第三百三十四話・勇往邁進? 隔靴掻痒とも。(三年なので進学も考える。でも魔法は便利?)
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新学期も始まり。
新一年生はオリエンテーションも終わって、本格的に授業が始まる。
俺たち三年生は受験勉強の準備があったり、それこそ就職組はそのための勉強に必死になったりと、とにかく三年の入っている三階校舎はピリピリとした緊張感に包まれているんだが。
「……なぁ、乙葉。お前は進学か?」
朝一番、織田とそのトリマキーズがやってくる。
うちのクラスは受験対策完璧な特進組じゃなく、進学と就職が入り混じった普通科。だから、特進組ほどピリピリした空気はない。
むしろ、専門学校に進学するものや家業を継ぐものなども多いので、のんびりとしたものであるんだが。
「ん〜、どうするか考えている最中だが?」
「「「「はぁ?」」」」
織田たちの驚くのは無理もない。
三年の一学期、進学するにせよ就職するにせよ、何かしらの方針は決まっていておかしくはないんだが。
「築地、お前はどうするんだ?」
「俺か? 俺は北大に進学だが?」
あっさりと一言でおしまい。
うん、魔術科のある北海学園ではなく、先輩のいる北海道大学に進学することにしたらしく。
なお、俺たちには裏技があってね。俺や新山さん、祐太郎、織田は『国家認定魔術師資格』を所有しているため、進学先の学校で【魔術講師】を行うことが前提条件ではあるが、目的の学校へ推薦入学枠で進学することができる。
これは俺も最近までは知らなくてさ。
文科省と防衛省管区での決定事項であったらしく、来年度入学枠から適応されるらしい。
「あ、あれ? それじゃあ乙葉も北大か?」
「う〜ん。そこなんだよなぁ。祐太郎の場合は、親父さんの警護という仕事もあるし、そういう意味合いから北大進学になったんだよな」
「まあ、な。SSPになるための条件だから」
本来のSPなら、所属は警視庁警備部。
だが、祐太郎の目標は内閣府対魔族機関所属SPで、通称は第四課。
忍冬師範とは同じ組織の別部署で、こっちは警察ではなく内閣府のため、大卒であることが基本。
さらに体術系の段位習得とか、細かいルールがあるらしいんだけどさ。
忍冬師範を通じて、内閣府に問い合わせた結果。
『まあ、大学を出たら採用するから』
の一言でクリア。
これも国家登録魔術師資格を持っているからで、恐ろしいほどにそっち方面には免罪符のような効力を発揮してくれる。
「それじゃあ、築地は公務員か……」
「そういうことになるな。まあ、だからと言って何か変わるかというと、ほとんど変わらんがな」
「まだ5年もあるし」
「へぇ。それじゃあ、新山さんは乙葉と一緒の学校に進学?」
「それが、困っているんです」
ため息をつく新山さん。
実は、彼女も進学で悩んでいる。
そもそも、新山さんは不治の病で高校を卒業することはできないと言われていたから。
それが未来が開けただけでなく、その未来が飛んでもなく斜め上の治癒魔法使いになったものだが、どう舵を取り直していいかいまだに困っているらしい。
「神聖魔法で大勢の人を癒してあげたい、これは変わらないのです。でも、第六課とかの組織に編入されるとなりますと、身動きが取りにくくなりますから」
「あと、【魔術行使による医療行為の制限】にも抵触しそうでね。その辺りをクリアするための方法を探している最中なんだと」
何でもかんでも、魔法で癒やしてはいけない。
新山さんの神聖魔法による治癒行為は、常に法律ギリギリだったらしく。
今でも国会や専門委員会では、魔術による医療行為についての論議が繰り返されている。
【医師法第17条により、医療行為は医師の業務独占と明記されている】
【保健師、助産師、看護師又は准看護師は医師の指示により『診療の補助』として行うことができる】
この二つが、魔法による医療行為を阻害している。
対妖魔特措法により、『妖魔及びそれに準ずるものによる怪我を受けたものに対しての治療行為は、医師法第17条違反に抵触しない』という決まりがあるんだけど。
これまでに何度も魔族の攻撃を受けて新山さんは魔術による治療を続けてきた。そして最近の使徒の侵攻でも大勢の人を癒してきた。
それが有名になってしまい、重篤な患者の治療もお願いされるようになってしまって。
いまはその窓口が第六課になっているので、そこでストップしているし、校内での治療行為も【魔術行使の宣言】と【国家認定魔術師証】の提示を伴うことで認められている。
でも、高校卒業後はどうなるか分からない。
「医師免許を取ることで、私の疑問は解消できるのですけど。今から詰め込み勉強をしても、医大なんて合格するはずもないです。看護師資格も考えましたし……でも、それでも魔術行使については制限が伴ってしまって」
