第三百二十一話・画竜点睛、有為転変は世の習い(世界の危機と時間勝負)
『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週火曜日、金曜日を目安に頑張っています。
瀬川先輩の持ち出した大規模作戦。
その翌日からは、新山さんと祐太郎、白桃姫は太平洋上にある水晶柱の封印を解除する作戦を再開。
ロック解除後の水晶柱を安定させるために、白桃姫は時間経過による定着ではなく、余剰魔力を注ぎ込んで空間ごと固定すると言う半ば強引な手を使い始めた。
これは奥の手だったらしく、白桃姫自身の魔力が大幅に削られるらしいのだが、直ぐ近くに祐太郎と新山さんがいるおかげで、すぐに魔力回復は行えたらしい。
だがその間にも、世界は使徒の脅威に晒され、人々は早く平穏な時代が来るようにと神に祈りを捧げている。
さまざまな国が使徒と対抗すべく立ち上がったものの、絶対悪である使徒相手には魔法では対処が効かない。
唯一効果があるのは、神の加護。
それゆえに、各国の宗教関係の施設などには、情報をもとに大勢の人たちが逃げ延びてきているらしい。
それでも大半の、いやほとんどの聖職者と呼ばれる人々は、神の加護など起こせるはずもない。
………
……
…
──東京都内・某宗教法人
「みよ、我が神のご意向を!! 件の使徒とやらは、我が教団施設には近寄ることもない!! これぞまさに、我が神が本物であり、我らが神の加護を受けたと言う真実に他ならない!!」
とある新興宗教施設には、大勢の信徒たちが逃げてきている。
だが、不思議なことに、この施設には使徒は攻撃を行わない。
教祖曰く、『これぞまさに神のご意向。我が神は使徒などと言う穢れたものに襲われることはない』と宣言するものの……それを信じるものは信徒のみ、外での噂は散々なものである。
例えば、とあるインターネットの掲示板では。
──某・インターネット掲示板
【終末世界を語るスレ・その1252】
7 ななし
使徒に見放された宗教について
8 ななし
>>7
東京のアレだろ、我らは神の信徒ゆえ、使徒が襲ってこないって言う奴。
10 ななし
>>8
それそれ。
公式サイトでも宣言していたよね、近くの神社は使徒に襲われたのに、我々は襲われていないって言う奴。
実は本物の新興宗教のようだな。
15 ななし
>>10
違うわ、あそこは襲う価値もない偽物ってことだろ、国連の演説見たのかよ。
18 ななし
あれだろ、現代の魔術師が叫んでいた奴。
使徒は神の力によって滅ぶってやつ。
だから、あの宗教法人は襲われなかったんだろ?
25 ななし
>> 18
ちがうよヴァーカ。
使徒が襲うのは魔力が高い人間だから、神社の神主やお坊さんは危険だって話していたろ?
つまり、あの宗教法人は狙う価値もないってことだろ。
32 ななし
襲われた神社が本物ってことか。でもよ、神社とかは結界を張っているんじゃないのか?
妖魔特区みたいによ
35 ななし
結界を張れるだけの力を持つ坊さんとか、漫画の世界だわ!!
42 情報屋0930
( ´ ▽ ` )つスッ https://***/horyu02.jpg
45 ななし
はぁ?
47 ななし
はぁ?
56 ななし
はぁ?
57 ななし
はぁ?
58 情報屋0930
これは法隆寺の現在の状況だとよ。
拡大するとわかるが、坊さんたちが中で祈祷中で、法隆寺の外には使徒が溢れてきているってよ。
75 ななし
>>58
情報thx。
これで確定、新興宗教はニセモノ
それよりも坊さん逃げてェェェェェ!!
83 情報屋0023
呪符師がキタ!!
♪───O(≧∇≦)O────♪
84 ななし
悪霊、退散!!
悪霊、退散!!
85 ななし
怨霊もののけ困った時は!!
86
待て、それ以上はまずい、このスレが落ちる!!
88 ななし
レッツゴー!!
