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【書籍化】ネット通販から始まる、現代の魔術師  作者: 呑兵衛和尚
第五部・世界とんでも動乱編
332/586

第三百三十二話・永遠無窮! 笑う門には福来る(鬼の居ぬ間に顛末、そして)

『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週火曜日、金曜日を目安に頑張っています。

 永宝山地下大空洞で、私たちは乙葉くんがオールディニックを封印するのを、じっと見ていました。


 今までに消耗した魔力は全て、この龍穴から噴き出している魔力で回復はしましたが、気力は別。

 怪我程度はいくらでも魔法で回復できますけど、流石に精神的な疲労については自然回復を待つしかありません。

 それに、胡座をかいてじっと深淵の書庫アーカイブのモニターを見ている築地くんの消耗も激しいです。


「築地くん、今、回復しますからまっててください」

「あ、いや、それは大丈夫。っていうか……今の俺、魔法の回復は受け付けない体なんだわ」


 申し訳なさそうに呟く築地くん。

 一体、何がどうなったのかと思ったのですが、どうやらムー大陸へ至る道の解放、その際の使徒たちとの戦闘で、身体の中を暗黒闘気が汚染しているそうです。

 しかも、体内の経絡まで浸透してしまったらしく、普通に闘気を使うのも難しくなっているそうで。


「……まあ、白桃姫に聞いたが、俺の体からは暗黒闘気を剥がすことは出来ないらしいが、闘気技の自己回復をゆっくりと続けていれば、そのうち回復するらしい。それに、闘気ではなく暗黒闘気なら使えるらしいから……」


 右手を差し出し、そこに黒い炎を生み出す築地くん。

 慌てて鑑定アプレイズしてみましたが、やはり体内の経絡はボロボロのようです。


『……闘気経絡損傷度78%。暗黒闘気経絡への転換率12%……』


 ええ、身体の中から作り替えられているようで、少し怖い感じもしますが。

 それでも、ニィッと笑って心配を掛けないようにしているのは、さすがだと思います。


「それよりも、オトヤンを見ていた方がいい……」


 築地くんが真剣な目でつぶやきます。

 その視線の先、モニターに写っているのはウルルを正面から見据えている乙葉くんでした。

 

「こ、これ、どうやって映しているのです? ウルルの近くって監視カメラとかありませんよね?」

「あるわよ? 環境保護団体が設置したもので、深夜とかにウルルに無断で登るような人たちを見張るものが。それに、上空からも見ている目がありますから」


 衛星軌道上に存在する監視衛星。

 そこからの視点を魔法で屈折しているとかで、普段の深淵の書庫アーカイブでは絶対に不可能な技術だそうです。

 それもこれも、この目の前の龍穴から溢れる魔力があってこそだとか。


 そして、その時が来ました。

 乙葉くんが杖を片手に詠唱を開始。

 するとウルル全体が輝き、その真下に巨大な魔法陣が浮かび上がります。

 そこから溢れる光が、ウルルの中に眠る巨大な悪魔を照らしました。


「これが……オールディニック」


 全身を鎖に繋がれ、大地に固定されている悪魔。

 さらに魔法陣から幾条もの鎖が放たれ、悪魔の体を締め付けると。

 ゆっくりと魔法陣が悪魔を飲み込み始めました。


「す、凄ぇ……これがオトヤンの本気かよ……」

「……今の乙葉くん、少し、怖い……」


 そう、それが私の感想。

 でも、怖いというよりも、厳しさを感じます。

 全力で、自分以外の何かを守るために戦う。

 確か、乙葉君は『手の届く範囲の全てを、守ってやる』みたいな事を話していたような気がします。

 でも、これって。

 彼の手の届く範囲は、この星の全ての人々なんだなぁって、改めて実感しました。


 そして、オールディニックの封印が終わり。

 ウルルが消滅しました。


「……やった、やらかした!!」

「え、あ、嘘、深淵の書庫アーカイブ、いまこの瞬間の映像全てを、全世界のカメラおよび衛星からサーチ。その全てを消去して!! これより、全ての監視映像から乙葉君の痕跡を消去します!! 我が魔力と龍脈よ、私に力を貸してください!!


