第三百十五話・意気軒昂。艱難汝を玉にするってさ。(束の間の平和? いやいや、そんなはずはない)
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日本、北海道。
実に久しぶりに帰ってきたよ。
ニューヨーク州国際空港から、自力で魔法の絨毯に乗って飛翔開始。いや、万が一にも俺をターゲットとした魔族や使徒が襲撃してきたら危険だということで、俺は飛行機に搭乗拒否されましたが。
その直後、アメリカ海兵隊の誘導で軍基地に移動し、そこから魔法の絨毯で帰国するように指示を受けましたとさ。
『以後、アメリカに来る際は、日本のアメリカ駐在基地から飛び立つのなら、アメリカ合衆国の軍施設への着陸を許可します。また、その際には滑走路使用料金を別途、支払ってもらうことになりますので』
これが、アメリカが俺に出した譲歩案。
この案を呑むのなら、今後もアメリカに飛んでくることは許可してくれるそうで。
なお、水晶柱を使用した転移による移動などはこれには含まれず、俺が民間の旅客機や船舶を用いての移動を行うならば入国は認めないということらしい。
つまり、有体に言うと、『乙葉浩介は危険だから、民間と一緒の移動は禁止』と言うことで。
まあ、こればっかりは仕方ないよね。
そのまま神奈川県の厚木航空基地に着陸して、滑走路使用料金の550ドルを支払ってから、あとは北海道へと再び離陸。
これでアメリカの監視下から離れるので、後はご自由にだそうだ。
………
……
…
──北海道立・北広島西高等学校
「……って訳さ。祐太郎たちは、どんな感じだった?」
朝一番。
登校直後の軽い情報交換。
祐太郎と新山さんには、朝イチで説明していたので、あとは祐太郎たちの情報について。
「まあ、ひとつ目のロックは外れたからな。数日後には二つ目のロックを外しに向かうところだが」
「もう、あんなハードな戦闘は体験したくないと言うのが本音なのですけど。そうも言っていられない状況なのですよね」
「相手が魔族なら、色々と対応策はあったさ。でも、使徒って洒落にならないからさ。それも、兵士タイプじゃなく指揮官クラスはね」
鮫型使徒のボスだった奴、羽蟻型使徒の母体だった女王蟻型使徒など、いつのまにか上位種が姿を表していたからなぁ。
このまま使徒と戦闘を続けていくと、もっと厄介な奴が姿を表しかねない。
「わ、私たちが戦ったやつは普通だと思うけど……指揮官クラスって」
「オトヤンでしか対処不可能な上位種かよ、参ったな」
「俺もかなりひどく消耗したし、ぶっちゃけまだ魔力に至っては回復しきれていない。レベルが上がって大賢者になってからは、魔力のコントロールもかなり上達したらしいんだが、それでもきついわ」
「だ、大賢者!!」
「はぁ、とうとう限界を越えたのかよ」
「まあね……と。授業だな」
予鈴が鳴り、やがて担任がやってくる。
そして放課後までは普通に学生をしていたよ、俺たちは。
白桃姫曰く、あと数日は時間を空けないと次のロックが外せないらしい。
そして、次も俺は同行禁止だとさ。
そんなこんなで部活に向かうと、珍しくほぼ全員が部室に集まっていると言う状態。
「高遠先輩も美馬先輩も来ていたのですか?」
「だって。もう試験は合格しているから」
「同じく。推薦枠で確定。これで春からは、北海学園大学で魔術科に通うことができるっていうこと」
「お、おおう。噂の魔術科ですか」
少し前に、小澤が持ってきた案件のやつで、日本では北海学園大学と防衛大学に『魔術科』が新たに設立したらしい。
第六課及び元陰陽府の関係者が教壇に立つらしく、それはもう、かなりの高倍率だったらしくてさ。
「先輩たちは推薦枠ですよね?」
「そう。つい先日、日本政府から書類が届いた。それを役所に提出したら、これが貰えた」
「これを所持していると、推薦扱いで入学が認められるんだと」
シュンッと手の中に生み出したカード。
それは日本政府が発行した【魔術師登録証明証】。
