第三百十二話・満身創痍 。百聞は一見に如かずだったかぁ(覚醒? いや、俺が知らなかっただけかよ)
『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週日曜日と火曜日、金曜日を目安に頑張っています。
対使徒戦。
予想外に、かなり人類側はピンチでサンチが削れまくり。
これがさ、ラノベとかの世界で邪神降臨とかならまだ、チートキャラクターの登場とか、自衛隊が極秘裏に開発していた巨大ロボとか、色々な切り札が出てきてワクドキ感が堪らなくなるよね。
でも、現実はそれほど嬉しいフラグを、なかなか立ててくれない。
チートキャラって言われている【現代の魔術師】の俺ちゃんでも、このように無力感が溢れてくるレベルでして。
それでも、ステータスチェックなんて忘れていたおかげで、活路が見出せそうな、そんな気がしますが。
よく、ラノベとかの主人公って、ステータスチェックとか頻繁に行うよね? あれって凄くない?
自動的にレベルが上がりステータスが更新される今の俺のシステムをさ、せめてレベルアップ時とか新スキル習得時とかにはピンポーンとか音で知らせてもらえたらとか。
『ピッ……人間が経験し体得したもの全てをアラームで伝えるとなりますと、音が鳴り響いたままになりますが?』
「ですよね〜。まあ、それは深くは問わないよ。ボディビルダーが運動してカロリーを消費しただけでだけで鳴り響きそうだからさ。体脂肪率が0.1%減少しましたとかいってさ」
そんなことより、現実を見ますか。
「第五聖典。新しく習得した魔法なんだけど、魔導書に載っていたか?」
空間収納から魔導書を取り出し、急いで開く。
そもそも、空間収納に収めてあれば無詠唱で発動できている時点で、手に取って開かなくなるんだよなぁ。
魔力が乏しいとか、消費魔力を抑えたい時とかは手に取るけど、開かない。
そもそも、セフィロトの杖とフィフスガントレットの二つで、かなり消費魔力は抑えているんだよ?
「……接触同期?」
第五聖典の魔法は全部で四つ。
接触同期 ……触れたものの属性を得る
接触非同期……触れたものの属性を乖離する
魔力吸収 ……触れたものから魔力を吸収する
くぁwせdrftgyふじこlp
「くっそ、最後のはまだ完全修得じゃないのかよ。文字がフジコっているわ」
こうなると、修得条件が必要になるんだが。
それよりも、この三つのうち、二つの使い方が理解できない。
そうなると、実践で調べるしかないんだけどさ。
「ふむ。ここにいるのは、クリムゾンさんとマクレーン主任と、逃げてきた機械化兵士たちだけか。主任、外の様子はどんな感じですか?」
「今はまだ持ち堪えている。ここに魔人核が保存してある為、使徒たちは他の場所に向かっていない。お陰で他の被害は出ていないが、そのうち奴らも動き出すだろうな」
そうか。
その前になんとかしないとならないか。
「ちょいと実験したいのですけど、使徒の死骸ってあります?」
「この地下の研究棟にいけば、以前、君が倒した獅子型使徒の死骸が保存されているが?」
「それ、使わせてもらっていいですか?」
「使う? 何をする気なのだ?」
「まあ、やってみないとわからないんですけどね……」
………
……
…
──ガバナーズフォートレス地下・研究棟
マクレーン主任の許可を貰って、俺は地下施設にやってきた。
万が一ということもあるのでクリムゾンさんとマクレーン主任も一緒に来てもらい、俺の予想が外れていたり暴走した場合に止めてもらう事にしたんだけどさ。
「俺が乙葉を止められると思うか?」
「そこはほら、十二魔将の全力パワーで」
「今は、そんな力はない……と言いたいが、今も昔も変わらんからな。フォート・ノーマさまの時代には、魔皇の加護なんてなかったからな」
「それならいける!!!!」
「その魔皇の加護を持つお前を、俺が止めれるはずはないだろう」
「抗って見せろよ!」
「そのセリフ、そのままお前に返すわ!」
さて、軽い言葉のジャブは終わりということで。
ドーム状の実験施設の中心にある、獅子型使徒。
魔導書片手に、その身体に手を添えて。
「接触同期……」
──ブゥン
術式詠唱を小声で行い、発動。
その瞬間、俺の体の中をさまざまな術式が駆け巡る。
「……そういうことか、そうか!!」
瞬時に理解できた。
今の俺は、使徒と同じ『対魔術属性』『対闘気属性』『対物理属性』の三つを有することができた。
でも、これが本質じゃない。
この魔法の真価は、こっちじゃない!