──キュィィィィィィン

 空洞内部のモニターが真っ赤に輝き、世界各地の映像が浮かび上がります。

 あの光景を直接見ていた人たちの記憶までは不可能でも、記録として残らなければ問題はないです!!

 そして、先輩の悲鳴のような声と同時に、乙葉くんと白桃姫さんも帰還しました。


「ま、また無茶したのね」


 慌てて駆けつけて、床に転がっている乙葉くんに話しかけました。

 でも、乙葉くんはニィッと笑って、そのまま寝息を立て始めます。


「小春や。あの場で、こやつが無茶をしなかったら世界は消えていたやもしれない。最後の最後に、やつは駆け引きをしようとして、それで失敗したからな……もしもあの場で、こやつ以外のものが封印処理に向かっていたとしたら、そして、封印ではなく絶滅を選んでいたなら……世界は消えていたかもな」


 そんなことがあったなんて。

 モニター越しにはわからない、あの場での駆け引き。

 それが本当なら、誰も乙葉くんを責められない。


「さて、雅や。こちらの作業は終わりかや?」

「ええ。私と乙葉くんがここにいられる時間には、限りがありますので。それが御神楽さまの言葉ですので」

「そうじゃな。では、妾たちを先に、札幌まで転送してくれるかや?」

「そのつもりです。深淵の書庫アーカイブの中ならまだしも、高濃度魔力、それも人の魂の宿る霊力も流れている場所なのですから、人体にどれだけの影響が出るかわかりませんからね」


 白桃姫さんと先輩の話が終わり、私たちは先に札幌に戻ることになりました。

 

「まあ、名残惜しいが、ここは撤退だな」


 築地くんが乙葉くんを持ち上げ、背中に背負います。

 私も白桃姫さんも近くに寄ると、足元に魔法陣が広がりました。


「では、札幌まで転送します……」


 やがて魔法陣が光り輝くと、私たちは札幌テレビ城の真下にいました。

 そのあとは解散、乙葉君は築地くんが送り届けてくれることになったので、私も久しぶりに自宅に戻ることにしました。

 ゆっくりと体を休め、再び学校に通い始め。


 それから一週間後には、瀬川先輩も札幌に帰還。

 乙葉くんは事態の説明のために第六課と国会、そして国連まで再び出向しなくてはならないそうで、帰ってきた翌日には、もう札幌をあとにしていました。


 原初の悪魔・オールディニック。

 その使徒の氾濫。

 この一連の騒動がようやく落ち着きを取り戻して少ししてから。


 私たちは、三年生に進級しました。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



──北広島西高等学校・魔術研究部

「ぬぁぁぁぉぉぁぉ!! 春休みを返せぇえぇぇ」


 あのオールディニックの封印以後、俺は第六課で忍冬師範に一連の報告を行ったんだけどさ。

 そこから国会レベルの報告が必要だっていうことで、対使徒対策委員会に招致されて説明。

 そこから話が大きくなって、国連の対策委員会及び対異種族安全保障理事会っていう会議にも出席。

 まあ、公欠扱いなので旅行も兼ねての報告会だと思っていたら、春休みを全て潰されましたが?

 挙句に世界各国の対妖魔機関からも、講演会やら講習やらなんやらのお誘いもありましたが?

 気がつくとバレンタインデーもホワイトデーも終わってましたが?

 それどころか進級して新学期でしたが?

 気がつくと魔術師になって3年目に突入しましたが?

 明るく楽しい高校生活ってなんですか? それ、美味しいの?


「まあまあ、先輩。世界を救ったのですから、それで十分じゃないですか?」

「リナちゃんは、まだ暴れ足りないです!!」


 沙那さんリナちゃんがそう励まし慰めてくれるけど。

 暴れたりない?

