第三十二話・類は友を慧可断臂(加護とは何か?)
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札幌駅前にそびえ立つタワーマンション、『ティロ・フィナーレ』
この最上階が俺の購入したマンション。
凄いよ、最上階って三軒しか無いんだよ?
そのうちの三軒目がうちさ。
しかも全て別のエレベーターで移動するんだよ?
「うわぁ……部屋がガラガラだな。申し訳程度の家具しかないし」
「でも。リビングのテレビは凄く大きいよね。パソコンもゲーミング用の高いやつでしょ? あ、ガガサターン3もゲームステーション6もある。色々最新のゲームもあるし、乙葉君はお金持ちだなぁ」
「こっちの部屋はラノベが大量にあるのね。あら、いけないものまでありそうね?」
「何言っているん? ここにいる全員、金持ちやないかーい‼︎ うおおおーい、部屋の中を探検するのは構わないけれど、なんで先輩はピンポイントでそういう危険なものを見つけるのですか‼︎」
俺の魂の叫びに笑いつつ返事をして、取り敢えず皆がリビングに集まってくる。
今日からの残りの夏休みは、1日おきにうちに集まって魔法の練習をはじめる。
ただ、その前にどうしても説明しないとならないことがある。
「今日から魔法の練習を開始しますけれど、先に瀬川先輩と新山さんに伝えておきたいことがあります」
「今から俺とオトヤンが話すことは全て事実、その上で本当に魔術を、使えるようになりたいか考えてほしい。これは命にも関わることだからな」
──ゴクッ
俺と祐太郎の本気の話に、瀬川先輩も新山さんも覚悟を決めたらしく静かに頷く。
そして俺たちは、二人に東京での出来事を全て説明した。
東京に向かう前に、大通り公園で飛頭蛮の綾女という妖魔と知り合いになったこと
秋葉原で妖魔と出会い、戦ったこと
その直後に第六課の井川という女性に尾行され、協力要請を強いられたこと
街角で妖魔を見かけたこと
コミケ会場で大量の妖魔を見たこと、そしてタケもっこす先生が中級妖魔であり、妖魔の世界についての説明をしてもらったこと。
俺の初体験については全く触れずに話を進めると、新山さんは真っ青な顔になっていた。
「え……ラノベの設定や映画ではなく? 全て事実なの?」
「そういうこと。それで、俺たちみたいに魔力が高い人間が魔法を使うと、下級妖魔が無意識にやってくることもある。それと戦う覚悟がないなら、ここで修行しないほうがいい」
ここまで話すと、新山さんは考え込んでいる。だが、瀬川先輩は俺たちに話しかけてくる。
「では、乙葉君と築地君は、妖魔と戦う覚悟ができているのですか?」
「俺はできているといえばできている。けど、どっちかっていうと妖魔容認派だな。第六課とかヘキサグラムとかいう組織と馴れ合うのは嫌だからな。オトヤンは?」
「俺は……全ての妖魔が敵対存在ではないって綾女ねーさんやタケもっこす先生と出会って知ったから、ある程度覚悟はできている。共存共栄できればいいかなぁって思っているよ、でもまあ、戦闘になると思うから専守防衛だよ、自衛隊だよ、サン・ゴーズ・ダウンだよ。間違ったら怒られるよ、試験に出るそうだよ」
この俺たちの覚悟に、瀬川先輩はフッと、笑った。
「ではまず、魔族を見る力を身につけるところから始めないといけないわね。精霊使いの魔術には、そういうのがないから新しく身につけないとならないのでしょ?」
「了解。じゃあ俺が瀬川先輩に色々と説明してくるから、オトヤンは新山さんを頼む」
「あらほらさっさと。じゃあ新山さんは、なにか質問ある?」
そう優しく問いかけてみる。
初めてのことなので混乱しているのは雰囲気で分かっているから。
けれど、少し考えてから、新山さんは俺の目をじっとみる。
「私は、本当はもうここにはいなかったかも知れないんだよね。癌で、死んでいるはずなんだよ。でもね……それを乙葉君が助けてくれたんだよ」
「そうだな。まあ、俺がそういう力を持っていたからだけどね」
そう告げるものの、新山は軽く頭を振る。
「そうじゃないよ。もし、他の誰かが乙葉君みたいな力を持っていたとしても、私なんかにその力は使ってくれなかったと思うよ……私は地味で、目立たない子だったからね。だからありがとう」
「まあ、そう言われると今更ながら照れますねぇ、もっと気楽に考えていいと思うよ」
「ううん、これはずっと言いたかったことだから。だからありがとう」
そのまま新山は頭を下げる。
「私は…生まれ変わってこの魔法が使える力を貰えたって信じているんだ。助けてもらった私が、今度はみんなを助けてあげられる。
正直いうと怖い。けどね、私も、乙葉君の手助けをしてあげたい。だから、教えて、魔法の使い方を」
「妖魔が怖くない……訳はないよなぁ。まあ、そんなに肩肘張らないで力を抜いていいと思うよ。俺たちは、自分たちの日常を守るために戦うだけなんだからさ」
真剣な目で俺をみる新山。
なら、俺も新山の決意を真剣に受け止める。
ただ、一つだけ違う事がある。
俺の得た神の加護と、新山たちの得た加護の方向性は異なっている。
俺のは普通に『異世界転生間違えたバージョン』であるのに対して、祐太郎たちのは明らかに妖魔と戦うためのような気がする。
それって、どうなんだろう?
