第三百三十六話・五里霧中? 盆と正月とクリスマスが一緒に来たよう(方向性は、間違っていないはず)
『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週火曜日、金曜日を目安に頑張っています。
さて。
今日は土曜日、久しぶりに朝からティロ・フィナーレに来てまずは掃除から。
掃除機を使いたいから、昨日必死に作ったこの新兵器がついに火を吹く!!
まあ、簡単に説明すると、『電気を生み出す魔導具』ってやつ。
これがまた、面倒臭くてさ。
最初に完成したものは【直流】でね。
電化製品をを使うためには、これを【交流】にする必要があるため、一度【インバーター】を通して正常化させる必要があるんだよ。
このインバーターの仕組みを調べて、それ用の魔導具を作ったら、これまた家庭用のキャンプとかで使う発電機の大きさになって。
今はそれを使ってない部屋に置いて稼働させて、そこから延長コードを引っ張って掃除機を動かしています。
ついでに冷蔵庫とかもこれに繋いで稼働させたので、ライフラインは全て揃った。
これでのんびりと昼近くまで掃除をして……って、ベランダから子供が覗いているのだが、どこの子供だろうか?
『こらぁ!! 仕切りを越えたらダメって話しているでしょう!!』
『『はーい』』
隣からお母さんらしき声がして、子供たちが手を振って帰っていった。
あ、仕切りが壊れているのか。
いつの間に壊れたのかなぁと思って、ふとベランダに出ると。
ベランダの仕切り板の下の方が、ぽっかりと崩れて穴が空いている。
高さが六十センチぐらいだから、子供なら潜ってこれるよ。
「あれ、乙葉くん、そこに何かあるの?」
「いや、仕切り板に穴が空いているようでさ。後で直した方が良いよなぁと思ってね」
ちなみに掃除には、新山さんも来てくれた。
単純な話、たまにはうちに集まって、前のように魔法の話とかで盛り上がろうってこと。
あとから祐太郎と瀬川先輩も来るから、新山さんと二人だからじゃないんだけどね。
そこは残念だが……って、あれ?
「新山さん、まさか、また声に出ていた?」
「い、いや、そのね? 二人っきりじゃないんだ……って、残念そうなところから。でも、今は二人っきりだよね?」
顔を真っ赤にして、もじもじとしている新山さん。
ここはあれだろ、恋人にランクアップするタイミングだろ?
「そうだね。もう、こんな関係がずっと続いていたよね」
「うん」
「新山さんは人を助けるために頑張っていて、時間も取れなかったし」
「うん」
「でも、もうあんな戦争みたいなことは起こらないと思うから、これからは俺と一緒に……」
「うん……?」
あれ?
なんで最後のうん、は疑問符?
そして新山さんが真っ赤な顔を背けて、ベランダを指差した。
『チューするかな?』
『チューするよね?』
『そろそろ、して欲しい所ですわね』
『そうだな。もう恋人同士で良いんじゃないか?』
「……そこ!! そこの二人とお子様二人!!」
「うわぁぁぁぁ!」
子供たちと先輩と祐太郎が、ベランダで眺めていましたが、くっそ!
これから告白タイムだっていうのに、なんで邪魔してくれるかな。
──ツン
ふと、新山さんが、俺のシャツの裾を引っ張った。
「あの、これからも……よろしくお願いします」
「あ、おう、新山さんにちょっかい出すやつは、全員燃やすから」
「いや、燃やさないで、それでね……」
ゴクッ。
うん、告白タイムだっだよ。
キスはしないけど、付き合うのはアリだよね。
「俺と、付き合ってください!」
「はい」
ようやく新山さんが俺を見て、笑いながら泣いていた。
気がつくと、俺は新山さんを抱きしめていて。
『ねえ、こんどこそチューする?』
『しない?』
『さぁ?』
『まだだろうなぁ……』
「「そこの四人!!」」
思わず新山さんと一緒に突っ込んで、ようやく離れた。
でも、新山さんがめちゃくちゃ可愛く見えるんだわ、やばいわ、俺。
「さぁさぁ、子供たちにはあとでケーキを焼いてあげるから、お家に帰ってお母さんに許可をもらってきてね」
「「はーい!!」」
先輩が子供たちを家に帰している。
そして二人ともベランダから入ってくると、ようやく本題に入るようで。
「それで、今日の掃除と集まりは、俺たちがいたら邪魔か?」
「掃除だけしておけばよろしいかしら?」
「せ、先輩!!」
「冗談よ。さぁ、早く掃除をしてケーキでも焼きましょうね」
「それじゃあ、俺と祐太郎はゲームでも……」
そう思って居間に向かおうとしたら、先輩が俺にメモを渡してくる。
「ケーキの材料、買ってきてくれるかしら?」
「はぁ、これならウォルトコで揃うから、すぐに買えるけど?」
「できれば、このメーカーのが欲しいのですよ。築地くんのカナン魔導商会で確認したら、この材料って国産で扱っていないようなの」
「なるほど、そんじゃ、ひとっ飛び行ってきますか。祐太郎はどうする?」
そう問いかけたら、すでに掃除用のほっかむりをして掃除機を持って準備していた。
「まあ、こうなったが?」
「そうなるよな。それじゃあ、頑張って」
そう説明してから、俺は魔法の箒を取り出して大空へレッツゴー!
