第三百十八話・縁木求魚? 馬にも人にも乗って添うてみよう(異世界進出は、どの国でも悲願のようです)
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パールヴァディさんの助力で、私は深淵の書庫により蓬莱山に転移しました。
そして、深淵の書庫の知られざる能力を教えてもらい、さらには【指定対象を可能とする結界】を構築するシステムを覚えることもできたのですが。
崑崙八仙の李香蘭さんとの邂逅、そして中国で独自に行われているある計画。
そのために、白桃姫さんたちムー大陸へ向かうための水晶柱の鍵の開け方などを監視されていたそうです。
「深淵の書庫使いの私に対して、誤魔化しなんて効くと思わないでください。さあ、何故、貴方たちはムー大陸へ向かうための鍵を求めているのですか?」
この問いかけに、香蘭さんは涙目状態。
チラチラとパールヴァディさんを縋るように見つめています。
ですが、どうやらパールヴァディさんは私の味方のようでして、香蘭さんの方を見て、ニィッと笑いつつ一言。
「ごめんなさい香蘭。申し訳ないけれど、私は雅さまの味方なのよ。ということなので、彼女が求めている情報について、洗いざらい話した方が無難よ?」
「ちょ、ちょっと待ちなさい!! わたしたちを裏切るっていうの?」
「裏切るも何も、私は協力者ではありますけれど、貴方たちに従う義理なんてありませんけれど? ごちゃごちゃいうのでしたら、今すぐ、この場から移動しますよ?」
あ、パールヴァディさんと香蘭さんの言い争いが始まりました。
横で話を聞いていると、どうやらパールヴァディさんが崑崙八仙に助力している形であるようです。
「い、移動ねぇ……まさかとは思うけれど、この蓬莱山を動かせるっていうの? 今のパールヴァディの魔力で」
「まさか。私じゃ無理だけど、ね……受諾しなさい、大地の龍脈の接続先の変更。黄竜よ、その力をミヤビさまの元へ届けなさい」
──ブゥン
パールヴァディさんの足元に八卦炉と呼ばれる術式が展開します。
それと同時に、私の深淵の書庫が白く輝き出しました。
『深淵の書庫、龍脈との接続を完了。現時点ではマスターコードの関係により、この地および日本の霊脈からの魔力供給のみが可能となります。引き続き、魔導具【霊亀神珠】とのリンクが成功。支配権をパールヴァディからミヤビに移行されました』
次々と聞こえてくる深淵の書庫の声。
そして一通りの書き換えと初期設定が完了した時、深淵の書庫の向こうで李香蘭がその場にしゃがみ込んでいました。
「ま、まってパールヴァディ。貴方が中国から離れるということは」
「ええ。私が構築した八門遁甲の結界も消えるので、北京や上海の結界も消えるわよ? それに、この蓬莱山も動かすので、崑崙八仙に今すぐに出ていってもらうことになりますけれど?」
「ヒィィィィィ!!」
ニコニコと笑いながら呟くパールヴァディさんに、香蘭さんは悲鳴をあげて頭を振っています。
「わ、分かったわ、わかりました。私たちが中国政府から受けている依頼、これについて説明すれば良いのでしょう? そうすれば、今のまま、崑崙八仙は蓬莱山に留まることができるのでしょう?」
「さぁ? 今の蓬莱山の支配権はマスター・ミヤビに移行したから。お願いするとしたら、彼女にではなくて?」
ニマニマと笑いつつ、パールヴァディさんがつぶやきました。
なんと申しますか、一気に、とんとん拍子に話を進められて困っているのは私の方なのですけれど。
「それではお話しします。まず、最初は転移門が日本に現れた時から始まりました」
そう話を始める香蘭さん。
具体的には、こんな感じの話だったそうです。
………
……
…
日本国に妖魔特区が現れ、転移門が発生した時。
世界各地の対妖魔機関は、これから起きるであろう大氾濫を阻止すべく、自国の政治中枢及び軍関係にも緊急事態のための準備を依頼しました。
ところが、その数ヶ月後には転移門は消滅し、大氾濫の危機が立ち去りました。
それと同時に、異世界への転移門の存在について、今一度の研究が始まります。
転移門の消滅と同時に姿を表した水晶柱、それが鏡刻界では相互間転移システムに使われているということを、政府に内通している妖魔たちから聞き出した時。
水晶柱を使えば、異世界に行けるのではという可能性を見出したのです。
これは資源や領土関係で頭を悩ませている国々にとっては、まさに問題を解決することができるための救世主のようなものであり、水晶柱を使った転移方法についての研究及び調査が始まりました。
そんなある日。
異世界からエルフがやってきたという情報がアメリカから発信され、さらに日本の現代の魔術師が異世界への転移門を開くことに成功したという事実が流れてきた時。
その手段を得るために、各国は日本政府に対して打診を行い始めました。
そのあとは、日本の中枢・東京都への異世界からの侵略軍の出現、それを収めるために異世界から冒険者を呼び寄せたりと、乙葉浩介が異世界へ行き来している姿がインターネット上にも流れ始めます。
これにはどの国も落ち着いていられませんでしたが、ある日、中国政府に崑崙八仙からの打診がありました。
『地球の全ての水晶柱を使った魔法陣を形成し、異世界転移ゲートを開くための力を集められます。それを天安門横にある大水晶柱に集めることで、この中国にも異世界へ向かうための転移門を開くことができます』
その助言をしたものは李香蘭。
そして、この魔法陣を計算したのがパールヴァディ。
ですが、彼女たちはあまり表に出ることがなく、さらに地球圏における術式構築のための知識が乏しいため、現代において『乙葉浩介』に匹敵する魔術関係の知識を持つものとして、ジェラール・浪川に白羽の矢が立ちます。