「オトヤン、濃厚なラブシーンは終わりかな?」
「あら、そうだったのですか? 私はてっきりマンツーマンでレクチャーしているのかと思いましたわ」
「ラブシーンちゃうわ‼︎ オウオウオウオウ‼︎」
「そ、そうですよ、私は、その……決意表明です‼︎ これから魔術を学ぶための決意表明ですよ‼︎」
ニコニコと笑う祐太郎と瀬川先輩に向かって、何故か必死に否定する新山さん。そこはほら、冗談めいた一言が欲しかったのにそこまで否定されると泣けてきますなぁ。
「まあ、それは冗談として、これで四人とも魔術を学ぶ覚悟ができたっていう事だろう? それじゃあ一つずつ始めるとしますか」
「ああ。本当なら何処か人気のない広いところで試したいところなんだけれど、攻撃系魔術以外でコントロール方法を覚えるとしますか」
そのまま四人で一つずつ、試行錯誤しつつ魔術について訓練をはじめる。
攻撃系以外を一つずつ発動して、その効果を検証したかったのだが、何故か新山さんと瀬川先輩の魔導書は『真名であるタイトル』が変更されていない。
結果、二人の魔法は発動しない。
「……俺のは『ブライガーの武術書』という名前に切り替わったし、覚醒した時には武神ブライガーという神から声を授かった。でも、新山さんと瀬川先輩は、その声は聞いていないのか」
「ええ。こうやって魔導書に魔力を循環しても、何も反応がないのですわ」
「私も‼︎ せっかく人を癒す力が手に入ったと思ったのに、どうして使えないのでしょう」
二人の話を聞いていて、加護の卵の状態を確認する。
『加護の卵(25/100、覚醒の鍵が未解放』
あ、なんか鍵があるのか。
「ユータロ、二人の加護の卵なんだけど、覚醒の鍵が足りないらしい。それが何かは表示されないので分からないけれど、今はまだ、覚醒するタイミングじゃないような気がするんだ」
そう説明すると、祐太郎は腕を組んで何かを考えている。
こればっかりは、俺にも状況が把握できない。
魔導神アーカムの言う加護、それの鍵。
うん、俺っちの加護って一体誰の?
そもそも、加護は持っていないよね、あるのはチートスキルだけだよね。
「俺の場合は、危機的状況での覚醒だったからなぁ。先輩や新山さんの覚醒条件も、何かあるんじゃないか?」
「では、それを探し出さない限りは?この魔導書は使えないということですね?」
「そ、そんなぁ……せっかくの癒しの力がぁぁ」
意外と冷静な瀬川先輩、逆にガッカリと落胆する新山さん。
まあ、時間を掛けて探すしかないよね。
今はまだ、いつもの訓練を続けることにして、ある程度まで訓練が進んだら、誰かそっち方面に詳しい人に教えてもらう方が身につくし、何か分かるだろうと考え始めた。
まあ、たけモッコス先生か、もしくは綾女ねーさんのどっちか。
近所というところで考えてみると、綾女さんのほうが早いかも。
そんなこんなで手探り状態の魔術訓練を続けているうちに、瀬川先輩の『加護の卵』は『銀縁の眼鏡型』に実体化したのだが、新山さんのは未だに実体化できなかった。
〇 〇 〇 〇 〇
翌日、早朝。
加護の卵について、綾女ねーさんが何か知っていないかと、俺は大通公園までやってきた。
妖魔のことは妖魔に聞くのが早い、なら、神の加護については神様に聞くのが早いんだけれどね、どうも俺には神託は届かないからさ。
「‥‥という事でさ、俺以外の三人の持っている『神の加護』なんだけど、覚醒の鍵って判る?」
『朝っぱらからいきなりだねぇ‥‥まあ、なんとなく心当たりはあるけれどさあ‥‥私もおなかが減っていてねぇ』
「お腹ないのに!! ほい、朝食代わりの光球だよ」
――シュンッ
一瞬で手の中に光球を生み出すと、綾女ねーさんは大きな口を開けて、一口で飲み込んだ。
『うん、芳醇な味だねぇ。さて、神の加護についてだね、人間が神の力を得ること、それが神の加護さ。過去にもそういう力を持ったものは多いよ、始まりの英雄と呼ばれていた、最初の大進軍を止めた人間が振るっていた神剣、あれも神の加護さ』
「ふむ。形ある加護ってやつ?」
『そ。でも乙葉君が知りたいのは、力としての神の加護だったかな。それは多分だけど使う人間の心構えとか、覚悟が必要だと思うね』
「覚悟? 心構え? どういうこと?」
『さっきの話だとさ、築地君が覚醒したのは妖魔に襲われたから。生存本能というか、そういったものと築地君の求めていたものが合致したから鍵が開いたんじゃない?』
なるほど、祐太郎のパターンだと納得がいく。
けれど、瀬川先輩や新山さんの場合は?