「お、乙葉浩介……大丈夫なのか?」
「うん。まあ、凄いな……」
「全身が暗く染まっているし、なんというか、光すら吸収しているように感じるが」
「属性が使徒……あ〜、そういうことか」
しっかりと外見まで使徒化するとは、この魔法の効果は、念の入り方が尋常じゃないな。
さて、この魔法に必要な魔力は10,000。
これは人間や魔族換算なので、普通に発動することはできない。
でも、俺は魔力変換があるので可能。
この魔法に記されている、『亜神の大賢者のみ発動可能』っていう注意書きの意味が、よくわかるよ。
だってこれ、神の神技なんだから。
「一度の発動で10分。残り二発ってところだけど、それよりも」
後ろに下がって、使徒に向かって詠唱を始める。
「炎の槍よ、顕現して汝の敵を穿て……」
──ドッゴォォォォッ
俺が放った炎の槍により、一撃で獅子型使徒が貫通、爆発四散した。
「お、おい! 使徒には魔法は効かないんじゃなかったのか?」
「効かないんだよなぁ……だって、今のやつ、正確には魔法じゃないんだからさ」
「え、な、なんだって?」
つまり。
今の俺の体は、『属性:使徒』になっているんだわ。
これにより、俺が放つ魔法が全て、『使徒型魔法』に置き換えられるわけ。
魔力の構築そのものが、『使徒型生体理力』ってのに作り替えられるため、当然、使徒にも有効打撃となる。
逆転すると、俺の持つスキル『魔力変異』で俺の魔力を『理力』に置き換えられるなら、そんなに魔力は必要ない。
──ヒュウン
時間切れ。
さて、天啓眼で俺の体の反動を確認するけど。
『ピッ……副作用により、若干の魔障中毒が発生しています。自然回復するレベルですので、問題はありません』
やっぱり、自家中毒を起こしたか。
道理で、身体がだるいはずだわ。
「顔色が悪いな。本当に大丈夫なのか?」
「ま、まあね。そんじゃ、次は今のを簡単にした奴……」
もう一度、今度は普通の炎の槍を詠唱。
その際に、今身につけた『理力』に『魔力』を変換する魔法陣も同時に構築。
右手を前に向けると、その前に炎の槍と理力変換の魔法陣が二つ浮かび上がっている。
それと同時に、俺の右手が指先からバキバキと黒く染まっていくのもわかる。
「あまり乱発すると、代償が厳しくなるが……それいけ!!」
──シュッ……ドッゴォォォォッ
残骸の中でも大きいやつに、理力変換型・炎の槍を撃ち込む。
今度も綺麗に吹き飛んだし、消費魔力も二倍程度に収まっている。
接触同期からの炎の槍は、普通の消費魔力だったから、戦闘時間と残存魔力によって使い分ける必要があるということか。
──ミシミシ……バギッ
右手の黒い部分に亀裂が入り、皮膚が砕ける。
毛細血管から血が噴き出したので、慌てて回復薬を取り出して飲む。
「ングッングッ……ぷは〜。こりゃあ、乱発が効かないか。でも、これで対処方法も理解できた」
「……使徒の能力を身につけたのか?」
「いや、使徒になった。同族攻撃は可能らしいから、これで俺は普通に戦闘できるんだが。反動がデカくてなぁ……それに、魔力酔いが出たみたいだ……」
うん。
睡魔がやってきたよ。
意識も朦朧とするから、済まないけど少しだけ休ませてくれ。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
──ハワイ、マカラウェア・ビーチ
昼下がり。
ようやく体の疲れが取れたのか、俺たちは目が覚めた。