………
……
…
レッツゴーしたのは良いんだけど、妖魔特区内にはまともに稼働しているショッピングセンターは存在せず。
ほとんどの建物が風化して、影も形もなく、いや瓦礫の山はあるか。
とにかくね、ライフラインをどうにかしないことには、この妖魔特区の中での生活なんて不可能。道庁と市庁舎、警察本部、そしてティロ・フィナーレの為にもライフラインを復活させる必要はあるんだよなぁ。
「それと、結界外と内側を縦断するトンネルか……」
これが成功すると、地下鉄も復活する。
以前、俺と悠太郎とで調査した地下鉄駅構内についても、かなりの修繕は必要だと思うけど、使えないことはないと思う。
「しかし、そう考えると素材から考えないとならないよなぁ。カナン魔導商会から購入できるのは魔導具の素材で、コンクリートやら鉄筋やらは魔法じゃ作られなフベシッ!!」
──ドゴォォォッ
いかん、結界にぶつかった。
考え事をしながらの飛行は危険だわ、これ、外でやらかしたら反則金取られるわ。
「いてててて……と、しゃーない、集中するか」
魔法の箒片手にゲートを潜って外へ。
そこからは交通法規を守って安全運転、少し離れた大型スーパー『AEON』へレッツゴー。
のんびりと飛んでいると、やっぱり目立つもので。
駐車場に到着して、そのまま魔法の箒は空間収納へ保管。
いざ、買い物と思ったら。
「あの、現代の魔術師さんですよね?」
家族連れが声を掛けてくる。
まあ、あえて違うという必要もないので。
「そうですけど、なにか?」
「実は、うちの子供たちが、空飛ぶ箒が欲しいといいまして。あれは免許がないと食べないのは理解しているのですけど、子供用の玩具としての販売とかはないのでしょうか?」
あ、やっぱり来たか、この質問。
「基本的には、俺が作る魔導具って認可を出すのは政府なんですよね。なので俺が子供用の魔法の箒を開発したとしても、国が認めるかどうかは別問題でして。一番早いのは、お父さんが『魔導具取り扱い』の免許を取って、正式な手続きで購入することで子供達を乗せて飛ぶことはできますけど?」
これは、こういう質問が来た時用に用意してあった返答。
俺や悠太郎たちがよくボランティアでいく近所の幼稚園でも、お母さんたちに聞かれたことがあるからさ。
「そうか、やはり俺が免許を取るしかないのか……でもなぁ」
「お父さん!!」
あ、子供たちがキラキラした目でお父さんを見ている。
これは、その期待に応えるしかないよなぁ。
「よーし、お父さん、頑張るか!」
「はい、では頑張ってください」
「いえ、不躾な質問で申し訳ありません。どうもありがとうございました」
半ば諦めていたのか、子供たちも嬉しそうである。
なお、一般販売用の魔法の箒も、作れるのは俺だけで。
現在は免許を取る為に教習所というか、免許センターで適性ありの人だけが頑張って訓練しているらしく。
え、そんなに適性のある人がいるのかって?
元陰陽府やら、魔族議員が通っているらしいからさ。
お前らは、自前でなんとかしろよ!!
