第三十話・後悔先に、覧古考新 (教えて、綾女ねーさん・前編)
『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週火曜日と金曜日、日曜日を目安に頑張っています。
無事にコミケから戻ってきました俺ちゃんだよ~。
まあ、部活も再開して、みんな魔法の覚醒に必死だったり、覚醒した技の修練に必死だったりと、文学部という名前は何処へやらのレベルで魔法訓練を行なっているよ。
そして今日は部活は休みなので、久しぶりに大通り公園でストリートマジシャン甲乙兵の出陣となりましたよ。
今日は祐太郎も一緒に来ており、彼はゴーグル着用で周囲の妖魔の観察を行なっていた。
まあ、今は少しでも情報が欲しいし、何よりタケもっこす先生の情報と比較したいらしい。
まあ、可能な限り情報を集めるのは大切だよね?
‥‥
‥
「お久しぶりの甲乙兵でございます。まず最初は空中浮遊の妙技から」
今回は、第二聖典の魔法を中心に練習しようと思う。
まずは楯シリーズ、正面にだけ展開するのでは面白みがないのと、この魔法はある程度俺の意思で自在に動かすことが出来る。
それならば、見えないことをいいことに足元に地面に対して水平に作り出すと、高さ1.5メートルまでゆっくりと上昇してみせる。
――オオオオオ!!
その場の皆さん驚きの世界。
そりゃそうだ、いきなりフワッと浮かび上がったらたいていの人は驚くわな。
「そ、それはどうやって!!」
「タネはなんですか!!」
ギャラリーからの声はするが、そんなの全て無視である。
だってさ、教えたとしても真似できるものではないし、まだこっちの世界に魔法を広めるには早すぎるだろうなぁって思えるから。
それに、俺だけが使える魔法っていうのも、なんだか恰好いいでしょ?
「タネは秘密だよー。よいしょっと」
力の楯から飛び降りて、魔法は解除。
すぐに振り向いて足場になっていたあたりをステップを踏むように動いて何もないことを証明する。
「御覧の通り。さて、どなたかリクエストはありますか? この私は魔法使い、できることしかできませんけれど、できることはできます!! でもできないことはできません!!」
――ドッ!!
いつの間にか集まっていた大勢相手に話を続ける。
言葉もパフォーマンスの一つだし、こういうふうにエンターテイメントで楽しむのもよいよね。
「リンゴでバナナ!!」
「オレンジのバナナ!!」
「空飛ぶ透明な金魚が見たい!!」
子供たちのリクエストはいつも通りだねぇ。
まあ、それも一通り終わらせて、そのあとは 短距離転移の練習‥‥と行きたいけれど、こればっかりは大掛かりな仕掛けが欲しい。できれば俺がすっぽり入れる段ボールが。
それが用意できないので、今日は空間収納を使ったテーブルマジック。
地面に黒布を引いてその中央をつまむと、一気に引きあげてその下にテーブルを取り出す。
「うぉぉぉぉ、なんだありゃ、どこから出てきた!!」
「物理的に無理だろうが!!」
「いえいえ、これはコンパクトな折り畳みテーブルですよ。特注で作ってもらった手品用です」
――ドッ!!
空間収納から取り出しただけなんだけどさ、そう言うとそれっぽいよね?