………
……
…
──法隆寺・外殻結界
日本最大の術師集団でもある法隆寺。
かつては陰陽府に所属していた陰陽師や呪符師が、今もなお多数存在している。
現代の魔術師のように術式を組み上げ、攻撃などを行うことなどはできないものの、退魔法具を駆使してもののけや妖、魑魅魍魎を祓うことについては国内はおろか世界的にもトップクラスの実力を秘めている。
乙葉浩介は知らないが彼らの基礎魔力量は平均60、実は、第六課の平均値よりも高い。
現在、法隆寺は奈良県内の使徒を全て集めるべく、護摩行を行っている。
正確には、日本各地の寺社が使徒を集め、神社仏閣の周りに引き寄せている最中。
そこから先は、国内のフリーランスである術師集団が退魔法具により使徒を殲滅するために集まり、使徒と戦闘を繰り広げているのだが。
如何ぜん、使徒を倒すためには神の力が必要。
それ故に、高位神官や高僧などから加護を受け、どうにか多対一で使徒を退けるのが精一杯である。
「綾子、いけそうか?」
「はい。それでは参ります!! 願い奉りしは、十二天将が一つ柱。前一騰虵火神家在巳主驚恐怖畏凶将哉哉!!」
──バババッ
白拍子の姿をした井川綾子巡査部長が、素早く印を組み五枚の呪符を生み出す。
それを前方に飛ばし五芒星の結界を生み出すと、そこから一体の式鬼を召喚した。
「見事!!」
井川の生み出した式鬼を見て、安倍緋泉も思わず呟く。
それが嬉しかったのか、井川は式鬼を見て、一言。
「殲滅せよ、騰蛇!!」
井川の言葉に反応し、燃え盛る炎の蛇の姿をした騰蛇が使徒に向かって襲い掛かる。
そして使徒もまた、法隆寺外殻結界を破壊できない焦りからか、外で待機している井川綾子と安倍緋泉の二人に向かって襲い掛かるのだが。
──豪ッ!!
二人の近くに走ってくる使徒に向かって、騰蛇が焔を噴き出す。
それにより使徒が燃え上がり、その場で消し炭へと姿を変える。
「神の信徒たる十二天将、たかが異界の悪鬼羅刹如きに遅れをとるはずがなかろうが!!」
その安倍緋泉の叫びと同時に、彼の目の前にも一体の式鬼が姿を表すと、巨大な剣と索を手に、使徒を屠り始めた……。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
──東京都内・某所
北海道から先輩と一緒にやってきた俺ちゃん。
ようやく御神楽さまとの謁見が許されたのだけど、やってきたのは国会議事堂。
なんで?
「あの、忍冬師範。御神楽さまって、皇居地下の聖堂というか、そういうところにいるのですよね?」
「普段はな。今日は、国会議事堂地下にある『第二議事堂』を通って聖堂まで向かうことになる。それ故に、警備はかなり厳しくなっているが、まあ気にするな」
そう説明を受けて周りを見渡す。
うん、特戦自衛隊の指揮車両をはじめ、さまざまな自衛隊車両や自衛官が待機しているんだわ。
他にも第六課の東京支部の退魔官とか、警察とか。
兎に角、蟻の子一つ通すことのない雰囲気が流れているんだが。
「あの〜先輩? この雰囲気って、俺たちはとんでもない人と会うことになっているんじゃないでしょうか?」
「そうね。魔族にとっても伝説級の存在であり、未だ、御神楽さまの教えをよしとしない反体制派も存在するって表示されているわ。でも、それ以上に大勢の魔族に慕われているのも本当よ?」
左目に深淵の書庫を展開したゴーグルを装着した瀬川先輩が、周囲に気を配りつつそう説明してくれる。
まあ、普段の固定型立体魔法陣ではなく、持ち運び可能な小型の深淵の書庫って、すごく便利そう。
「それじゃあ、これって反体制派に対抗するため?」
「まさかだろ。使徒の襲撃を想定しているだけだ。いくらなんでも、対魔族仕様にこれだけのメンバーを揃えるはずがない」
「乙葉くん、忍冬警部補の言葉に嘘偽りはありませんわ。現在、日本各地でも使徒の活性化が始まっているようですし」
「マジかよ。忍冬師範、俺だけでも使徒殲滅戦に向かった方が良いんじゃないですか?」
そう真剣に問いかけても、忍冬師範はあたまを左右に振る。