「という事。そもそも、まともに高校生活が送れていない俺たちに、いきなり進学の話を持ってこられても分からんわ。俺はいっそ、フリーランスの魔術師にでもなろうかって考えているぐらいだからさ」
「「「「「「「えええええ!!」」」」」」
その場の全員が驚く。
いや、そうなんだよ、これについては祐太郎や新山さんにも初めて話したからさ。
「ちょ、ちょっと待てオトヤン! フリーランスってどういう事だ?」
「私も初めて聞きましたよ!!」
「まあ、そうだよな。どこの組織に入ってもうまく使われるだけにも感じるし。かといって、日本政府所属っていうのも何か嫌だ。政権が変わるたびに処遇が変わるような場所にいるつもりもない」
淡々と説明する。
いや、俺だって明確なビジョンがある訳じゃなくてね。
魔術師による事務者のようなものを作って、そこで依頼を受けて活動するのはアリかなぁって考えてさ。
まあ、フリーランスっていうと格好いいけど、ようは自営業。
そんな知識も何もないから、おそらくは大学に進学してから、色々と考えると思うけどさ。
「……っていう事。だから、フリーランスになるにも知識は必要、そのためにも大学には行こうかと考えてはいる」
「へぇ、北海学園か?」
「まあ、そうなるよな。幸いなことに推薦枠での入学は可能だし」
「実績アリだからなぁ」
「そ、それなら、私は……」
何かを告げようとして、新山さんが思いとどまる。
うん、一時の感情で将来を決めたらいけない。
まあ、俺としては新山さんと一緒の大学に行って、失った楽しい高校生活を大学で取り戻したい気もするし。
そうしたらほら、晴れて新山さんの彼氏として堂々と宣言できるよな……って、新山さん、なんで真っ赤な顔になっている?
「オトヤン、全部声に出ているんだが?」
「嘘だろ!! どこからだよ!!」
「「「「新山さんと一緒の大学……からだ!! 爆ぜろ!!」」」」
はぅあ、またやっちまったか。
恐る恐る、新山さんをチラリと見ると。
「あ、あのね。乙葉くん……一緒の大学に、いこう?」
「はい!!」
──パチパチパチパチ!!
あっさりと決まってしまったが。
なんでクラス中から拍手が来るんだよ!!
燃やすぞ、お前ら。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
──数日後、札幌市・妖魔特区内・札幌テレビ城
すでに観光地にもなりつつある、妖魔特区。
結界内部は未だに自然豊かな森に覆われ、人が居住できる場所は数カ所しか存在しない。
北海道庁、札幌市庁舎、北海道警察本部などは結界外部に移設されたものの、建物自体は対妖魔結界により隔絶してあるため、他の建物のような風化は進んでいない。
「結界によるトンネルの接続?」
札幌テレビ城下の広場で、俺は白桃姫、忍冬師範、そして札幌市長と北海道知事との会談を行なっている。
なんでこんなところって聞きたいところだけど、本来の目的は北海道知事と市長の結界内視察が本来の目的で、俺は第六課のアルバイトで警備を担当しているだけ。
それなのに、いきなりの話に驚いてしまったんだが。
「ええ。乙葉くんの対妖魔結界で、この妖魔特区内部にトンネルを作れませんか? あの12丁目聖域を小型化したような感じで。それで結界内部を貫通させることで、市庁舎、北海道庁、警察本部と結界外を直接繋ぎ、本来の機能のいくつかを取り戻したいのです」
「北海道の事業の一つとして、是非とも検討していただきたい。君も札幌市民なら、この現状が正常でないことぐらいは理解しているだろう?」
北海道知事の土方裕三と札幌市長の佐竹信吉の二人が、威厳たっぷりに説明してくれる。
それは構わないんだが、まず先に、俺にできるかどうかを確認してからの話であって、そこからの計画じゃないのかと佐竹市長には問い返したくなる。
土方知事は尋ねてくれたよ、作れませんかって。
でも、この、市長の上から目線的な物言い。
わかったならやり給え、そんな感じだよね。
思わず、来年は市長選挙だから、手柄が欲しいんだろうなぁと悪いことを考えてしまったよ。
「まあ、予算によりますが? 俺が作る結界発生装置のレンタル料、ご存知ですよね? 今でも北海道庁と札幌市庁舎、警察本部、あとは大通り12丁目セーフティエリアは、俺の作った結界発生装置で平穏を保てる状態ですよね? さらに作るとなりますと……」
まあ、今の予算の倍になるよなぁ。
北海道庁と警察本部は隣接した区画だからまあ、発生装置を二つ追加するだけ。そこから結界の外に真っ直ぐ繋ぐとなると、北2条通りを一キロほど、結界で包まないとならない。
こんなこともあろうかと、地図帳を開いて指差し確認。
そして結界発生装置の効果範囲と距離を説明すると、市長の顔が険悪になってくる。
「……とまあ、年間で億単位の予算になりますが? それと、作れるかどうかについては、今は材料がないので……」
──ピッ
カナン魔導商会を確認して、魔晶石やミスリル鉱の在庫を確認。
うん、足りない。
魔晶石は在庫がないし、ミスリルは少ししか…。あれ?