そして新品のトランプを取り出して封を切って広げると、好きなものを一枚引いてもらう。
そして俺が後ろに向いているうちに、観客の誰かにサインペンでマークをしてもらう。
一枚選んだ時点で、サーチゴーグルでマーキングはしてある、万が一にもこれで問題はない。
まあ、ゴーグルのおかげでマスクがギッチギチなのはどうにかしないといかんが。
「それでは、今、マークしてもらったカードを好きなところに入れてください」
トランプを扇状に広げると、そこに観客がトランプを差し込む。
それをまとめた瞬間に、さっきマークしてあったカードだけを空間収納に収納、あとは適当にカードを切ってから箱に戻す。
「はい、ありがとうございました。では次のマジックに移りたいと思います!!」
「トランプはどうするんだよっ!!」
「いや、ぶっちゃけると無理。俺はカードマジック苦手でさぁ」
――ドッ
笑いが取れたので、バナナを取り出す。
これを両手でつかんで引き伸ばしつつ、薄い板状に変形する。
このとき、皮の中に空間収納からさっきのトランプを移しておくことも忘れない。
いやあ、変形制御が上手くなってきたら、こんなことまでできるようになったんだよ。
「トランプってこんな感じですか?」
「いや、それバナナだから」
「それは失礼。では、このバナナはお客様にどうぞ‥‥あ、食べられますから皮をむいて食べてもかまいませんよ。では次の手品を‥‥」
今度は『火創造』で炎を作り出すと、それを金魚にして空を泳がせる。
「今日は暑いですよねぇ。札幌なのに32度もあるんですよ、ということで、炎の金魚でございます!!」
「余計熱いわ!!」
観客のつっこみの中、その一部が突然ざわついた。
さっきのバナナの皮を剥いたお客さんが、中からマークされているカードが出てきて驚いていたのである。
「え‥‥嘘でしょ!! どうしてここから出てくるのよ?」
「おや、そこにありましたか。では、こっちを確認してもらえますか?」
テーブルの上に置きっぱなしのカードケース。
それを目の前の観客に手渡して中身を改めてもらう。
当然中には、マークされたカードは入っていない。
「うぉぉぉぉ、すっげーーー、いつの間に」
「いや、これは判らないわ、どうやって仕込むんだよ」
「ぜひ、私を弟子にしてください!!」
そんな声が聞こえてくるが、弟子なんてとんでもない。
俺はプロのマジシャンじゃないよ、魔法使いなんだよ。
魔法使いの弟子は美女って相場は決まっているんだよ、おっと失礼しました。
〇 〇 〇 〇 〇
大通り公園のベンチに座って、反対側でマジックショーをしているオトヤンを眺めつつ、俺はゴーグルを装備する。
透明の対象も視界にとらえることが出来るようになったので、サーチ対象を妖魔に設定する。
――ピッピッピッ‥‥ピピピピピッ
わら、次々とターゲットマークが妖魔を捉えた。
闘気術式の鑑定眼も並行して使うと、反応のあった妖魔の殆どがフローターなのは大笑いである。
「本当に、フローターってどこにでもいるのかよ‥‥おぉっと、これは大物か?」
フローターの中に一つだけ大物の反応がある。
それは、オトヤンのマジックショーを見ている一体のろくろ首、確かオトヤンは飛頭蛮と呼んでいたなぁ。
とりあえず、こっちを振り向かせてみるか。
「闘気錬成開始‥‥」
ゆっくりと体内の経絡に闘気を循環させる。
そして右腕拳にそれを集中して留めると、さらに闘気を圧縮する。
魔力が餌なら闘気も餌。
さあ、これに反応してみるよ。
――ヒュッ
すると、飛頭蛮が俺のほうを向いたので、コッチコイコイと手招きする。
これには彼女も驚いたらしく、周囲をきょろきょろと見渡してからフワァッと飛んできた。
『‥‥驚いたねぇ。あんたも私を見て驚かないのかい』
「いや、ぶっちゃけ怖いが、オトヤンから話は聞いたからな、初めまして綾女さん。俺は築地祐太郎だ、祐太郎で構わないよ」
『へぇ、あの子の友達かい。じゃあ敵対意思はないんだね?』