二人とも戦う覚悟はできていると思うんだよね?
「でもさ、先輩も新山さんも戦う覚悟はできているはずだよ?」
『違うね。築地君の闘気は戦うための物、それじゃあ新山さんと瀬川さんだったかな? 彼女の持つ力は? その本質を自分自身で理解して、それに合わせた覚悟がないと鍵は開かないんじゃないかなぁ‥‥そして、それは私や乙葉君が教えてもだめだと思うのさ。与えられるのではなく、自ら切り開くってね』
「なるほどねぇ。それじゃあさ、俺には神の加護ってないのはどうしてかなぁ?」
『うーん。私は鑑定眼を持っていないので、乙葉君のスキルやステータスは判らないんだよ。でも、ひょっとしたらっていう心当たりは、一つだけあるね』
「そ、それは、それを教えてプリーズ」
『‥‥さっきも話しただろう? 与えられるのではなく、自分で切り開きなさい。少なくとも、今の乙葉君から感じる力っていうのはね、この人間世界で魔族とやりあっていた人々の中でもトップ3には入ると思うよ』
おおおおお!!
俺って歴代ナンバー3だったのか。
よし、慢心しないで頑張ろう!! 慢心、ダメ、絶対。
「うーん、なんとなくわかりました。どうもありがとうございます!!」
『いいよ、私は暇だからね。それじゃあね』
フワフワッと綾女ねーさんは飛んでいった。
今のアドバイスについては、祐太郎には説明しておく必要があるよなぁ。
先輩たちには、申し訳ないけれど自分で道を切り開いてもらうしかないか。
さて、部活行く準備するのに、一度帰りましょうそうしましょう。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
●現在の乙葉の所有魔導具
センサーゴーグル(TS/鑑定/アクティブセンサー)
WMリング(耐熱・耐打撃・耐斬撃・吸精に対するレジスト、アクティブブースト、透明化、フライ、レジストストアー×1チャージ)
魔法の箒
中回復ポーション×2
軽回復ポーション×5
病気治癒ポーション×1
身代わりの護符
・カナン魔導商会残チャージ
13億25万クルーラ
●築地所有の魔導具
センサーゴーグル(TS/鑑定/アクティブセンサー)
加護の卵『31/100』(左手ブレスレット)
魔闘家の指輪(耐熱・耐打撃・耐斬撃に対するレジスト、透明化、レジストストアー×2チャージ)
収納ポータルバッグ
魔法の箒
大回復ポーション ×5
中回復ポーション ×25
軽回復ポーション ×5
病気治癒ポーション×5
ブライガーの武術書
注)サーチ、シー・インビジブル、透視効果は、アクティブセンサーと同化。
レジストリングはホテルで融合化済み
●新山所有の魔導具
収納ポータルバッグ
空飛ぶ絨毯
加護の卵『25/100、未覚醒』
レジストリング(耐熱)
病気治癒ポーション×1
軽回復ポーション×5
魔導書
●瀬川所有の魔導具
魔法の箒
収納ポータルバッグ
加護の卵『25/100、未覚醒、眼鏡型』
レジストリング(耐熱)
軽回復ポーション×5
魔導書
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。
・今回のわかりづらいネタ
魔法少女まど○⭐︎マギカ
あと2つありますよー。