とうとう【日本国籍を持つ国民の、魔術師登録に関する法案】が成立したらしく、日本国籍を持つ魔術師は、政府に登録することでマイナンバー並みに効力のあるカードが発行されるらしい。
これの凄いのは、魔族でも日本国籍なら登録可能なこと。
そして登録時のデータを参考に、国から魔術師に対して【仕事の依頼】が発生する時もあると言うこと。
ちなみにうちにも書類が届いていたし、祐太郎や新山さんのところにも届いているそうだ。
「オトヤン、俺はすぐに提出しておいたぞ。今後は色々と使いそうだからさ」
「私はまだですね。登録したら確かに便利そうですし、魔術師特権というのもあるそうですから」
「まあ、二人がそういうのなら、俺も登録だけはしておくか。アメリカのNSAの身分証明カードもあるから、これで日本とアメリカでは、魔術師として堂々と活動できるようになるのか」
登録するだけで、魔術師としての講義や講演会、魔術指導などの仕事も取れるようになるらしいし、なによりもこれを所持していたら、魔法の箒や絨毯の飛行免許証の習得時の事務手続きが簡素化されるんだと。
それでいて拘束力や強制力は持たないから、作るだけ作っておけば便利。まあ、裏がないのは今だけで、登録させてから法改正なんてこともあるかもしれないんだけどね。
「私とリナちゃんは、申請済みなんですよ?」
「そう。そしてリナちゃんは、【公開獣人登録】も申請したよ」
「ん? 何それ?」
【公開獣人登録】って、初めて聞いたんだが。
「魔族、獣人族の日本国登録だよ。まあ、登録したからと言って強制力も何もないけど、災害時などには救援要請が来たりするんだって。その代わり、無国籍で生活していた獣人は登録することで日本国籍を習得できる!! なお、リナちゃんは元々、日本国籍は持っています!!」
「獣人と魔族の保護のための法案が成立したそうです。世界で初めて、魔族・獣人に国籍を認める法案でしたよ。なんでも、築地先輩のお父さんが主導で、水面下で色々と手回しをしていたそうです」
「俺はそれに散々付き合わされたんだ。全く、面倒臭かったわ」
いつの間にか、日本政府がまじめに見えてきたぞ。
あの、五月蝿いまでの野党の猛追は?
魔族議員の攻めはどこにいったのやら。
「しかし、与野党共に柔軟な対応になったことで」
「それが進んだのは、使徒の存在が表に出たからだよ? 最初は魔族だけの話だったのに、人間、獣人、魔族を巻き込む敵性存在であることが明るみになったでしょ?」
リナちゃんの話は、おそらく俺が国連で話していたことに関与している。
その翌日あたりから、ニューヨークやメキシコ、あと中国でも使徒の動きが眼に見えるようになって、被害者が出始めたから。
それに対抗するためには、とにかく魔法が使える存在を味方につける必要がある、そこで与野党の意見が一致したらしい。
「でもなぁ……流石に使徒相手となると、ここにいる人では……俺と祐太郎は神器持ち、新山さんは神聖魔法、この三人か」
「リナちゃんのツァリプシュカ改2はオリハルコン製だよ。あと」
「はいリナちゃんストップ。乙葉先輩、私もオリハルコンの装備は所持していますわ」
リナちゃんと沙那さんもおっけ。
身を守る程度なら問題はないだろう。
そうなると。
「美馬先輩と高遠先輩の身を守る手段……かぁ」
腕を組んだまま、背もたれに体を預けて天井を見上げる。
この問題は意外と難しく、どのように守るかが重要。
「オトヤン、使徒からの攻撃から身を護る結界を発生させる魔導具とかは?」
「もしくは、先輩たちでも使える上級術式はどうでしょう?」
「リナちゃんブートキャンプに入りますか?」
祐太郎が、新山さんが、そしてリナちゃんが案を出す。
どれでもいけそうで、それでいて難しい。
──ドサドサドサッ
空間収納から大量の魔導書を引っ張り出して机の上に広げると、祐太郎と新山さんは理解したらしく本を開き始める。
「新山さんの案か。私たちも探してみるか」
「勉強は、大切」
先輩たちも探し始めたので、俺は俺でカナン魔導商会をオープン。