「ないさ。とりあえずはお近づきのしるしだ、どうぞ」
右手に集めた闘気を球状にする。
まるでカメハメおっとっとな形にも見えるが、闘気弾っていう俺のオリジナル技だ。
『へぇ、あんたは気功が使えるのかい、それじゃあありがたくいただくよ』
「どうぞ。先に言っておくけど、俺は、あんたが敵対しない限りは友達でいたいからな」
『うんうん‥‥パクッ‥‥おお、これも甘味だねぇ。例えるなら和菓子、それも高級な吉野葛を使った逸品だよ』
「へぇ、オトヤンのは?」
『彼のは洋菓子さ。高級スイーツ店のオペラだね』
「‥‥随分と俗世にまみれた妖魔なんだな‥‥綾女さんは」
『そりゃそうさ。たまに人に憑依してグルメを満喫しているからね。あ、言っておくけど精気は吸っていないよ、せっかく人間と感覚共有するんだからさ、その本体を疲れさせるわけにはいかないからね』
思ったよりも付き合いやすそうだな。
これなら、タケもっこす先生の話の裏付けも取れそうだ。
「ちょいと話を聞きたいんだけどさ‥‥」
俺はタケもっこす先生から聞いた、鏡刻界の話をした。
どこまで合っているのか、どこが間違っているのか。
そして、真実なのか。
『ははぁ。そのタケもっこす先生も妖魔かい』
「ああ、中級妖魔のラティラハスヤっていうんだが、知っているか?」
『ああ、七使徒のひとり、愛欲のルクリラの配下だった妖魔だね。確か裏切ってこっちの世界に単独で来たんじゃなかったかい?』
「裏切って?」
『ああ。ルクリラは人間を餌としか見ていないからね。あんたたちにわかりやすく言うとサキュバスさ。対象の精気を限界まで搾り取って、最後は命まで奪い取るタイプだね。命の燃え尽きる瞬間の精気は格別なんだとさ。それも、快感の果ての死っていうのは』
お、おおう。
愛欲の最上級でしたか。
けど、それってタケもっこす先生のあの超絶技巧な愛技を超えるテクニックを持っているというのかよ。うわぁ、死なないならぜひお相手してほしいし、その技術欲しいわ。
『‥‥祐太郎さんは、あっちの兄さんとは違うタイプだねぇ。ルクリラの話をして鼻の下を伸ばすなんてね』
「俺の心の辞世に、『男なんだろう、グズグズするなよ』っていうのがあってね。まあ、そういう状況になったら、胸のエンジンに火をつけるさ」
『やれやれ。男ってやつは困った生き物だねぇ‥‥でも気を付けるんだよ、七使徒は全て尋常じゃない能力を持っている上級妖魔だからね。特にルクリラは鏡刻界の魔族領では伯爵の爵位を持っているからさ』
「それ、その伯爵とかそういうのはなんだ?」
『鏡刻界の世界にも、こっちの世界のように国があってね。私もこっちに来てからは、もうかなり帰っていないから今はどうか判らないよ。けど、魔族は普通に千年以上は生きているからね。伯爵位っていうのは、魔族では力の強さを表しているのさ、最上位は王爵、ついで公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵。子爵以上が上級妖魔で伯爵位は三家しかいなかったはずだよ』
ふむ。
異世界にもしっかりと国があり文化がある。
魔族は爵位によって強さが決まっているというのも、実に興味深い。
そして、間もなく訪れるであろう、妖魔大侵攻。
「妖魔の大侵攻って知っているか?」
『知っているもなにもさ、私は1000年前の大侵攻でこっちに来たからねぇ』
「それはなんだ? 魔族の大侵攻ってどういうことだ?」
タケもっこす先生からは、大侵攻の詳細は聞いていない。
なら、ここで聞いておく方が得策である。
『昔はさ、月齢によって鏡刻界とこっちの人間界を繋ぐ道が自然に開いていたのだけれどさ、それはすごく小さくて、あまり大勢の妖魔が出入りできなかったんだよ。でも、だいたい500年に一度だけ、巨大な門が開くんだ。その時が魔族大侵攻の日さ』
「その日、鏡刻界の妖魔が一斉に人間界を訪れるのか。一体何の目的で!!」