昨晩はこの水晶柱を守るために全力で戦っていたので、まだ身体には疲労感が残っている。
「しっかし。ここまで真っ赤に輝いていると、悪目立ちするよな」
「ふぉぁぁぁ。それもそうじゃが、この赤い結界のおかげで水晶柱には使徒は近寄れんし。魔族も、触れたところで何もできぬ。ということなので、次の場所に向かうとしようぞ」
「ふぁ? 次? 次は何を食べるのですか?」
白桃姫と新山さんも目を覚ましたか。
そして、俺たちを囲むように張り巡らされた非常線と、水晶柱を囲んでいるアメリカ海兵隊は何をしていることやら。
「そこの柱については、見たり撮影することは構わんけど絶対に触れるでないぞ。まあ、触れたところで魔力を持たない人間如きがどうこうすることはできぬがな」
白桃姫が敢えてきつい口調で叫ぶ。
叫ぶのは構わんが、その方角には誰もいないんだが。
「白桃姫さん、誰に向かって話しているのですか?」
「ん? 知らん。どこぞの対妖魔機関ではないのか?」
今度はチラリと海兵隊員にも聞こえる声で呟いたので、それを聞いた隊員たちがどこかに駆けていった。
「私には見えませんけれど?」
「まあ、そうじゃろうなぁ。古い魔導具を使って、姿を消しているからな。男が二人と女が一人。迂闊なことは考えない方が良いぞ」
そう告げてから、白桃姫はようやく地面に着地。
さて、腹も減っていることだし、これからどうするかだよなぁ。
「二つ目の鍵の場所は、ここからかなり離れておる。一旦、日本に戻ってまた出直した方がよさそうじゃな」
「そうしてくれると助かる。こう見えても学生なんでね」
「世界の平和と学業を天秤にかけること自体、不謹慎なのは理解していますけど。昨晩、お母さんに事情を説明するのが大変だったもので」
俺と新山さんは、白桃姫の提案に乗りたいところだ。
ぶっちゃけるなら、闘気が回復しきっていない。
新山さんもかなりの量の魔力回復薬を使ったらしく、残りの回復薬もほとんど足りないらしい。
万が一用に、普段から魔力玉を保存してある新山さんでさえ、ここまで魔力の損耗が激しいとなると、もう一度作戦を練り直した方がいいんじゃないかな。
「さて。一旦戻って仕切り直すとするか。今回の儀式から次の儀式までは、最低でも三日は空けないとならぬ。そうせねば、この解錠された水晶柱と他の柱とのパスが安定しないからな」
「つまり、次は3日後ということか」
「築地の言う通りじゃ。可能なら、乙葉も連れてきたいところじゃが、今回は事情が事情故に、奴にも少し頑張ってもらわねば」
まあ、俺と新山さん、白桃姫の三人で来ることにしたのも、俺たちだけでできる限りのことをしたいって考えたからだし。
昨日の新山さんの動きを見ると、やっぱり無理をしているのはわかる。
それでも、オトヤンが居ない状況でもやっていけるぐらいの気合いは鍛えたいところだからなぁ。
「では、まず帰りの水晶柱を探しに向かうぞ。この方角じゃな」
「そっちは、昨日連れて行かれた首都の方角か。それじゃあ、いくとするか」
「そうですね」
──シュン
魔法の箒と魔法の絨毯を取り出して飛び乗ると、俺たちは移動を開始。
そして数時間後には無事にもう一つの水晶柱を発見し、日本に戻ることになった。
しっかし。
今回の俺たちのやったことを、オトヤンは普通に一人でやるんだよなぁ。まだまだ、俺たちの努力が足りないってことか。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