『ミスリル鉱……入荷待ち』
いきなり目の前で、在庫数の表示が入荷待ちに切り替わったのですが。
これは参った、いくら俺でも材料がないと無理だわ。
「できるのか? できないのか?」
「まあ、今すぐにはできませんね。それと今回のような話だと、契約書とか納期とか面倒な話になりそうなので、一旦、白紙にしてください。流石に材料を作り出す魔力が足りないので」
という事にしておこう。
そうでないと、いくらでも無理難題を言ってきそうだからさ、この市長は。
「そ、そんなことを言って逃げるのか?」
「佐竹市長、少し黙っていてください……いや、今回は無理を言ってすまなかった。こちらとしてはある程度の譲渡案を用意してくるので、そちらも結界発生装置のレンタルその他についても、前向きに検討してもらえると助かります」
「ですが知事。ここはしっかりと確約を貰ってですね」
「だから、できないものはできないって話してますよね?」
知事にはニッコリと笑顔を返し、市長には毅然たる態度で言い返す。
「君は魔法使いだろう? それに錬金術も使えるそうじゃないか? 材料ぐらい魔法で用意できないのか?」
「俺が錬金術師だって、よくご存知で。でも、できることもできないこともありますよ? ちなみに、本気で錬金術を使っていいのなら、金銀プラチナの相場をひっくり返すこともできますし、ダイヤモンドの価値をルビー以下に下げることだってできますよ? その程度なら、簡単に作れますから……でも、魔導素材は作れませんので」
ニィッと笑って説明すると、佐竹市長は真っ赤な顔で頭を下げて、その場から立ち去る。大人の対応としてどうよと思ったが、土方知事が頭を下げる。
「全く。次期市長選の前情報が芳しくないからと、ここで君にあたる必要もあるまいし……まあ、良い返事がもらえることを、こちらも期待しています。そちらの魔導具開発の事情もあるでしょうし、慎重にご検討頂けると助かります」
「ありがとうございます。まあ、のんびりとお待ちください」
軽く握手をして話を終え。
知事たちはこの場を立ち去った。
「ふぅむ。あの市長とやら、下級妖魔に取り憑かれておるぞ? 餓鬼と呼ばれる下級魔族の一種で、魔獣に近いやつじゃな」
「……はぁ?」
同席していた白桃姫が、ここで爆弾宣言。
「餓鬼って、あの仏教の?」
「仏教など知らん。餓鬼は餓鬼、あやつについているのはおそらく敬権餓鬼という輩で、権力者に取り憑きやすいやつじゃ……」
「うわぁ、憑依ってことは、これ?」
取り出しましたるミスリルハリセン。
大抵の霧散化して取り憑いている妖魔は、一撃で叩き出せる。
でも、白桃姫は頭を左右に振る。
「いや、あれは盟約の石板を使って、餓鬼の力すら取り込んでいる。まあ、石板を破壊せぬと、あれは引き剥がすことができぬぞよ」
「そうなると除霊……か。そういう魔法もあるんだよな?」
「いかにも。じゃが、その選挙とやらで大敗したら、あっさりと除霊されるぞ。そこで奴の目的は逸するからな」
「そりゃまあ、一年計画みたいなものか……ほれ」
右手で神威玉を作り出し、白桃姫に手渡す。
それを腰の水筒のような入れ物に収めながら、白桃姫は笑っていた。
「でも、魔導具開発か……確かに、それを仕事にしたら面白そうではあるか……魔導工学、俺が研究して広めるっていうのもアリだよな」
まだまだ、俺の未来の進路は決まらない。
まだ若いから、時間があるからのんびりと考える事にしようか。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