『食べに来るのさ、濃厚な精気をね。そもそも、始まりの大侵攻を引き起こした初代魔人王と、彼に付き従っていた妖魔たちはさ、人間を餌としか見ていないからね。そして人間は、私たちに対してそれほど有効な力を持っていない。最初の侵攻時は、妖魔が圧倒的に強かったよ』
そこからは歴史の世界。
最初の魔族大侵攻は西暦71年。
圧倒的な魔族の侵攻に対して、時の天皇は神代の世界から神剣を承り、神の力を借りて魔族との戦争を行なったらしい。
歴史には記されていない、裏の世界の歴史。
その時の戦いは長きにわたったが、倭建命が魔族大侵攻の切り札である八俣遠呂智を滅ぼしてから形勢が逆転、巨大転移門を異界に封じて戦いは終わったらしい。
二度目の大侵攻は976年。
このときは封じられていた異界の大転移門を開くために、大勢の魔族が禁忌術式を用いて強制的に大侵攻を開始、このときの禁忌術式の余波が寛文近江・若狭地震を引き起こしたとも伝えられている。
だが、このときは最も大進軍のタイミングが悪かった。
前回の大進軍について記されていた、表に出ない書物、これにより次の大進軍を予知していた安倍晴明率いる陰陽府により、わずか一年の戦いで大進軍は幕を閉じた。
このときは、大転移門は完璧に破壊され、二度と大進軍が起きないように完全に鏡刻界との道は封じられてしまった。
そして三度目が1546年。
この時代の大侵攻は今までとはわけが違った。
開いたのは人間界側から、二度目の進軍時に人間界に残っていた妖魔が人と交わり血を残し、その血筋が次代を超えて上級妖魔として覚醒したのが1534年。
まだ幼き吉法師という少年が妖魔の血に目覚めたのがきっかけで、それまでは大きく開かれた大転移門は、小さく、それでいて限定的にいくつも開かれ始めた。
鏡刻界からやってくる魔族は吉法師を主と認め、人の姿を保ったまま人間世界を支配しようと活動を開始した。
このときも、陰陽府は裏で暗躍し、とある寺に上級妖魔よりも位の高い天魔・波旬に覚醒した吉法師を追い込み、浄化の大炎術式によりその魂まで滅した。
残った陰陽府により世界各地の転移門は封じられてしまったが、このときに残った小さい転移門から中級や下級妖魔が人間世界に大量に進出するきっかけをつくってしまった。
『というところだねぇ。私が知っているのは、魔族ならだれでも知っている歴史みたいなものさ。でも、こっちの世界には、もうそれらを記している書物はないだろうし、唯一残っているとすれば、二度目の大侵攻のさいに、それを予知した鬼道使いの巫女・神俱羅だけさ』
「神俱羅ねぇ‥‥歴史的には出てこない名前だよな」
『それも伝えられていないさ。神に授ける舞を舞う巫女、神楽境とも呼ばれていたし、ああ、そういえば最初の時代には卑弥呼とも呼ばれていたかもねぇ‥‥』
――ブッ!!
とんでもない名前がでできたぞ。
その名前は日本史では超有名人だよな。
「‥‥その卑弥呼って、実在したのかよ」
『実在も何もさ、卑弥呼は初代魔人王だった魔族だからね。二代目魔人王に、鏡刻界から追放されて人間界に渡ってきたってわけ。でも、不老不死ゆえに人にまみれて生きることはできず、時代ごとに名前と姿を変えながら、ある時は陰陽府のとある陰陽師に、またある時は性別すら変えて南光坊という僧侶になり、表の世界ではなく妖魔との確執のある裏の世界を守っていたんだよ』
うん。
俺は後悔している。
こういう話は、オトヤンと一緒に聞かないとまずい。
俺一人で、こんな大それた話を聞いているのは危険すぎる。
「綾女さん、すまないけど、ここから先はオトヤンも一緒に聞きたいんだけれど、いいかな」
『ああ、構わないさ。私はあんたたち人間と違って、時間の概念はあってないようなものだからねぇ』
それならばと、俺はオトヤンのマジックショーが終わるのを。綾女さんとのんびり見ていることにした。
誤字脱字は都度修正しますので。
その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。
・今回の判りずらいネタ
ドラゴンボール / 鳥山明 著