 

「ちなみにリナさんや?」

「リナちゃん、です」

「俺たちが留守の間、どれだけの使徒を倒したの?」


 試しに聞いてみると、リナちゃんは右手人差し指を立てて、チッチッチッと左右に振り始めた。


「乙葉先輩は、今まで生きていて、どれだけの数のフカヒレまんを食べたか覚えていますか?」

「食ったことねーし。そもそも、そんなコアな数の数え方を出してくるなや!」

「あっれ?」


 腕を組んで考え始めるけど、本当にこの子は、頭のネジが緩い時と閉まっている時のギャップが大きすぎるわ。

 

「私とリナちゃんの使徒撃墜数は46です。あと、第六課でアルバイトしている織田先輩が8ですね」

「……へ? 織田? なんで?」


 ちょい待て、織田のやつ、どうやって使徒を倒したんだよ?

 あれって神威を伴った魔法、もしくは神器クラスの武器が必要で、織田が持っているとは思えないんだよ?

 俺と同じ後天性魔術師なんだから……。


「お父さんが、試作型退魔法具のテストプレイヤーとして織田先輩を雇いまして。そのあとで、使徒迎撃要員として、『国家公認魔術師』資格を持つ織田先輩が招集されたとか?」

「そそ。有馬とーちゃん謹製、青生生魂(アボイタカラ)の劔!!」

「……あ〜。有馬さん、オカルトに手を出したかぁ」

「それをいうなら、私たちの存在自体がオカルトですよ。それはそうと、新山先輩と築地先輩はどちらで?」


 沙那さんの問いかけに、俺は親指を隣の部屋に向けてグイッと動かす。


「新入部員選抜試験の監督。去年よりも、さらに倍の人数が来ているからさ。要先生も一緒に監督しているよ」

「監督? 試験?」

「私たちの時のように、魔力感知球で潜在魔力を測るのではなく?」


 そう。

 リナちゃんや沙那さんの時は、魔力感知球で潜在魔力を計測したけどさ。

 今年は日本政府からのお達しがあって、筆記試験も組み込んでほしいって言われたんだよ。

 あの燐訪議員から。

 魔術師が増えるのは構わないが、それを犯罪行為に使われるのは得策ではなく、それらを取り締まるための法整備急ぎ行わないとならないとかで。

 それって、対妖魔特措法とかでクリアしたんじゃないかって思ったんだけど、『人間の魔術師による、魔術を行使した犯罪』については曖昧な点があるらしくてね。

 今の国会で、それを、審議するんだとさ。


「……っていうこと。まあ、問題を作ったのは第六課と、旧陰陽府の呪符師らしいからさ。この問題用紙自体が鑑定系の呪符でね、魔力に反応して、あとから数値化して浮かび上がるんだわ」


 ヒラヒラと予備の問題用紙を取り出して見せる。

 すると二人も興味津々なのか、やってみたいと言い出したので。

 そのまま二人にも問題と答案用紙を渡す。


「あの、築地先輩と小春先輩が監督で、乙葉先輩はここで何を?」


 うん、いい質問だよ沙那さん。


「俺か? 俺はこれ」

 右手を前に出すと、そこに魔力を集めて『目玉』を作り出す。

 これは鏡刻界ミラーワーズの魔法の一つで、『魔法の目ウィザードアイ』といい、これで俺は祐太郎と新山さんの目の届かない角度からの監視をしている。


「これで監視して、カンニングがあったら念話で報告、そのまま退場。まあ、こんなところで小賢しい真似をする奴らはいらないし」


 そう話している最中にも、一人発見。

 メガネの蔓にスピーカーを内蔵し、メガネにも隠しカメラが付いている。

 こんな商品は見たことがないから、よくもまあ、こんなものを作ったと感心するわ。


「チェック……16番の生徒はカンニング中。失格だから叩き出して」

『了解。という事なので、君は失格な』


 祐太郎が試験を受けていた生徒を部屋の外に連行。

 まあ、今ので教室内も緊張した事だし、これで安心して監視を続けられるよ。

 

 ふう。

 ようやく戻ってきた日常、楽しくいかないとね。


いつもお読み頂き、ありがとうございます。

誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。


これで第五章は完結。

閑話を挟まずに、第六章に突入します。

これまでとは違い、長閑な学生生活を堪能しようとするオトヤンたちをお楽しみに。

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