第三百四十話・複雑多岐、驢事未だ去らざるに馬事到来す(選ばれしもののみが、入れる店)
『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週火曜日、金曜日を目安に頑張っています。
カナン魔導商会。
一昨年に俺が魔術に目覚めるきっかけになった『ネット通販』スキルであり、俺たちが魔族を知ることになったきっかけの一つ。
これにより、誘発されたかのように新山さんや祐太郎、瀬川先輩も神の加護を受けて魔術を覚醒させることができた。
それと同時に、俺たちの住む世界もゆっくりと変容を始め、札幌市の中央区がが対物理障壁結界により『札幌市妖魔特区』として外界と遮断されたことをきっかけに、それまで影に隠れて生きていた魔族が表の世界にも現れ始めた。
対妖魔機関・第六課や特殊戦略自衛隊、さらには海外はアメリカ資本の対妖魔機関ヘキサグラムなどという、さまざまな組織も姿を現し、世界は魔術の存在を、そして魔族の存在を認めざるを得ない状況になった。
さらには、使徒と呼ばれている封印されし種族による動乱も発生したが、それも事なきを得て平和な時間が帰ってきた……。
──ティロ・フィナーレ
「……んだけどなぁ。さて、どうしたものか」
「う〜む。今日はオトヤンのナレーションのような独り言も読めなかったか。最近は俺の闘気も不安定だな」
「待って祐太郎、今までの俺の無意識な独り言って、闘気で感じ取っていたのか? それってマジか?」
「いや、冗談だから心配するな。それで、どうしたものかは、カナン魔導商会の件か?」
今は部活も休んで、みんなで作戦タイム。
え、受験勉強?
北海学園大学に推薦入学が決定した俺に隙はないが?
授業はちゃんと受けましたよ、真面目にやりましたよ。
サボって赤点なんて取りたくはないからさ。
学校が終わってから、今日は全員でティロ・フィナーレまで来たんだよ。
「そうなんだよ。いつ開店するのか、どこに開くのかなんてさっぱりわからないしさ。あのカナン魔導商会の事だから、俺にメッセージを送ってきた時点でもう開店している可能性の方が高いと思うし」
「でも、そこって私たちでも買い物できないのかなぁ? 欲しいものは乙葉君に頼んで代理購入してもらっているけれど、急ぎとか乙葉くんがいないときとかは、直接購入できる場所があるっていうのは、助かるのよ」
「はぁ、別に、新山さんの欲しいものだったら、LINEで一報くれたらすぐに買うよ?」
「ま、まあ、それは助かるしありがとう。でも」
ふむ、この耳まで真っ赤な反応はあれだな。
すぐさまカナン魔導商会を開いて、久しぶりにダイエットドロップを購入。
それを新山さんの目の前に置いてあげたよ。
「これかな?」
ニッコリと笑って目の前に置いてあげる。
すると新山さんは困った顔で一言だけ。
「うん、そうだね、そうなんだよ……ありがとう。あとでチャージ分の何かを探してからね」
「いつでもどうぞ。今は余裕があるから、のんびりと待っていますよ」
そう返事を返すんだが。
なんで祐太郎と沙那さんとリナちゃんは、俺の方をジーッと見ているのかな?
憐れみの視線にも取れるんだが?
「はぁ、オトヤンは、もう少し乙女の気持ちとか、そういうものを学んだ方がいいぞ。新山さんがなんで困っているのか、わかってないだろ?」
「乙葉先輩、魔法だけでなくデリカシーも学んでください」
「リナちゃんの、怒りの一撃を受けてみる?」
祐太郎と沙那さんはまあ、なんとなく理解できるがリナちゃん、頼むからいきなりツァリプシュカ改2を装着するのはやめなさい。
部室が壊れるからさ。
「ま、まあ。今回は俺が悪かったよ。新山さんが誰かに頼まれたのか、それともダイエットの相談を受けたんだろうなぁっていうのはわかったんだけどさ、いや、その子のことも考えると、ここは何も考えずに渡せばよかったんだよな。察してあげたふうにやっちゃったけど、そこは無言で」
「「「そうじゃない!!」」」
えええ、なんで?
