔法は使えませんよ。だから、自分知らないことに興味があって、ここに来たんですけどね」

「そ、そうか、それはすまない。まあ、元が廃墟だったので崩れる心配もあったんだが、しっかりと修復されて国から認可が降りている場所だから。まあ、結果が悪くても暴れないようにな」

「暴れませんって。では、失礼します」


 三人で挨拶してから、もう一度ネクスト45を見る。


「祐太郎、新山さん。今の佐藤特佐の話は聞いていたよな?」

「国が認可したって言っていたな。絶対にありえねぇ……こんな廃墟を修復したからって、そんなに簡単に許可なんか出るはずがない」

「私が見た感じでは、建物全体が魔力で包まれていますね。ええっと、ティロ・フィナーレのような感じなのかな」


 うん、ビンゴ。

 カナン魔導商会が直接干渉して、何かやらかしたことは明白。


「乙葉先輩!!」

「お待たせしました、リナちゃん、です!!」

「お、ナイスタイミング。それじゃあ向かいますか」


 掃除当番で遅れた二人組も到着したことだし、早速向かうことにしますか。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



──ネクスト45内

 正面入り口から中に入る。

 広いフロアを抜けた時、ふと、異質な感覚に体が囚われた。

 なんというか、鑑定された? そんな感じ。

 それは俺だけでなく、祐太郎と新山さんも感じたらしく、その場に立ち止まってしまっている。

 リナちゃんと沙那さんはいきなり身構えているけど、やっぱりここが異質な場所なのは理解できているらしい。


「……気持ち悪い。ここの空間、リナちゃんの知らない魔力波長に包まれています。闘気も魔力もうまく動かない……」

「しかも、それが身体の中を巡るので、リナちゃんにはかなりキツそうですね」

「分かった。無理そうなら外で待っていて構わないよ。中は俺たちで調べるから」

「う〜。リナちゃん、戦・力・外!!」

「……元気そうだが」

「む〜り〜」


 沙那さんが倒れそうなリナちゃんに肩を貸している。

 そっか?

 俺にはあまり違いは感じないんだけどなぁ。

 

「オトヤン、今の感覚は」

「なんだろう? ステータスを覗き見されたようなかんじ」

「それがわかるのは、二人がかなり魔術に精通し始めた証拠だろうなぁ。天啓眼てんけいがん……」


 通路全体を天啓眼てんけいがんで見渡す。

 うん、入り口から入ってこのフロア全体が、鑑定盤アプレイザーっていう巨大な魔導具に包まれている。

 そして、鑑定結果によって、分岐されている道へ案内するってところか。

 地下に向かっているのは全員共通で、そこから下に降りるところが分岐点。

 その手前まで進んで、俺は階段を下に向かって眺める。


「ほう、転移門が設置されているか。多分、ここに入った時点で選り分けられ、転移門の行き先を変化させているんだろうなぁ」

「でもよ、例えば二人で来て、別々の道に進むこととかもあり得るよな?」

「その場合は……と、条件付けもわかった。より反応値の低い方に引っ張られるらしいから、全員が一定値以上でない限りは、地下の占いの館にご案内。その次が、同じ地下フロアにあって空間が異なるアクセサリーショップ。そして」


 俺はゆっくりと足をすすめる。

 慌てて祐太郎と新山さんが駆けてくると、突然、目の前の空間が歪曲し、コンビニのような場所に辿り着いた。


──ピンポンパンポーン、ピンポンパンポーン

 自動ドアをくぐった時の音も、コンビニ風。

 入って左側がカウンターで、右側にはいくつもの商品陳列棚が並んでいる。

 奥には巨大な冷蔵庫もあるし、完全にコンビニ風なんだよなぁ。


「いらっしゃいませ。ようこそカナン魔導商会・札幌支店へ。お客様は乙葉浩介さまとその妻の乙葉小春さま、そして築地祐太郎さまで間違いはありませんね?」

「つ、妻???? 妻って妻? 私、まだそんなじゃない」

「あら? そうでしたか? それでは強制的にここから退店して頂き、記憶を消去しなくてはならふべしっ!!」


──スパァァァァァン

 淡々と事務的に話す店員の後頭部に、力一杯ハリセンを叩き込んでいる女性が一人。


「はいはい。カルラは奥で開梱作業をしてくださいね。いらっしゃいませ、私がここの責任者のマチ……待ちかねていました、安里真夕あんりまゆと申します」

「乙葉浩介です」


 頭を下げて挨拶すると、安里さんは手をたたきながら喜んでいる。


「乙葉浩介さまには、いつもお世話になっています。この空間はカナン魔導商会登録者及び招待ユーザーのみしか入ることが許されていませんので、一時的にですが新山小春さまを伴侶として登録しました。特例として、あなたと……ええ、瀬川雅さまもこちらの店舗限定のユーザー登録を行いますので」