日系中国人二世であり、いくつもの国の言葉を理解する男。
そしてチベット密教の秘技を継承した存在。
ジェラール・浪川というのも本名ではなく通名という噂もあり、とにかく神出鬼没な彼を探し出すのは困難でした。
ですが、どうにか彼を中国政府は招き入れ、現在までに『水晶柱を用いた惑星規模の結界』についての研究がなされていたのです。
………
……
…
「ここまでの話は、私も聞いていたことだから真実」
パールヴァディさんがそう告げると、香蘭さんもこくこくと頷いています。
「では、その計画はかなり進んだのですか?」
「いえ、全体的に魔力集積値が安定せず、さらに魔力溜まりから定期的に魔力が放出しているので、この計画は白紙になりました。その代わり、異世界に向かうための浮遊大陸『アトランティス』と『ムー』を手に入れるための情報収集及び調査が始まったのですけれど」
「実は、使徒の襲撃が始まってからは、中国の富裕層が国に対して半ば脅しとも取れる圧力をかけてきたらしい」
ふむ。
「使徒から逃げるために、急いで異世界への門を開けないか? というところですか?」
「はい。あの人たちにとっては、異世界はまさに未知の資源や土地に溢れています。それを手に入れるためには、そして使徒から逃れるためには助力は惜しまないと」
「地球規模の結界計画は白紙になり、ムー大陸奪取作戦が発動しています。その一つ目が、現在、ハワイ諸島でムー大陸へ向かうための結界解除をしているピク・ラティエを追跡し、その術式を入手。それをもとに、自分たちも水晶柱からムー大陸に向かうための門を構築するようにと」
どうやら、話が一つの線で結ばれたようです。
でも、どうしてパールヴァディさんは、地球規模の結界を作り出そうとしたのでしょう。
それについて問いかけてみたのですけれど、返ってきた答えには納得しました。
「鏡刻界に帰りたいから。だから、門を開くための知識を授けた。でも、もう必要はなくなったから」
「へ? え? どうして? まだ計画は続いているわよ?」
「香蘭。私は、自力で帰れる術を手に入れた。だから、その気になれば、私は単独で鏡刻界に帰ることができる。もう、崑崙八仙や中国政府に手を貸す必要がなくなったので」
そのパールヴァディの言葉に、香蘭さんの顔色が真っ青になりました。まあ、無理もありませんよね。
ここまでの話を考えてみますと、自分の故郷に帰るためにパールヴァディさんは助力していたようです。
でも、私と深淵の書庫を共有することができるようになったので、深淵の書庫を用いての転移が可能になったのですから。
「ちょ、ちょっとまって、そんなことが出来るのなら、ムー大陸なんて探す必要もないじゃない?」
「私は、私以外の誰かを連れて帰れるだけの転移は不可能。雅は?」
「私?」
ふと、深淵の書庫をチラリとみます。
すると、魔法言語で次々とデータが映し出されています。
『現時点では、瀬川雅単体での転移は不可能。ただし、深淵の書庫に、乙葉浩介の所持する【銀の鍵】のデータが得られるのならば、深淵の書庫を乗り物として認識し、移動することは可能』
ふぅん。
これは、話してはいけないことですよね。
「深淵の書庫を見てみましたけど、今の私では不可能ですわね。空間干渉系術式は、私では使えませんので」
「ということ。私は魔力がチャージされたら移動できると思うけど、雅は空間把握能力がないので不可能。それで、私が中国と崑崙八仙に協力する理由は無くなったけど、貴方はどうするの?」
今度はパールヴァディが香蘭に問いかける。
まだ問いかけるだけの優しさがある分、パールヴァディさんの性格も伺えます。
突き放して帰ることはできるのですけど、敢えて、どうするのかと聞いているあたり、崑崙八仙をこのまま放置するつもりもないようですね。
「わ、私たち崑崙八仙は今まで通りに、対妖魔及び対使徒関係の活動を続けます。異世界転移に関しては、中国政府主導で話を進めていますし、わたしたちはアドバイザーでしかありません。今までと同じ立場を貫くつもりです」
「そう。それなら頑張って……雅にお願いがあります」
「分かっていますわ。蓬莱山はこのまま、この場所に留めておきますわよ。その代わり、管理はパールヴァディさんが主体で、くれぐれも中国政府の干渉が無いようにおねがいしますわ」
この私たちの話で、香蘭さんはほっと胸を撫で下ろします。
私としても、結界関係術式について、そして各国の異世界進出計画の話が聞けただけでも大成果ですし、日本に戻ったら乙葉くんに銀の鍵を借りてみないとなりません。
「では、私は日本に戻りますわ。それではパールヴァディさん、また何かありましたら、すぐに連絡をお願いします」
「深淵の書庫が連結しているから、すぐに連絡します。では、戻します」
両手で印を組み韻を紡ぐパールヴァディさん。
そして深淵の書庫が虹色の輝きに包まれると、外の風景が札幌テレビ城の真下に変わりました。
「もう、真っ暗ですか」
「おお、ミヤビも戻ったか。それで、パールヴァディは元気そうじゃったか?」
「ええ。おかげさまで、いろいろな話が聞けましたわ」
ここからは、白桃姫さんにもお話しして、今後の対使徒作戦の大きな変更も考えないとなりません。
切り札がまた増えたのですから。
そんなこんなで、白桃姫さんとの話を終える頃、要先生から連絡がありました。
『世界各地で、実体化した使徒が人間を攫い始めました。同時に、暴走した使徒により各国の都市群にも大きな被害が出ているようです……』
すぐさま深淵の書庫で検索します。
すると、世界中で使徒が大規模な暴動を始めたようです。
まるで、魔力が高い魔術師や魔族を誘き出すかのように。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