どうして俺が怒られるんだよ。
全く解せぬ。
ほら、新山さんも困っているじゃないか。
「乙葉くんのバカ……」
はい?
「はぁ。よくわからないけど、話を戻すわ。カナン魔導商会の件は、瀬川先輩も深淵の書庫を展開して札幌市内を隈無く探してくれているんだけど、未だ確認ができていない。つまり、まだ店舗自体は完成していないことは理解した」
「私がネットのアルバイト情報サイトで確認しましたけど、まだ新規開店のアルバイト募集らしきものもありません」
「うちの近くとか、親父の持っている物件とかでも新しく入った店は知らないからなぁ」
「ええ。大谷地方面も、特にそれらしいものは見ていませんわ。お父さんにも尋ねようと考えたのですけど、うちの父のことですから一を問いかけたら十ぐらいは推測して、秘密にしていたカナン魔導商会の件に気がつくかもしれませんから。ですから尋ねてもいません」
「リナちゃんも、見ていないなぁ」
これだけ、誰にも目撃情報がないということは、まだ店舗が完成していないのか、それとも、俺にしか見えないのか、そのどっちかだと思うんだが。
そもそも、俺にしかわからないようなものを、わざわざ経費をかけてまで異世界に作る必要があるのか。
そう考えて、頭を捻るのだけど。
「俺にしか見えない……という可能性もあるのか。そうなると何故、札幌にってところだな。何かの思惑があるのか、まさか、異世界侵攻の足掛かり……ってことはないか」
「はい!! リナちゃん思いつきました」
「どうぞリナちゃん」
手を上げて嬉しそうに叫ぶから、思わずリナちゃんを指差しちゃったよ。
「税金対策のための、幽霊企業ならぬ幽霊店舗!! 異世界に支店を作ると、経費が嵩むから!!」
「うん、ファンタジー要素も何もない回答をありがとう」
「それしかないです!!」
「ないわぁ。そればっかりはないわぁ。どこのラノベに、異世界で税金云々の話が….あるわ。そういう作品。でも、今回は違うだろ」
「もしもそうなら、どうしますか!!」
「あ〜。もしもリナちゃんの意見が正解なら、なんでも好きな魔導具を作ってあげるよ」
思わず約束したんだけど、まずそんなことはない。
だってカナン魔導商会だよ?
そんなこと考えると思う?
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
──翌日・北広島西高等学校
昨日は答えが出ないままに、リナちゃんと勝負することになった。
俺が勝ったら、リナちゃんのツァリプシュカ改2の設計図面をコピーさせてもらうことになったし、今からカナン魔導商会で素材を集める準備をしようかと考えたりしていたんだよ。
ちなみに帰り道も遠回りして、あちこちを飛び回っていたんだけどさ。
それっぽい店なんて見えなかったんだが。
そんなこんなで、登校してクラスに向かうと、織田たちがなにやら盛り上がっている。
「お、乙葉、いいところに来た」
織田が俺に気づいて、席までやってくる。
因みにだが、3年に進学しただけじゃなく、北海学園に推薦特待生が決まったので、魔法云々については親からも公認になったらしい。
「謎の占いショップって知ってるか?」
「ススキノの母?」
「誰がススキノの占いおばちゃんの話をしている。ほら、駅前のネクスト45ってビルがあるだろ、そこの地下にできたアクセサリーショップなんだけどさ」
「あそこがアクセサリーショップじゃなく、占いの館だっていう女子がいてさ」
ふむ。
「アクセサリーショップの中に占いコーナーがあるんじゃなくてか?」
「そもそも、ほとんどの女子が占いの館だっていうんだわ。俺が試しに行った時は、普通に希少鉱石を扱ったアクセサリーの販売店だったからさ、なんのことやらさっぱりって思ったよ」
