第二百九十九話・意気自如? 嵐の前の静かさかな(それはまるで、映画の世界のように)
『ネット通販で始める、現代の魔術師』の更新は、毎週日曜日と火曜日、金曜日を目安に頑張っています。
──ニューヨーク・マンハッタン
昨日までは国連本部で講演会やら質疑応答やらを繰り返し、終わった後の晩餐会では各国の対妖魔機関にスカウトされたり。
特に中国の崑崙八仙とアメリカのヘキサグラム、イギリスの英国騎士団の世界三大対妖魔機関は、とにかく客員教授としてでも構わないから講義をお願いしたいと必死でしたが。
そんな俺の姿を、小澤たち日本国政府団はギリリと歯軋りをしながら見ていましたが。
「まさか、他国へ魔法講習をするとか言わないだろうね?」
「え? 一週間の講習で、日本円で800万円ですよ? 断る理由って何処にありますか?」
これは本当。
ヘキサグラムは午前が午後、一日三時間の講習を一週間でこれだけ出すって話しているんだよ。
キャサリンやマックスのように、魔法が使える術師が増えるのなら安いものだそうです。
まあ、昨今、日本の技術者が高額報酬で世界各地に引き抜きされているのをネットニュースや新聞でも見るけどさ。
俺も最初は、どうなのよって思っていたこともあるけど、これは納得するわ。
この三大対妖魔機関に追従するかのようにロシアやオーストラリア、ドイツなども積極的に俺に接触してくれたし。
まあ、日本の魔法の発達については、先輩たちが神の祝福を得た時に頼まれたらしいから、そっちはなんとかしてくれるでしょう。
「という事で、今日は一日、アメリカを堪能したかったんだけど」
「気にしないでください。私はヘキサグラムの機械化兵士から、あなたの護衛を仰せつかっているだけですから」
俺の横を歩いているのは、この前の深夜、使徒と戦っていた機械化兵士の女性。
日系アメリカ人で、日本語も多少は使えるらしい。
「あ、あっそ。それならそれで、お好きにどうぞ」
「それで、これからどこに向かうのですか?」
「午前中は買い物三昧。午後は食べ物三昧……って考えているんだけど、そうそう上手くいかないんだよなぁ」
「そうなのですか?」
いや、このパターンってさ。
もう俺自身が事件に巻き込まれるフラグを構築しているようなものだからね。
最近、つくづく思うよ。
世界は俺に優しくない。
まあ、そんな愚痴を話しても仕方かまないからさ、買い物に向かうとしましょうか。
「そういえば、リッパーさんって名前?」
「ノー。リッパーはコードネームです。ナイフコンバットが得意なので、リッパー。名前は……アイビスです」
「アイビスさんね、了解。さて、とりあえずはアメコミの聖地へ!
」
そんなこんなでアメコミ買い漁り第二弾。
そして先輩や新山さんに頼まれた買い物三昧。
とにかく楽しんだもの勝ちなんですよ。
ずっと、センサーゴーグルに反応している無数の敵性魔族反応はありますけどね。
──ピッピッピッ
『敵性魔族反応25。上級10中級12魔獣3。全てを鑑定するには時間が必要です』
(それは良いよ。カウンター詠唱をオートでお願いするわ)
『了解です。力の盾をカウンターモードに設定します』
ふぅ。
ゴーグルの中では、無数の矢印が魔族を捉えている。
それでも襲ってこないのは、昼間で人気が多いからと言うのと、アイビスさんがいるからなんだろうなぁ。
「参考までに……気付いている?」
ボソッとアイビスさんに問いかけると、目線は前を向いたまま、コクリと頷いている。
「そっか。仕掛ける?」
「距離があり過ぎますね。流石にメキシコ沖では、対策のしようがありません」
「はぁ?」
思わず声が出たよ。
「え、いや、ちょっと待って!! なんでメキシコ沖の魔族? いや、そんなところからこっちに向かっている魔族があるの? どうやって調べたの?」
「内蔵されたサテライトシステム及びヘキサグラムの衛星監視システムです。もっとも、まだ稼働実験ですので、それほど詳細までは調べることができませんけれど」
「軌道上から魔族を監視することができるのか?」
「いえ、各地域に派遣されている感知特化機械化兵士及び機械化妖魔が魔族を感知し、衛星軌道上から特定したターゲットを追尾します。その、座標データは私の元にも送られてきますので、随時戦闘モードに移行して対処することができます」
へ、ヘキサグラムカッコいいけど怖いわ。
何そのオーバーテクノロジー。
魔術大国・日本と呼ばれていたのが衰退して、世界に追い抜かれているっていう話はよくわかるわ。
国を挙げて魔族研究に情熱を注いでいるところと、利権のために必要以外のものを握りつぶした国の差だね、こりゃあ。
「それで、メキシコ沖の魔族って何者かまではわからないよね?」
「固有コードは設定されていませんので。ですが……了解、乙葉浩介と情報を共有します。メキシコ沖の魔族反応は、不確定存在、つまり先日の国連での話に出ていた使徒と推測されます」
「あ〜。使徒が海から来るのかよ。それって、魚型とか?」
今まで見たものは、その都度、環境に合わせて形状が変化したものか、それともそういう種類なのかわからなかったんだよね。
「いえ、まだ敵影は確認できていませんが、こちらをご覧ください」
ゴソゴソとバッグからタブレットを取り出して俺に提示する。
そこには海の上をゆっくりと移動している、巨大な竜巻の姿が見えている。
「海の竜巻ねぇ。なんだろ、嫌な予感しかしないんだけど」
「この内部から、未確認敵性反応があります。現在、ゆっくりとですが北東へ向けて移動中、確認地点からの移動方向から推測すると、目的地は、このニューヨークです」