当然、俺以外には見えないステルスモードでこっそりと開くと、なにか便利なものがないか調べることにしたよ。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
──妖魔特区・札幌テレビ城下広場
「はぁ。これはまた、とんでもないことに」
白桃姫さんたちが戻ったと聞きましたので、私は夕方になって札幌テレビ城にやって来ました。
パールヴァディさんと連絡がついたこと、深淵の書庫を通じてやり取りができることを白桃姫さんに説明したら、早速、深淵の書庫を起動してパールヴァディさんと話を始めているようです。
「パールヴァディよ、現時点での世界各国の対使徒対策は調べられるか?」
『それは無理。ミヤビさまの深淵の書庫でないと、それは不可能。私の深淵の書庫は大規模結界発生型に特化しているから』
「なるほどなぁ。雅や、そのあたりはどうなのじゃ?」
「現時点での使徒対策ですね、少々お待ちを」
──パパパパパパァァァァア
深淵の書庫内部に、次々とモニターが発生。
各国の首都及び近郊の映像が次々と流れていきます。
「中国は上海と北京の二都市がパールヴァディさんの結界によって守られています。あと、ニューヨークのガバナーズフォートレスも結界によって守られていますね。あとはここ、札幌市妖魔特区とサンフランシスコ・ゲート。それ以外の各首都では、目に見えない魔物による被害があちこちで発生しています」
世界各地のニュースも並行で流す。
それを一つ一つ確認しながら、白桃姫がウウムと唸るような声を上げて考えています。
『白桃姫、地球の各地にある水晶柱を繋ぐ巨大結界を作り出すことは出来る?』
パールヴァディさんがそう問いかけると、さらに白桃姫さんが渋い顔。それを作り出すのに必要な魔力を、何処から調達すればとか、色々と呟いています。
「不可能ではない。じゃが、それは外部からの侵入を阻むためのものであって、そもそも地球の各地に存在する使徒やら眷属相手には、儀式型大規模結界など役に立つはずがあるか?」
『結界発生後に、ムーに封じられているカリュブディスの【使徒殲滅術式】を発動し、結界内部全てを浄化すれば?』
「阿呆!! 術式が発動するその前に、カリュブディスはオールディニックの元に向かうぞ? そうなると怪獣大決戦じゃよ」
さ、流石にそれは気まずすぎます。
でも、白桃姫さんって、今はムー大陸に向かうための手段を講じている最中ですよね?
「白桃姫さん、今、皆さんでムー大陸に向かうためのロックを外しているのは、カリュブディスを目覚めさせるためではないのですよね?」
「何を当たり前のことを。この前、話をしていたではないか。ムー大陸にあるのはカリュブディスやその眷属だけではないわ。妾たちが求めるのは、超兵器そのもの。人が操ることができる、対使徒浄化兵器じゃよ」
『ばっ!! 馬鹿なの白桃姫は!! あれは魔族でさえ使いこなせなかった神器じゃない。それを回収して、誰があれを使いこなせるのよ?』
え? そこまで凄いものなのですか?
そんな危険なものを使わないと、使徒は倒せないの?
そんな私の不安を吹き消すように、白桃姫さんが私を見て。
「まあ、そんなに心配するでない。対使徒用超兵器は、使徒にしか効果がない。こっちの世界的に説明すると、超兵器は言わばワクチン、魔族や人間には効果はないから安心せい」
「そ、それはそれでとんでもないですけど。でも、それを使いこなせる……うん、ここには大勢いますわね」
乙葉くんや築地くん、新山さんを始めとする現代の魔術師チーム。
このメンバーなら使いこなせると思って、白桃姫さんは探し出す決断をしたのですね。
『……それなら良い。水晶柱を基点とする大規模結界は危険だから』
何かを含んでいるようなパールヴァディさんの声。
それほどまでに、星を包む結界というのは危険なのですね。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