「御神楽さまからも、乙葉浩介に会いたいという申し出があった。まずは議事堂地下に向かうぞ」
そのまま忍冬師範に案内されて、国会議事堂の中に入っていく。
そして地下に降りる階段近くの壁に手を触れると、そこに一枚の扉が姿を表した。
「……空間結界系術式、それもかなり大規模ですわね」
「ここは、選ばれたものしか通ることは許されていない」
ゆっくりと扉に手を当てて、韻を紡ぐ忍冬師範。
すると扉がゆっくりと開き、地下へと向かう階段が姿を現した。
「はぁ……これって、とんでもない魔法技術だよなぁ。俺の魔導書が反応しているけど、写し取ることができないようだからさ」
「写し取れたとしても悪用するなよ。ここから先は、普段は使われていない通路だから、迷わないようについてきてくれ」
ゆっくりと階段を降りる。
その先には、真っ白な壁と床と天井によって構成された回廊が続いている。なんというか、白亜の空間と呼んでも差し支えないだろう。
それに、なんとなくだけど、この雰囲気、何処かで体験したような気がするんだが。
何はともあれ、俺と瀬川先輩は忍冬師範の案内に従って、複雑に迷路状に入り組んだ回廊をすすんでいく。
そして三十分ほど進んだところで、突き当たりに辿り着く。
両開き扉の備え付けられた場所。
──ギィィィィィッ
そして、俺たちが到着してすぐに、扉はゆっくりと開く。
扉の向こうには、巫女装束とも水干とも付かないような服を身に纏った女性が立っており、俺たちに頭を下げた。
「お待たせしました。御神楽さまがお待ちですので、こちらへどうぞ」
「よろしくお願いします」
忍冬師範の返答で、女性が前を歩き始める。
俺たちもその後ろについていくんだけど、扉の中は古い日本家屋というか、お城の中を歩いているような感覚だった。
そして案内された場所は、畳敷きの広い空間。
奥には舞台のようなものがある場所の手前には、座布団に座っている綺麗な女性。
白無垢というか、十二単衣というか、そんな感じの衣服を着けた、黒い長髪の人物。
その人を見た瞬間に、俺はこの人が御神楽さまだって瞬時に理解できた。
「御神楽さま、お待たせしました。忍冬修一郎、乙葉浩介、瀬川雅の御三方をお連れしました」
「ご苦労さまです……忍冬さんはご無沙汰していましたね。お変わりなくて何よりです」
ニコリと微笑みつつ、御神楽さまが忍冬師範に話しかける。
師範が恐縮そうに頭を下げていると、今度は俺たちを見て微笑んでいる。
「はじめまして。神楽天峯と申します。神楽境とも呼ばれておりますけれど、こちらが人間としての本名です」
「瀬川雅です。お招きいただき、ありがとうございます」
「乙葉浩介です。よろしくお願いします」
「畏まらなくて結構ですわ。とりあえずは、お座りください」
いつの間にか、俺たちの目の前には座布団が用意されている。
それではと頭を下げてから座布団に座ると、忍冬師範が口を開いた。
「すでに宮内庁経由でのご連絡は届いているかと思いますが。富士山の龍脈洞の封印を解除していただきたいのです」
「瀬川さんの深淵の書庫による、龍脈制御。そして神威型浄化空間の発令に必要なのですね」
その問いかけに、先輩が静かに頷く。
「わかりました。ですが、それを開くには、儀式が必要です。禊ののちに、私は儀式を行いますので、お二人は先に富士龍脈洞へ向かってください」
そう告げてから、先ほど俺たちを案内した女性がやってくると、俺と先輩の前に小さな盃を並べる。
「龍脈洞を通るために、お二人には特殊な結界中和術式を行います。その盃に血を垂らしてください」
盃と同時に差し出された短刀。
それで指先を軽く刺して血を垂らすと、女性は盃を手に、奥へと戻っていく。
「それでは、これより術式処理を行います……」
御神楽さまはスッと立ち上がると、そのまま舞台へと歩いていった。
そして俺たちは、これから何が起きるのかを、ただ見守ることしかできなかった。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