 そう説明してから、安里さんが指をくるくると回し、4枚のカードを作り出した。


「こちらをお持ちして頂ければ、いつでもここにくることができますので、どうぞ。瀬川さまの分は、乙葉さまからお渡しください」


 そう説明してから、俺たちにカードを差し出す。

 なんの変哲もない、顔写真付きのカードだけど、見たことがない文字……あ、翻訳した。

 名前と生年月日、ジョブが書いてあるだけ。

 まあ、IDカードってそんなものだろうな。

 祐太郎は余裕の表情で受け取っているけど、新山さんはまさか自分もカナン魔導商会の恩恵を受けれるとは思わなかったらしく、動揺の色が隠せない。


「それで、どうして俺たちの世界に、支店を作ったのですか?」


 そう問いかけると、安里さんが、にっこりと笑ってひと言。


「まあ、有り体に申しますと税金対策ですわ」

「「「……は?」」」


 いや、待って。

 そんな簡単に、そんな理由で異世界にテナントを構えて良いものなの?

 もう少し崇高な意味合いはないの?

 異世界の文化や風習を学ぶためとか?


「あの! 異世界に来る理由なら、例えばその世界を知るという事もありますよね? そういうものも含まれているのですか?」

「いえいえ。そんな気は全くありません。乙葉浩介さまから購入した商品は、我が国の貴族だけではなく近隣諸国の王家からも問い合わせがございます。別部署が、直接こちらに出向いて仕入れた方が、経費節減ではないかと申していましたけど、私の一存で却下しました。ゲートを設置し、そこを出入りする方が維持費に莫大な予算が必要となりますので」


 そこからの説明では。

 ゲートを開くよりも、店舗を作った方が安上がりであること

 その店舗からの仕入れについては、世界法則がそれを許さないこと

 故に、俺のスキルであるカナン魔導商会以外での査定などによる仕入れは、神の一存で不可能であることは理解した。


「その上でですね。こちらには、普通に市販できるレベルの商品を取り揃えてあります。上級以上の魔導具などはありませんが、それ以外のものでしたらお買い求めやすくなっておりますので」


 説明を聞いて棚に並んでいる商品を確認するけど。


「ふぅん。乙葉くんが用意してくれた調味料とかはあるんだね」 

「チュニックとか、向こうの服もある。いや、普通にコンビニだわ、これ」

「アイスクリームもあるとはなぁ。それと、その、レジの後ろに飾ってあるのは魔法の箒?」


 壁には、かなり贅沢な作りの魔法の箒が掛けられている。

 へぇ、これは凄いわ。


「まあ、乙葉浩介様ならば、ネット通販スキルで全て買えますので、ここまで来る必要はありませんけど。このように商品が並んでいるのを見るのも、また、楽しいのではないかと」

「そりゃあもう。逆に、見たことがないものまであるから、驚きだよ」

「ありがとうございます。ユーザー登録された方は、カードを提示して頂ければいつでもこの店舗まで来ることができますし、お買い物をすることもできます。まあ、現金オンリーとなりますが、支払われた現金は、我が社の社員が地球旅行の際に使用しますので、消滅することはないとお伝えします」


 何から何まで、アフターケアも万全か。

 これは、良いところにカナン魔導商会がやってきたって感じだよな。


「それじゃあ、今日は知り合いも待たせていますから。また今度、ゆっくりと来ますので」

「他にも、外でお待ちですか」


 そう呟いて、安里さんが顎に手を当てて考える。


「それでは、カードをお持ちの方が信用できる方、お一人だけなら、ご来店を許可します。お渡ししたカードなら、後四名の方をお連れできるように調整しておきますけど。くれぐれも、カナン魔導商会を表に出さないように。信用できる友人のみに、留めてください」

「「「ありがとうございます」」」


 これで、外で待っているリナちゃんと沙那さんがガッカリすることが無くなった……って。

 やべぇ、リナちゃんとの勝負、俺の完敗じゃねーかよ!!


いつもお読み頂き、ありがとうございます。

誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。

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