と心の中で叫びつつ。
買い物を終えていざ、妖魔特区へ。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
ティロフィナーレで掃除をしていた俺たち三人は、ふと、ベランダの方から何かを感じとっていた。
「はぁ。魔族か? それともいつものあれか? トイレの妖魔か?」
「今日は、それらしい反応はありませんけど? あれって結界中和能力を持っているのですよね?」
「それらしい能力持ちだそうだが……なんだありゃ?」
ベランダから見えたのは、白旗。
ちょうど隣との仕切り板の辺り、下からニョキッと伸びてきて上下している。
「うん、お隣さんが降伏宣言しているようだが、意味がわかるか?」
「さぁ? 乙葉くんならわかると思うけどさ」
「それじゃあ、家主がいないから代理で新山さんが聞いてきてくれ」
「え、どうして私か?」
「頼むわ、乙葉夫人」
そう話したら、顔を真っ赤にしていそいそとベランダに向かったんだが。
はあ、初々しいことで、羨ましいわ。
「あまり小春さんを揶揄わないでね。まだ、恋に恋しているレベルなのだからね」
「分かってますよ。だから、今のこの時間を楽しんで貰おうって、幼馴染への応援みたいなものですから」
「そうなの。やっぱり、かなり悪いのかしら?」
この先輩の質問は、俺の事だろう。
まあ、まだ十全ではないにせよ、闘気は普通に練り上げられる。
やっぱり伯狼雹鬼の放った魔障中毒はきついらしく、暗黒闘気に変換する事でかろうじて中和を続けていられる。
使徒が溢れる前までは治っていたんだが、対使徒戦で暗黒闘気を使いすぎてしまい、また体内バランスが崩れ始めていた。
「う〜む。いや、こうして適度に暗黒闘気を放っていたら、体内には蓄積されないからなぁ。でも、使い過ぎると抑えが効かなくなるから、難しい所なんだが」
「本当に厄介よね……って、お客さまのようですわね」
ふとベランダを見ると、お隣さんらしい女性とその子供たちを連れて、新山さんが居間に戻ってきた。
「乙葉くんに許可を貰って、お隣さんを招待しました」
右手のブレスレットをトントンと叩く仕草をしているとこらから、念話で話をつけたのだろう。
「ま、それなら良いんじゃね? 初めまして。ここの家主の友人の築地祐太郎です。まだ家主は戻って来ていませんので、それまでごゆっくりと」
「はい、どうも丁寧に。それよりも、うちの子供たちが、たまにこちらのベランダまで侵入しているようなので、お詫びをと思いまして」
恐縮そうに頭を下げるお隣の奥さん。
その件については、のちほどオトヤンが戻ってからにしたほうが良いと思い、とりあえずはのんびりとくつろいでもらった。
「でも、このうちには電気も水も通っているのですね? どうしてかしら?」
「それは、上下水道もトイレも魔導具で補っているからですわね。こちらをどうぞ」
先輩が気を利かせて、飲み物と菓子を出してきたんだが……って、焼きたてのクッキーとはまた。
「ガスも? あの、それって全て魔法で?」
「ええ。乙葉くんが作ってくれた魔導具のおかげですね。流石に電気だけは、別の魔導具から延長コードを引っ張る必要があるみたいですけど」
これは、俺も知らない魔導具らしく。
ついにオトヤンは、魔導発電機のようなものまで完成させている。
今は延長コードを接続して使用しているらしいが。
「そうなの。はぁ、魔法使いが羨ましいわ。うちも定期的に掃除に来ているのですけど、どうしても水を持ってくるのが大変で」
「水なら、うちから持っていって構いませんよ」
──ヒュンッ
ベランダにオトヤンが到着。
どうやら最後の話は聞こえていたようで、笑いながら返事をしてくれた。
「あと。掃除ならうちから延長コードを伸ばせばいいと思いますし……って、まてよ? 電気以外なら、魔導具を渡せば良いのか?」
「いえ、そんなところまでお世話になるわけには。それよりも、うちの子供たちがベランダに出入りしてしまって、申し訳ありません」
「それはまあ、謝罪されたからおしまいという事で。でも、どうして壊れたんだろう?」
そうオトヤンが考えていると、子供たちが笑いながら。
「長ネギが穴を開けていたよ」
「そう、長ネギが!!」
「また、この子たちはおかしなことを……」
そう子供たちを嗜めるお母さんだが、その長ネギについては、俺たちも該当する存在を思い出した。
「「「「長ネギかぁ〜」」」」
「え、なに、なにか心当たりが?」
「まあまあ、それよりもお宅にも魔導具をつけておきますか。外に持ち出しできないようにロックしておきますけど、それでよければすぐにでもトイレとかも使えるようになりますから」
とまあ、いつものオトヤンのようで。
近所付き合いってことで魔導具を設置しに向かったけど、多分、データが欲しいから向かったんだろうなぁ。
乙葉印の魔導具、本当に魔導工学を突き進めるのか。
頑張れよ、親友!!
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。
お久しぶりの、お隣さん!!