「使徒が動いている。このニューヨークが目的……」
思わず自分を指差しちゃったけどさ。
これにはアイビスさんも頭を左右に振っている。
「ニューヨークには、高魔力反応体が多数ありますので。そういう意味ではサンフランシスコ・ゲート内部もかなりの魔力圧なのですが、あそこには破壊不可能な結界がありますので」
「それで、こっちをターゲットに変更か。いや、それってかなりの情報だよね?」
「はい。現時点では、使徒は何らかの手段でお互いに情報をやり取りしていること、そしてそれを統括管理し、命令している存在があるところまでは推論できています」
やばいよなぁ。
これまでの戦術が使えない相手で、しかも命令系統がしっかりしている。
組織だって動かれた場合、本当に地球が地球が、大ピンチだよ。
その時、不思議なことが起こったとか何とかで、倒す手段を講じないときついよ。
「……それで、ヘキサグラムの対策は?」
「メキシコ上陸前に、物理的に攻撃を開始します。神威が伴う大型兵装は所有していませんが、それを上回る大火力なら迎撃は可能かと」
「まじか。まあ、結果を聞いてからこっちも対策を考えるよ」
「それでお願いです。先日の、使徒を切断した武器、あれを私にください」
まるで子供が親にオモチャをねだるかのように、フォトンセイバーを欲していますが、この機械化兵士。
「無理。あれは開発費用だけでも億単位の金額が掛かっているんだよ? それに神威攻撃は俺が使えるのであって、武器にチャージした分をアイビスが使っただけだからな?」
「そうなのですか?」
「そうだよ。だから、上げるのは無理。それよりも、周囲の魔族反応が強くなってきてんだけど」
「……私にはわかりませんが」
このポンコツって言いたくなるわ。
「今のところは仕掛けてこないみたいだけどさ。魔人王の話、本当に聞いていないのか聞く耳を持っていないのか」
「それとも、現代の魔術師だということを、知っていて仕掛けようとしているのか。先にこれを渡しておきますね」
そう告げながら、アイビスが俺に一枚のカードを差し出す。
俺の写真と名前とかの書かれた身分証明カードだよね。
「これは?」
「アメリカ国防総省発行のスマートカードです。大統領権限で、日本人であるあなたの身を守るために特例措置として発行されました。まあ、うちのボスが大統領に話を持って行ったそうですので。それがあれば、魔法の箒などを国内で使用しても咎められる事はありませんので」
「な、な、な、なんちゅうものを用意するんだよ、なんだよ大統領権限って!! 何で俺が、そんなものを持たされるんだよ」
「少なくとも、アメリカは現代の魔術師に対して敵対意志を持たない。そういう意味ですよ。どこの世界に、神の力を宿した魔術が使える人がいるのですか? あなたはマイティ・ソーですか? ムジョルニアでもありますか?」
「いや、どっちかっていうとドクター・ストレンジだよなぁ。まあ、そんなことはいいわ」
急いで空間収納にカードを放り込む。
これは表に出しちゃまずいものだ、そうだそういうことなんだ。
ということで、ここから先は慎重に対応。
魔族の動向に気をつけつつも、買い物を続けるとしますか。
中止する?
そんな判断はない。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
メキシコ南西沖。
そこを巨大な竜巻がゆっくりと、北東へ向けて移動している。
その内部には、無数の黒い鮫が大量に泳いでおり、時折り竜巻から外に投げ出されては、急いで内部へと戻っていく。
恐ろしいのは、これが付近で監視しているメキシコの艦隊によって観測されたこと。
しかも、その竜巻の中を泳いでいるサメさえも、普通の人間の肉眼で捉えることができてしまっている。
この原因についてなど、誰も知らない。
そもそも使徒という存在自体、数日前の国連での理事会で公開されたものである。
それゆえに、魔力持ちのものにしか見えないという情報よりも、今は目の前のモニターに映っている事実の方が重要となっているのだろう。
「巨大な海上竜巻の中を、サメが泳いでいる…。なんだこれは、どこの映画の世界だ……」
「本国からの通信では、あれを仮称『シャークスパウダー』と設定したそうです。その正体は、魔族のような存在ですが、物理攻撃は有効とのこと」
メキシコ海軍、ブラボ級フリゲート艦長のアントニオ・ゲレロは通信内容を確認し、静かにモニターを見る。
まだシャークスパウダーはそれほど速くはないが、確実にメキシコを縦断する可能性がある。
そうなると、あの竜巻の中を泳ぐ鮫がメキシコ国民を襲う可能性がある。
そんな馬鹿なことが起こるわけがないと、数年前までなら笑っていたところである。
だが、魔族の存在が世界中に知れ渡り、さらには新たなる敵性存在・使徒の発表。
すでに、笑い事では済まされない。
「……これより本艦は作戦行動に移行する。艦内全ての火器を使用! 火器管制コントロールは、前方のシャークスパウダーをターゲットロック!」
突然艦内が慌ただしくなる。
その数分後には、ブラボ級フリゲートは、シャークスパウダーへ向けて一斉攻撃を開始した。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字は都度修正しますので。 その他気になった部分も逐次直していきますが、ストーリー自体は変わりませんので。