「へぇ。そりゃあ、興味がある……それで、織田が見たアクセサリーショップって、まさか魔導具しか売ってないとか言わないよな?」
「まさか。ローズクォーツとか、本当に普通だったぞ? 魔力も感じなかったからな」
「そっか。まあ、俺も気になったら見に行ってくるわ」
「あと、その近くでジェラールがウロウロしていたからな。変なものをつかまされないようにな」
なるほど。
あのジェラールがウロウロしているってことは、何かあるよな。
まあ、放課後まではこの噂、調べさせてもらいましょうかね。
「オトヤン、おっす」
「おっす。今朝は闘気訓練か?」
「朝イチのやつな。今は参加者が100人ぐらいいるし、リナちゃんも手伝ってくれているから助かるんだわ、お、サンキュー」
俺と祐太郎が話をしていると、立花さんが祐太郎にスポーツドリンクとタオルを差し入れて立ち去っていく。
それを何事もなく受け取っている祐太郎なんだが、何この、自然な流れ。
「それでさ、朝の訓練の時に聞いた話なんだが、的中率がめっちゃ高い占いの館が開店したとかで」
「俺も織田から聞いた。でも、あいつが行ったときはアクセサリーショップだったらしいが?」
「あ、やっぱりか。後輩の子がさ、噂を書いて見に行ったらアクセサリーショップだったらしくて、帰ろうとしてからもう一度振り向いたら、そこに占いの館がができていたんだと」
「うん、ビンゴだ。その子、多分だけど魔力か闘気の値が高いと思う。なかなか、面白いことしているなぁ」
俺の呟きに、祐太郎もコクリと頷いた。
これは、放課後にでも見に行くしかないよなぁ。
「ということなので、新山さんも誘って行ってきますか」
「俺も興味があるからついて行くわ。それとも、新山さんと二人っきりで行きたいのフベシッ!!」
──スパァァァァァン
はい、登校してきた新山さんのミスリルハリセンが祐太郎の後頭部を直撃。
「ふ、ふた、二人っきりってなんですか!」
「いてて.…痛くないが心に響く。ほら、付き合い初めのカップルって、占いとか気になるじゃないか?」
「わ、わた、私は乙葉くんとは……つ、付き合い始めていますけど、まだ、そんなところまでは」
大きな声で否定のような肯定のような事を叫ぶから新山さん。
それを聞いていたクラスメイトもいるわけで。
「あ〜、やっと付き合い始めたのか」
「随分と長かったな」
「ほらな、新学期中に付き合ったろ? 俺の総取りな」
「くっそ、学食一週間分のチケットがぁぁぁ!!」
俺と新山さんがいつから付き合うか。
そんなことで賭けなんかするな!!
そして立花さん、タオルを回収するついでに新山さんの肩をポン?と叩いてサムズアップしないでください。
俺も恥ずかしいです。
「それじゃあ、放課後に魔術研究部の部活として、ネクスト45まで向かうことにしますか。リナちゃんと沙那さんにも連絡、よろしく」
「それじゃあ、私が先輩に連絡しておきますね」
その場の空気に負けじと、新山さんも席についてアタフタとルーンブレスレットを操り始める。
それじゃあ俺も、二人に連絡をするとしますか。
しっかし、そこが本当にカナン魔導商会なのかなぁと、シークレットモードで画面を出す。
すると、画面の右下に、『経路図』なるボタンが増えているんだが。
これ、隠す気ないよなぁと思って、恐る恐るボタンを押すと。
──ピッ
『カナン魔導商会・ネクスト45店。営業時間……』
って、画面が出てくるんだが。
マジかよ、今朝の定期チェック時には無かったぞ、これ。
思わず机に俯してしまったわ。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




